オスプレイ配備 沖縄の不信に向き合え

朝日新聞 2012年10月02日

オスプレイ配備 沖縄の怒りを侮るな

米軍の新型輸送機オスプレイの第1陣が沖縄県の普天間飛行場に着陸し、本格運用に向けた準備が始まった。

野田首相は、「安全性は十分確認できた」との談話を出したが、沖縄県民は不安と反発を強めている。

政府と地元との認識の差はあまりに大きい。これを侮ることは、県民生活や日米同盟の将来を考えても、危険である。

普天間飛行場の主な三つのゲートでは、先週から市民団体の抗議行動が続いている。基地機能をまひさせようと、住民たちは車をバリケード代わりにゲートを封鎖し、県警が強制排除する事態になっている。

ゲート前の抗議集会に連日、翁長雄志(おながたけし)那覇市長ら市町村長たちが、党派を超えて駆けつけている。きのうは仲井真弘多(なかいまひろかず)知事も飛行場わきの宜野湾市役所の屋上から、オスプレイの飛来を見守った。

「県民の不安が払拭(ふっしょく)されないまま強行する手法は、どう考えてもおかしい。自分の頭に落ちてくる可能性があるものを、だれがわかりましたと言えますか」と知事は憤る。

政府はオスプレイの運用にあたり、可能な限り人口密集地の上を飛ばないようにすることなどで米側と合意した。

だが、沖縄県民はこれまでの米軍の飛行や事故の経験から、それは守られない約束であることを痛いほど知っている。

沖縄県民が怒るのは、新型機の安全性の問題だけからではない。米軍基地を沖縄に押し込める構造。それがいつまでたっても改まらない。これらを差別的だと感じていた不満が、一気に噴き出したのだ。

だからこそ、先月の県民大会には、お年寄りから子供まで、組織されない人たちもふくめて数万人もが集まった。参加者の広がりや、抗議にこめられた思いの強さは、これまでとは明らかに質が異なる。

野田首相はきのうの記者会見で、「普天間飛行場の一日も早い移設・返還をはじめ、沖縄の負担軽減や振興にいっそう力を入れていく」と述べた。

首相がこれらを実行するのは当然だが、名護市辺野古への移設を進めようというのなら、見当違いだ。

政府内には、いずれ仲井真知事が辺野古移設を決断してくれるとの期待がある。だが、それは甘いというほかない。

いまや辺野古があり得ないことは、県民の総意に近い。そこを見誤っては普天間返還は遠のくばかりだ。首相は沖縄の現実を直視しなければならない。

毎日新聞 2012年10月06日

視点・本土と沖縄 内なる歴史問題=小松浩

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に移動した海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが、地域住民の不安をよそに訓練飛行を続けている。

配備されてしまえば反発はいずれ収まると政府はタカをくくっているかもしれないが、逆ではないか。配備反対の声を無視された沖縄では日本という国そのものへの不信が広がりつつある。その怒りの意味を認識しなければ、本土と沖縄の溝はこの先もっと深まるだろう。

ついに配備が始まりそうだという先月末、地元紙・琉球新報の社説は「沖縄は植民地ではない」と見出しに掲げた。沖縄では「配備の日程を変えず強行したのは沖縄に無力感や諦念を与える狙いがある。植民地統治の基本みたいなものではないか」との見方もあるという。

同じころ、那覇市で開かれたマスコミ倫理懇談会全国協議会の全国大会で講演した87歳の大田昌秀元沖縄県知事は「あの戦争で沖縄は本土を守るための捨て石にされた。沖縄は他人の目的を達成する道具だった。モノ扱いがこれ以上続くなら独立論も出てくる」と訴えた。

かつて独立王国だった琉球を強制廃止し近代日本に編入した明治の琉球処分、10万人近い民間人死者を出した太平洋戦争末期の地上戦、沖縄を本土から切り離した戦後のサンフランシスコ体制、米軍基地を集中させる結果になった72年の本土復帰。誇りを傷つけられ、多くの血の犠牲を払いながらも、本土の安全のため負担を引き受けてきた歴史のうずきが今、沖縄の人々の心を揺さぶっている。

本土に住む私たちは植民地や独立という言葉に驚く。ただ、そこまで強く言わなければ本土にはわからない、との思いがあるのだろう。鳩山由紀夫元首相の「普天間県外・国外移設」発言と挫折で噴き出した沖縄のアイデンティティーの主張は、もはや不可逆的な流れだ。

問われているのはオスプレイ配備の是非ではなく、沖縄の歴史と現実にどう向き合うかということである。日本と中国、韓国の間には歴史認識問題があるが、本土側の琉球・沖縄史への理解もまだまだ足りない。沖縄の重い負担を減らすためにも、この「内なる歴史問題」をなくしていくことが必要だ。

オスプレイは抑止力を向上させ日米同盟を強化する、という論がある。軍事的にはそうだろう。だが同盟を本当に強くするのは普通の人々が相手に抱く信頼感、つまり草の根の同盟意識である。強引なオスプレイ配備はそれを損ない、同盟をむしろ弱体化させはしないか。(論説副委員長)

