新総裁に安倍氏 「古い自民」に引き返すな

朝日新聞 2012年09月27日

安倍新総裁の自民党 不安ぬぐう外交論を

自民党総裁選は、40年ぶりの決選投票をへて、安倍晋三元首相が当選を決めた。

5年前の参院選で惨敗後、首相だった安倍氏は突然、政権を投げ出した。

その引き金となった腸の難病は新薬で克服したというが、政権放り出しに対する批判は安倍氏の重い足かせだった。それが一転、結党以来の総裁再登板を果たしたのはなぜなのか。

もともと安倍氏は本命視されていなかった。

ところが、谷垣禎一前総裁を立候補断念に追いやる形になった石原伸晃幹事長がまず失速。決選投票では派閥会長や古参議員に嫌われている石破茂前政調会長に競り勝った。いわば消去法的な選択といっていい。

さらに領土問題で中韓との関係がきしんでいなければ、再登板はなかったかもしれない。

「強い日本」を唱える安倍氏の姿勢が、中韓の行き過ぎたふるまいにいらだつ空気と響きあったのは確かだ。

「尖閣諸島は国家意思として断固守る」として、避難港を造るなど管理の強化を訴える。

慰安婦問題で旧日本軍の関与を認めた河野官房長官談話や、「植民地支配と侵略への反省とおわび」を表明した村山首相談話を見直すと主張している。

首相になった場合の靖国神社参拝にも意欲を示す。

ナショナリズムにアクセルを踏み込むような主張は、一部の保守層に根強い考え方だ。

だが、総選挙後にもし安倍政権ができて、これらを実行に移すとなればどうなるか。

大きな不安を禁じえない。

隣国との緊張がより高まるのはもちろんだが、それだけではない。

前回の首相在任中を思い出してほしい。5年前、慰安婦に対する強制性を否定した安倍氏の発言は、米下院や欧州議会による日本政府への謝罪要求決議につながった。

靖国参拝をふくめ、「歴史」に真正面から向き合わず、戦前の反省がない。政治指導者の言動が国際社会からそう見られれば、日本の信用を傷つける。

だからこそ安倍首相は河野談話の踏襲を表明し、靖国参拝を控えたのではなかったか。

首相就任直後に中韓両国を訪問し、小泉政権で冷え切った中韓との関係を改善したのは安倍政権の功績だった。その経験を生かすべきだ。

それにしても、あまりにも内向きな総裁選だった。

安倍氏をはじめ5候補は、民主党政権の3年間を「国難」と断じ、自民党が政権に復帰しさえすれば震災復興も、領土外交も、日米同盟も、景気も、雇用もうまくいくと胸を張った。

そんな甘い夢を信じる人がどれほどいようか。

国民の政治不信は民主党だけでなく、自民党にも向けられている。その自覚と反省がまったく感じられない。

それどころか、3年前、国民に拒絶されるように下野した自民党のやせ細った姿をくっきりと映し出した。

その象徴は、5候補の政策がほとんど同じだったことだ。

党是の憲法改正を実現し、集団的自衛権の行使をめざす。

原発・エネルギー政策では全員が「原発ゼロ」に反対。環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加には慎重。代わりに熱を入れるのは「国土強靱(きょうじん)化」という名の公共事業拡充だ。

財界や電力業界、農協、土木・建設業界など支持団体の歓心を買いたい。そんな思惑がみえみえではないか。

かつての自民党にはタカからハト、改憲から護憲、保守からリベラルまで抱える懐の深さがあった。

それが、今回は5候補がそろってタカ派色と支持団体への配慮を競い合った。しかも5人とも世襲議員である。

二大政党時代の野党の最大の仕事は、人材を鍛え、次に政権に就いたときに実行すべき政策を練ることだ。その作業を、自民党は怠っていたと言われても仕方がない。

遠からず行われる解散・総選挙に向けて、安倍氏に三つのことを求めたい。

第一に、社会保障と税の一体改革の実行を野田首相と再確認する。早期解散を求めて対決するだけではなく、社会保障をめぐる国民会議の設置など、譲るべきは譲ることも必要だ。

第二に、外交・安全保障をはじめ、公約を現実味のあるものに練り直すことだ。

総選挙で投票権をもつのは自民党員だけではない。前回の首相在任中に靖国参拝を控えたように、君子豹変(ひょうへん)の勇気をもつことが肝要である。

第三に、民主、公明との3党で、衆参の多数派がねじれても国会を動かせるルールづくりで合意することだ。政権奪還をめざす自民党にとっても、そのメリットは大きいはずだ。

毎日新聞 2012年09月27日

新総裁に安倍氏 「古い自民」に引き返すな

自民党新総裁に安倍晋三元首相が選出された。同党総裁の返り咲きは初めてで、決選投票を2位候補が逆転で制したのは56年ぶりだ。次期衆院選が1年以内に迫る中、政権奪還を掲げる党のかじ取りを担う。

