IMF・世銀総会 日本の底力見せる好機だ

朝日新聞 2012年10月09日

IMF世銀総会 危機克服の流れ加速を

世界の金融経済秩序を支える国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次総会が、きょうから日本で開かれる。

関連の催しを含め、加盟188カ国の財政・金融政策のトップら、官民合わせて約2万人が集まると見込まれる。

世界的に経済の減速感が強まるなか、総会は文字どおり世界の総意として、危機克服に向けた政治のリーダーシップを求める場になりそうだ。

最大の課題である欧州問題では、欧州中央銀行(ECB)が先月、南欧諸国の国債買い入れを表明した。8日には新たな安全網である欧州安定メカニズム(ESM)も発足。IMFはこれとは別に4560億ドルの資金基盤を整えた。

当面の焦点は、財政と金融の不安に揺れるスペインがいつ国内改革を決断して支援要請に踏み切るかだ。ギリシャも構造改革を続け、ユーロ圏がそれに応じて追加支援に踏み込む柔軟な構えが求められる。

11日には主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)も開かれる。さまざまな議論を通じて事態解決への流れを加速させなければならない。

政治の責任の重さでは、米国の「財政の崖」も同様だ。減税期限や歳出削減の予定が年末年始に集中し、経済が急降下する恐れがある問題である。

大統領選挙が絡んだ民主、共和両党のにらみ合いという政治の分裂が、いたずらに経済を萎縮させている。両党が大局に立って、早く回避の道を示せるのか、世界が注視している。

日本での総会開催は東京五輪があった1964年以来、48年ぶりだ。当初はエジプトの予定だったが、政情不安で変更になり、震災復興の支援の意味もあって東京開催が決まった。

仙台市では防災に関する対話集会もある。新興国では富の蓄積が進み、途上国では都市化が止まらない。製品や部品の供給はグローバル化する一方だ。災害による経済的打撃は以前にも増して深刻になっており、影響は地球規模に広がる。

世銀は今回の総会を機に各国の開発計画で防災を重視するよう促していく考えだ。

世銀資金で新幹線などのインフラや生産の基盤を整えて高度成長を果たした日本は、戦後通貨体制の中の優等生だ。

と同時に、地震や津波の常襲国でもある。成熟した社会が大震災で得たソフト・ハード両面の防災・減災の知見を、世界の財産にしてもらえれば、これも開発金融にとって歴史的な到達点といえよう。

毎日新聞 2012年10月11日

開かぬ国会 今すぐ外交論戦始めよ

尖閣諸島(沖縄県石垣市)をめぐる日中対立が緩和されたわけでもないのに、政治家の危機感の欠如が気になる。今こそ国会を開き、外交論戦を深める時ではないか。

中国の財政相と中国人民銀行(中央銀行)の総裁が、東京で開催中の国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会への出席を取りやめた。尖閣諸島国有化への対抗措置とみられているが、2国間の交流停止を経済・金融面での世界協調の場にまで広げようとする中国の執拗な態度は異常である。とうてい国際社会の理解を得られるものではない。

中国のかたくなな対日姿勢はこれからも続くだろう。尖閣諸島周辺海域には中国の監視船が連日のように出没し、日本に圧力をかけている。中国はあらゆる手段で国有化に反対し、日本の実効支配に風穴をあけようとしているとみられる。

玄葉光一郎外相は野田佳彦内閣改造後の記者会見で、尖閣諸島などで摩擦が高まる近隣外交を「難局」と呼んだ。安倍晋三総裁を選んだ先月末の自民党総裁選では、領土問題が論戦の中心だった。ならば与野党は国会で、どうすればこの「難局」を打開できるのかを建設的に論じるべきだろう。多くの国民は、日中対立の行方にも、それを論じない政治にも強い不安を抱いている。

国会ではまず、野田首相が尖閣諸島国有化に至る経緯とタイミングの判断、石原慎太郎東京都知事とのやりとり、尖閣諸島を今後どのように管理していくかについて、わかりやすく説明することだ。それは、日本は問題をこじらせようとしたのではない、というメッセージを国際社会に発信することにもなる。