産経新聞 2012年10月03日

オスプレイ配備 尖閣からめて説得進めよ

米軍新型輸送機MV22オスプレイの第1陣12機の沖縄県・普天間飛行場への配備が始まった。

野田佳彦首相は「米海兵隊の能力の中核を担う優れた装備で、わが国の安全保障に大きな意味を持つ」と述べた。先月の安全宣言などを踏まえ、日米が同盟の抑止力を飛躍的に高めるオスプレイの本格運用へ向けて踏み出したことを評価したい。

地元の反対が続いているが、尖閣諸島奪取を狙う中国の攻勢を防ぐためにも早期運用が不可欠であることは言をまたない。安全性を確保しつつ、首相や森本敏防衛相らが先頭に立って地元説得に全力を投じてもらいたい。

オスプレイは、老朽化が進む現行のCH46ヘリと比べ速度、積載量、行動半径が2~4倍になる画期的な輸送機だ。とりわけ行動半径が600キロに広がり、尖閣有事に普天間からノンストップで即応できるなど、中国の海洋進出や北朝鮮を牽制(けんせい)・抑止する能力が格段に強化される点は大きい。

日本の安保環境が悪化する中で離島防衛のカギを握る輸送力、展開力、速度のどれをみても日米に必須といえ、こうした軍事・戦略上の意義を認識しておきたい。

問題は、国内や地元の反対論には「オスプレイ=危険」のレッテルを貼り、尖閣を含む沖縄や日本全体の平和と国民の安全を守る必要性には耳を貸そうとしない姿勢がみられることだ。

米軍は月内に本格運用に入り、2014年までに計24機を配備する方針だが、仲井真弘多知事らは遺憾の意を表明、住民らが抗議集会を開いた。その背景には、民主党政権下で迷走を重ねた普天間移設問題も響いている。

だが、普天間が現状で固定化される懸念も併せて考えるなら、唯一最良の解決策は日米合意に沿って普天間を速やかに名護市辺野古へ移設する以外にはない。

日米両政府はオスプレイの飛行訓練に日本の航空法を適用、市街地の安全や騒音にも配慮することで合意した。地元負担軽減のために訓練の一部の本土移転も協議中だ。こうした対策を積み重ねて地元の信頼を回復し、普天間移設へつなげる誠意と努力が大切だ。

首相が「普天間の一日も早い移設や沖縄振興に一層力を入れて取り組む」と語ったのは重い。日本の平和と安全のために、言葉だけでなく行動で示してほしい。

毎日新聞 2012年10月02日

オスプレイ配備 沖縄の不信に向き合え

米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが、一時駐機していた米軍岩国基地(山口県岩国市)から沖縄の米軍普天間飛行場に移動を開始した。1日の6機に続いて残り6機も近く普天間に移動し、今月中に配備(本格運用)が完了する。

安全性などについて沖縄の理解が得られないまま、抗議を無視しての強行配備は、極めて残念である。

野田佳彦首相はこの日発表したメッセージの中で、「同機の安全性は十分確認できた」と述べた。しかし、政府の繰り返しの安全宣言にもかかわらず、沖縄では不安と不信の声が収まりそうにない。政府は、その理由を改めてかみしめるべきだ。

第一は、市街地にある普天間飛行場への配備に対する不安である。周りには住宅や公共施設が密集し、オスプレイはこの上空を飛行する。今年になって2回の墜落事故を起こしたオスプレイが頭上を飛ぶことに、周辺住民が強い不安を抱くのは当然だろう。普天間への移動を確認した仲井真弘多沖縄県知事は、「県民の不安が払拭(ふっしょく)されない中で(移動を)強行するのは、理解を超えた話だ」と政府を批判した。

首相はメッセージで、普天間の「一日も早い移設・返還」を強調した。しかし、沖縄は普天間の県外移設を求めており、名護市辺野古への「県内移設」計画を進める政府とは大きな隔たりがある。政府内には、沖縄が辺野古移設を受け入れなければ普天間は固定化せざるを得ない、との声もある。県内移設か、オスプレイの市街地飛行か−−。この二者択一を迫る政府の姿勢は、沖縄が不信を募らせる要因となっている。

第二は、米軍基地の過重な負担に対する沖縄の強い不満である。沖縄に基地が集中する現状は「差別」と受け取られ、この感情は県内の保守層にも広がっている。オスプレイの安全性に対する住民の懸念を無視した配備強行は、この感情を逆なですることとなった。

首相メッセージは、「オスプレイの本土への訓練移転」など「全国でもその負担を分かち合っていく」と述べた。その通りだ。オスプレイに限らず、本土が沖縄の基地負担を引き受け、大幅な負担軽減を実現することなしには、積み重なった不信を解消することはできないだろう。本土の説得は政府の役割である。これに本腰を入れて取り組んでもらいたい。

オスプレイの配備強行で政府と沖縄の関係がさらに悪化することを懸念する。政府は普天間の辺野古移設に向け、知事への埋め立て申請などの準備を進めている。しかし、その前にやるべきことがある。沖縄の不信に正面から向き合い、それを取り除くために全力をあげることだ。

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