PC乗っ取り ウイルス犯罪へ備えを

朝日新聞 2012年10月20日

誤認逮捕 捜査が甘すぎる

なりすましウイルスによる犯行予告事件で、警察庁が男性4人の誤認逮捕を認めた。

「警察や検察をはめる」ために、他人のパソコンを乗っ取って遠隔操作する。これまでになかったタイプの犯罪だ。

警察の捜査技術や人員が、日々進歩するインターネット技術に追いつかない。一見すると問題はそこにあるように見える。

そうした側面もあるのは確かだろう。

しかし、捜査のいきさつが明らかになるにつれ、別の疑念がわいてくる。そもそも捜査の基本を尽くしていなかったのではないかということだ。

東京の幼稚園などを襲うという予告メールが送られた事件では、警視庁は「発信元」のパソコンをウイルスチェックしないまま、持ち主の逮捕に踏み切っていた。

送信された時間帯のアリバイも調べていなかったという。

何より深刻なのは、警察がこのうち二つの事件で、逮捕した人から容疑を認める供述を引き出していたことだ。

たとえば、横浜市のサイトに「小学校を襲う」と書き込まれた事件では、犯行予告に「鬼殺銃蔵」というハンドルネームが記されていた。

「銃蔵」は不吉な数字である「13」をもじった。神奈川県警に捕まった学生は、警察への上申書でそう「説明」したとされる。しかも予告の詳しい中身は公表されていないのに、上申書には同じ文言が使われていた。

どんな取り調べ方をすると、やってもいない人がこんなことを書けるのか。

予告の文面を見せて誘導するようなことはなかったか。検証して公表すべきだ。

警察や検察は、過去の冤罪(えんざい)の教訓から、供述だけに頼ることなく、客観的な証拠を重くみる方針を示してきた。

今回はネット上の住所にあたる「IPアドレス」という一見堅い物証があったゆえ、落とし穴にはまった面はある。

しかし、「この人は犯人でないかもしれない」という目で証拠を捜す姿勢に欠けていた点で、結局は過去の過ちと変わりがない。

自分もいつ犯人に仕立てあげられるか。事件は人々にそんな不安を植えつけた。捜査への信頼を取り戻すには、警察の取り調べの可視化も必要だろう。

犯行予告は結局、実行されていない。証拠のパソコンも押さえた。そんなケースでも、勾留を続ける必要があったのか。

そうした捜査のあり方も見直すべきだ。

毎日新聞 2012年10月23日

ネット誤認逮捕 検証の結果公表が必要

遠隔操作されたパソコン(PC)からの犯罪予告書き込み事件で、捜査当局の一部で誤認逮捕した人に対し供述の誘導や強制があった可能性が極めて強くなった。

警視庁や関係府県警が無関係の人を陥れた「真犯人」を突きとめる捜査に全力を挙げるのは当然だが、誤認逮捕の原因と取り調べの問題点を明らかにすることも欠かせない。

看過できないのが神奈川県警のケースだ。横浜市のサイトに小学校襲撃の予告を書き込んだとして、同県警は7月、男性(19)を逮捕した。

男性の供述は変遷したが、容疑を認めた上申書には、事件の詳細が書かれていたとされる。

襲撃予告の文言のほか、ハンドルネーム(書き込み上の名前)である「鬼殺銃蔵(おにごろしじゅうぞう)」の由来、「インターネットで検索して最初に出てきたから」とする襲撃予告した小学校を選んだ理由などだ。

ありもしない動機がなぜ供述できるのか。不適切な取り調べが行われたと考えざるを得ない。この男性の場合、最終的に保護観察処分となったが、「自供しないと少年院に行くことになる」と言われたとも一部で報じられた。事実ならば、少年に対する威迫的な取り調べによる自白の強要であり悪質性は高い。

また、東京都内の幼稚園などに襲撃予告をしたとして警視庁が逮捕した男性(28)は、同居の女性がやったと思い、かばって自供したとされる。取調官は供述の不自然さに気づかなかったのだろうか。

神奈川県警も警視庁もPCが遠隔操作された可能性を想定せず、ウイルス検査をしていなかったという。いずれも犯罪予告の書き込みから数日後に逮捕に踏み切っている。

ネット上の住所であるIPアドレスに基づき容疑者を割り出した後、裏付け捜査が不足していたとの批判は免れない。

警察は取り調べの状況について検証する方針を示しているが、密室でのやりとりであり言い分が異なることも想定される。本来、第三者に検証を委ねるのが筋だが、最低でも公安委員会に検証結果のチェックを受けるなどし公平性を担保すべきだ。また、同時多発的に警察が誤認逮捕するという前代未聞の事態だけに、広く結果を公表してもらいたい。

