日中記念式典中止 長期戦覚悟し打開探れ

朝日新聞 2012年09月29日

日中国交40年 交流広げ、信頼立て直せ

祝賀の雰囲気はない。

日中国交正常化から40周年を迎えた。だが、日本政府が尖閣諸島を所有者から買ったことに対し、領有権を主張する中国が激しい批判を続けている。

中国共産党序列4位の賈慶林(チアチンリン)・全国政治協商会議主席は、訪中した日中友好団体代表らに、両国の関係を「これまでになく厳しい局面」と評した。

日本でも愛読される中国の古典、論語に「四十にして惑わず」とある。

ところが、同じ年月がたった日中関係は全面停滞の様相だ。日本企業は操業停止などの大きな影響を受け、さまざまな交流事業が中断した。

ここまでこじれた背景には、互いの体制や文化への無知や無理解がある。

野田首相は、ウラジオストクで中国の胡錦濤(フーチンタオ)国家主席と話しあった直後に尖閣諸島の購入に踏み切った。体面を重んじる中国には受け入れがたかった。

中国に挑発的な石原慎太郎・東京都知事の購入計画を防ぎ、火種を取り除こうという日本政府の思惑を、「中央政府は地方政府を抑えられる」と考える中国は理解しようとしなかった。

この40年の積み重ねは何だったのかと、嘆かざるを得ないような行き違いである。

「中国が他人に虐げられた時代は去り、二度と戻らない」

中国のメディアではこんな論調が繰り返された。列強に踏みにじられた苦い歴史の記憶にあえて触れ、愛国意識を高めた。

1972年の正常化後、最初の20年は、戦争から急速に復興した日本が、途上国・中国の成長に手を貸す構図だった。

関係が大きく変わり始めたのが、90年代初めだ。

日本ではバブルがはじけて経済が滞り、中国は改革開放路線をひた走って急成長期に入った。2008年の世界金融危機で景気を下支えした中国は、大国としての自信を固め、10年には国内総生産(GDP)で日本を抜いた。

自信は外交の強硬姿勢となった。古代ローマや大英帝国のように、新しい大国の登場は時代の地殻変動となって、周辺や先行する大国との摩擦を生んだ。

だが足元の中国社会では、貧富の格差や汚職といったさまざまな矛盾が噴き出している。

コネがなければ機会さえ与えられず、年間600万人近くにもなる大学卒業生の就職難は深刻だ。成長の原動力だった人口増は急速な高齢化に転じ、社会保障の不備が目立っている。

先々週末、中国各地で起きた反日デモでは、毛沢東の肖像を掲げる参加者がいた。貧しくても平等だった日を懐かしむのだろう。それは現政権への批判でもある。

その共産党は11月、指導部が入れ替わる党大会を開く。だが激しい人事や路線の駆け引きが繰り広げられたとされ、大会日程の発表は大幅にずれこんだ。異常な事態だ。

日本が向きあっているのは、不安定さを抱えこんだまま大国になった中国だ。

つきあい方は難しさを増しているのに、双方で関係を進める力が弱まっている。

中国では市場経済で共産主義の理念が薄れた。共産党はかわりに経済成長と愛国主義で国内の団結を図った。党の原点は抗日戦争の勝利であり、愛国は反日の感情を強めた。

折に触れて繰り返された反日デモの過激さは、日本の対中観を冷えこませた。中国指導者と個人的な信頼関係でつながる政治家の姿も見えない。

だが、両国が重要な隣国同士だと言うことに変わりはない。グローバル化で日中の経済は相互依存を深め、切り離すことはできない関係だ。

このまま対立が続けば、中国に進出した日本企業の損害は巨額となり、現地で働く中国人の雇用不安にもつながる。世界第2、第3位の経済大国の争いに世界も気をもんでいる。

負の関係から抜け出すためには、中国での対日感情の改善が必要だ。中国にとっても、反日は反共産党に変わりかねない。外に敵を作り、中をまとめようとする手法は必ず行きづまる。中国は反日の政治利用をやめるべきだ。

