内閣改造 解散の覚悟が伝わらぬ

朝日新聞 2012年10月02日

内閣改造 一体、何がしたいのか

野田首相がきのう、内閣改造に踏み切った。

政権発足からほぼ1年で、3度目の改造である。猫の目のようにクルクルと閣僚が代わるめまぐるしさは、政権弱体化の表れにほかならない。

事実、前回、前々回は、閣僚の問責決議で追い詰められた末の改造だった。今回は、野田首相が民主党代表選で再選されたのを受けた態勢づくりだ。

首相は改造のねらいについて「政府・与党が一体となり、チーム力を最大限発揮していく」ためだと説明した。

では、首相はそのチーム力を使って何をしたいのか。新閣僚の顔ぶれを見ても、それがちっとも見えてこない。

全体の半数を超える10人の閣僚を代えた。社会保障と税の一体改革や外交など喫緊の案件を抱えた閣僚と、6月改造で代わったばかりの人を除けば「総取りかえ」だ。

8人の初入閣組には、国民の生活が第一の小沢一郎代表に近かった議員もいれば、党役員人事で外れた人もいる。

民主党では離党者が後を絶たず、もう少しで衆院で単独過半数を割り込む。そうなれば内閣不信任決議案の可決も、現実味を帯びてくる。そんな事態を避けるため、多くの議員にポストを割り振ろうとしたのかもしれない。

だが、それで党がまとまるか大いに疑問だ。なにより、これまで所管分野と縁が薄かった「素人閣僚」が目につき、適材適所とはいいがたい。

サプライズは田中真紀子文部科学相だ。遠からずある総選挙に向けて「選挙の顔」を期待しての起用なのだろう。

ただ、小泉内閣の外相当時、外務官僚と対立の末に更迭された経緯を忘れるわけにはいかない。今度こそ、教育行政など職務に集中してほしい。

民主党政権の一枚看板は「政治主導」だったはずだ。ところが、この3年で首相は3人、改造は計5回にのぼる。衆参がねじれ、難しい政権運営を強いられているという事情があるにせよ、これでは閣僚は落ち着いて仕事ができない。

そもそも政治主導以前に、任に堪えない人材も多すぎた。

それでも、赤字国債発行法案の処理や、最高裁から違憲状態と指摘されている衆院の「一票の格差」の是正など懸案が待ち構えている。改造内閣は、まずは全力でそれらに取り組まねばならない。

やはり粗製乱造だったかとあざけりを受けぬよう、閣僚は気を引き締めてほしい。

毎日新聞 2012年10月02日

内閣改造 解散の覚悟が伝わらぬ

この布陣で衆院解散・総選挙に打って出ようというのか。それとも新たな政策目標を掲げて政権浮揚を図ろうとしているのか。いずれのメッセージも伝わらない内向きの人事である。1日発足した野田第3次改造内閣の顔ぶれを見ると、そう酷評せざるを得ない。

野田佳彦首相は今回の内閣改造の目的を「政府・与党の連携と内閣機能の強化」と説明した。だが、民主党は離党者が相次ぎ、衆院でも過半数ぎりぎりに追い込まれている。そこでともかく党内の結束に四苦八苦しているのが実情だ。

象徴的なのは田中真紀子氏の文部科学相起用だ。田中氏はかつて小泉内閣の外相時代、外務省側と激しく対立し、大きな混乱を招いて更迭された。にもかかわらず起用したのは知名度の高さや日中関係が悪化する中で田中氏が中国とのパイプを残していることに期待した面もあろう。

だが、それより大きかったのは、田中氏が、これまで近いとされていた小沢一郎・国民の生活が第一代表と行動をともにせず、先の民主党代表選でも首相の再選支持に回った点ではないか。その論功行賞の意味や、離党予備軍の行動を抑える狙いの方が大きかったはずだ。以前は小沢氏の側近で、その後決別した中塚一宏氏を金融担当相に起用したのも同じ意図と思われる。

解散を先送りし、離党者を防ぐという内向き姿勢は輿石東幹事長を続投させた時点で固まっていたといえばそれまでだ。ただし、新しい政策目標も見当たらず、政権維持だけが目的化したような守りの姿勢で乗り切れるとは到底思えない。

今後、注目されるのは安倍晋三・自民党総裁との党首会談だ。赤字国債を発行するための特例公債法案はいまだに成立していないが、安倍氏は衆院の早期解散を首相が確約する方が先だとの立場を崩していない。

一方、解散の前提というべき、衆院小選挙区の1票の格差是正のための立法措置に関して首相はなお、与野党でまとまりそうもない衆院の定数削減と同時に決着させる考えにこだわっている。双方が譲り合わないと、臨時国会を開いても再び不毛な与野党の我慢比べが続くだけだ。

