原子力防災 実効性ある対策作りを急げ

読売新聞 2012年10月07日

原子力防災 実効性ある対策作りを急げ

東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を、今後の原発防災対策に生かさねばならない。

新設の原子力規制委員会が、原発事故時に住民を守るための新たな「原子力災害対策指針」案をまとめた。

規制委は指針を月内に最終決定する方針だ。関係市町村は、これに沿って来年3月までに地域の原子力防災計画を策定する。

最大のポイントは、原発事故に備えた防災対策の重点範囲を従来の「半径8~10キロ圏内」から「30キロ圏内」に拡大した点だ。国際原子力機関(IAEA)が提唱する防災基準に沿っている。

指針案により、防災対策を求められる市町村は、45から135へと急増する。これまで原発の防災とは無縁だった地域もある。

福島第一原発事故では、政府や市町村の避難指示が大混乱し、住民は長時間、転々と移動させられた。食糧供給などがないまま、1週間以上、屋内退避を強いられた地域もある。二度と、こうした状況を繰り返してはならない。

原発事故が起きた時、どの地域の住民を、どんなルートで避難させるかなど、対象となる市町村や道府県は、万が一の際に役立つ計画作りが求められる。

とりわけ緻密な計画が必要なのは、半径5キロ圏内の市町村だ。指針案は、重大事故の恐れがある場合に「即時避難」の対象としている。避難時の混乱を最小限に抑える対策が重要になる。

さらに原発から50キロ圏内では、甲状腺被曝(ひばく)を防ぐ安定ヨウ素剤を各戸に事前配布することにもなった。福島第一原発事故で放射性ヨウ素が広範囲に拡散したことを踏まえた措置だ。

こうした防災計画に欠かせないのが、政府と関係自治体の密接な連携だ。福島第一原発事故では、その欠如が国会や政府の事故調査委員会で厳しく指摘された。

原発事故の状況や放射能汚染の程度は、政府にしか把握することが出来ない。最重要の情報を速やかに市町村に伝達する体制を築くことが肝要である。

今回の指針案で防災対策の重点範囲に入ったことを理由に、原発再稼働について事前同意を求めている自治体もある。

規制委の田中俊一委員長は「規制委が関与すべきではなく、電力会社と自治体の問題」とし、防災計画整備を安全判断の必要条件にはしない、との見解を示した。

妥当な判断である。規制委はあくまで、技術的観点から原発の安全性向上に力を注ぐべきだ。

産経新聞 2012年10月10日

原発防災指針 重点域30キロ圏は現実的か

対象となる地域が広すぎるのではないか。肝心の安全対策が希薄化し、混乱を拡大する結果になりはしないか心配だ。

原発事故が起きた場合に住民の被曝(ひばく)防護を確実なものとするための「原子力災害対策指針」についての印象である。

原子力規制委員会によって示された指針の原案では、事故に備える重点区域(UPZ)が原発を中心とする半径30キロ圏内となっている。福島事故前の同8~10キロ圏内に比べて9倍の広さへの拡大である。

この結果、関係する自治体は、従来の15道府県45市町村から21道府県135市町村に増加する。対象人口は現行の73万人から480万人に膨れ上がる。円滑な合意形成は可能なのか。

限られた時間内で、政府や自治体、電力会社は、これだけ多数の住民に被曝を避ける情報を的確に伝え、各種の要請に応えられるのか。また、大勢の人が一度に動けば大混乱に陥りかねない。

UPZを30キロに広げるのは、水素爆発で大量の放射性物質が拡散する事態などを想定したためだ。だが、水素爆発の防止などの過酷事故対策は、昨年6月の原子力安全・保安院の指示によって全原発で実施されている。

各原発での安全対策への取り組みを考慮することなく、災害対策指針を作るのはいかがなものか。より高い安全性を目指す姿勢は正しくても、度を越せば目的とは逆の結果を招きかねない。

規制委は今月中に指針を策定し、それを基に対象市町村などは来年3月までに地域ごとの防災計画を立てることになっている。

法律に定められた手順だが、規制委は、もう一つの重要課題である原発の「新安全基準」策定を優先させるべきではなかったか。耐震性などで、より高い安全性を確保した後に、万が一に備える防災計画の立案に進めば、現実に即したUPZを導き出せたはずだ。

日本の原発の安全性は、事故後の緊急対策でも向上がはかられたが、新安全基準ができれば事故はさらに起きにくい。現状を論理的に考えれば、今後、原発の過酷事故が起きる可能性は国内より一部の国外の方が高くなる。

にもかかわらず、偏西風の風上側で起きる原発事故に対し、新たな原子力災害対策指針は無防備にすぎる。原発防災には、より現実的な視点が必要だ。

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