そのうえで、野党は日中関係の打開策を具体的に問い、政府もそれに真摯(しんし)に答えてもらいたい。

政府はあくまで「領土問題は存在しない」との立場を貫く一方、「外交上の問題は存在している」(玄葉外相)という姿勢も示している。では、外交的にこの問題をどう落ち着かせようとしているのか。国会の閉会中審査という形でもいいからただちに審議し、見解をただすことが必要だ。そして、すべての政治家はいたずらに威勢の良さ、強腰を競うのではなく、尖閣諸島を平穏で安定的な状態に戻す知恵を競ってほしい。

与野党は11日に執行部が顔合わせした後、党首会談の時期を模索する構えだが、解散時期をめぐる対立がからみ、臨時国会召集のメドが立つかどうかは不透明だ。外交危機のさなか、このまま時間を空費していいのだろうか。中国が国を挙げての長期戦略で来るなら、日本も超党派で戦略を練る必要がある。政治家は役割を放棄すべきではない。

読売新聞 2012年10月14日

IMF世銀総会 世界経済の減速に懸念高まる

欧州危機の長期化で、世界経済の減速が鮮明になってきた。各国が協調して「負の連鎖」を食い止めねばならない。

188か国が参加した国際通貨基金(IMF)・世界銀行総会が、東京で48年ぶりに開かれた。日本にとっては、東日本大震災からの復興をアピールする機会となったと言える。

総会の主要議題は、世界経済の試練をどう乗り切るかだった。

IMFが発表した世界経済見通しは、2012年の実質国内総生産(GDP)の伸び率を3・3%増と予測し、7月時点から0・2ポイント下方修正した。

財政・金融危機でユーロ圏はマイナス成長から抜け出せず、世界に悪影響を広げている。世界経済を牽引(けんいん)してきた中国、インド、ブラジルなど新興国の景気減速も目立ち始めた。

IMFのラガルド専務理事が、「不確実性が高まっている」と危機感を示したのは当然だろう。

世界経済の悪循環を断ち切るのは容易ではない。財政再建と成長を両立させる方策が問われる。

まず、震源地の欧州危機をいかに収束させるかが焦点だ。

欧州中央銀行が財政危機国の国債購入策を決め、ユーロ圏が恒久的な金融安全網である欧州安定メカニズム(ESM)を8日に発足させたことは評価できる。

しかし、焦点のスペインは支援要請を躊躇(ちゅうちょ)しており、国債格付けが2段階引き下げられた。ギリシャが財政再建達成の2年先延ばしを求めている問題は、ドイツの反対などで未決着だ。

またしても対応が遅れれば、事態は一段と深刻化する。東京で相次いだ指摘を踏まえ、欧州各国は迅速に行動し、信用不安の拡大を封じ込めるべきだ。財政統合も急ぐ必要がある。

米国では来年初めに、「財政の崖」と呼ばれる急激な財政引き締めが起きることが懸念される。与野党は大統領選後、速やかに事態打開を目指してもらいたい。

海外経済の減速や超円高で景気後退局面入りの瀬戸際にある日本も、景気テコ入れとデフレ脱却を図る追加策が求められよう。

尖閣諸島を巡る日本との対立を背景に財務相らのIMF・世銀総会出席を見合わせた中国を、ラガルド専務理事が批判した。日中関係の早期正常化の必要性を強調した発言は重要である。

関係悪化が長期化すれば世界経済に打撃を与える。そうした混乱が中国景気を冷やすことは、中国にも得策ではないはずだ。

産経新聞 2012年10月07日

IMF・世銀総会 日本の底力見せる好機だ

国際通貨基金(IMF)・世界銀行の年次総会が9日から14日まで東京で開かれる。昭和39年以来だ。東日本大震災からの復興状況をみてもらう意味もあり、仙台市でも会合が催される。

欧州債務危機、米景気の長期低迷懸念、中国、インド、ブラジルなど新興国経済の減速など世界経済は、かつてないほど危うい状況にある。そうした中、加盟188カ国の財務相や中央銀行総裁、民間金融機関幹部、市民団体の約2万人が来日するのだ。

11日の先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)をはじめ、期間中は本会議以外にも、政官学民とさまざまなレベルでシンポジウムや会合が予定されている。開催国である日本が、危機脱出の処方箋づくりに大きな役割を果たすことを期待したい。

一方で、沖縄県尖閣諸島をめぐる中国問題も忘れてはならない。IMFのラガルド専務理事がこの問題で経済に混乱が生じるのは好ましくない、と語ったように、日中関係、尖閣問題への関心は経済の観点からも高まっている。

