毎日新聞 2012年09月29日
日本維新の会 「安倍自民」にどう向かう
橋下徹大阪市長が代表を務める新党「日本維新の会」が衆参7国会議員が参加して正式に発足した。党規約の策定なども行い、次期衆院選に候補を大量擁立するための作業を本格化する。
国政で既成政党に挑戦し「第三極」を形成できるかが問われるが、自民党新総裁に主張が重なる部分も多い安倍晋三元首相が就き、維新の会が埋没してしまうおそれもある。「維新八策」として掲げる政策の優先順位や実現を目指す工程の整理がいよいよ急務である。
新党の規約は党首である代表に強い権限を持たせる一方で、党員にも代表選の投票権を認めるなどバランスに配慮した。橋下氏が大阪市長にとどまりながら国政政党の党首として「二足のわらじ」をはくことが適切かは依然として疑問がある。最低限「首相候補」は誰なのかを明示するよう改めて求めたい。
日本維新の会の船出にあたり、自民党に安倍総裁が誕生した影響は決して小さくない。改憲、構造改革路線など安倍氏と橋下氏の主張には近接する部分がある。維新の会側は国政進出にあたり、かつて安倍氏に合流を打診したとされる。
橋下氏が「非常に信頼のおける政治家」と安倍氏を評価すれば、安倍氏も維新の会の改憲路線にエールを送る。橋下氏が「議席結果によって政策協議を進めたい」と衆院選後の自・維連携に含みを持たせるように、今後の政権の枠組みの展望はより複雑になったと言えよう。
一方で維新の会の存在感が埋没しかねないジレンマにも直面しつつある。橋下氏は集団的自衛権行使の容認や従軍慰安婦問題をめぐる「河野談話」を批判するなど安保、歴史認識問題なども活発に発言してきた。だが、こうした主張に共鳴する層が今後、「安倍自民」に回帰する可能性は否定できまい。
橋下氏は選挙ではあくまで自民と戦う考えを示し、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)参加や消費税の地方税化などを挙げ、自民との違いを強調している。ならばなおのこと、地方税化について地方間財政調整の仕組みなどの具体像を説明すべきだ。
首長経験者や各党を離れた国会議員が参入する過程で新党の鮮度が薄れつつあるのではないか。とりわけ現職国会議員の転入はよほど納得感と説得力がないと、新党のイメージは混乱してしまう。
「橋下人気」だけで国政進出が乗り切れないことは言うまでもない。衆院定数半減、脱原発依存、道州制、首相公選制などにぎやかなテーマのどれを優先し、選挙後の政界を展望するか。「第三極」の旗をより明確にすることが先決である。
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産経新聞 2012年09月30日
日本維新の会 「橋下商店」では機能せぬ
「日本維新の会」が総務相に届け出て正式に政党となった。だが、その党運営は党本部を大阪に置き、大阪市長にとどまる意向の橋下徹代表に国会対策を含む権限を集中させている。
これでは、国会議員がいちいち橋下氏の判断を仰がなくてはならない。極めて実験的な形だが、危うい。国政政党として機能することは難しい。代議制民主主義からも問題がある。
発表された党規約によると、代表が最高議決機関である「全体会議」を招集し、国会対策を決める「執行役員会」も主宰する。幹事長などの党幹部人事や、国政選挙などの公認、推薦も決める。
全国的知名度のある橋下氏が中心とならざるを得ない事情があるとはいえ、橋下氏の「個人商店」を脱していない。これで透明かつ民主的な党運営が図れるのか。
問題は、国会議員と地方議員を対等扱いにしていることだ。
国会議員は、執行役員会に「代表国会議員」といった一部しか出席できないなど、活動が制約される。橋下氏と国会議員団の意見が割れた場合、国会議員ではない幹部の多数意見で方針を決定されたのでは、民意は損なわれる。
独断も懸念される。例えば橋下氏は島根県・竹島について韓国との「共同管理」に言及した。外国人地方参政権にも「議論の余地」を示した。これらは橋下氏の個人的考えだというが、強大な権限を持つトップの意見に党内で異論を唱えるのは難しいだろう。
維新の会が国政で何を目指すかもはっきりしない。政策集「維新八策」は経済対策や教育、雇用といった現状の政策課題と、首相公選制や参議院廃止など憲法改正が必要な項目とが混在している。
これでは、政策なのか、将来的な目標なのか区別が付かない。既存政党との違いを際立たせるために、有権者の歓心を買いそうな項目を並べただけなら、民主党の二の舞いとなろう。
候補者公募も「頭数をそろえればよい」わけではない。国政を担うに足る実績や見識を備えた人材を短時間で集められるのか。橋下人気への便乗組が殺到したのでは国政の劣化は免れまい。
橋下氏は異例の党運営を「やってみなければ分からない」と繰り返すが、今の日本の政治環境はかつてなく厳しい。国会を「社会実験」の場とする余裕などない。
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