輿石幹事長続投 融和路線でまた先送りか

毎日新聞 2012年09月25日

輿石幹事長続投 先送りの布石とするな

何とも内向きだ。民主党の代表に再選された野田佳彦首相は党の要となる幹事長人事で輿石東氏の留任を決めた。

消費増税などをめぐり首相と距離感が目立った輿石氏をあえて続投させた人事から浮かぶのは「反野田」勢力の離党阻止に腐心せざるを得ない首相の苦境だ。守りの姿勢が眼前の諸課題の先送りにつながりかねないことを危ぶむ。

新役員人事では政調会長に細野豪志環境相、幹事長代行に安住淳財務相をあて、山井(やまのい)和則国対副委員長を国対委員長に昇格させるなど新鮮味にも配慮した。だが、政権の方向にかかわる意味で重要なのは輿石氏の留任である。

消費増税に政権を懸けた首相と党内融和を優先する輿石氏は路線の違いがこのところ目立っていた。にもかかわらず国連総会出発に先立ち、首相はあたふたと続投を決めた。

野田内閣の下で民主党議員の離党が進み、衆院で10人程度が離党すれば与党が過半数を失いかねない状況だ。党の分解を食い止める「かすがい」役しか、幹事長続投の理由は思い浮かばない。代表選で7割近い得票で圧勝しながら、何とも危うい首相の足元である。

輿石氏は早期の衆院解散について慎重論者と目されている。与野党には早くも秋の衆院解散は遠のいたとの臆測が広がり、自民党の新総裁候補は警戒と反発を強めている。

早期解散回避の流れを強めようと、違憲状態にある衆院「1票の格差」是正の処理を先送りするムードが民主党内に広がるおそれもある。そうなれば与野党対立が強まり、特例公債法案など懸案決着に悪影響を来しかねない。今回の人事は、政治の停滞を加速させる懸念がある。

3党合意路線を輿石氏がどこまで真剣に堅持するかも問われる。年金問題を話し合う「社会保障制度改革国民会議」の設置はすでに遅れている。安住、山井氏の起用で路線を維持しようとする首相の思いはにじむが、後退の不安はぬぐえない。

輿石氏続投がそもそも議員離党の歯止めになるかも疑問だ。輿石氏は小沢一郎氏との太いパイプを誇っていたが結局は党分裂を回避できなかった。民主党を「泥船」とみて去る多くの議員の行動原理は選挙での生き残りだろう。執行部が融和に腐心したからといって流れを止められるわけでもあるまい。

「決める政治」を唱える首相がその覚悟を裏付ける布陣をしないようでは問題だ。来る自民党新総裁との会談で「1票の格差」是正に踏み込んだ決意を示さないと政治はまた不信に沈んでしまう。時間稼ぎが許される局面ではない。

読売新聞 2012年09月24日

輿石幹事長再任 「近いうち」の真意が問われる

あまりに「内向き」な人事ではないか。

民主党代表に再選された野田首相が、輿石東幹事長に再任を要請し、輿石氏も受け入れた。

幹事長人事は、首相の政権運営の新たな方向性を示すメッセージだ。

輿石氏には、党分裂を招いた責任が問われ、交代説が出ていた。幹事長は国政選や国会運営を仕切る要職なのに、首相との路線の違いが目立ったこともある。

だが、代表選で「反野田」票を投じた国会議員の中に離党の動きがあることから、昨秋、「党内融和」の象徴として幹事長に起用した輿石氏の再任が望ましい、と首相は判断したのだろう。

衆院で10人前後が離党すれば、民主、国民新両党は「少数与党」に転落し、政権運営が立ち行かなくなるからだ。

しかし、これでは、代表選でも指摘された「責任を取る文化」とは程遠い。

さらに見過ごせないのは、輿石氏が先の通常国会で、党の分裂回避を優先するあまり、社会保障と税の一体改革や衆院選の「1票の格差」是正に一貫して後ろ向きだったことだ。

輿石氏は、民自公3党首が合意した「近いうち」の衆院解散・総選挙についても、「『近いうち』にこだわる必要はない」などと公然と軽視する発言を行い、自公両党の強い批判を招いた。

輿石氏は、衆院選の時期について、来年夏の衆参同日選を持論としている。民主党内では、苦戦が予想される衆院選の先送り論が大勢の中、「近いうち」が、ないがしろにされないか。

輿石氏の再任について、自民党幹部は「怒りを通り越してあきれた」などと反発を強めている。公明党の山口代表も、「解散回避が目に余るようなら、かえって墓穴を掘る」と指摘している。

衆参ねじれ国会とはいえ、民主党は、政権党として、政治を前に動かす一義的な責任を負っていることを自覚すべきだ。

「党内融和」の名の下に、3党の協調路線を軽んじるようでは、野党の協力が得られず、「決められない」政治が今後も続く。

秋の臨時国会では、赤字国債発行を可能にする特例公債法案の成立や「違憲状態」を解消する衆院選挙制度改革が待ったなしだ。

野田首相は、26日に選出される自民党の新総裁との党首会談で、一体改革をめぐる3党合意の再確認に加え、重要政策の基本的な方向づけを行う必要がある。

産経新聞 2012年09月24日

輿石幹事長続投 融和路線でまた先送りか

野田佳彦首相は「決められる政治」の実現をみずから遠のかせるつもりなのか。

民主党代表再選後の党人事で、首相は要となる幹事長に輿石東氏の続投を決めた。耳を疑う判断である。

輿石氏は、社会保障・税一体改革などの主要政策について与党内の一本化を図ることよりも党分裂回避を優先させ、衆院の早期解散にも抵抗してきた。

野田首相はこれから、社会保障の給付抑制や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉参加など内外の懸案に取り組まなければならないというのに、今回の人事は問題を先送りし、何もしないと宣言したに等しい。これで国家や国民の利益は守れるのか。政権や与党としての延命ばかり考える無責任さを露呈しているといえる。

首相は近く、自民党の新総裁や山口那津男公明党代表との3党首会談を行う意向だが、この布陣で与野党協調の枠組みをどう構築しようというのか。

首相は21日の代表選の直後に輿石氏と会って続投を要請した。

党内には衆院選を控え、参院議員の輿石氏は交代が望ましいとの声もあった。だが、さらに離党者が出て与党過半数割れなどの事態は避けたい。それには党内融和を最重視する輿石氏の続投が望ましいと首相は判断したのだろう。

早期解散による大幅議席減を恐れる党内には、輿石氏なら解散を阻止してくれるだろうという期待もある。

首相自身も「近いうち」の解散という自民、公明両党との合意の見直しを示唆している。輿石氏の続投で、首相の本音は解散先送りなのかと受け止められ、野党はさらに反発するだろう。

さきの通常国会は首相問責決議が参院で可決された状態で閉幕し、臨時国会を開いても正常に審議が行えるかは不透明だ。

特例公債法案や衆院の「0増5減」の格差是正など、首相が国民の信を問う前に処理すべき必要最小限の課題はある。だが、成立の見込みがないのに与党案審議を強行する手法をとってきた輿石氏に自公両党は強い不信感を示してきた。混迷は深まらないか。

融和路線では政権の行き詰まりは打開できない。首相は、早期解散を決断することでしか、当面の課題の処理すらできないという状況を認識すべきである。

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