不十分な警察の捜査を見逃し、やはり虚偽の自白を引き出した検察も反省と検証が必要なのは当然だ。

今回の件は、法制審議会で検討されている取り調べの可視化の必要性を改めてクローズアップした。迎合しやすいとされる少年の取り調べのあり方も課題だ。弁護人が取り調べに立ち会うことも含め、冤罪(えんざい)を防ぐ手立てを考えるべきだ。

読売新聞 2012年10月21日

PC誤認逮捕 取り調べの徹底検証が必要だ

なぜ警察は誤認逮捕に至ったか。徹底的な検証が必要である。

遠隔操作されたパソコン(PC)からネット上の掲示板などに犯行予告が書き込まれた一連の事件で、大阪地検は19日、偽計業務妨害罪で公判請求した男性の起訴を取り消した。府警は男性に謝罪する。

神奈川、三重両県警は誤認逮捕を認めて謝罪した。警視庁も誤認逮捕を認めた。

PCを遠隔操作した真犯人に翻弄され、捜査がずさんで、相次いで冤罪(えんざい)を引き起こした。警察・検察の信頼は大きく失墜した。

警察は、TBSなどに届いた「私が真犯人」とするメールの送り主が遠隔操作を行ったとみている。犯人しか知り得ない内容を含んでいるからだ。

このメールにより、警察は誤認逮捕を認めざるを得ない状況に追い込まれたと言えよう。

逮捕された4人は当初、いずれも容疑を否認したが、警察は耳を貸さなかった。

小学校の襲撃を予告したとして神奈川県警が逮捕した大学生のケースでは、「楽しそうな小学生を見て困らせてやろうと思った」とする動機など、具体性のある自白調書まで作成された。

「鬼殺銃蔵」との名前について、「鬼殺は日本酒の商品名。13が不吉な数字だからジュウゾウにした」との“供述”もあった。

脅すような尋問によって、警察・検察が描いた構図通りの供述を強要する取り調べがあったとしか思えない。厚生労働省の村木厚子さんを冤罪に巻き込んだ郵便不正事件の教訓は、全く生かされていないのではないか。

適正な取り調べの徹底が、何より大切である。

全国の警察では現在、取り調べを録音・録画する「可視化」の是非を見極めるため、試行が続いている。今回の問題で、導入を求める声が強まるのは必至だろう。

犯人を割り出すため、警視庁、大阪府警、神奈川、三重両県警は合同捜査を行うことを決めた。

サイバー犯罪に対処する官民の専門家のノウハウを結集して、真犯人の特定を急いでもらいたい。真犯人にたどり着けなければ、警察は今後も、コンピューターに違法侵入するハッカーに甘く見られるだけである。

一連の事件は、PCの「住所」であるIPアドレスを根拠に、PCの持ち主を犯人視することの危険性を明白にした。過去の同種事件の捜査に誤りはなかったのか。その検証も忘れてはならない。

産経新聞 2012年10月18日

PC遠隔操作 「真犯人」摘発し再発防げ

遠隔操作ウイルスに感染したパソコン(PC)から爆破や無差別殺人の犯行予告などが送信される事件が相次いだ。

すでに威力業務妨害容疑などで逮捕されたPCの持ち主3人が釈放されている。TBSや弁護士にメールで送られた「真犯人」を名乗る犯行声明は「警察・検察をはめてやりたかった」と動機を記した。犯人しか知り得ない事実が多く含まれており、信憑(しんぴょう)性が高い。

冤罪(えんざい)を作ることを目的とした犯罪など許されるはずがない。治安への重大な挑戦である。捜査当局には真犯人の摘発を強く求めるとともに、再発防止に向けて官民で全力を挙げてほしい。

警察は、ネット上の住所であるIPアドレスなどを根拠に3人を特定したが、それぞれ当初は関与を否定していた。

IPアドレスはPCに振られた個別の識別番号で、犯罪捜査にも役立ってきた。だが、他人のPCを遠隔操作することが可能なら、他人の指紋で犯行を繰り返すようなものだ。今後はIPアドレスに頼らない、新たな捜査方法を構築する必要がある。