中国は、財政相、中国人民銀行総裁は出席するが、大手国有銀行幹部の中には参加を見合わせる動きがある。会期中に自国の立場をアピールする可能性もある。

日本側は、中国が尖閣問題で日本を攻撃する場面があれば、直ちに反論しなければならない。同時に、G7などの機会をとらえて、人民元の自由化などで米国をはじめ各国との協調を前面に出し、対中圧力を強めるべきである。

今年の年次総会はエジプトで開かれる予定だった。同国が「アラブの春」の影響で辞退したのを受け、昨年5月に日本が名乗りを上げた経緯がある。

世界最大規模の国際会議開催の波及効果は大きい。宿泊や会議場に使われるホテルはもちろん、周辺の飲食店やデパート、専門店などの「特需」も期待できる。

経済面で日本の存在感は薄れる一方だ。デフレが長引き、国際競争力が低下し、世界ブランド番付ではトヨタ自動車が韓国・サムスン電子にアジア首位を譲った。

しかし、通常数年間の準備を要するという年次総会開催を、1年半足らずで、警備面も含めて成功させれば、日本の底力を見せることになる。それは、来年から本格化する国際的な東京五輪招致活動にもプラスになるはずだ。

毎日新聞 2012年10月08日

IMF東京会議 日本再評価の元年に

”夢の超特急”が初めて乗客を乗せて東京−大阪間を疾走し、オリンピックが東京にやってきた。それまでビジネスマンの出張に限られていた海外旅行が一般の観光客にも解禁され、先進国の集まりである経済協力開発機構(OECD)に加盟した。1964年は敗戦からの復興を果たした日本が世界に先進国の仲間入りをアピールした節目の年だった。

その年の9月、もう一つ、日本の成長ぶりを印象づけた大イベントが東京で開かれた。国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次総会である。「国際金融の祭典」と大いに盛りあがった。

100を超える国の財務相や中央銀行総裁をはじめ、銀行家や経済界の有力者が東京に結集した。池田勇人首相が歓迎会で来客の行列と握手するのに1時間20分要したことを、当時の毎日新聞は「さすがに”史上最大”」と誇らしげに報じている。

それから48年。再びIMF・世銀総会が東京で開かれる。9%を超える高度成長下にあった当時に対し、昨年度はゼロ成長だった日本。国内総生産(GDP)の規模で世界2位にのし上がった隣国ばかりに関心が集まりがちな昨今である。

しかし、というより、だからこそ、今の日本に世界の金融を動かす官民の要人が集まる意義は大きい。縮こまりがちな日本人が多様な外の見識と交わり、訪れる人々には日本の価値を再評価してもらう好機として、最大限に活用したい。

この会議はもともと東京ではなく、エジプトで開催の予定だった。IMFと世銀が本部のある米ワシントン以外で3年に1度開いている年次総会は、かつての日本のように、先進国への脱皮を果たそうという国で催されることが多い。それが、ムバラク政権の崩壊に伴う政情不安のため、急きょ変更となった。政府が「東日本大震災から復興する姿を世界中に見てもらう絶好の機会」(野田佳彦財務相=当時)と開催を決断したことは正しかった。

総会に先立ち、仙台では途上国の防災対策などを議論する会合も開かれる。日本の復興ぶりを見てもらうと同時に、失敗も含めて日本の減災・被災経験を他国の専門家とともに考え、対策にいかしてもらいたい。

だが、日本開催の意義は復興の進展を伝えることにとどまらない。

一連の会議や関連セミナーで大きなテーマとなるのが、世界経済の安定化だが、今、各国が直面している問題の中には、日本が先駆けて経験しているものが少なくない。

例えば、金融危機への対応だ。かつて日本は、銀行の不良債権処理や政府・日銀の政策で、「遅すぎる」「小出しだ」などと海外から厳しく批判された。それでも、資産バブル崩壊後の91年度から昨年度までの21年間を平均した実質経済成長率は0.9%のプラスだ。08年のリーマン・ショック前に限ると、マイナス成長の年度は3回のみ。米金融危機などのように世界の経済を道連れにすることも、大量の失業者を出すこともなかった。