改めて首相には1票の格差是正を切り離して優先させるべきだと注文しておく。何より解散を恐れていては政治は前に進まない。

同時に党首会談では、例えば特例公債法案のような国民生活に密接に関わる予算関連法案は、今後、どちらが与党、野党になっても政局の具とはせず、予算と同時に決着させることを互いに約束してはどうか。そんな新たな国会のルール作りに乗り出す時だ。

読売新聞 2012年10月02日

野田内閣改造 日本の再生を託し得る布陣か

◆「発信力」で田中文科相起用の愚◆

衆院選を控え、入閣を待望していた議員の処遇を図るとともに、これ以上の離党者を防ぎたいという「内向き」な姿勢の目立つ布陣である。

野田第3次改造内閣が、発足した。野田首相はその目的を「政府与党の連携を一層深め、内閣の機能を強化する」と述べた。

岡田副総理ら要の閣僚を留任させて、民主党の役職経験者を重要閣僚に配置するなど工夫は見られる。だが、果たして狙い通りになるのか、懸念を拭えない。

◆原発政策の立て直しを◆

今後の国家戦略や日本経済の再生を考えると、まず、疑問なのは原発・エネルギー政策を迷走させてきた枝野経済産業相を留任させたことである。

枝野氏は、政府が2030年代に原発の稼働ゼロを目指す「革新的エネルギー・環境戦略」を策定した際、中心的役割を担った。

枝野氏は、原発ゼロについて「やり方を間違わなければ、むしろ経済にプラスだ」と楽観的な見解も示している。

こうした言動は、脱原発がもたらす日本経済への打撃や、産業空洞化に伴う雇用喪失、原子力関連の技術者減少など、経済界が懸念を示す様々な課題について軽視しているように見える。

これでは電力の安定供給と産業振興に責任を負う経産相として、無責任のそしりを免れない。

再生可能エネルギーの技術革新を実現するには、経済界の幅広い協力が必要だ。

国家戦略・経済財政相に就任した前原誠司前政調会長も、これまで民主党のエネルギー・環境調査会をリードし、「原発ゼロ」の方針決定を後押ししてきた。

前原氏は、就任後の記者会見で「いかに国力を上げるかという国家戦略を推進し、企画立案する」と述べたが、「原発ゼロ」を推進する一方で、デフレ克服と成長促進をどう実現するのか。

中長期的なエネルギー基本計画の策定が大きな課題になる。

経済界が反発していることに加えて、日本と原子力協定を結ぶ米国も日本の原発政策に強い懸念を示している。関係を改善することが欠かせない。

外相経験もある前原氏の政策調整力が、改めて問われる。

◆党内不協和音収まらず◆

田中真紀子元外相の文部科学相起用は、およそ理解し難い。

田中氏は小泉内閣で外相に就いたが、外交の基本的認識さえ欠く始末だった。外務官僚との確執から常軌を逸した行動を繰り返し、外交を機能不全に陥らせた。

閣僚としての資質に乏しいことは明らかである。またもや暴走して国政を混乱させないか、大いに懸念される。首相は「発信力」を期待しているというが、仮にも選挙対策を考えたのなら、国民を愚弄する話ではないか。

新任閣僚の顔ぶれには代表選で首相再選を支持した議員への論功行賞、党内融和もうかがえる。

旧民社党系グループの田中慶秋副代表を法相に起用し、小沢一郎元代表に近かった三井辨雄氏を厚生労働相、中塚一宏氏を金融相に充てている。

代表選で争った陣営からの入閣はなかったが、副大臣、政務官人事で配慮するようだ。

だが、党内の不協和音が収まる気配はない。引き続き難しい党運営を迫られよう。

首相の強調する政府と与党との連携という観点では、財務相に城島光力前国会対策委員長を起用したことが象徴的だ。

野党とのパイプを生かして、赤字国債発行を可能にするための特例公債法案の成立や、社会保障と税の一体改革を着実に進めるというメッセージにはなる。

東京で来週開かれる国際通貨基金(IMF)・世界銀行総会で財務相としての能力が試される。

◆外交安保の継続は当然◆

玄葉外相、森本防衛相の留任は、日本を取り巻く厳しい国際情勢を考えれば当然である。

北方領土問題を巡るロシアとの交渉や、拉致問題で北朝鮮との協議の仕切り直しが始まったばかりだ。尖閣諸島、竹島問題で対立の続く日中・日韓関係を改善することも差し迫った課題だ。

