原発ゼロ政策 政権の覚悟がみえない

朝日新聞 2012年09月20日

脱原発政策 うやむやにするのか

野田政権が、原発ゼロを目指す新しいエネルギー戦略の閣議決定を見送った。

まことに情けない。

新戦略は「原発ゼロ」を掲げながら核燃料サイクル事業を容認するなど、矛盾に満ちてはいたが、これでは肝心の脱原発までがうやむやになりかねない。

閣議決定の見送りは、米国や経済界、立地自治体が原発ゼロに強く反対しているためだ。

脱原発はきわめて大きな政策転換である。あつれきが生じないほうがおかしい。

大事なのは、原発に依存しない社会に向けて、政治が原発維持派との折衝を含め、きちんと取り組んでいるか、私たち国民が監視していくことだ。

折しも、きのう原子力規制委員会が発足した。

原子力の推進と一体だった業界監視から、国民の命と安全の確保を第一義とする仕組みへ、規制のあり方を根幹から立て直す重い任務を担う。

さっそく焦点となるのが、原発の再稼働問題である。

ストレステストの実施や旧原子力安全・保安院が定めた30項目の安全基準、関係閣僚による政治決定といった暫定的な枠組みは、ご破算になる。

いくつもの原発で、大地震や敷地内外の活断層が及ぼす影響が懸念されている。対象範囲を拡大した周辺自治体の本格的な防災対策もこれからだ。

規制委は、純粋な科学的見地から、妥協を許さない基準づくりと審査を貫いてほしい。

気になるのは、野田内閣が原発再開の可否をすべて規制委に委ねるような姿勢を示していることだ。

たとえ規制委がお墨付きを与えたとしても、「絶対安全」は存在しない。原発のリスクがゼロにならない以上、再稼働は最小限に抑えるべきだ。

どの原発を動かし、どの原発を止めるか。その判断は、安全性に加えて、電力需給などの観点からも検討すべきものだ。これは規制委ではなく、まさに政治の仕事になる。

政府は具体的な指標づくりの場を設け、作業に入るべきだ。電力需給の検証のほか、地域を越えた融通の可能性、電気料金への影響などが検討の対象になる。国会議員有志が発表した「原発危険度ランキング」のような仕組みも参考になろう。

野田政権は、新戦略を踏まえたエネルギー基本計画を閣議決定するという。

ここで原発ゼロの目標を盛り込めないなら、民主党政権は国民から完全に見限られることを覚悟すべきだ。

毎日新聞 2012年09月20日

原発ゼロ政策 政権の覚悟がみえない

これでは政策実現への決意が疑われる。野田内閣は、原発ゼロ目標を盛り込んだ「革新的エネルギー・環境戦略」に関し、柔軟に見直しながら遂行するという方針だけを閣議決定し、新戦略そのものは参考文書にとどめた。

政府に対する拘束力が弱まり、脱原発は骨抜きになりかねない。野田内閣は、国民的議論を踏まえた決定の重みを認識し、脱原発への覚悟を示すべきだ。

政策は閣議決定されることで、内閣の意思として確定し、その決定は変更されない限り、歴代内閣を拘束する。閣議決定をしないのでは、政策実現に責任を持つ意思を疑われても仕方ない。

そもそも、新戦略づくりが大詰めを迎えた段階でも、内閣の腰は据わっていなかった。

反原発の世論を受け、「原発ゼロ」を目標に掲げたものの、使用済み核燃料を大量に中間貯蔵している青森県や、核燃料サイクルに協力してきた米英仏に配慮し、核燃サイクルは継続することにした。

新戦略の実現に向け、新法制定も予定していたが、最終段階でその構想は戦略の文面から削除された。

それでも、「原発ゼロ」の目標は維持して、原発拡大路線からの政策転換を打ち出したが、戦略決定後も収まらない原発の地元自治体や経済界、米国などの反発に配慮して、閣議決定を見送った。

こうした腰砕けとも思える修正が続く一方で、原発依存の継続につながる動きが出ている。

新戦略は原発の新増設は行わないと確認しているが、枝野幸男経済産業相は、東京電力福島第1原発の事故以降、工事が中断している原発2基について、建設継続を容認した。40年廃炉原則を適用しても2050年代まで稼働可能になり、「30年代の原発ゼロ」目標とは矛盾する。

確かに、脱原発のためには、代替電源の確保や電気料金の抑制、安全保障問題など克服すべき課題が多い。解決の道筋が示されなければ、抵抗があるのは当然だ。

そうした課題は、半年以上にわたる総合資源エネルギー調査会の審議や、国民的議論の中でも指摘されてきた。野田内閣は、それを踏まえて「原発ゼロ」を政治決断したはずではなかったか。