日本も、相手に実像を伝える努力が必要だ。総額3兆円超にのぼる対中円借款で、中国の成長の基盤づくりに尽くしたという事実も、中国ではほとんど知られていない。官民を問わず、人の交流をこれまで以上に厚くするしかない。

そして日本は、歴史にしっかり向きあう必要がある。日中戦争は、日本が中国の国土でおこした。大勢の中国の人たちが犠牲になったのは、逃れようのない事実だ。

浮ついた「愛国」は人々を豊かにしない。それは中国も日本も同じだ。歴史と今を冷徹に見つめ、立て直しを始めよう。

毎日新聞 2012年09月28日

日中国交40年 あの原点に立ち戻ろう

29日は、日中国交正常化から40年の記念日だ。1972年のこの日、当時の田中角栄首相と周恩来首相の間で日中共同声明が結ばれた。

日本は中国との不幸な戦争状態にピリオドを打ち、良きパートナーとしてアジアの成長と発展を支えようという思いで歩み出した。だから「日中友好」という言葉が流行し、爆発的なパンダブームが起きた。一方、中国も、この年の春に訪中したニクソン米大統領と米中共同声明を結び、国際社会へ向けて窓を開いた。

それから40年の歳月がたった。中国は、国内総生産(GDP)で米国に次ぐ世界第2の大国となった。日本にとっては最大の貿易相手国である。両国の貿易規模は3400億ドルに達している。

互いに相手を必要と認め合う関係を築いてきた。それなのに、なんということだろうか。尖閣諸島(中国名・釣魚島)の国有化をめぐって坂道を転がり落ちるように関係が悪化した。この40年間で最悪といっていいだろう。

尖閣周辺の海では日本の巡視船と中国の海洋監視船や漁業監視船が対峙(たいじ)する緊張状態が続いている。

国有化に抗議する反日デモが暴徒化し日本車打ちこわしが起きた。日本車といっても、中国人労働者が中国の工場で作り、中国人が運転する車である。

電子産業や流通産業などの日本企業が襲われた。標的にされた企業の多くが国交回復の早い時期から中国の産業発展を支援してきた。日本人駐在員や家族はさぞ不安だろう。長い間の積み上げを崩して、中国側にどんなプラスがあるのか。

物の流れも、人の流れも減少した。中国からの日本観光ツアー客はキャンセルが相次いでいる。中国税関が日本製品の通関を遅らせている。経済制裁は双方にマイナスをもたらす。小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝で日中関係が悪化した後、2006年に結んだ「戦略的互恵関係」の精神を思い出そう。

なぜ、尖閣諸島の国有化がこれほど急速な冷え込みをもたらしたのか。東京都の石原慎太郎知事が島を購入すると言いだし、中国政府が反対を表明したのが発端だった。日本政府は国有化して鎮静しようとしたが、中国はそれにも反対した。日本政府は中国側をよく説得せずに国有化に踏み切った。それ以後、反日デモが爆発的に広がった。

尖閣諸島は、田中・周恩来会談でも、1978年の日中平和友好条約交渉でも難題だった。日中国交正常化の原点に横たわる障害物なのである。尖閣諸島について日本政府は、1895年に領土編入の閣議決定をしており、1951年のサンフランシスコ条約によって米国の施政下に置かれたが、日米沖縄返還協定で返還されたと主張している。

中国政府は「日本が日清戦争の最中に不当に奪った台湾の一部」であり、1945年のポツダム宣言に従って中国に返還されるべきだと主張している。

主権問題は譲歩が難しく、現実には棚上げしか方法がない。かつては、周恩来首相の「しばらく放っておこう」、トウ小平副首相(当時)の「20年、30年棚上げしていい」という発言によって棚上げされてきた。

しかし棚上げ方式は、日本側には不安が、中国側には不満が残った。中国ではトウ小平氏の死後、江沢民前国家主席の時代に海空軍や核ミサイルの戦力が拡大した。

それとともに東シナ海や南シナ海、さらに西太平洋への海軍艦艇や海洋監視船、海洋調査船の活動が活発化した。最近、尖閣諸島周辺での中国艦船の活動が目立つようになり、棚上げ合意の有効性に不安が高まっていた。

