原子力委員会 推進組織は役割終えた

毎日新聞 2012年10月03日

原子力委員会 推進組織は役割終えた

内閣府原子力委員会が、国の原子力政策の基本方針となる新たな「原子力政策大綱」の策定を中止した。政府が9月にまとめ、原発ゼロ目標を打ち出した「革新的エネルギー・環境戦略」の中で、原子力政策は関係閣僚で作るエネルギー・環境会議の場を中心に決めることになったからだ。原子力委は設置から50年以上にわたり原子力推進体制の中心となってきたが、政府が脱原発依存を掲げる中で、その役割を終えたと言えるだろう。

原子力を、エネルギー政策全体の中でどう位置づけるかを検討する上でも、原子力の推進に特化した機関を存続させておくこと自体がおかしい。エネ環戦略は、廃止・改編も含めて原子力委のあり方を根本的に見直すことも打ち出したが、速やかに廃止するのが筋だ。

原子力委は1956年、原子力基本法に基づき「原子力の研究、開発及び利用に関する国の施策を計画的に遂行」するための機関として設置された。当初はノーベル物理学賞受賞者の湯川秀樹博士らも委員を務めた。省庁再編で内閣府に移管される01年まで、科学技術庁長官が委員長を兼務した。まさに原子力政策の司令塔的存在だった。

一方で、今年に入り、いわゆる原子力ムラの「談合」の場になっていたことが発覚した。

大綱は今後10年程度の原子力政策の基本方針を定めており、約5年ごとに改定、閣議決定されてきた。05年策定の現大綱は原発比率を30~40%以上とし、使用済み核燃料の全量再処理路線の継続を盛り込んでいる。原子力委は有識者を集めた策定会議で10年12月から大綱の改定作業を始めたが、東京電力福島第1原発事故で一時中断。昨年9月に再開したが、今度は、核燃料サイクル政策を議論する原子力委小委員会が原発推進側だけを集めた「勉強会」を開いていたことが明らかとなり、審議は再び中断したままだった。

原子力委は委員長以下5人の委員で構成され、任期はいずれも今年末までだ。それまでは、高レベル放射性廃棄物の処分や原子力の人材育成などについて提言を続ける方針というが、どれだけ国民の信頼を得られるか疑問だ。

原子力委を廃止する場合、委員会の根拠法ともなっている原子力基本法の見直しも検討課題となるだろう。

「原子力の憲法」とも呼ばれる基本法は、原子力の推進によって将来のエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興、国民生活の水準向上に寄与することを目的にうたっている。脱原発依存とは明らかに食い違いがある。整合性をどう取るのか、政府の覚悟が問われよう。

読売新聞 2012年10月04日

原子力大綱中止 政策迷走に拍車をかけないか

原子力政策の迷走に拍車をかけないか。危惧を抱かざるを得ない。

内閣府原子力委員会が原子力利用の基本方針である「原子力政策大綱」の改定を中止した。

原子力政策については今後、首相や関係閣僚で構成する「エネルギー・環境会議」を中心に決めることになったため、という。

原子力発電の専門家や関係者は脇に追いやられた形だ。政策決定にあたり、実のある議論ができるのか、大いに疑問である。

専門家らで構成される原子力委は1956年、原子力基本法に基づき設置された。

初期には、原子力エネルギー導入を主導し、ほぼ5年ごとに、原子力の基本政策を見直してきた。近年は政府の原発輸出方針を受け、国際協力も担ってきた。

エネ環会議は、原子力委の廃止も視野に入れている。だが、エネ環会議は「脱原発」を掲げた菅前首相が昨年設置した組織だ。その位置付けに法的な根拠がない。

そもそも、日本のエネルギー政策を混乱させているのが、このエネ環会議である。

9月に「2030年代までに原発ゼロ」を柱とする「革新的エネルギー・環境戦略」をまとめたが、電力を安定供給するための具体策を欠いている。

「原発ゼロ」を掲げながら、原発の建設続行を容認した。原発の使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクル政策も進めるという。矛盾以外の何ものでもない。経済産業省のエネルギー基本計画作りも止まっている。

加えて、大綱の改定が中止されたことで、原子力政策の空白が生じよう。原子力委の近藤駿介委員長も、「正直言って、政策を積み上げるプロセスの先行きが見えない」と述べている。

迷走が続けば、各地の原発の再稼働や、その後の原発の運転も見通せなくなる。原発立地自治体の地域経済や雇用などに、甚大な悪影響を与えかねない。

各地で不信や不安が増すと、原子力政策への協力が得られなくなる恐れがある。

非核兵器保有国である日本は、原子力利用について国際的な説明責任を常に求められている。矛盾を抱えた政策が、どこまで世界に信頼されるのだろうか。

原子力政策では、核燃料の確保から使用済み核燃料の最終処分まで、100年単位の長期的な戦略が欠かせない。専門家の知見を生かして、確固たる政策を築くことが何より重要である。

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