事業仕分け 予算を身近に感じた

朝日新聞 2009年11月19日

事業仕分け 大なた効果を次につなげ

国の予算案づくりの過程が、これほど多くの国民の監視の目にさらされたことは、かつてなかった。

歳出の無駄を洗い出す行政刷新会議の事業仕分けの前半が終わった。マスメディアを通じて作業の様子が連日伝えられ、ウェブ中継へのアクセスはピーク時で2万4千件に及んだ。

税金の使途に対する世論の視線が、それだけ厳しいことの反映でもあろう。鳩山由紀夫首相は仕分けを尊重し、対象外の類似事業にもメスを入れるなど、予算案決定に向けて無駄の排除と効率化を徹底してほしい。

今回の経験で、民主党のマニフェストの実行に必要な予算を事業仕分けだけでひねり出すのは難しいということも、明らかになった。

「廃止」「来年度の計上見送り」とされたのは46事業計1500億円。埋蔵金の国庫返納や予算規模縮減を含めた総額は1兆円規模となる。

95兆円に膨らんだ概算要求の削減目標は約3兆円である。来週行われる仕分け後半の成果を見込んでも、達成は容易ではない。しかも、埋蔵金は一度使えば次年度からは当てにできず、恒久財源にはなりえない。

マニフェストを初年度に、どこまで実現するのか。鳩山政権はいよいよその優先順位を決めなければならない局面にきたといえる。

事業仕分けに対しては、「短時間の議論で結論を出すのは乱暴だ」「仕分け人は現場を知らない」「廃止や見直しの結論ありきではないか」といった批判がある。

とりわけ、引きこもりなどの若者の就職を支援する「若者自立塾」や、子どもに読書や自然体験をさせる「子どもゆめ基金」の廃止には、現場の関係者から存続を求める声が出ている。

確かに、教育や福祉、科学技術などは、費用対効果の物差しだけでは単純に割り切れない分野である。

多少の副作用もあろうが、そのくらいの大なたをふるわないと、自民党の長期政権時代のしがらみを断ち切るのは難しいということでもあろう。

本当に政府が面倒をみなければいけないのか。自治体や民間に任せられないか。行政サービスのあり方を根本から考えようとした事業仕分けの意義は大きい。そのうえで、なお必要だというなら、効果的な手法を工夫して存続させる道はあってもいい。

首相は今回のような事業仕分けは今年限りとする考えを示している。今回の対象が国の全事業の約15%に過ぎないことを考えれば、一度はすべての事業の総ざらえが必要ではないか。

何より、全面公開で行われる事業仕分けは、霞が関の官僚の意識改革や納税者の参加意識の向上にもつながるに違いない。来年以降の予算編成にも、何らかの形で生かしてもらいたい。

毎日新聞 2009年11月23日

科学の仕分け 理系首相に期待したい

「次世代スーパーコンピューターで世界一になる意味は?」「国民に夢を与える」。一見、会話は成立しているが、実はかみ合っていない。

科学技術を対象とする行政刷新会議の「事業仕分け」では、さまざまな事業で仕分け人と文部科学省・科学者の間の溝が浮き彫りになった。背景には、双方が抱える問題があるようだ。

文科省側の問題は、具体的な成果予測を尋ねる国民目線の質問に説得力のある答えが示せない点だ。科学界で「当たり前」でも、市民にとっては違う。きちんと説明できなければ、「甘い」と言われても仕方ない。

ただし、それでばっさり予算削減とされるのには違和感がある。事実上「計画凍結」とされたスパコンにも、日本が独自技術として持つことの重要性や、半導体、創薬などへの波及効果があるはずだ。

仕分けの判断基準には、短期的「費用対効果」など、科学研究になじみにくい要素もある。

特に基礎科学は投じた資金がそのまま成果につながる保証はない。無駄を承知で広く薄く投資しておくことが、思いもかけない果実を生む。若手支援策のような人材育成も、投資効果を測ることは難しい。

予算縮減が打ち出された放射光施設「スプリング8」で議論になった「受益者負担」も、基礎研究者の利用を考えると単純ではない。感染症研究国際ネットワークのように、厚生労働省の業務だといわれても、現実の仕組みが伴わない場合もある。

しかし、なにより科学界をとまどわせているのは、科学技術の国家戦略が示されないまま、個々の事業の足切りを仕分け人が裁定していることだろう。

国際競争の観点から、日本はどの分野に重点を置き、どのように人材や産業、その基盤となる基礎科学を育成していくのか。そのために、一時的に削っても影響の少ない事業は何か。立ち止まって考えた方がいいのは、どういう事業か。

そうした、科学技術政策全体のビジョンと優先順位が見えないまま、予算削減が打ち出されていけば、科学界に危機感が広がる。若手研究者の意欲低下につながっては、元も子もない。

この財政状況で、科学技術だけが「聖域」といかないのはわかる。一方で、財政難だからこそ、将来への投資を失敗しないようにしたい。

鳩山由紀夫首相は、政治判断による科学技術関連予算の復活の可能性も示している。理系首相ならではの、国民も科学界も納得するような、国家戦略に基づく予算編成に期待したい。