トウ小平氏は国内の経済建設を最優先し、融和的な対外政策をとり、西太平洋に展開する米海軍との摩擦を回避してきた。現在の胡錦濤国家主席は、トウ小平氏が総書記に指名したが今年の秋に任期を終える。トウ小平路線がこれで終わる。今回、中国側の強硬姿勢が目立つのは、習近平・次期指導部が大国主義的な外交路線に転換した可能性もある。

こじれた尖閣問題にどう手をつけたらいいのだろうか。野田佳彦首相は26日の国連総会で「国際法に従い、平和的に解決する原則を堅持する」と演説した。中国外務省は「国際法を持ち出すと見せかけて、自らや他人をあざむいている」と批判した。議論はまだかみ合っていないが、平和的解決に中国も反対できないはずだ。だが、日本側も寸刻を争うことではない国有化を急いだことで不信感を与えたことは事実だ。信頼回復から始めなければならない。

中国政府は、日本の国有化に対抗して領海基線を設定して国連に届け出ている。これ以上、日中間に領土紛争が存在しないという立場をとることは現実的ではない。首相の言う「国際法に従う」がなにを指すのか、具体的にしてほしい。最近、対日領土問題で中国がロシア、韓国に協力を呼びかけていることにも留意すべきだ。これからの日中関係はこれまでにない困難な時代に入ると覚悟しておかなければならない。

読売新聞 2012年09月28日

日中国交40年 「互恵」再構築へ長期戦略を

◆外交力の発揮で事態悪化防げ◆

日中両国が国交を樹立した時、これほどまで関係が険悪になると誰が予想しただろうか。

訪中した田中角栄首相が周恩来首相と共同声明に調印してから、29日で40年になる。節目の年なのに、記念行事が次々打ち切られている。

中国では日本製品の不買運動も広がっている。かつてない深刻な事態だ。尖閣諸島国有化への中国の反発は収束する気配がない。

しかし、世界第2、3位の経済大国の不正常な関係は周辺地域や世界経済にも悪影響を与える。日本は今後、中国とどう向き合っていくか。関係の正常化へ長期的な戦略が欠かせない。

◆「政冷経冷」の対日意識◆

中国各地で起きた反日デモの中で、パナソニックの工場が暴徒に襲われた事件ほど、日中の寒々しい現状を象徴するものはない。

パナソニックは中国進出の先駆的企業である。1978年、来日したトウ小平副首相が創業者の松下幸之助氏と会い、中国発展のために技術、経営面での支援を求めたことがきっかけとなった。

その後、多くの企業が中国で事業を拡大し、雇用も生んできた。日本は2007年度まで円借款を供与し続けた。

それが中国の経済基盤を強化し、国内総生産(GDP)が日本を上回るほどに成長する一助となったことは間違いない。

だが、日本の協力姿勢は中国国内でほとんど認識されていない。それどころか、90年代に反日の愛国教育が強まり、経済発展に伴って日本軽視の風潮が広がった。

中国では、対日関係は政治も経済も低調な「政冷経冷」で構わないとの意識が強まっている。

しかし、日中両国は経済的に不即不離の関係にある。日本から輸入した部品を中国で最終製品に組み立て、中国国内で販売したり、欧米などに輸出したりする国際分業体制が築かれている。そのことを忘れてはなるまい。

◆尖閣で必要な海保強化◆

尖閣諸島問題の根源は、周辺海域に石油があることを知った中国が70年代、根拠もない領有権を一方的に主張したことにある。

トウ小平氏は78年、日中平和友好条約発効の際の記者会見で、尖閣問題について「一時棚上げにしても構わない」と語り、解決を次世代に委ねる意向を表明した。

だが、中国は、92年には尖閣領有を明記した領海法を制定し、近年は、監視船を尖閣諸島近海に再三派遣するなど事あるごとに日本との摩擦を引き起こしてきた。

尖閣諸島の国有化は、所有権が民間人から政府に移転するだけのことである。ロシア・ウラジオストクで野田首相と胡錦濤国家主席が会った直後に、国有化したことが中国を刺激した面はあるが、中国の反発は予想を超えていた。

