シャープ再建策 「液晶の雄」挫折は重い教訓だ

朝日新聞 2012年10月03日

シャープの教訓 技術力だけでは勝てぬ

「世界の亀山モデル」をうたう液晶テレビで一世を風靡(ふうび)したシャープが、業績の急激な悪化に苦しんでいる。

リストラを条件に銀行団が追加融資を決め、当面の資金繰りは一息ついたが、自己資本の不足や不採算事業の整理など構造問題は残ったままだ。

再建のカギを握る台湾の鴻海(ホンハイ)グループからの出資受け入れ問題は膠着(こうちゃく)状態にあり、危機の出口は見えていない。

家電業界はどこも苦しい。戦略の柱だったテレビが経営の足を引っ張る構図も共通する。

シャープの転落ぶりには、同社固有の事情だけでなく、日本の電機産業が抱える問題も見て取れる。

シャープ危機の原因が、液晶テレビに経営資源を集中しすぎたことにあるのは明らかだ。

韓国勢とのコスト競争に勝つため、大阪・堺市の新鋭工場に約4200億円もつぎ込んだものの、リーマン・ショックに見舞われ、地デジ移行に伴う需要もはげ落ちた。堺工場の操業を維持しようと在庫を積み上げ、その反動が巨額の赤字となって噴きだした。

経営の「選択と集中」が求められる中、液晶テレビに絞り込んだシャープは、その「一本足打法」がもろさにつながった。

一方で「選択と集中」が不徹底だったという見方もある。完成品のテレビか、液晶パネルという部品か、どちらで生きるか選択せず、いいとこ取りを狙った結果、両方の市場で優位に立てなかったというのだ。

シャープに限らず、技術力や商品力に自信を持つ企業は往々にして販売が弱い。

スマートフォンに代表されるように、世界市場を舞台とした競争になると、技術力とともに生産や販売の力がなければ勝てない。「選択と集中」を進めるなら、なおさらである。

シャープが開発した省電力の液晶パネルは象徴的な例だ。米アップルのタブレット端末向けに売り込んだが、世界販売に必要な量を供給できないことなどから、思うように進んでいない。オンリーワンの技術も量産と販売の条件が整わないと、ロンリーになりかねない。

今後の命運は鴻海との交渉に左右される。合意にたどり着くまでには、なお曲折があるかもしれない。

ただ、販路を広げ、ガラパゴス化した日本的経営を変革するには、東アジアの有力企業同士が国境を越えて融合するのも時代の流れだろう。日本企業の再生と強化を考えるには、視野を大きく持ちたい。

読売新聞 2012年09月30日

シャープ再建策 「液晶の雄」挫折は重い教訓だ

最先端技術やブランド力があっても、事業の選択と集中を誤ると行き詰まる。「液晶の雄」の挫折は、日本の産業界に警鐘を鳴らしている。

経営危機に陥ったシャープが、1万人超の人員削減や海外のテレビ工場売却などを柱にした再建策をまとめた。これを評価した主力取引銀行が総額3600億円の巨額融資を決めた。

懸念されたシャープの資金繰りにひとまずメドがつき、危機克服に前進したと言える。

シャープは、三重県の亀山工場で製造する液晶テレビが「亀山モデル」と呼ばれて人気を集め、数年前まで業績は絶好調だった。

ところが、超円高やウォン安が続く中、競争力をつけた韓国企業などに主力の液晶パネルやテレビで市場を奪われ、パネルなどの価格急落も打撃となった。

約3年前、大型液晶パネルを製造する最新鋭の大阪・堺工場を巨費で建設したが、販売が伸びずに業績悪化に拍車をかけた。

2012年3月期連結決算で過去最大の赤字を計上し、今期も大幅赤字が見込まれる。

亀山での成功が過信につながり、戦略を誤ったのだろう。

創業100年を迎えた老舗企業ですら、抜本的な事業再構築を迫られる厳しい現実だ。

まず、成長が期待できるスマートフォン(高機能携帯電話)向けの中小型液晶や、白物家電、複写機といった得意分野の強化を急がねばならない。新興国市場の攻略も収益確保のカギを握る。

先行きは楽観できない。経営刷新のスピードが問われる。

焦点は、台湾の受託製造大手、鴻海(ホンハイ)精密工業との提携交渉の行方だ。鴻海は3月、シャープに10%弱出資することでいったん合意したが、シャープ株価の急落に伴う再交渉が難航している。

シャープにとっては、鴻海との提携で財務基盤をさらに強化し、中小型液晶などの世界販売を増やす方策が不可欠だ。早期合意を目指してもらいたい。ただ、最先端技術の流出には要警戒である。

電機業界など日本の製造業は、超円高と激しい国際競争に直面している。シャープを教訓とし、市場の変化を先取りした戦略商品の開発や、成長市場の開拓で競争力を強化せねばならない。

産業を支える政府の役割も重要だ。超円高を阻止し、原子力発電所の再稼働で電力の安定供給を図るとともに、環太平洋経済連携協定(TPP)への早期参加など積極的な通商政策が求められる。

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