米軍岩国基地に駐機していた新型輸送機オスプレイが1日、沖縄の米軍普天間飛行場に移動した。玄葉外相が、「日本、東アジアの安全保障にとって、海兵隊の中核となる装備なので不可欠だ」と指摘したのはもっともである。

対中・韓外交を立て直すためにも玄葉、森本両氏は、普天間飛行場の移設と日米同盟の一層の強化に全力を挙げねばならない。

産経新聞 2012年10月02日

野田改造内閣 これで国が救えるのか 田中文科相起用を憂慮する

野田佳彦首相は、第3次改造内閣で何をしたいのか。

「政府と民主党の連携、内閣の機能強化」と語り、決断する政治を進める「チーム力」を重視したと説明した。

確かに、岡田克也副総理の留任と前原誠司国家戦略担当相の入閣により、閣内に2人の党代表経験者を擁し、首相なりの強化策を講じたといえるだろう。

だが、国難を克服する布陣というよりも、党内融和を優先させ、さらなる党分裂回避に躍起となっている印象はぬぐえない。

≪党内融和ばかり目立つ≫

18人中10人の閣僚入れ替えで目立ったのは、離党した小沢一郎元代表に近かったものの行動を共にしなかった議員の抜擢(ばってき)や閣僚未経験のベテランの処遇などだ。そこにそうした姿勢がみてとれる。

中でも憂慮されるのは田中真紀子文部科学相の起用だ。首相が述べた「文部科学行政に通じている」などの説明は説得力に乏しいが、「持ち前の発信力を発揮してほしい」という狙いは本音だろう。

1年以内に行われる衆参両院の国政選挙をにらみ、民主党政権が大きく失った国民の支持を回復するアピール力に期待したのかもしれない。だが、田中氏の外交政策上の具体的言動が大きな混乱や悪影響をもたらした例は数多い。

小泉純一郎首相から外務省改革を期待されて外相に就任したが、事務当局との激しい軋轢(あつれき)で省内は混乱し、米要人との会談を直前にキャンセルして日米関係を毀損(きそん)した。金正日北朝鮮総書記の長男、金正男氏らが不法入国した際は、政治問題化を避けて身元を特定しないまま国外退去処分とした。

特定の歴史教科書について「事実をねじ曲げている」と発言し、その後、勉強不足を認めて修正したこともある。

先の民主党代表選で田中氏は一部議員の出馬要請を断り、首相支持に回った。首相が今回、それに応えたとの見方もある。

田中氏に特に注文しておきたいのは、文科省が所管する高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の今後の方針について、慎重に取り扱うことだ。

政府の新たなエネルギー戦略の中で、もんじゅでの研究は「年限を区切る」とされたが、廃炉を意味するなら核燃料サイクル計画の継続方針と矛盾する。平野博文前文科相は「廃炉ではない」と説明した。不用意に廃炉方針を打ち出し、米国や国際原子力機関(IAEA)から再び懸念を示される事態を招いてはならない。

城島光力(こうりき)財務相は国対委員長として自民、公明両党との折衝にあたってきた。留任した岡田副総理や、財務相から党に回った安住淳幹事長代行らとともに、社会保障・税一体改革をめぐる自民、公明両党との3党合意の堅持にあたるシフトといえる。

≪居座りは許されない≫

社会保障制度改革国民会議の立ち上げのほか、消費税の軽減税率など3党間で協議する課題に早急に取り組まねばならない。

日本経済を取り巻く環境は、デフレ長期化や中国経済の減速などで厳しさを増す一方だ。国の借金残高は今年度末に700兆円を突破する。消費税を増税しても通りいっぺんの歳出削減だけでは足りない。日銀との協調の強化をはじめ、強まる歳出圧力に抗する上で先頭に立つ決意が求められる。

参加表明が遅れる環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)では、城島氏と前原氏はこれまで前向きな発言もあった。野田政権でTPPの議論が停滞していたが、閣内の風を変えるよう期待したい。

尖閣諸島などをめぐる領土・主権の危機が拡大する中で、玄葉光一郎外相と森本敏防衛相を留任させ、継続的に事態にあたらせるのは妥当だろう。しかし、それだけでは不十分だ。

首相は国連総会で「国家として当然の責務」と、領土防衛への決意を述べたが、求められるのは具体策だ。自民党の安倍晋三総裁らが主張する尖閣の統治強化策を早急に構築する必要がある。

首相は近く自民、公明両党と3党首会談を行うが、「解散時期に触れることはない」と語った。

これでは特例公債法案の成立などにメドは立たない。首相は年内に解散を求める国民世論にも耳を傾け、決められない政治からの脱却を図ってほしい。居座りを決め込むことなど許されない。

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