地方分権 権限移譲の各論こそ肝心だ

朝日新聞 2009年08月25日

09総選挙 地方分権 絵を描くのは簡単だが

政権交代をかけた総選挙で、多くの党が地方分権策をマニフェストに掲げた。橋下徹・大阪府知事らが政党に覚悟を問い、それをもとに支持政党を決めると迫ったことで、にわかに関心が高まった。

地方分権は、中央政府と自治体との役割分担など国のかたちにかかわる重大な問題なのだが、人々の暮らしにどう影響するのか、具体的なイメージがわきにくい。そこに政党や有権者の目を向かせた点では、知事や市長らの行動には意義があった。

民主党はかねて分権を党の政策の「一丁目一番地」と位置づけ、力を入れてきた。中央集権体制を抜本的に改め、市町村に権限と財源を大幅に移す。国からの「ひもつき補助金」を自治体が自由に使える一括交付金にかえるとマニフェストでうたっている。

政権の意思決定の方法や税金の使い方を根本的に改める「政府のつくり直し」の一環として、中央政府の役割を縮小し、自治体中心の地域主権国家を目指すという野心的なものだ。

ただ、地方の自主財源を増やすというものの、子ども手当などで税金の使い道は手いっぱいではないのか、といった不安は残る。

さて、自民党の方も盛りだくさんだ。国の出先機関の廃止・縮小をはじめ、補助金や交付税、税源配分の見直し、道州制基本法を制定し2017年までに道州制を導入する、などだ。項目だけを見れば、全国知事会の要望の丸のみに近い。

だが、「本当だろうか」と眉につばをつけたくなる。なにしろ福田政権末期から麻生政権にかけてのこの1年あまり、有識者による地方分権改革推進委員会の分権勧告に対し、官僚と一体となって立ちはだかってきたのは自民党の族議員だったからだ。

橋下知事が「いままで全く聞く耳を持たなかったのに、何が変わったのか」といぶかるのも無理はない。

マニフェストは中身もさることながら、実現に向けた政党の本気度も試される。いま一度、何のための地方分権かという原点を問い直したい。

医療や介護、子育て支援などは、現場でサービスを担う自治体が権限や財源を握った方が実情に合わせて小回りがきくし、効率的だ。中央政府へのお任せではなく、身近なところで住民自らが選挙などを通じて決め、評価する。これが分権改革が目指す姿だ。

明治以来、日本の社会に染みついた中央集権の体質を変えるのは並大抵のことではない。中央官僚や族議員の抵抗は当然として、果たして自治体や住民の側にそれを受け取る覚悟があるのかどうかも問われることになる。

息の長い取り組みが必要だ。今回の分権論議を一時の打ち上げ花火に終わらせてはならない。

読売新聞 2009年08月24日

地方分権 権限移譲の各論こそ肝心だ

全国知事会による争点化戦略の効果であろう。地方分権改革が衆院選でかつてないほど関心を集めている。

国と地方の役割分担を見直し、国の権限や財源を地方に移すのが分権改革だ。麻生首相は「内閣の最重要課題」と位置づけるが、権益を守りたい省庁や族議員の抵抗のため停滞感が漂う。

現状打破を狙う大阪府の橋下徹知事らの先導で、全国知事会が与野党の政権公約(マニフェスト)の点数評価という攻勢をかけた。これに押されて、各党とも分権重視の姿勢を打ち出した。

改革推進の格好の機会だ。肝心なのは、総論でなく各論である。各党は具体策を競ってほしい。

当面の焦点は、政府の地方分権改革推進委員会が出した勧告の扱いである。地方への権限移譲、国の出先機関の統廃合、地方行政を法令で縛る「義務付け・枠付け」の大幅緩和などだが、どこまで実現できるかは不透明だ。

自民党は、勧告を実現するための新地方分権一括法案の今年度内成立を期すとした。だが、どの権限を移し、どの出先機関を統廃合するのか、精査されておらず、具体性と説得力を欠いている。

「地域主権国家」を唱える民主党は、国からのひも付き補助金を廃止し、使途を限定しない一括交付金に組み替えるという。地方の自由度を高める狙いは良いが、教育・社会保障費を公共事業などに流用させない歯止めも必要だ。

出先機関の「原則廃止」という主張も、あまりに乱暴すぎ、かえって各論を検討していない未熟さを露呈している。

道州制について、自民党は、基本法の制定後「6~8年」と導入時期を明示した。公明党も「(おおむ)ね10年後」と足並みをそろえた。これに対し、共産党は導入に反対し、社民党も否定的な立場だ。

民主党は、基礎的自治体(市町村)の強化を優先するが、その先の国家像が明確ではない。道州制志向なのか、都道府県制の維持なのか、説明が不可欠だろう。

ただ、道州制については、知事会内でも賛否が分かれており、国民的合意は形成されていない。中長期的課題である道州制の検討ばかりが先行し、肝心の地方分権が滞っては本末転倒である。腰を据えた議論が必要だ。

分権に欠かせない地方への税源移譲に関しては、自民、民主両党とも数値目標を示していない。

分権は、国のかたちを変える大事業だ。税財源の本質論を避けるなら改革姿勢に疑問符がつく。

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