こうした事態を受け警察庁は、平成20年4月以降に摘発したインターネットを使った犯行予告事件のうち、容疑者が否認していた全事件を調査するよう都道府県警に指示した。

最高検も、IPアドレスを手がかりに容疑者を特定、立件した事件について再調査するよう全国の地検に指示した。現在に至る捜査を検証して冤罪を許さないことが最優先されるのは当然だ。

そのうえで、真犯人には威力業務妨害や不正指令電磁的記録作成・同供用などの容疑がかかる。海外のサーバーを駆使するなど特定への壁は高いが、摘発こそが再犯や累犯の抑止に最も有効だ。

警察庁によると、民間の協力で、今回の犯行に使用された新種ウイルスの検知が可能なソフトも開発されたという。

ネット空間を悪意が飛び交う現状は極めて不健全だ。外国からのハッキングが疑われる事件も後を絶たない。通信、セキュリティー業者など民間の知恵も総動員してサイバー犯罪に対する態勢づくりを急がなくてはならない。

利用者もウイルス対策ソフトを常に最新にし、不審な添付ファイルを不用意に開かないなど、自衛に万全を期しておきたい。

朝日新聞 2012年10月10日

PC乗っ取り ウイルス犯罪へ備えを

知らないうちにパソコンが乗っ取られ、大量殺人や爆破予告のメールを送信して犯人に仕立てられる。

犯罪ドラマのようなことが現実に起きて、大阪と三重の男性が逮捕された。

2人のパソコンは同じウイルスに感染し、遠隔操作できる状況だった。何者かがウイルスを送り込み、本人になりすまして犯行に及んだ疑いが濃い。

2人に面識はなく、捜査段階から容疑を否認していた。誤認逮捕としかいいようがない。警察はこの失態を深刻に受け止める必要がある。

大阪の事件では7月末、大阪市のホームページに「来週の日曜に大量殺人する」などと書き込まれた。インターネット上の住所であるIPアドレスの捜査から、府警はアニメ演出家のパソコンが発信源と特定した。

三重の無職男性は9月上旬、ネット掲示板に「伊勢神宮を爆破する」と書き込んだ容疑で県警に逮捕された。

三重の男性のパソコンから遠隔操作のウイルスが見つかった。ウイルスが検出されなかった演出家のパソコンを府警が改めて調べたところ、ウイルス感染の痕跡が確認された。ウイルスの入ったファイルを消去する機能もあったという。

2人とも9月21日に釈放されたが、演出家はすでに起訴されていた。まったく別人による犯行とみられ、検察はすみやかに起訴を取り下げるべきだ。

今回の教訓はIPアドレスに頼る捜査手法の危うさだ。

これでは市民がいつ犯罪者に仕立てられるかわからない。裁判所も逮捕状の審査を厳格にして、できる限り任意での捜査を進めるべきだ。

一方で、なりすまし事件を続発させないためにも、真犯人を突き止めることが重要だ。

遠隔操作型ウイルスは官公庁や企業を狙ったサイバー攻撃でも確認され、警察庁はセキュリティーを監視する企業にウイルス情報などを提供している。

ただ、ウイルスの発信履歴が消されたり、海外のサーバーを経由したりして犯人追跡は容易ではない。ウイルス対策にたけた企業や専門家と協力し、新たな捜査手法を築いてはどうか。

危険なウイルスの侵入を防ぐには、パソコンを使う側の注意も必要だ。基本ソフトを最新のものにして、ウイルス対策ソフトの更新を怠らない。なによりも不審なメールやホームページの閲覧を避けることだ。

だれもが犯罪に利用されてしまうという新たな脅威に、本格的に備えなくてはいけない。

毎日新聞 2012年10月12日

PC乗っ取り 捜査の過ち繰り返すな

ネット上で犯罪予告を書き込んだとして逮捕された大阪府と三重県の男性2人は誤認逮捕だった可能性が濃厚だ。

パソコン(PC)が新種ウイルスに感染し、乗っ取った第三者が遠隔操作していた疑いが強い。

大阪のケースでは、海外のサーバーを経由して遠隔操作されており、犯罪予告の書き込み後に、ウイルスファイルやアクセス履歴がPCから消去されていた。三重県警の捜査でファイル名が分かり、その情報をもとに大阪府警が解析し直して感染の痕跡が確認されたという。

