新聞週間 期待に応える紙面を届けたい

毎日新聞 2012年10月14日

新聞週間 震災・原発報道の深化を

東日本大震災から1年7カ月がたった。津波による未曽有の人的被害と、福島第1原発事故の深刻さ。昨年3月11日以後、津波被害や原発事故とどう向き合い、何を読者に伝えるのか、報道は問われてきた。

復興が進む被災地で、時間がたつにつれて見えてくる矛盾や疑問がある。復興予算の使い道もその一つだろう。息長く被災地の現状を取材し、政治や行政の動きをチェックする。また、重要な課題について深く検証する。新聞の大きな役割だ。

とりわけ、原発事故による甚大な被害が長期化する福島県の状況には目をこらし続けねばならない。

福島第1原発は、「冷温停止状態」が達成されたとして、政府によって事故収束が宣言された。だが、最近撮影された原子炉格納容器内のカメラ映像では、内部に湯気が立ちこめていた。中は依然として高い放射線量で、汚染水も増加し続けている。廃炉への道のりは見えない。

福島の地に住む人々の暮らしも厳しいままだ。避難区域の再編が始まったが、インフラの整備は遅れている。県内外に避難した人も含め、多くの県民の生活は3・11を境に一変してしまった。

報道各社の記者が集まったマスコミ倫理懇談会全国協議会の全国大会で先月、「原発報道 ジャーナリズムがめざすべきもの」と題して議論が行われた。地元紙である福島民報社の佐久間順社会部長は、原発周辺住民の苦悩について報告した。

家庭内での放射線に対する考え方の違い、同じ地域で自主避難した人しない人、自治体内で異なる避難区域の再編などを挙げ、「至るところで分断が起きている。葛藤を描くことが地元住民のためになるのかと悩むこともある」と話した。

県民との距離が近い地元紙ゆえの視線を感じる。同社の報道は「多角的に問題をあぶり出して背景や対策を検証した」として、今年度の新聞協会賞を受賞した。

また、懇談会の議論では、別の地方紙記者から「『福島問題』でくくられ、地方の問題として片付けられたら困る」と、中央からの目線を戒める声が出た。しっかり受け止めなければならない。

毎日新聞は5月、核燃サイクル政策推進に向け専門家による「秘密会議」が開催されていたことを報じた。地道な取材からスタートし、原子力ムラの人たちが議論を誘導するために身内だけで作戦を練っていた実態を暴いた。報道は今も続く。

あすから新聞週間だ。日本新聞協会が選んだ標語に福島県いわき市の追分義治さんの作品が入選した。「消されてる 声を拾って 生かす記事」。現実を見据え伝え続けたい。

読売新聞 2012年10月14日

新聞週間 期待に応える紙面を届けたい

「負けないで 背中を押して くれた記事」。あすから始まる「新聞週間」で、日本新聞協会が選んだ代表標語だ。

東日本大震災から1年7か月。読売新聞は、被災地での復興の取り組みや全国各地から寄せられている様々な支援を取り上げ続けている。

塩害の農地に綿花栽培を根付かせようと、大阪から指導に通う紡績会社役員、13年ぶりに故郷に戻り、医療再生に挑む医師――。こうした人々の姿を描いてきた。

被災地の現況を伝え、復興を後押しする報道を、これまで以上に充実させていきたい。

岩手県の地方紙「岩手日報」は震災1年後から、犠牲になった人たちの人生の一端を顔写真とともに紹介する企画を始めた。「犠牲者を忘れない」というメッセージの発信は、一人ひとりの命の重みを問いかけている。

記録性に優れた活字メディアの特徴を生かした試みだろう。

インターネット上に情報があふれる時代になったが、新聞週間を前に読売新聞が実施した世論調査では、「情報や知識を得るために新聞はこれからも必要だ」と答えた人が89%に達した。

震災復興や原発事故対策など、内政の課題は山積している。対外的にも、尖閣諸島や竹島を巡る中国・韓国との関係悪化など、日本は多くの難問を抱えている。

新聞が果たすべき役割は大きい。読者の期待に応えて、正確な報道と責任ある論説を提供できているのか。日々、自問しながら、最善の紙面をお届けしたい。

事実を丹念に掘り起こし、真相に迫っていくことも、新聞に課せられた大切な使命である。

今年度の新聞協会賞(編集部門)を受賞したのは、読売新聞の「東電女性社員殺害事件の再審を巡る一連の特報」だった。

無期懲役が確定していたネパール人元被告が冤罪(えんざい)である可能性を示すDNA鑑定結果を報じた。元被告に有利な証拠を検察側が弁護側に開示せず、捜査を尽くしていなかったことも明らかにした。

見立てに合わない物証を軽視する、ずさんな捜査を浮き彫りにしたと言えよう。

ただ、元被告は1997年に逮捕されて以来、一貫して無実を訴えていた。なぜ、もっと早く、捜査の問題点に切り込めなかったのか。過去の報道を振り返る時、忸怩(じくじ)たる思いが残る。

公権力が適正に行使されているか、厳しくチェックする。改めて報道の原点を確認したい。

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