最先端技術やブランド力があっても、事業の選択と集中を誤ると行き詰まる。「液晶の雄」の挫折は、日本の産業界に警鐘を鳴らしている。
経営危機に陥ったシャープが、1万人超の人員削減や海外のテレビ工場売却などを柱にした再建策をまとめた。これを評価した主力取引銀行が総額3600億円の巨額融資を決めた。
懸念されたシャープの資金繰りにひとまずメドがつき、危機克服に前進したと言える。
シャープは、三重県の亀山工場で製造する液晶テレビが「亀山モデル」と呼ばれて人気を集め、数年前まで業績は絶好調だった。
ところが、超円高やウォン安が続く中、競争力をつけた韓国企業などに主力の液晶パネルやテレビで市場を奪われ、パネルなどの価格急落も打撃となった。
約3年前、大型液晶パネルを製造する最新鋭の大阪・堺工場を巨費で建設したが、販売が伸びずに業績悪化に拍車をかけた。
2012年3月期連結決算で過去最大の赤字を計上し、今期も大幅赤字が見込まれる。
亀山での成功が過信につながり、戦略を誤ったのだろう。
創業100年を迎えた老舗企業ですら、抜本的な事業再構築を迫られる厳しい現実だ。
まず、成長が期待できるスマートフォン(高機能携帯電話)向けの中小型液晶や、白物家電、複写機といった得意分野の強化を急がねばならない。新興国市場の攻略も収益確保のカギを握る。
先行きは楽観できない。経営刷新のスピードが問われる。
焦点は、台湾の受託製造大手、鴻海精密工業との提携交渉の行方だ。鴻海は3月、シャープに10%弱出資することでいったん合意したが、シャープ株価の急落に伴う再交渉が難航している。
シャープにとっては、鴻海との提携で財務基盤をさらに強化し、中小型液晶などの世界販売を増やす方策が不可欠だ。早期合意を目指してもらいたい。ただ、最先端技術の流出には要警戒である。
電機業界など日本の製造業は、超円高と激しい国際競争に直面している。シャープを教訓とし、市場の変化を先取りした戦略商品の開発や、成長市場の開拓で競争力を強化せねばならない。
産業を支える政府の役割も重要だ。超円高を阻止し、原子力発電所の再稼働で電力の安定供給を図るとともに、環太平洋経済連携協定(TPP)への早期参加など積極的な通商政策が求められる。
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