復興予算 優先順位つけ水膨れ防げ

毎日新聞 2012年10月12日

復興予算問題 首相は早く目をさませ

東日本大震災の復興予算の多くが被災地以外に支出されていた問題の波紋が広がっている。野党側は事態解明に向け衆院決算行政監視委員会の小委員会で審議を求めたが、民主党が欠席したため流会となった。

復興目的とは言い難い事業への財源の事実上の流用が判明したうえ、対応すら後手に回るようでは恥の上塗りである。野田佳彦首相はこの問題に対する認識が甘すぎる。復興予算の抜本見直しなど早急な事態収拾を政府に改めて求めたい。

かつて「消えた年金」問題などで追及の先頭に立っていた党の姿がまるで遠い昔のようだ。税金の使い道に疑問が出ているにもかかわらず民主党は閉会中の国会での審議に応じようとしない。裏返せば、この問題の追及を警戒し始めた表れだろう。

復興財源を用いることに首をひねらざるを得ない支出はなお、次々と判明している。官庁施設の耐震改修関連には合計120億円が支出されていたという。「復興予算なのだから被災地の庁舎を優先すべきだ」という声が国土交通省や財務省からは起きなかったのだろうか。吏道(りどう)も地に落ちたと言わざるを得ない。

平野達男復興相が財務省に実態調査を求め、政府の行政刷新会議も検証に乗り出すなど対策に動いている。だが、問題が注目される端緒となったNHKの特集番組から約1カ月、私たちが同問題へ対処を求めてから2週間以上が過ぎている。政府の反応が鈍いのは首相が先頭に立ち、事態を収拾する姿勢が見えないためではないか。

批判を浴びるさまざまな支出には復興財源をあてなければ否定すべきでないものも含まれる。まず、これまでの支出を精査し、本当に復興予算にふさわしかったか仕分けを進めることだ。ケースによっては予算の執行停止も検討すべきだろう。

そのうえで来年度予算の概算要求で復興特別会計分とされた約4兆5000億円から、復興庁以外の府省が所管する「全国防災」など約1兆1200億円分を分離すべきだ。そのくらい踏み込まないと結局は被災地以外に復興財源が回る。25年間の復興増税を担う納税者の理解は得られまい。

野党側にはこの問題を格好の政権への攻撃材料とみる向きもあるようだ。だが、政府が昨年決めた基本方針には被災地外への支出を可能とする表現が盛り込まれていた。問題となっている過去の予算の使途がこれまで国会で激しく追及されていたとも言いがたい。

政府は何をなすべきかを野党側も積極的に発信すべき局面だ。被災地に必要かつ十分な復興財源があてられるよう、政府の過ちをただすことこそ先決である。

読売新聞 2012年10月10日

復興予算「転用」 被災地支援が後回しでは困る

東日本大震災の復興予算が、被災地の再建とはかけ離れた事業に使われている。

これでは、予算の「転用」であり、看過できない。

自民党の追及を受け、財務省などが衆院決算行政監視委員会の関係議員に示した。その中には、「果たして復興関連なのか」と首をかしげたくなる事業が少なからず盛り込まれていた。

農林水産省は、反捕鯨団体シー・シェパードへの対策費を計上した。抗議活動を阻止しなければ、鯨肉加工施設がある宮城県石巻市の再建に影響するとの理屈だ。

埼玉県などの刑務所での職業訓練費について、法務省は「出所者が被災地で働くかもしれない」としているが、説得力を欠く。

被災地から材料を調達しているから、として岐阜県のコンタクトレンズ工場などへの経済産業省の補助金もあった。

岡田副総理は記者会見で、「短期間に大きな予算を組まなければならず、細部まで目が届かなかった」と釈明した。

復興予算は、復興基本方針で、必要な費用を当初5年間で19兆円と見積もり、2011年度1~3次補正予算と12年度当初予算で計18兆円を計上した。

原発事故に伴う除染作業や津波被害で生じた社会資本の復旧、がれき処理などに充てられる。主な財源は、10~25年間に及ぶ住民税や所得税などの復興増税だ。

各府省は復興基本方針に「全国的に防災施策を行う」、「日本経済の再生なくして被災地の復興はない」といった文言があることから、予算の正当性を主張する。確かに、被災地以外でも防災や産業空洞化対策は必要だ。

しかし、肝心の復興が大幅に遅れている中で、「何でもあり」のような予算は許されまい。

厳しい上限が設定されていない復興予算に目を付け、本来なら通常予算で対応すべき事業まで計上したのでは、増税に協力する国民から反発が強まるだろう。

自民党はこの問題について、閉会中審査を求めている。復興予算が適切に使われているかどうか、国会は十分に精査すべきだ。

被災地では予算執行が遅れている。11年度分に計上した15兆円のうち、年度内の消化は6割にとどまった。予算メニューとニーズの食い違いも指摘されている。

平野復興相は「来年度はできるだけ被災地に特化した予算を作りたい」との意向を表明した。政府は、被災地に必要な資金が行き渡るよう迅速に手当てすべきだ。

産経新聞 2012年10月10日

復興予算 優先順位つけ水膨れ防げ

東日本大震災の復興予算をめぐる批判が高まっている。被災地とは直接関係がない多くの事業に支出されているからだ。震災対策を名目に各省庁が予算の獲得合戦を演じたとすれば問題だ。国会による使途の検証が欠かせない。

復興事業は来年度予算の概算要求でも多額の費用が計上されている。野田佳彦政権は復興予算の水膨れを防ぐため、内容を精査して優先順位を明確化し、必要に応じ予算組み替えなどにも取り組むべきだ。

政府は昨年7月、「震災復興に5年間で19兆円を充てる」との復興基本方針を決めた。これにもとづき原発事故の除染作業や使われなかった費用を除き、すでに約18兆円が昨年度の補正予算と今年度当初予算に計上されている。

だが、その使途には首をかしげるものが少なくない。アジア太平洋の青少年交流に72億円が支出されているが、海外から被災地などを訪ねてもらい、風評被害の防止につなげるのが狙いという。

また、捕鯨基地がある宮城県石巻市を支援するとして、反捕鯨団体「シー・シェパード」対策費用も23億円が計上された。津波被害に備えるため、沖縄県の国道整備にも6千万円が充てられた。いずれも被災地との関係は乏しい。

復興予算には、全国規模の防災対策事業や産業空洞化を防ぐ立地補助金も含まれている。これが被災地以外の事業に多額の予算が計上された理由の一つだ。

問題は来年度予算にも復興関連として約4兆5千億円が要求されていることだ。このうち1兆円程度は被災地とは直接の関係が薄い事業とされる。徹底した査定に取り組まねばならない。

それでも19兆円とされた復興予算の突破は確実とみられる。次期衆院選をにらみ、与野党には早くも補正予算による追加支出を求める声が上がっているほどだ。

だが、復興予算は所得税や住民税の増税を中心に財源を賄うことになっている。復興予算の水膨れはこうした復興増税の拡大につながりかねない。それでは国民の理解は得られまい。自民党は衆院の決算行政監視委員会での閉会中審査を求めているが当然だ。

被災地では高台移転などにあたる人材が不足している面も大きい。早期復興には予算の確保だけでなく、人員の手配などを含めた総合的な支援が不可欠だ。

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