新日鉄住金誕生 製造業復活へのモデルだ

毎日新聞 2012年10月04日

新日鉄住金発足 世界で勝ち残る先例に

新日本製鉄と住友金属工業が合併し、「新日鉄住金」が発足した。粗鋼生産量では世界2位だが、世界市場での実態は価格競争力に勝る中国、韓国勢を追い上げる立場といえるだろう。勝ち残るには技術力に加え、規模の優位を生かしてコスト競争力も高めなければならない。

日本の製造業は世界市場で苦戦が続く。反転攻勢の第一歩になるよう大型合併の効果を発揮してほしい。

2位とはいえ世界シェアは首位のアルセロール・ミタル(ルクセンブルク)の半分程度に過ぎず、3位以下の中国、韓国勢との差はわずかしかない。世界の鉄鋼需要は、新興国の需要増により現在の約15億トンから2020年には20億トンにまで拡大する見通しだ。新日鉄住金が勝ち残るには、そうした新興国の需要を取り込むことが条件になる。

ところが、超円高もあって、価格競争力では中国、韓国勢にかなわない。日本の鉄鋼メーカーは品質の高さで価格面の劣勢をしのいできたが、新興国ではそれも通用しなくなってきた。

例えば、自動車用鋼板は軽くて強度もある日本製の高級鋼板が優位に立っていた。しかし、日産自動車がタイの現地生産用に韓国メーカー製を採用するなど、品質だけでは勝てなくなってきた。世界市場では、「価格か品質か」の二者択一ではなく、地域のニーズに合わせた「価格と品質のバランス」が厳しく求められているわけだ。

新会社は、合併により国際特許件数や研究開発資金で海外勢に大きく水をあけた。それを生かし、世界市場で要求される多様な価格と品質に対応できる技術力を磨いてほしい。

新日鉄と住金は合併前、生産体制の効率化など合併による相乗効果を3年後に年間1500億円規模にするとしていた。一方で、中国勢の過剰生産のあおりで国際市況が悪化したため、4~9月期は合計約2800億円の最終赤字になるという。

こうした厳しい経営環境を踏まえ、新会社は効率化を急ぐとともに、相乗効果をもう一段上積みする取り組みが必要になるだろう。

新日鉄住金は国内では、2位のJFEスチールの1.5倍以上の生産規模になり、圧倒的なシェアを握る。それでも公正取引委員会が、合併にゴーサインを出したのは、審査対象の市場を世界規模に広げたからだ。いわば、世界市場での競争を公取が後押しした格好だ。

電機、自動車、化学など日本の主要な製造業は、世界市場で軒並み劣勢に立たされている。大型合併による競争力強化も必要になるはずだ。新日鉄住金が、世界で勝ち残る先例になることを期待したい。

産経新聞 2012年10月04日

新日鉄住金誕生 製造業復活へのモデルだ

新日本製鉄と住友金属工業が合併した新日鉄住金が誕生した。粗鋼の生産量で国内1位と3位の合併によって、ルクセンブルクのアルセロール・ミタルに次ぐ世界2位に浮上する。

テレビなど家電にみられるように韓国、中国、台湾勢に押されて、日本の製造業は追い込まれている。鉄鋼でも粗鋼生産での中国の存在感は増すばかりだ。

こうした中で新日鉄と住金は、それぞれ一定の独立性を維持する持ち株会社方式でなく一体化する合併を選んだ。単に生産量を競うだけでなく、品質や技術力も含めた総合力で世界の頂点をめざす意志の表れとして期待したい。

もっとも、合併が発表された昨年2月と比べ、新会社を取り巻く環境は急速に悪化した。

欧州債務危機の影響で中国経済の減速が鮮明になり、インド、ブラジルなど新興国も足取りに不安が出ている。歴史的な円高も重い足かせだ。さらに昨年3月の東日本大震災と東京電力福島第1原発事故後の電力不足と電気料金引き上げという事態も加わった。

世界景気が低迷し、需要が減れば、価格競争に拍車がかかる。高付加価値製品も例外ではなく、新日鉄住金にとってコスト削減は重みを増す。国内高炉や製鉄所の統廃合も検討課題になろう。

ただ、新日鉄住金に求められるのは収益面で海外勢と対抗する力を備えることだけではない。

近年、日本勢は高い技術力を持ちながら、安い人件費や自国通貨安を武器に低価格攻勢をかける海外のライバルとの消耗戦を強いられた。生産拠点の統廃合や人員削減を進めているうちに体力を奪われ、肝心の技術面でも接近され、追い抜かれた例が多い。

新日鉄住金のような業界上位同士の合併は、規模拡大による生産コストの低減、原材料購入での価格交渉力強化などが見込まれる。何よりも巨額の研究開発費を維持し、トップを走る技術、品質の維持、さらなる向上も可能だ。

公正取引委員会が今回の合併審査で、以前のような国内市場でなく世界市場での占有率に着目して認可したのも、グローバル競争の観点を重視したからだ。

コスト削減に目を奪われて、合併本来のメリットを失ってはならない。逆風を克服し、再編による製造業復活のモデルケースになることをめざしてほしい。

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