産経新聞 2009年11月20日

事業仕分け 無駄洗い出しに公正さも

政府の行政刷新会議は「事業仕分け」の前半日程の結果報告を行った。鳩山由紀夫首相は、仕分け対象とならなかった類似事業も厳格査定するよう指示した。

仕分け作業では、縦割り行政による事業の重複や“天下り法人”が抱える基金など非効率な予算の実態が浮き彫りになった。「廃止」や「見直し」と仕分けられた事業には、時代の変化の中で当初の目的や意義を失ったのに漫然と続けられてきたものや、官僚や「族議員」の抵抗で切り込めずにきたものも多い。

硬直化した予算編成を抜本的に見直す契機になったといえる。自民党政権に比べて、しがらみが少ないためでもある。24日以降の後半日程でも、徹底した無駄の洗い出しに期待したい。

仕分けの議論が国民に公開されたことも意義がある。ネットの同時中継へのアクセスが殺到したように、税金の使い道に対する国民の関心は高まった。

一方、仕分けの手法には問題点が少なくない。約1時間で1事業に結論を出すのはあまりに拙速だ。「仕分け人」はすべての事業に精通しているわけではないだろう。限られた時間に矢継ぎ早に質問を浴びせかけ、官僚が答弁に窮すると「不要」との判断にもっていくようなやり方は「人民裁判」との批判も出ている。

そもそも、仕分け人がどういう基準で選ばれたのか明確な説明はない。次世代スーパーコンピューターに代表される科学技術や社会保障など、効率性や目先の成果だけでは語れない事業も多い。

判断基準が不明瞭(めいりょう)な点も問題だ。仕分け人が異なれば違う結論が出たのでは公正とはいえまい。仕分けを行う前に、鳩山政権としての国家ビジョンや共通方針を定めておくべきだ。菅直人副総理が担当する国家戦略室が機能していないことに問題がある。早急に是正すべきだ。

仕分けにあたって論点マニュアルが事前配布されていた。対象事業の選定も財務省の意向が色濃く反映された。これでは「結論ありき」との批判が出るのも当然だろう。政治主導の看板が泣く。

仕分けを行うワーキンググループには法的権限はない。改めるべきことは多い。仕分け作業の結果をくみ取りつつも、現実的な予算をどう組み上げていくのか。鳩山首相の指導力が問われるのはこれからだ。

毎日新聞 2009年11月18日

事業仕分け 予算を身近に感じた

ある意味、衝撃的な5日間の作業だった。政府の行政刷新会議のチームによる事業仕分けが前半日程を終えた。各省庁の事業の必要性が法廷さながらの場で吟味され、国への返納を求めた「埋蔵金」を合わせると、捻出(ねんしゅつ)した総額は1兆円を超した。

短時間の議論で「廃止」「減額」など審判を下す作業には「乱暴だ」との批判も出ている。だが、予算編成の過程を国民に公開する一種のショック療法は、行政に意識変革を迫ったはずだ。後半の日程はもちろん、仕分け対象外となった事業にも応用する形で、刷新会議は一層のムダ撲滅に取り組まねばならない。

かくも徹底した査問になるとは、所管省も予想しなかったのではないか。予算計上をめぐり容赦ない批判が民間や国会議員の仕分け人から浴びせられ、ほとんどの事業が見直しを迫られた。ネットの同時中継にアクセスが殺到し、関心の高さを裏付けた。感情に走ったやり取りも確かにあったが、予算を国民に身近なものにした意味で、新鮮だ。政治の「文化」を変える試みと評価したい。

特に、2日目の仕分けで国所管の基金や特別会計の剰余金6000億円の返納を要請したことは収穫だ。仕分け対象外の基金にも応用することで、刷新会議は「埋蔵金」の発見に努めてほしい。

一方で、課題も浮かんでいる。特に、科学技術に関連する予算は費用対効果の側面だけから論じられない部分がある。社会保障、福祉も実際に現場の声を聞かないと、判断は難しい。合理的な反論がない限り政府は仕分けチームの判断を尊重すべきだが、テーマによっては再検討する工夫があってよかろう。

また、仕分けの際に財務省が「論点」として意見を記し配ったことは、誘導と取られかねない。一連の作業には「財務省主導」との指摘が強まっている。そもそも対象事業の選定過程の公開が不十分であり、同省所管の仕分け対象が8事業足らずの点も合点がいかない。後半日程では仕分け対象の追加も含め、より公正な運営をこころがけてほしい。

95兆円を超す来年度予算の概算要求を仕分けでどこまで絞りこめるかは、まだ不透明だ。だが、必ずしも「3兆円」など数値だけにこだわるべきであるまい。仕分け対象外の事業にも切り込めるか、鳩山内閣の政治力が最終的には試される。

また事業仕分けについて、鳩山由紀夫首相は今年限り、との意向を表明している。だが、予算編成を衆人環視とするための工夫は今後も必要だ。予算の一部だけを抜き出すのではなく、全体の透明化につながるような制度設計に刷新会議は取り組むべきである。

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