そうであれば、新戦略そのものを閣議決定するのが筋だ。そのうえで、課題を克服するための政策に知恵を絞り、国民の理解と協力を求めるべきだろう。

野田佳彦首相には、一連の修正が脱原発政策とどう整合するのかをきちんと説明し、「原発ゼロ」への覚悟を改めて示すよう求めたい。

読売新聞 2012年09月20日

原発ゼロ方針 「戦略」の練り直しが不可欠だ

こんな決着では、「原子力発電ゼロ」を見直すのか、それとも強行するのか、あいまいだ。

政府は、日本経済や雇用に多大な打撃を与えかねない「原発ゼロ」を明確に撤回し、現実的なエネルギー戦略を練り直すべきである。

政府が、2030年代の「原発稼働ゼロ」を目指すとした「革新的エネルギー・環境戦略」の閣議決定を見送った。

代わりに「戦略を踏まえて、関係自治体や国際社会と責任ある議論を行い、不断の検証と見直しを行いながら遂行する」という対応方針のみを閣議決定した。

今回のエネルギー戦略には、経済界や原発立地自治体が反発し、原子力協定を結んでいる米国も強い懸念を示している。

閣議前日の18日には、経団連、日本商工会議所、経済同友会の財界トップ3人が共同で緊急記者会見を開き、「原発ゼロ」の撤回を政府に求めた。

経済3団体の長がそろって政府に注文をつける異例の対応をとったのは、「原発ゼロ」では電気料金が2倍に跳ね上がり、産業空洞化や大量の雇用喪失が避けられないという危機感からだ。

太陽光や風力など再生可能エネルギーの普及をはじめ、原発の代替電源を確保するメドは立っておらず、電力の安定供給が揺らぐ恐れもある。

こうした懸念に配慮し、政府がエネルギー戦略をそのまま閣議決定しなかったのは当然である。

ただ、古川国家戦略相は記者会見で「戦略の決定内容を変えたものではない」と説明した。「原発ゼロ」の方針を堅持しているともとれる発言は問題だ。

経済界が猛反発したままでは、エネルギー戦略を円滑に推進できるはずがない。政府は、経済界の意見に真摯(しんし)に耳を傾け、関係修復を急ぐべきである。

エネルギー政策は、目先の選挙目当てではなく、日本の将来を見据えた対応が求められる。

自民党総裁選の全候補が、「原発ゼロ」の方針を打ち出すことに慎重な見解を示しているのは、妥当と言えよう。

一方、民主党代表選の論戦で野田首相は、「(原発ゼロは)国民の覚悟だ。それを踏まえて政府も覚悟を決めた」と述べた。

だが、「原発ゼロ」に伴う失業や貧困のリスクを理解し、苦難を受け入れる覚悟を固めている国民がどれほどいるだろうか。

国策選択の責任を、国民の「覚悟」に丸投げするのは誤りだ。

産経新聞 2012年09月21日

原発ゼロ政策 首相は破綻認めて出直せ

目を覆うばかりの迷走である。これで国の重要政策を決めたつもりなのだろうか。

2030年代に原発稼働ゼロを目標とした「革新的エネルギー・環境戦略」のことだ。日本経済への影響や原子力関連施設の立地自治体、そして海外との関係など現実を直視しておらず、戦略自体が破綻している以上、閣議決定を見送ったのは当然の結果だ。

問題は、野田佳彦政権がこの戦略を参考文書にとどめ、「柔軟性をもって不断の見直しを行う」としつつも、原発ゼロ政策の破綻を明確に認めていない点にある。

政府は直ちに原発ゼロを撤回し、原発利用を含めた実効性あるエネルギー政策の策定に踏み出さなければならない。

政府が14日にまとめた戦略は、安全性が確認された原発は再稼働を認めるとする一方、運転開始から40年が経過した原発は原則廃炉として新増設は認めず、これによって30年代に原発稼働ゼロを目指すとしている。

だが、青森県が立地に協力した使用済み核燃料の再処理事業は継続するなど、原発ゼロとの矛盾は最初から明白だった。高速増殖原型炉「もんじゅ」の将来の廃炉方針も再処理継続と矛盾する。米国やIAEA(国際原子力機関)が懸念を示したのは当然だろう。

戦略決定の翌日には、枝野幸男経済産業相が青森県の三村申吾知事に大間原発(青森県)の建設続行を容認する方針を伝えた。妥当な判断といえるが、これも「30年代の原発ゼロ」とつじつまが合わないことを認めたのと同じだ。

経団連など経済3団体のトップが共同で会見し、原発ゼロの撤回を求めたのも異例だ。戦略通りなら電気料金は2倍に高騰し、国際競争力の低下で産業空洞化に拍車をかける恐れがあるためだ。

政府による原発ゼロ政策は数々の矛盾が一斉に噴き出し、国の将来を見据えたエネルギー戦略とは到底言えない。立地自治体の信頼を失えば、今後の原発再稼働にも支障をきたす。

だが、野田首相は「原発ゼロは国民の覚悟だ」として戦略の見直しを明言していない。これでは選挙向けに実現不可能なマニフェスト(政権公約)を掲げて国民を欺いた無責任な姿勢と同じだ。

問われているのは、原発への不信が根強い国民に対し、その必要性を訴える首相の覚悟である。

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