石破茂前政調会長が過半数を占め圧勝した地方票の結果を覆した選出劇は派閥を否定できない党の体質の反映でもある。体調不良で5年前に首相を辞めただけに、首相候補として国民の信頼を取り戻す道は平たんでない。野党第1党の党首として、外交、内政を停滞させずに動かす責任を与党と共有すべきである。外交路線に残る懸念 混戦を制した安倍氏は記者会見で「強い日本をつくる」と抱負を述べ日米同盟の再構築、成長戦略などを重要課題に挙げた。中国、韓国など近隣諸国とのかつてないほどの緊張が、強硬路線派の安倍氏に追い風となった。改憲や集団的自衛権行使容認などに重点を置く安倍、石破氏が上位を占めた地方票の動向は保守回帰を印象づけたと言えよう。

だが、地方票と国会議員票の「ねじれ」を露呈しての選出という十字架を新総裁は背負うことになる。派閥に所属せずその存在に最も否定的な石破氏が党員による地方票で圧勝したのは人気度に加え、徹底した党改革への期待感の反映であろう。

にもかかわらず、国会議員票による逆転勝利を安倍氏にもたらしたのは同氏への積極評価以上に反石破票の結集という要素があったはずだ。当初の予想ほど決選で議員票に差がつかなかったのは、地方票の重みを多くの議員が意識したためではないか。谷垣禎一総裁を不可解な出馬断念に追い込んだように派閥や長老が力を残す「古い自民」の土俵に立つ限り、党運営は容易であるまい。

アピール材料とする外交、安全保障政策が逆に懸念要因である点も指摘せねばならない。

安倍氏は尖閣諸島問題で船舶の避難施設建設などを主張しており、政権復帰が実現した場合に対中関係で緊張が強まることを危ぶむ見方もある。ただ、26日の会見では首相時代に戦略的互恵関係の構築を図った経緯を踏まえ日中関係を「切っても切れない関係」と強調、関係重視の基本認識も示した。

歴史認識も問われる。日韓関係を悪化させる従軍慰安婦問題で「河野談話」の修正を提起している。同談話で問題を政治決着させようとした過去の真剣な努力をないがしろにすべきではあるまい。

税と社会保障の一体改革に関する民自公3党合意を堅持する姿勢をより明確にすべきだ。安倍氏は合意維持を表明する一方で、消費増税はデフレ解消が前提と主張する。「景気条項」にこだわりすぎては先送り論を加速させかねない。

3党合意へのスタンスは次期衆院選後の政権の枠組みの展望にもつながる。安倍氏は民主との大連立を否定し、橋下徹大阪市長による「日本維新の会」にむしろ好意的とみられている。社会保障の全体像や低所得者対策などの具体化はどうするのか。次期衆院選でたとえ自民が政権に返り咲いても参院の「ねじれ」が続く公算は大きいはずだ。

総裁選で事実上放置された重要課題も多い。福島原発事故に伴うエネルギー政策の将来像についてはほとんど議論が深まらなかった。「原発ゼロ」への反対は安倍氏を含む候補全員が表明したが「10年以内に新たなエネルギーの安定供給構造を構築」とする党公約案は何も言っていないに等しい。

野田内閣がまとめた新エネルギー政策は確かに深刻な矛盾を抱えるが未曽有の事態を受け格闘する意思は感じられる。長年にわたり原発の安全対策の手抜かりを見逃してきた自民がエネルギー政策を傍観するのは無反省に過ぎる。態度があいまいな環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への対応とともに、次期衆院選に向け具体的指針を逃げずに示してこそ、責任政党であろう。3党合意を堅持せよ 今後10年で200兆円を公共事業に投じるという国土強靱(きょうじん)化計画も単なるばらまき路線の復活を懸念せざるを得ない。政権から転落した教訓をどこまでくみ取ったか、民主党政権の混乱にかまけて「野党自民」がこの3年、自己改革に取り組む姿を示してきたとは言いがたい。

安倍氏は野田内閣を早期解散に追い込む決意を改めて強調した。民主党代表に再選した野田佳彦首相と新総裁による党首会談が今後の政治の動きを占う最初の節目となる。

首相が違憲状態の衆院「1票の格差」是正などで踏み込んだ姿勢を示すべきなのは当然だ。一方で安倍氏もさきの国会で可決された参院問責決議をタテに最初から全面対決姿勢でのぞむべきではない。とりわけ今年度予算の執行に必要な特例公債法案を衆院解散の人質とし続けることは愚策である。

