◆「発信力」で田中文科相起用の愚◆
衆院選を控え、入閣を待望していた議員の処遇を図るとともに、これ以上の離党者を防ぎたいという「内向き」な姿勢の目立つ布陣である。
野田第3次改造内閣が、発足した。野田首相はその目的を「政府与党の連携を一層深め、内閣の機能を強化する」と述べた。
岡田副総理ら要の閣僚を留任させて、民主党の役職経験者を重要閣僚に配置するなど工夫は見られる。だが、果たして狙い通りになるのか、懸念を拭えない。
◆原発政策の立て直しを◆
今後の国家戦略や日本経済の再生を考えると、まず、疑問なのは原発・エネルギー政策を迷走させてきた枝野経済産業相を留任させたことである。
枝野氏は、政府が2030年代に原発の稼働ゼロを目指す「革新的エネルギー・環境戦略」を策定した際、中心的役割を担った。
枝野氏は、原発ゼロについて「やり方を間違わなければ、むしろ経済にプラスだ」と楽観的な見解も示している。
こうした言動は、脱原発がもたらす日本経済への打撃や、産業空洞化に伴う雇用喪失、原子力関連の技術者減少など、経済界が懸念を示す様々な課題について軽視しているように見える。
これでは電力の安定供給と産業振興に責任を負う経産相として、無責任のそしりを免れない。
再生可能エネルギーの技術革新を実現するには、経済界の幅広い協力が必要だ。
国家戦略・経済財政相に就任した前原誠司前政調会長も、これまで民主党のエネルギー・環境調査会をリードし、「原発ゼロ」の方針決定を後押ししてきた。
前原氏は、就任後の記者会見で「いかに国力を上げるかという国家戦略を推進し、企画立案する」と述べたが、「原発ゼロ」を推進する一方で、デフレ克服と成長促進をどう実現するのか。
中長期的なエネルギー基本計画の策定が大きな課題になる。
経済界が反発していることに加えて、日本と原子力協定を結ぶ米国も日本の原発政策に強い懸念を示している。関係を改善することが欠かせない。
外相経験もある前原氏の政策調整力が、改めて問われる。
◆党内不協和音収まらず◆
田中真紀子元外相の文部科学相起用は、およそ理解し難い。
田中氏は小泉内閣で外相に就いたが、外交の基本的認識さえ欠く始末だった。外務官僚との確執から常軌を逸した行動を繰り返し、外交を機能不全に陥らせた。
閣僚としての資質に乏しいことは明らかである。またもや暴走して国政を混乱させないか、大いに懸念される。首相は「発信力」を期待しているというが、仮にも選挙対策を考えたのなら、国民を愚弄する話ではないか。
新任閣僚の顔ぶれには代表選で首相再選を支持した議員への論功行賞、党内融和もうかがえる。
旧民社党系グループの田中慶秋副代表を法相に起用し、小沢一郎元代表に近かった三井辨雄氏を厚生労働相、中塚一宏氏を金融相に充てている。
代表選で争った陣営からの入閣はなかったが、副大臣、政務官人事で配慮するようだ。
だが、党内の不協和音が収まる気配はない。引き続き難しい党運営を迫られよう。
首相の強調する政府と与党との連携という観点では、財務相に城島光力前国会対策委員長を起用したことが象徴的だ。
野党とのパイプを生かして、赤字国債発行を可能にするための特例公債法案の成立や、社会保障と税の一体改革を着実に進めるというメッセージにはなる。
東京で来週開かれる国際通貨基金(IMF)・世界銀行総会で財務相としての能力が試される。
◆外交安保の継続は当然◆
玄葉外相、森本防衛相の留任は、日本を取り巻く厳しい国際情勢を考えれば当然である。
北方領土問題を巡るロシアとの交渉や、拉致問題で北朝鮮との協議の仕切り直しが始まったばかりだ。尖閣諸島、竹島問題で対立の続く日中・日韓関係を改善することも差し迫った課題だ。
米軍岩国基地に駐機していた新型輸送機オスプレイが1日、沖縄の米軍普天間飛行場に移動した。玄葉外相が、「日本、東アジアの安全保障にとって、海兵隊の中核となる装備なので不可欠だ」と指摘したのはもっともである。
対中・韓外交を立て直すためにも玄葉、森本両氏は、普天間飛行場の移設と日米同盟の一層の強化に全力を挙げねばならない。
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