朝日新聞 2012年10月10日
PC乗っ取り ウイルス犯罪へ備えを
知らないうちにパソコンが乗っ取られ、大量殺人や爆破予告のメールを送信して犯人に仕立てられる。
犯罪ドラマのようなことが現実に起きて、大阪と三重の男性が逮捕された。
2人のパソコンは同じウイルスに感染し、遠隔操作できる状況だった。何者かがウイルスを送り込み、本人になりすまして犯行に及んだ疑いが濃い。
2人に面識はなく、捜査段階から容疑を否認していた。誤認逮捕としかいいようがない。警察はこの失態を深刻に受け止める必要がある。
大阪の事件では7月末、大阪市のホームページに「来週の日曜に大量殺人する」などと書き込まれた。インターネット上の住所であるIPアドレスの捜査から、府警はアニメ演出家のパソコンが発信源と特定した。
三重の無職男性は9月上旬、ネット掲示板に「伊勢神宮を爆破する」と書き込んだ容疑で県警に逮捕された。
三重の男性のパソコンから遠隔操作のウイルスが見つかった。ウイルスが検出されなかった演出家のパソコンを府警が改めて調べたところ、ウイルス感染の痕跡が確認された。ウイルスの入ったファイルを消去する機能もあったという。
2人とも9月21日に釈放されたが、演出家はすでに起訴されていた。まったく別人による犯行とみられ、検察はすみやかに起訴を取り下げるべきだ。
今回の教訓はIPアドレスに頼る捜査手法の危うさだ。
これでは市民がいつ犯罪者に仕立てられるかわからない。裁判所も逮捕状の審査を厳格にして、できる限り任意での捜査を進めるべきだ。
一方で、なりすまし事件を続発させないためにも、真犯人を突き止めることが重要だ。
遠隔操作型ウイルスは官公庁や企業を狙ったサイバー攻撃でも確認され、警察庁はセキュリティーを監視する企業にウイルス情報などを提供している。
ただ、ウイルスの発信履歴が消されたり、海外のサーバーを経由したりして犯人追跡は容易ではない。ウイルス対策にたけた企業や専門家と協力し、新たな捜査手法を築いてはどうか。
危険なウイルスの侵入を防ぐには、パソコンを使う側の注意も必要だ。基本ソフトを最新のものにして、ウイルス対策ソフトの更新を怠らない。なによりも不審なメールやホームページの閲覧を避けることだ。
だれもが犯罪に利用されてしまうという新たな脅威に、本格的に備えなくてはいけない。
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毎日新聞 2012年10月12日
PC乗っ取り 捜査の過ち繰り返すな
ネット上で犯罪予告を書き込んだとして逮捕された大阪府と三重県の男性2人は誤認逮捕だった可能性が濃厚だ。
パソコン(PC)が新種ウイルスに感染し、乗っ取った第三者が遠隔操作していた疑いが強い。
大阪のケースでは、海外のサーバーを経由して遠隔操作されており、犯罪予告の書き込み後に、ウイルスファイルやアクセス履歴がPCから消去されていた。三重県警の捜査でファイル名が分かり、その情報をもとに大阪府警が解析し直して感染の痕跡が確認されたという。
2人は逮捕当時から「全く身に覚えがない」と容疑を完全に否認していた。2人とも釈放されたが、大阪の男性は起訴までされた。誤認逮捕・起訴だとすれば、捜査のどこに問題があったのか。警察や検察は反省し、経緯を検証すべきだ。
所有者が知らないうちにPCを遠隔操作させるウイルスは世界で1日に十数万種類も生まれ、対策ソフトで排除できるのは一部とされる。
警察庁の片桐裕長官は11日の記者会見で、今回のウイルスを検知し得るソフトを事業者が開発したことを明らかにした。今後の捜査では、このソフトを使用するよう全国の警察に指示もしたという。
だが、日々進化する新種ウイルスとのいたちごっこは今後も続く。乗っ取ったPCで所有者に成り済まし跡を消すといった込み入った手口の対策は容易ではないだろう。
インターネット上の住所であるIPアドレスなどが2人を特定する根拠になった。IPアドレスに頼らない捜査や、警察としてさらにウイルスの解析力を向上させる体制整備を急ぐ努力が必要だ。
その上で、本人の言い分にしっかり耳を傾け、証拠の裏付け作業も尽くすなど、より慎重な捜査を心がけるしかあるまい。
事件を受け、最高検はIPアドレスから容疑者を特定したケースがあれば、捜査状況を再チェックし、報告するよう全国の検察庁に指示した。適切な処分が行われたのか過去にさかのぼって見直すのは当然だ。
PCだけでなく、スマートフォンなどネット空間は飛躍的に広がっている。誰もが犯罪に利用され得ることが今回、浮き彫りになった。
それだけに、被害を生まないための個人の自衛努力も求められる。
最新のウイルス対策ソフトを導入し、こまめに更新するなど基本的な対策はもちろん、作成者不明の無料や海賊版のソフトをダウンロードしない、心あたりのないメールの添付ファイルは開かないといった慎重な対応が不可欠だ。目に見えない悪意からしっかり身を守りたい。
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読売新聞 2012年10月16日
PC乗っ取り 官民連携で摘発体制の強化を
何者かが他人のパソコン(PC)を乗っ取り、遠隔操作で犯行予告を送信したとされる事件が相次いで発覚した。
PCの持ち主が身に覚えのない罪を着せられかねない事態だ。新たなサイバー犯罪に、警察は捜査能力を向上させ、摘発に全力を挙げねばならない。
大阪府警、三重県警、警視庁は、無差別殺人や爆破の犯行予告をPCで送信したとして威力業務妨害容疑などで逮捕した男性3人について、それぞれ釈放した。
神奈川県警でも、小学校襲撃の予告を巡り、逮捕した大学生とは別の真犯人がいる可能性が浮上している。一連の事件では、「私が真犯人だ」とする内容のメールがTBSに届いたという。
釈放された3人のPCは、外部から遠隔操作できるウイルスに感染し、3人の知らぬ間に、犯行予告がネット上の掲示板などに書き込まれた可能性が高い。
警察は、ネット上の「住所」にあたるIPアドレスから3人のPCを特定した。だが、遠隔操作ウイルスの侵入を見抜けず、気付いたのは、3人の逮捕後だった。
PCが遠隔操作されてしまうと、IPアドレスを割り出すだけでは犯人にたどり着けない。一連の事件は、従来のサイバー捜査の限界を示したと言える。
犯行予告が、米国、ドイツなど海外の複数のサーバーを経由し、男性らのPCを使って書き込まれたことから、犯人の特定には困難が伴うだろう。だが、冤罪を招く恐れのあるハッキング行為を野放しにしておくことはできない。
警察庁は、民間会社でサイバー攻撃などへの対策を研究してきた技術者を採用し、都道府県警に出向させている。専門スタッフのさらなる増強が必要だろう。
民間との連携を強化し、サイバー防御の技術に優れた企業のノウハウを積極的に取り入れたい。官民をあげたサイバー犯罪への体制作りを急がねばならない。
PCのユーザーも、自衛を心がけることが大切だ。男性らのPCのウイルスは、ネット上の掲示板に公開されていた無料ソフトから感染した。知らないうちにPCのカメラが起動し、部屋をのぞかれた外国の事例もある。
不審なメールは開かない。怪しいサイトの閲覧は避け、不用意なダウンロードは控える。対策ソフトのこまめな更新も欠かせない。使用しない時には、PCの電源を切ることも有効とされる。
基本対策を徹底し、自分のPCは自分で守ることが重要だ。
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