2人は逮捕当時から「全く身に覚えがない」と容疑を完全に否認していた。2人とも釈放されたが、大阪の男性は起訴までされた。誤認逮捕・起訴だとすれば、捜査のどこに問題があったのか。警察や検察は反省し、経緯を検証すべきだ。

所有者が知らないうちにPCを遠隔操作させるウイルスは世界で1日に十数万種類も生まれ、対策ソフトで排除できるのは一部とされる。

警察庁の片桐裕長官は11日の記者会見で、今回のウイルスを検知し得るソフトを事業者が開発したことを明らかにした。今後の捜査では、このソフトを使用するよう全国の警察に指示もしたという。

だが、日々進化する新種ウイルスとのいたちごっこは今後も続く。乗っ取ったPCで所有者に成り済まし跡を消すといった込み入った手口の対策は容易ではないだろう。

インターネット上の住所であるIPアドレスなどが2人を特定する根拠になった。IPアドレスに頼らない捜査や、警察としてさらにウイルスの解析力を向上させる体制整備を急ぐ努力が必要だ。

その上で、本人の言い分にしっかり耳を傾け、証拠の裏付け作業も尽くすなど、より慎重な捜査を心がけるしかあるまい。

事件を受け、最高検はIPアドレスから容疑者を特定したケースがあれば、捜査状況を再チェックし、報告するよう全国の検察庁に指示した。適切な処分が行われたのか過去にさかのぼって見直すのは当然だ。

PCだけでなく、スマートフォンなどネット空間は飛躍的に広がっている。誰もが犯罪に利用され得ることが今回、浮き彫りになった。

それだけに、被害を生まないための個人の自衛努力も求められる。

最新のウイルス対策ソフトを導入し、こまめに更新するなど基本的な対策はもちろん、作成者不明の無料や海賊版のソフトをダウンロードしない、心あたりのないメールの添付ファイルは開かないといった慎重な対応が不可欠だ。目に見えない悪意からしっかり身を守りたい。

読売新聞 2012年10月16日

PC乗っ取り 官民連携で摘発体制の強化を

何者かが他人のパソコン(PC)を乗っ取り、遠隔操作で犯行予告を送信したとされる事件が相次いで発覚した。

PCの持ち主が身に覚えのない罪を着せられかねない事態だ。新たなサイバー犯罪に、警察は捜査能力を向上させ、摘発に全力を挙げねばならない。

大阪府警、三重県警、警視庁は、無差別殺人や爆破の犯行予告をPCで送信したとして威力業務妨害容疑などで逮捕した男性3人について、それぞれ釈放した。

神奈川県警でも、小学校襲撃の予告を巡り、逮捕した大学生とは別の真犯人がいる可能性が浮上している。一連の事件では、「私が真犯人だ」とする内容のメールがTBSに届いたという。

釈放された3人のPCは、外部から遠隔操作できるウイルスに感染し、3人の知らぬ間に、犯行予告がネット上の掲示板などに書き込まれた可能性が高い。

警察は、ネット上の「住所」にあたるIPアドレスから3人のPCを特定した。だが、遠隔操作ウイルスの侵入を見抜けず、気付いたのは、3人の逮捕後だった。

PCが遠隔操作されてしまうと、IPアドレスを割り出すだけでは犯人にたどり着けない。一連の事件は、従来のサイバー捜査の限界を示したと言える。

犯行予告が、米国、ドイツなど海外の複数のサーバーを経由し、男性らのPCを使って書き込まれたことから、犯人の特定には困難が伴うだろう。だが、冤罪(えんざい)を招く恐れのあるハッキング行為を野放しにしておくことはできない。

警察庁は、民間会社でサイバー攻撃などへの対策を研究してきた技術者を採用し、都道府県警に出向させている。専門スタッフのさらなる増強が必要だろう。

民間との連携を強化し、サイバー防御の技術に優れた企業のノウハウを積極的に取り入れたい。官民をあげたサイバー犯罪への体制作りを急がねばならない。

PCのユーザーも、自衛を心がけることが大切だ。男性らのPCのウイルスは、ネット上の掲示板に公開されていた無料ソフトから感染した。知らないうちにPCのカメラが起動し、部屋をのぞかれた外国の事例もある。

不審なメールは開かない。怪しいサイトの閲覧は避け、不用意なダウンロードは控える。対策ソフトのこまめな更新も欠かせない。使用しない時には、PCの電源を切ることも有効とされる。

基本対策を徹底し、自分のPCは自分で守ることが重要だ。

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