原発の再稼働 責任放棄の政府は不要だ

朝日新聞 2012年10月13日

大飯原発 稼働継続は無責任だ

暫定的な安全基準で7月に再稼働した関西電力大飯原発3、4号機が、夏の節電期間を過ぎても稼働し続けている。

電力の安定供給には原発が必要で、大規模停電が起きれば企業活動や国民生活への影響が大きい。そんな理由で、新たな安全基準の策定を待たず、周辺市町の防災対策も未整備なまま、政府と電力会社が押し切った。

電力需要のピークがすぎた以上、原子力規制委員会は大飯を停止させ、ほかの原発と同様、新たな安全基準によって一から審査し直すべきである。

大飯の安全性には、いくつもの問題点がある。

まず敷地内の断層が、活断層である可能性が指摘されている。断層は2、3号機の間を走り、非常用取水路を横切っている。規制委は近く現地調査する予定で、田中俊一委員長は活断層であれば運転を止めるという。再稼働時には十分に調査されていなかったリスクだ。

また、規制委はこれまで原発から8~10キロ圏内だった防災重点区域を、30キロ圏内に広げる指針案を示した。適用されれば大飯の場合、新たに京都市や滋賀県高島市など8市町が加わる。

各市町は避難路の確保や避難施設の指定など、防災計画を暫定的に作っている段階だ。

「原発を再稼働させるには、防災計画の策定が前提となる」といったのは田中委員長である。要件を満たしていない大飯の状況をこのまま放置するのは、矛盾した対応と言わざるを得ない。

気になるのは、大飯の稼働に対する責任体制が不明確なことだ。政府は「規制委ができた以上、安全判断は規制委の仕事」という。規制委は「国が福井県やおおい町と相談して決めたこと」とし、ただちに停止を求めることはしないと主張する。

大飯の再稼働は、6月に関係閣僚が会合を開き「政治決定」した。政治の手を離れ、規制委が引き継いでいるようでもない。押し付け合ってエアポケットに落ち、責任の所在が中ぶらりんでは困る。大切なのは停止すべきかどうかを、責任を持って判断できる体制だ。

政府、規制委ともに、需給予測や安全性といったそれぞれの領域で責任を担うべきだ。

大阪府と大阪市は、大飯を停止させ、新たな安全基準のもとで再審査するよう政府と規制委に申し入れた。2府5県と政令指定都市でつくる関西広域連合も、新しい安全基準の早急な提示と再審査を政府に求めた。

近隣や消費地の声を、国と規制委は重く受けとめるべきだ。

産経新聞 2012年10月11日

原発の再稼働 責任放棄の政府は不要だ

この国では誰が原子力発電所の再稼働を最終判断するのか。

原子力規制委員会は「原発が安全基準を満たしているかの確認だけで再稼働は判断しない」とする。これに対して政府は、規制委の判断で国の仕事は完結するとの立場だ。これでは判断主体が誰か分からない。責任の押し付け合いは極めて問題だ。

電力需給見通しの策定や地元自治体の説得、安定的な電力供給の確保はすべて政府の役割だ。再稼働の最終判断も政府が責任を持つのは当然だ。野田佳彦政権はその責務を放棄してはならない。

規制委の田中俊一委員長は「再稼働の判断は、事業者かエネルギー政策を担当する省庁にお願いすべきだ」との見解をまとめた。

政府からの独立性が高い規制委は、あくまでも科学的な立場で原発の安全性を審査する。その観点からみれば、規制委の見解はやむを得ないだろう。

問題は政府の姿勢だ。枝野幸男経済産業相は「規制委がゴーサインを出して地元の理解が得られれば、原発を重要電源として活用するのが政府の方針だ」としている一方で、「事業者にきちんと汗をかいてもらわないといけない」とも述べている。

これでは再稼働の判断と責任を規制委に丸投げしていると言わざるを得ない。再稼働に不安を抱く地元説得なども電力会社に押し付けようとするものだ。

野田政権がまとめた「2030年代に原発稼働をゼロとする」とのエネルギー戦略には、安全性が確認された原発は重要な電源として活用すると明記している。政府は円滑に再稼働させる手順を早期に確立する必要がある。

政府は近く、今冬の電力需給見通しの策定作業に入る。とくに厳しい寒さに見舞われる北海道では電力不足が必至の情勢だ。計画停電に陥る事態になれば、生命にも深刻な影響を与えかねない。

旧原子力安全・保安院はストレステスト(耐性検査)で北海道電力の泊原発1、2号機を「概(おおむ)ね妥当」と評価した。政府と規制委はこれを参考に暫定的な安全基準での早期稼働も検討すべきだ。

関西電力の大飯原発3、4号機の再稼働は、野田首相が「国民生活などへの影響を勘案し、政府が最終的に責任を持って判断する」と政治決断した。首相には、この姿勢を断固貫いてほしい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1201/