東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を、今後の原発防災対策に生かさねばならない。
新設の原子力規制委員会が、原発事故時に住民を守るための新たな「原子力災害対策指針」案をまとめた。
規制委は指針を月内に最終決定する方針だ。関係市町村は、これに沿って来年3月までに地域の原子力防災計画を策定する。
最大のポイントは、原発事故に備えた防災対策の重点範囲を従来の「半径8~10キロ圏内」から「30キロ圏内」に拡大した点だ。国際原子力機関(IAEA)が提唱する防災基準に沿っている。
指針案により、防災対策を求められる市町村は、45から135へと急増する。これまで原発の防災とは無縁だった地域もある。
福島第一原発事故では、政府や市町村の避難指示が大混乱し、住民は長時間、転々と移動させられた。食糧供給などがないまま、1週間以上、屋内退避を強いられた地域もある。二度と、こうした状況を繰り返してはならない。
原発事故が起きた時、どの地域の住民を、どんなルートで避難させるかなど、対象となる市町村や道府県は、万が一の際に役立つ計画作りが求められる。
とりわけ緻密な計画が必要なのは、半径5キロ圏内の市町村だ。指針案は、重大事故の恐れがある場合に「即時避難」の対象としている。避難時の混乱を最小限に抑える対策が重要になる。
さらに原発から50キロ圏内では、甲状腺被曝を防ぐ安定ヨウ素剤を各戸に事前配布することにもなった。福島第一原発事故で放射性ヨウ素が広範囲に拡散したことを踏まえた措置だ。
こうした防災計画に欠かせないのが、政府と関係自治体の密接な連携だ。福島第一原発事故では、その欠如が国会や政府の事故調査委員会で厳しく指摘された。
原発事故の状況や放射能汚染の程度は、政府にしか把握することが出来ない。最重要の情報を速やかに市町村に伝達する体制を築くことが肝要である。
今回の指針案で防災対策の重点範囲に入ったことを理由に、原発再稼働について事前同意を求めている自治体もある。
規制委の田中俊一委員長は「規制委が関与すべきではなく、電力会社と自治体の問題」とし、防災計画整備を安全判断の必要条件にはしない、との見解を示した。
妥当な判断である。規制委はあくまで、技術的観点から原発の安全性向上に力を注ぐべきだ。
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