日中外相会談で中国側が国有化を「反ファシズム戦争勝利の成果を否定するものだ」と指摘し、無関係な歴史問題と絡めたのは、あまりに牽強(けんきょう)付会(ふかい)だ。

ありもしない日本の「非」を世界に言い募る中国の「世論戦」に日本は手をこまねいてはいられない。野田首相が国連演説で、中国を念頭に「一方的な力や威嚇を用いる試みは受け入れられない」と主張したのは、当然である。

中国初の空母も就役した。軍拡路線は、近く発足する新指導部へ引き継がれ、より強力に進められよう。

尖閣諸島で実効支配をいったん失ってしまえば、取り戻すのは非常に困難となる。主権を侵害する行為を排除できるよう海上保安庁の体制強化に国を挙げて取り組むことが最優先である。

無論、軍事的対立は何としても避けなければならない。米海兵隊が新型輸送機オスプレイを沖縄に配備することも、対中抑止力を強める意味で重要である。

◆経済・環境で共栄を◆

安倍内閣以降、日中両国はウィンウィン(共存共栄)を意味する「戦略的互恵関係」を基軸に東シナ海のガス田共同開発協議などを進めた。だが、10年の尖閣諸島沖の漁船衝突事件後、暗礁に乗り上げている。

互恵関係を立て直すには周到な準備が欠かせない。日中双方が産業・観光振興、農業の生産性向上の分野だけではなく、省エネや環境対策などの分野でも協力し合えることを、様々なパイプを駆使して、中国に伝えるべきだ。

米国との緊密な連携も日中関係の改善を図るには不可欠だ。同時に東南アジア諸国連合(ASEAN)、インド、ロシアなど、周辺国との関係を強化し、戦略的に対中外交を展開する必要がある。

産経新聞 2012年09月29日

日中正常化40年 緊張関係に耐える覚悟を 日米共同で戦略を練り直せ

日中国交正常化40年を迎えた。眼前に広がる世界には、この地域の覇権を握りたいという「帝国主義的」ともいえるむき出しの中国の野望が見え隠れしている。

日本固有の領土である沖縄県尖閣諸島の奪取を狙う動きがそれを象徴する。中国公船による尖閣領海侵犯の常態化や反日デモと略奪、日本製品不買といった一連の行動は、日本の尖閣国有化が引き金とされるが、荒々しい膨張を続ける中国パワーの発露という本質を見誤ってはならない。

40年前、最貧国だった中国は切迫するソ連の脅威を前に対日関係の正常化を急いだ。賠償請求権を放棄し、尖閣などの領土・領海問題も棚上げして、日本の援助をテコに富国強兵路線を邁進(まいしん)した。

≪「友好」の自縛解き放て≫

だが、それは「中華帝国再興」のための方便でしかなかった。富強路線が軌道に乗り始めた1990年代からは、日中戦争の過去を強く糾弾しだし、尖閣を自国領と明記した領海法も制定した。

対する日本は、事を荒立てない低姿勢に終始した。領海法制定に至っても、まともに抗議していない。その結果、日本は強く出れば引っ込むと侮られてつけ込まれたのではないか。そして、それは「友好」の2文字に自縛されてきたからだ。

中国と付き合うにはとりわけ、譲れない価値観や原則をまず明確にし、交渉の余地を残して、したたかに駆け引きする粘り腰が必要だ。「友好幻想」を捨て、言うべきを言い、なすべきをなす普通の関係に立ち返るときだろう。

中国の楊潔●外相が27日の国連総会演説で、尖閣国有化は中国主権への「重大な侵害」だとし、日清戦争末期に「中国から盗んだ歴史的事実は変えられない」と激しく攻撃した。事実無根の主張には日本の国連代表部が「尖閣は日本固有の領土だ」と直ちに反論したが、なりふり構わぬ中国の「世論戦」をはね返すには不十分だ。

中国は尖閣周辺を「領海」とした海図を国連に出し、尖閣は「固有の領土」との主張を並べた日中英3カ国語の「白書」を国営通信で流している。対外発信力を強めないと、米国をはじめ国際社会の支持を得ることはかなわない。

