規制委発足 原発廃止を任務にするな

毎日新聞 2012年09月19日

原子力規制委発足 事業者の虜になるな

原発の新たな安全規制を担う原子力規制委員会と、事務局として規制委を支える原子力規制庁が19日に発足する。原発で緊急事態が起きた際には、規制委が原子炉への注水など専門的な対策を判断し、首相もそれを覆すことができないなど規制委は極めて強い権限を持つ。それだけに、原発関連業界や学界、政治からの不当な圧力を排除した「原子力安全の番人」として、国民の健康と安全を守る原子力規制行政の実現に全力を尽くしてほしい。

原子力規制委は委員長と委員4人の計5人で、国家行政組織法第3条に基づき設置される。環境省の外局だが、予算や人事を自ら管理するなど独立性が高い。規制庁は約500人体制で、内閣府原子力安全委員会や経済産業省原子力安全・保安院などの旧組織を解体して一元化した。規制委員長には田中俊一・前原子力委員会委員長代理、規制庁長官には池田克彦前警視総監が就任する。

東京電力福島第1原発事故では、官邸に正確な情報を提供し、適切な助言をするはずの原子力安全委や保安院がまったくと言っていいほど役に立たなかった。重大事故は発生しないと高をくくり、緊急時の指揮命令系統や広域避難体制の整備ができていなかったからだ。

国会の事故調査委員会は、規制当局が専門性で東電に劣り、「規制する立場とされる立場に逆転関係」が起きて事業者の「虜(とりこ)」になっていたと指摘したが、その轍(てつ)を踏んではならない。規制庁の職員の多くは保安院などからの横滑り組が占めるが、虜とならないための専門性の向上策や意識改革が欠かせない。

原発事故は起きることを前提とした防災体制の構築も急務だ。安全委は今年3月、重点的な防災対策を求める区域を原発の8~10キロ圏から30キロ圏に拡大した防災指針の改定案をまとめたが、規制委の発足遅れで最終決定は持ち越され、立地自治体の防災計画見直しも止まったままだ。池田氏には、警察官僚としての経験を生かした対応を期待したい。

政府は2030年代に原発ゼロを目指す新戦略を決定する一方、安全性が確認された原発は「その過程で重要電源として活用する」とした。規制委は今後、原発の再稼働に関する安全基準の法制化や40年廃炉ルール、原発の活断層リスクの再評価などにも取り組むが、国民の信頼を得ることが「活用」の大前提となる。

そのためにも、規制委人事の国会同意を改めて求めたい。政府は与党からも造反が出ることを嫌い、特例規定に基づき首相権限で委員を任命したが、規制委の発足の経緯やその強大な権限に照らせば、国会同意は不可欠である。

読売新聞 2012年09月21日

原子力規制委 安全確認の基準作りを急げ

東京電力福島第一原子力発電所の事故で失われた原子力安全行政への信頼回復が急務だ。

19日に発足した原子力規制委員会と、事務局の原子力規制庁の責務は重い。

複数省庁に分散していた規制部門を統合し、原発を推進する経済産業省などから分離させた。国家行政組織法第3条に基づく組織で、政治からの独立性も高い。

まず求められるのは、個々の原発が十分に安全かどうか、技術的な知見に基づき、客観的かつ厳正に判断することである。

田中俊一委員長と4人の委員で構成する規制委は、安全確認の判断基準作りや、検査体制の整備を早急に進めねばならない。

国内の原発は、7月に再稼働した関西電力大飯原発3、4号機を除く48基が停止している。

政府が設けた再稼働の暫定基準が原因だ。原発事故の教訓に基づき、政府は非常電源の強化など緊急安全対策を各原発に求めた。

それに加え、「脱原発」派の菅前首相が持ち込んだ法的根拠のないストレステスト(耐性検査)まで実施させていた。

30基の原発からテスト結果が提出されたものの、大半の審査は手付かずで、妥当性が判断されないまま規制委に引き継がれた。

こうした中途半端な状況を解消する必要がある。

田中委員長は記者会見で、「ストレステストは政治的なもの。それにとらわれない」と述べた。欧米でもストレステストは再稼働の条件になっていないことを考えれば、妥当な見解だろう。

再稼働に向けて、防災体制を整え、これまでの安全対策に漏れがないか検証する姿勢を示したことも理解できる。

問題は、基準作りと安全判断にいつまで時間をかけるかだ。

北海道電力は、原発再稼働なしには冬の需給が厳しいと危機感を示すが、田中委員長は「年内は難しいのではないか」「電力需給は考慮しない」と述べている。

無論、安全対策で見切り発車は許されない。だが、浅はかな「脱原発」の声に過度に配慮して判断を先送りし、停電により産業や市民生活に悪影響を与えれば、規制委の存在意義が問われよう。

規制委は、福島第一原発の廃炉までの安全確保策や、原発の「原則40年廃炉」の検討など多くの課題を抱えている。

規制委人事が国会同意を得ていないことに批判はあるが、着実に職責を果たし、実績を上げることが何より大切だ。

産経新聞 2012年09月19日

規制委発足 原発廃止を任務にするな

原発の安全性向上を目指す独立性の高い新組織となる原子力規制委員会が19日、発足する。国会同意が得られていないため、野田佳彦首相が首相権限で田中俊一委員長と4人の委員を任命する。また、事務局として規制委を支える原子力規制庁も同日、環境省の外局としてスタートする。

変則的な門出だが、仕事は山積している。何より日本の原子力発電に対する国内外の信頼回復が急務だ。全力を傾注してほしい。

規制委の仕事は、経済産業省の原発推進行政と一線を画す規制行政の強化である。だが、原発廃止の加速が、規制庁の任務ではないことを確認しておきたい。

政府は「2030年代の原発稼働ゼロ目標」を掲げたが、原発ゼロではエネルギー資源に乏しい日本の将来は成り立たない。

地震をはじめとする自然災害の多い国土で、より安全に原発を運転し、重要電源として活用していくための仕組み作りが、規制委に求められる任務である。

選挙対策を優先した安易な脱原発論にくみすることなく、理にかなった規制と利活用を両立させる道を切り開いてもらいたい。

規制委がなすべき仕事の第1は、原発の安全基準の策定だ。断層の調査もある。これらと同時に、旧体制で安全確認が進んでいる四国電力伊方3号機や北海道電力泊1、2号機の再稼働の判断も急ぐべきだ。

泊原発については、とりあえず冬季対応で稼働させ、新基準の策定後に再度判断するなどの手段も考えられよう。年内の再稼働が遅れると北海道の厳しい寒さが人々に牙をむく。

原子力規制行政にとって、中長期的には、原子力発電の現場で通用する知識と技術を備えた人材の育成が不可欠だ。「原子力ムラの排除」という原理主義が人事に持ち込まれた結果、規制委メンバーにさえ、原子炉と電気の専門家を欠くという状況である。

これまでの原子力安全・保安院職員には、幹部が経産省と頻繁に異動することなどで専門知識が不足する傾向があった。国会事故調からも指摘されている。

実務を担う原子力規制庁は今後、千人規模の大所帯となる予定だ。大学での原子力研究を活性化させ、入庁した若い人材が腰を落ち着けて能力を発揮できる組織づくりを目指してもらいたい。

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