地価底入れの兆しはあるものの、東日本大震災の爪痕が残っており、先行きは不透明だ。
国土交通省が7月1日時点の基準地価を発表した。住宅地が21年連続、商業地も5年連続で下落したが、下落率はともに前年より縮まった。
東京など3大都市圏の下落率は住宅地、商業地いずれも0%台へ縮小し、横ばい状態となった。
超低金利や住宅ローン減税などの政策効果で、住宅需要が高まったことが要因だ。今春開業した東京スカイツリー周辺のように、大型商業施設や再開発が地価上昇の追い風になった地域もある。
ただし、全国2万か所の調査地点のうち、地価が上昇したのは658地点で、全体の3%に過ぎない。都市部に比べて、地方の回復は遅れている。
地価が本格的な上昇局面を迎えるまで、なお時間がかかるのではないか。政府は今後の動向を注視する必要があろう。
気になるのは、大震災や原発事故の被災地で、地価の二極化が強まっていることだ。
津波によって被害を受けた沿岸部と、原発事故の影響が深刻な福島県などは特に下落が目立つ。一方、被災者の移転需要で高台は軒並み大幅に上昇した。
住宅地で上昇率が全国一だったのは、岩手県陸前高田市内にある高台だ。上昇率の全国上位10地点を岩手、宮城両県が独占した。
地価の急上昇は、被災者の住宅再建に悪影響を及ぼしかねない。近隣の限られた宅地に需要が集中し、値上がりに拍車がかかれば、自治体は復興計画に必要な用地買収を迅速に実施できなくなる。
自治体が手間取っている間に、民間事業者が先行し、用地を取得するケースもあるという。
政府と自治体は連携し、復興事業を急がねばならない。投機的な売買を招かないよう、土地取引の監視を強めることも必要だ。
今回の基準地価には、災害に対する住民の警戒感が反映している点も見逃せない。
大震災の被災地にとどまらず、和歌山県や高知県などの沿岸部でも下落が目立つ。南海トラフ巨大地震などの津波被害が懸念されているためだろう。
大震災の教訓は都市部にも浸透している。耐震性に優れたオフィスビルが集まる地域は、地価が持ち直し傾向にある。
「安全性」は全国で不動産の新たな評価基準になっている。地域の防災機能を強化することが、地価の本格回復にもつながろう。
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