与野党攻防がどう推移しても1年以内に衆院選は確実に行われる。安定した政権担当能力を国民に伝えるには、政治を動かす責任感を示すことだ。野党3年、自民党は何を改め、どう変わったかを身をもって示すべきだ。それが新総裁の重い責務と心得てほしい。

産経新聞 2012年09月27日

安倍新総裁 「強い日本」再生策を語れ 政権奪還に反省生かせるか

「強い日本」を掲げ、尖閣国有化後の統治強化策などを積極的に訴えた安倍晋三元首相が自民党の新しい総裁に選出された。

5年前、病気を理由に首相を辞任した安倍氏は大きなハンディを抱えての再挑戦だった。しかし自民党は安倍氏に党の立て直しを託し、日本が抱える難局を打開する「切り札」に選んだ。

この3年間の民主党政権の迷走が日本を弱体化させ、今日の国難を招いた。尖閣諸島をめぐる中国の攻勢や竹島、北方領土問題などで韓国、ロシアにどう対処するかが最大の課題となっている。

≪憲法改正で先頭に立て≫

そのための「強い日本」を構築していくことこそが安倍氏の歴史的使命である。党の総力を挙げ、処方箋をまとめてほしい。

安倍氏はこれまで、国のかたちを決める憲法改正や教育改革などを持論としてきた。領土・主権を守ることを最優先し、集団的自衛権の行使容認で日米同盟を深化させることを訴え続けた。今後は実行力が問われる。

永住外国人への地方参政権付与や人権救済機関設置法案について、安倍氏がはっきりと反対姿勢を示した点も重要だ。民主党が日本の主権や言論の自由を侵害しかねない政策を実現しようとしていることへの危機感が、安倍氏を後押しした面もあろう。

安倍氏は社会保障・税一体改革をめぐる民主、自民、公明の3党合意を「公党間の約束」として維持する考えを会見で述べた。だが、論戦においてはデフレが続いている限り、消費税率は引き上げるべきでないと主張していた。

日本経済にとってデフレ脱却は最優先課題であり、日銀との政策協調を進めることも重要だ。

しかし、日本の財政はデフレ脱却の遅れを理由に、いたずらに消費税増税を先延ばしすることが許される状況ではない。むしろ予定通り、平成26年4月に消費税率引き上げを実施すべく、そのためのデフレ克服の目標時期を定めることなどが求められる。

少子高齢化に耐えうる社会保障制度の構築も、新総裁に課せられる最重要課題の一つだ。消費税増税が決まったとはいえ、高齢者を含め支払い能力に応じて負担する仕組みに改めなければ、制度は早晩、維持できなくなる。

社会保障については政局と切り離して、超党派で議論すべきだ。安倍氏はまず、高齢化によって膨らむ年金や医療、介護費用をどう抑制するのか具体策を示し、「社会保障制度改革国民会議」の発足を急がせなくてはならない。

野田佳彦政権は「2030年代に原発稼働ゼロ」の環境・エネルギー戦略を掲げたが、原発ゼロでは産業空洞化が加速し国力の低下を招く。安倍氏は野田政権に原発ゼロ政策の早期撤回を促し、安価で安定的な電力を確保するために着実な原発再稼働が不可欠との立場をはっきりさせるべきだ。

≪古い自民党には戻すな≫

自民党は3年前に下野した。なぜそうなったかという「反省」を、今後に生かさなくてはならない。安倍新総裁の最初の仕事は、真に国や国民の利益を守る責任政党の姿を示し、かつての自民党ではないことを国民に理解してもらうことである。

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を通じた自由貿易体制の拡大は日本経済の成長にもつながるが、自民党は慎重だ。その背景には、農業関係団体に対する配慮がうかがえる。選挙を考え特定業界と通じているとみられるようでは、「古い自民党」との印象が拭えないだろう。

衆院解散問題への対応も難問だ。解散の先延ばしを図っているとしかいえない野田首相に対し、安倍氏は「近いうち」の解散という国民との約束の履行を強く求めていかねばならない。

その一方で、国民の生活に影響が出かねない特例公債法案などにどう対処するかが問われる。双方の折り合いをつける「紳士協定」をどう整えるのか、安倍氏の手腕の見せどころだ。

「脱派閥」を掲げた石破茂前政調会長が地方票で過半数を獲得し、1回目投票でトップに立った意味は小さくない。派閥の影響力の残る党体質の改革が急がれる。安倍氏は「石破氏と協力していくことで、自民党は強力な態勢をとっていける」と述べた。懸案を着実に解決できる党人事を行うことが重要だ。

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