日本が問われるのは、高まる一方の緊張関係にひるむことなく、したたかに生き抜く知恵と覚悟である。同時に、中国の背理や暴力などを訴え、国際社会を味方につけることが必要不可欠である。

要(かなめ)は日米の連携である。次期国家指導者に内定している習近平国家副主席は19日のパネッタ米国防長官との会談で、日本を強く批判して米国が尖閣問題に介入しないよう求め、日米同盟分断に出た。長官はしかし、尖閣は日米安保条約の適用範囲だと改めて強調し、習副主席を牽制(けんせい)したという。

≪国際社会を味方にせよ≫

この日米同盟関係を強靱(きょうじん)にしていくことは喫緊の課題である。そのために日本がなすべきことは、集団的自衛権の行使容認だ。安倍晋三自民党総裁の持論でもあり、野田佳彦首相は安倍氏と連携して行使容認に踏み切ってほしい。

中国と領土・領海問題を抱える東南アジア諸国との連携も強め、相手の力を尖閣に集中させないようにすることも肝要である。

日中はこの40年、政治が冷え切っても、経済は拡大した。「政冷経熱」である。日本の貿易総額に占める対中貿易の割合は2割を超え、中国は最大の貿易相手国となった。中国進出企業は約2万2300社に上る。中国にとっても日本は第2の貿易相手国だ。日系企業の雇用者も推計数百万とされ、米欧の対中投資が鈍る中、日本の投資は高い伸びを見せている。

その日本企業を狙い撃ちした報復措置も拡大、強化されようが、それは中国経済に相当な痛みを伴う。相互依存とはそういうものだ。経済界は音を上げてはならない。さらなる反日暴動や政変など中国の混乱を想定し、進出・投資先を近隣諸国に移すなど、リスクの回避策を講じるべきだ。

中国と今後も対話を通じて堂々と渡り合い、現下の緊張を和らげなければならない。そもそも日中間は政治体制などが違い、緊張関係が生じるのは自然といえる。

そして中国が改めるべき点をきちんと指摘するのは日本の大きな役割だ。見せかけの友好関係にとらわれぬ建設的な緊張関係こそ両国が育てていくべきものであり、地域の平和と安定に資する。

朝日新聞 2012年09月25日

日中40年 交流の窓は閉ざすな

日中の国交正常化40周年を記念する式典が、事実上中止になった。尖閣諸島をめぐる関係悪化を受けた中国側の決定だ。

事態打開のきっかけになればという期待もあっただけに、非常に残念だ。

式典は1972年9月29日の正常化を記念し、節目の年に開かれてきた。中止は初めてだ。日本政府が尖閣購入で「記念の雰囲気を壊した」のが理由という。中国は激しい対日批判を続けており、国家指導者が日本との友好をうたう局面ではない、という判断だ。

中国の強硬姿勢は、経済、文化、スポーツといったさまざまな分野にまで及んでいる。

日中経済協会(会長=張富士夫・トヨタ自動車会長)は、25日に出発予定だった訪中団の派遣を、前日になって延期した。要人との会見や、政府機関への表敬訪問を断られたためだ。

例年は首相や副首相らが会見しており、日中の経済的なつながりの太さを象徴する意義深い訪中団だった。

また、国交正常化記念事業の日本側事務局によると、中国で近く予定されていた行事は軒並み中止になっている。

自治体や民間などが企画した事業を記念行事として認定しているが、認定の申請は初めは低調だった。日中関係を揺るがす出来事が相次いだためだ。

河村たかし名古屋市長による南京虐殺の否定や、新疆ウイグル自治区からの亡命者組織による「世界ウイグル会議」の東京開催には中国が強く反発した。一方、中国の海洋監視船が尖閣付近の日本領海に侵入し、日本の国民感情を刺激した。

関係者は気をもんだが、春以降に申請が増え、計600件以上になっていた。それだけに、中止にはやり切れぬ思いだ。

日中は、歴史問題など政治的に難しい要素も抱えている。そんな両国の関係を支えたのは、今や年間貿易総額が約3450億ドル(約27兆円)に上る経済関係であり、人的交流だった。中国は、先人が積み重ねてきた努力を無にしてはならない。

