原子力政策の迷走に拍車をかけないか。危惧を抱かざるを得ない。
内閣府原子力委員会が原子力利用の基本方針である「原子力政策大綱」の改定を中止した。
原子力政策については今後、首相や関係閣僚で構成する「エネルギー・環境会議」を中心に決めることになったため、という。
原子力発電の専門家や関係者は脇に追いやられた形だ。政策決定にあたり、実のある議論ができるのか、大いに疑問である。
専門家らで構成される原子力委は1956年、原子力基本法に基づき設置された。
初期には、原子力エネルギー導入を主導し、ほぼ5年ごとに、原子力の基本政策を見直してきた。近年は政府の原発輸出方針を受け、国際協力も担ってきた。
エネ環会議は、原子力委の廃止も視野に入れている。だが、エネ環会議は「脱原発」を掲げた菅前首相が昨年設置した組織だ。その位置付けに法的な根拠がない。
そもそも、日本のエネルギー政策を混乱させているのが、このエネ環会議である。
9月に「2030年代までに原発ゼロ」を柱とする「革新的エネルギー・環境戦略」をまとめたが、電力を安定供給するための具体策を欠いている。
「原発ゼロ」を掲げながら、原発の建設続行を容認した。原発の使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクル政策も進めるという。矛盾以外の何ものでもない。経済産業省のエネルギー基本計画作りも止まっている。
加えて、大綱の改定が中止されたことで、原子力政策の空白が生じよう。原子力委の近藤駿介委員長も、「正直言って、政策を積み上げるプロセスの先行きが見えない」と述べている。
迷走が続けば、各地の原発の再稼働や、その後の原発の運転も見通せなくなる。原発立地自治体の地域経済や雇用などに、甚大な悪影響を与えかねない。
各地で不信や不安が増すと、原子力政策への協力が得られなくなる恐れがある。
非核兵器保有国である日本は、原子力利用について国際的な説明責任を常に求められている。矛盾を抱えた政策が、どこまで世界に信頼されるのだろうか。
原子力政策では、核燃料の確保から使用済み核燃料の最終処分まで、100年単位の長期的な戦略が欠かせない。専門家の知見を生かして、確固たる政策を築くことが何より重要である。
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