同じような困難に直面して初めて、米欧では、かつての日本批判が公平ではなかったと修正する動きが出始めている。そうした中、日本が学んだことを他国と共有し、今の問題への対策をともに考えることは大きな貢献となろう。

デフレについても同様だが、日本が実態以上にマイナス評価されがちなのには理由がある。私たち自身が自信を失い、外に向かって良さを売り込むことを怠ってきたことだ。

たった1回の会議ではあるが、188カ国の財務相・中央銀行総裁に加え、金融界の有力者、メディア関係者など2万人以上が集まるということは、そうした内向きの傾向を変える一歩となりうる。政府関係者のみならず、大手金融機関から銀座の商店まで、懸命にアピールしようと知恵をしぼることの意味は小さくない。特に、金融危機で体力が落ちた欧米の銀行に比べて余裕のある邦銀は、アジアを中心にグローバルな展開を活発化できる立場にあるのだ。

企業やメディアのアジア拠点にせよ、国際会議の開催地にせよ、何かと中国に移り、日本の低落ぶりが指摘されて久しい。だが、その中国も高度成長に陰りが見え始め、労働争議の頻発や所得格差の拡大に対する不満の高まりなど、このところ負の側面も注目されるようになってきた。尖閣諸島問題にからみ、中国の大手国有銀行首脳が来日を見送ることが報じられ、国際社会の主要プレーヤーとしての資質を疑問視する見方も出ている。そんな時期に、日本が何を発信するかが問われる。

人口の減少や高齢化もあり、決して中国のような成長率は望めない日本だ。しかし、日本には日本にしかない力や潜在性がある。それを十分発揮するうえで、これまで敬遠しがちだったものを積極的に活用する時だ。多様な国外の人材や発想であり、資金である。

それを引き寄せるスタートの年としたい。日本も実はおもしろそうだ。アジアの中心にふさわしい国だ−−。そう思ってもらえる可能性は十分にあるのだ。

読売新聞 2012年10月11日

尖閣国有1か月 長期化する対日圧力に備えよ

尖閣諸島の国有化から1か月経過した。中国の対日圧力は弱まる気配がない。政府は対立の長期化を前提に、体制を整えるべきである。

中国は、東京で12日に開幕する国際通貨基金(IMF)・世界銀行総会への財務相と中国人民銀行総裁の出席を見送った。尖閣問題で日本への抗議の意思をアピールするのが狙いだろう。

世界2位の経済大国が、グローバルな経済問題を協議する場を軽視するかのように振る舞う。国際社会の理解は得られまい。

一時拡大した反日デモに続き、中国政府は日本製品の不買運動も容認した。トヨタ自動車など日系自動車メーカーの9月の販売台数は大幅に減った。日本企業のビジネスに悪影響が広がっている。

観光客の訪日中止などで航空会社や観光業への打撃も大きい。

中国による有形無形の圧力を受け、日本の経済界は、政府に事態の早期打開を求めている。玄葉外相も対中外交に関して、「譲れないものは譲れないが、何が可能か模索したい」と述べた。

ただし、拙速は禁物だ。

安易に妥協すれば、尖閣諸島に関する日本の主権そのものが危うくなりかねない。

中国は長年、領土・海洋権益の拡大を国策としてきた。当面の目標は、日本が領有権問題を認め、領土を巡る交渉に応じることである。日本の譲歩を引き出すまで、執拗(しつよう)に、様々な圧力をかけてくるだろう。

だが、中国が一方的な圧力外交を続けることで失う国際的な信用も大きいはずだ。

政府は、赴任前に死去した西宮伸一中国大使の後任に木寺昌人官房副長官補を内定している。大使交代を契機に、日中双方の接点を慎重に探ってもらいたい。

尖閣諸島近海で、中国は監視船による示威行動を続けている。

ただ、緊張感をエスカレートさせる行為は控えている。米国が先月、西太平洋に二つの空母部隊を派遣したり、グアムでの米海兵隊と陸上自衛隊の上陸訓練を公開したりするなど、中国軍をけん制したことと無縁ではあるまい。

日米同盟が中国の挑発を抑止していることは明らかである。

海上保安庁は、全国の巡視船艇をやり繰りして尖閣周辺海域に派遣し、24時間態勢の警戒監視活動を余儀なくされている。

こうした態勢を長期間堅持する必要がある以上、政府は、要員の確保などに万全の策を講じなければならない。

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