朝日新聞が8~9月に行った日中世論調査では、関係がうまくいっていると思わない人が日本で90%、中国で83%だった。相手国が嫌いという回答は日本で38%、中国で63%あった。深刻に受け止めるべきだ。

中国は、式典にあわせて用意していた日本の友好団体代表と中国要人の会見はそのまま行う構えだ。国連総会での外相会談も模索されている。かろうじて残ったパイプを生かし、本来の交流の再開につなげたい。

毎日新聞 2012年09月26日

日中経済関係 より深め対立抑えよう

尖閣諸島をめぐる日中の対立が、両国の経済関係にも暗雲を広げている。暴徒化した反日デモによる日系企業への直接的被害に加え、経済界の交流や観光推進行事などの相次ぐ中止で、親密化を目指す取り組みも足踏みを余儀なくされた。

両国を行き交う観光客の減少が見込まれる中、航空業界でも減便などの動きが出始めた。中国の一部都市の税関では、日本からの輸入品の通関検査が厳格化されているという。

ただでさえ中国経済の成長が鈍化し、それが日本の景気にも予想以上に跳ね返ってきている昨今だ。さらに悪化の要因を作り、双方が傷を深める愚を犯してはならない。近隣諸国など他国も迷惑することになる。

両国の政治指導者は、冷静に日中間の依存関係を深く再認識する必要があろう。日本にとって中国は輸出、輸入いずれも最大の相手国である。一方、中国経済も日本企業による投資に支えられている。対中進出企業数で日本は米国をしのぐ1位(2010年末)となっており、雇用や技術面で貢献している。互いになくてはならない存在だ。

政治的、感情的対立が経済に波及するのを防ぐというのではなく、経済関係をさらに強化、深化させることを通じて、政治的、感情的対立の芽が伸びる余地をなくす仕組み作りが必要だ。

韓国も加えた日中韓の自由貿易協定(FTA)締結に向け、今こそ交渉を加速させることである。欧州統合の例をそのまま東アジアに持ち込むことは無理だとしても、モノの流れの自由化を手始めに、ヒト、カネの動きをもっと活発化させ、国境の壁をより低くすることだ。

特に日本は、中国や韓国企業による投資をもっと積極的に受け入れるべきだろう。中国企業の対日投資額は日本企業による対中投資額の100分の1以下(11年)しかない。それでも中国企業進出の話が出ると「乗っ取られる」と過剰反応するきらいがある。日本のためにならない。

一方、日本企業は今後予想される中国のさまざまな変化を念頭に、戦略を練り直す必要もありそうだ。

中国国内では、反日とは別に、賃金や労働環境への不満を背景とした争議が増えている。高成長の持続、潤沢な安い労働力、といった従来の想定を修正する時にきている。中国一極集中ではなく、日本、極東ロシア、南アジアまで含めた広範な「アジア」の中で展開を考えていくことがより重要になろう。

長期的な視野を持ち、新たな危機を封じこめる知恵と対話が日中に求められている。そのためにも、まず両国にしっかりとした基盤の政権が築かれなければならない。

産経新聞 2012年09月25日

中国の尖閣攻勢 怯まずに対抗措置強めよ

中国の対日交流団体の「中日友好協会」が、27日に北京で予定されていた日中国交正常化40周年記念式典の「中止」を通告してきた。

中国側は、日本政府による沖縄県・尖閣諸島の国有化を中止理由としている。数日前まで「予定通り」だったはずの式典の一方的中止通告は非礼と言うほかない。日本政府は揺さぶりに慌てる必要はあるまい。

重要なことは、尖閣をめぐって中国側が繰り出す数々の対日攻勢を冷静に分析し、はね返すしたたかな姿勢を貫くことだ。

尖閣周辺では連日のように中国公船が出現している。24日にも海洋監視船2隻と漁業監視船2隻が領海内に侵入した。

中国公船は「中国領海における通常業務だ」などと主張し、接続水域内で操業中の中国や台湾の漁船を取り締まるなど「主権行使」を既成事実化する動きも目立つ。外務省はその都度抗議をしているが、中国側の侵犯は常態化している。日本が対抗措置をとらないことにつけ込んでいる。

尖閣を管轄する第11管区海上保安本部(那覇市)を海上保安庁挙げて応援する態勢をとっているにしても、1000トン以上の大型巡視船が計51隻という現体制で十分に対応できるのか、詳細な点検が必要だ。

海保の警察権を離島の陸上にも拡大する改正海上保安庁法が25日に施行される。しかし、武装した漁船が数百隻単位で襲来した場合は海保だけでは対応できない。

軍事的威嚇もある。中国海軍が尖閣諸島の北方海域にフリゲート艦2隻を展開した。23日にはウクライナから購入し改修と試験航行を続けてきた中国初の空母の海軍への引き渡し式も行われた。

日本政府はこうした露骨な中国の圧力に怯(ひる)まず、粛々と尖閣の守りを固めるべきだ。

自衛隊法に基づく海上警備行動を想定するのはもちろん、領海侵犯した外国公船を強制的に排除するための法整備は最低限の準備である。

陸上自衛隊と米海兵隊が米領グアム島で実施している離島防衛のための共同訓練は、米国が尖閣を「日米安保条約の適用範囲」と明言したこともあり、中国への大きな抑止力として評価できる。

それでも、領土防衛について日本自身による毅然(きぜん)とした意思表明と具体的行動が先だ。

毎日新聞 2012年09月25日

日中記念式典中止 長期戦覚悟し打開探れ

尖閣諸島(沖縄県石垣市)をめぐる日中対立は、中国側が国交正常化40周年を記念して北京の人民大会堂で予定していた式典を中止する事態にまでエスカレートした。

日本政府が尖閣諸島を国有化して以来、中国側は交流行事を相次ぎ中止・縮小してきた。影響は政治レベルだけでなく経済や文化、地方自治体の行事にまで及んでいる。

国と国が対立している時だからこそ、交流の窓口は閉ざすべきではない。外交問題で主張が異なっても、その解決は対話を通じた平和的なものでなければならない。中国政府の度を越した対応は成熟した国家のものではなく、極めて残念だ。

中国はまた、多数の監視船を尖閣諸島周辺海域に常駐させ、接続水域や日本領海への侵入を繰り返している。中国政府は話し合いによる問題解決を日本政府に求めているが、力で譲歩を迫るようなやり方は平和解決と矛盾する。挑発行為をやめるよう、中国に重ねて求める。

力ずくで自国の主張を正当化することが国際社会では認められないことは、言うまでもない。野田佳彦首相は国連総会の演説で「法の支配」に基づく紛争予防の重要性を訴える方針だが、暴徒化した反日デモや一連の交流中止措置、そして尖閣諸島周辺海域における挑発など、中国の最近の行動が国際的な秩序に敵対する行為であることを踏まえ、日本の立場を明確に示してほしい。

そのうえで、日本政府は尖閣諸島をめぐる日中間の対立が長期化することを覚悟して、今後の対中外交を立て直す必要があるだろう。

日中関係が冷え込んでいた10年前の小泉純一郎政権時代でも、正常化30周年記念式典は開催された。式典中止という今回の対応はかつてない過激なものであり、中国が本気で日本の実効支配を変えようとしている表れとみるべきではないか。

これに対抗し、日本による尖閣諸島の平穏な管理へと事態を戻すためには、国際世論への訴えや海上監視態勢の強化だけでは足りない。尖閣諸島に関するこれまでの日中間のやりとりを整理し、中国政府の意図や狙いを読み取って、互いに本音で打開の糸口を探るルートをできるだけ早く構築することである。不測の事態から日中が全面的な対決状態に陥るようなことのないよう、双方が主体性を持って平和解決を図るべきだ。

記念式典は中止されたが、政府は河相周夫外務次官を訪中させ、中国高官と協議することになった。国連での日中外相会談も模索している。対話メッセージを出し続けるとともに、内向きの政争をやめ中長期的な対中外交戦略を急ぎ打ち立てることが、政治の緊急課題である。

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