反日デモ 中国の自制を求める

朝日新聞 2012年09月22日

野田首相が代表再選 早期解散へ、環境整えよ

民主党代表選は、野田首相が大差で再選を決めた。

政権交代から3年。民主党政権の歩みは曲折を重ねた。

予算の組み替えで16.8兆円の新規財源を生み出すとしたマニフェストは破綻(はたん)した。消費増税を決めたことは評価できるが、3年前の総選挙では「やらない」と国民に約束していたことも事実だ。

原発事故を受けて「2030年代の原発ゼロ」を掲げたことはよかった。一方で、財界などに批判されるや、閣議決定を断念したのは情けないかぎりだ。

■3党の枠組み維持を

代表選で、首相が「最大の成果」と胸を張ったのが、民主、自民、公明の3党合意による社会保障と税の一体改革だ。

政権が交代しても、安定的に維持できる社会保障制度をつくる。そのパートナーのはずの谷垣自民党総裁が総裁選に立候補できなかったことは、首相にとって誤算だったに違いない。

それでも、総裁選に立った5候補は、それぞれ「3党合意は守る」と表明している。

一体改革だけではない。政治を前に進めていくには、3党の協調態勢が欠かせない。

先月、首相は谷垣氏、公明党の山口代表と「近いうちに信を問う」ことで合意した。党首どうしの約束は重い。

もし首相が衆院解散をさらに先送りすれば、3党の信頼関係は完全に崩れるだろう。

先の国会会期末、民主党の強引な国会運営や、自民党などによる首相への問責決議可決によって、赤字国債発行法案や衆院定数の是正法案などが廃案に追い込まれた。

このままでは、次の国会でも同じことの繰り返しになりかねない。肝心の一体改革も空中分解する恐れさえある。

■消費増税に審判仰げ

本来なら、衆院議員は4年の任期いっぱい仕事をするのが筋だ。とはいえ「動かない政治」を続けることが、国民にとって望ましいとは言えまい。

早い時期に解散・総選挙に踏み切り、政治を動かす環境をつくる。政権の最高責任者として、首相はそのことを決断すべきときである。

民主党内は解散反対論が大勢だ。代表選の前に、首相が解散時期を明示したら、みずからの再選も危うくなりかねない。その揚げ句、一体改革も頓挫したかもしれない。

だが、そんな言い訳はもはや通用しない。

何よりも、政権交代時のマニフェストを裏切る形で消費増税を決めた事実は重い。できるだけ早く国民の審判を仰ぐべきなのは当然のことだ。

もちろん、総選挙をしても、それだけで政治が動くという保証はない。与野党が足を引っ張り合う政治がふたたび繰り返されるなら、迷惑を受けるのは国民だ。

■政治の悪循環を断つ

次の総選挙を、そんな悪循環を断ち切る契機とする。そのために、首相に提案がある。

自民党の新総裁が決まったら速やかに3党首会談を呼びかけ、次の3点を解散前に実行することで合意するのだ。

(1)総選挙後も、一体改革の3党合意を堅持することを再確認する。社会保障をめぐる国民会議はただちに設置する。

(2)秋の臨時国会で、赤字国債発行法案と、最高裁に違憲状態と断じられた衆院の一票の格差をただす「0増5減」の自民党案を成立させる。定数削減をふくむ選挙制度改革は、首相の諮問機関を設置して参院とあわせて検討をゆだねる。

(3)衆参の多数派がねじれても合意形成ができる国会のルールづくりを、与野党で精力的に詰め、結論を出す。

国民から不信の目を向けられているのは、民主党だけではない。既成政党全体の姿勢が厳しく問われていることを、自民党など野党も自覚すべきだ。

注目されるのは、自民党総裁選に立候補している石破茂・前政調会長が、赤字国債発行法案を「政争の具に使うべきではない」と語っていることだ。

まず自民党が、次いで民主党が「ねじれ国会」に苦しんだ。そんな政治にはさすがに懲りたということだろう。

赤字国債発行法案は、予算と一体で成立させる。国会同意人事は衆院の議決を優先させる。衆参の議決が異なる際に設ける両院協議会に、結論を出せる仕組みを導入する。

与野党がこうしたルールで合意できれば、国会は動き出す。首相が1年ごとに交代する惨状も改善するに違いない。

震災復興や原発事故への対応を進め、新しいエネルギー政策の計画をつくる。こじれた近隣外交の立て直しも急務だ。自由貿易の枠組みをどう築くかも結論を急ぐ必要がある。

政治が答えを迫られている課題は目白押しだ。総選挙に向けて、各党は現実的で説得力ある公約を国民に問うべく、作業を急いでほしい。

毎日新聞 2012年09月22日

野田民主代表再選 解散恐れず懸案こなせ

「高揚感より責任の重さを感じる」の言葉通り、ほっとしている場合でないことは本人も十分承知しているだろう。21日の民主党代表選で野田佳彦首相が再選された。

元々、首相の圧勝が確実視されていた代表選だ。だが、内外に課題が山積する中、野田内閣と民主党に対する国民の目は一段と厳しくなっている。一方、党分裂後も離党者は後を絶たない。こうした危機的状況を自覚し、どこまで真剣に3年間の政権運営を総括できるか。今回の代表選はまずそれが重要だったはずだ。だが、なぜ、数々のマニフェストが実現できなかったのか。国民に向けた議論は乏しかった。

また環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加問題について首相を除く3候補が慎重姿勢を表明するなど、消費増税だけでなく、党が分裂してもなお主要政策で党内がばらばらであることを見せつける結果となった。首相の再スタートに弾みがついたとはとてもいえない。

野田首相は近く党役員人事を行い、内閣も改造する意向だ。また谷垣禎一自民党総裁に代わる新総裁が選出された後、山口那津男公明党代表とともに3党首会談を行い、税と社会保障の一体改革に関する先の3党合意を再確認するという。

焦点となるのは谷垣氏との間で交わされた「近いうち解散」合意の取り扱いだ。野田首相は参院で問責決議が可決された点を挙げ、「変化があった」と述べて、合意の見直しも示唆しているからだ。

民主党内では苦戦が予想される衆院解散・総選挙は先送りしたいとの声が依然、圧倒的だ。しかし、それに押され、「近いうち」合意をほごにすれば、今後、臨時国会を開いても早期解散を求める自民党など野党の反発でたちまち立ち行かなくなるのは目に見えている。

衆院小選挙区の1票の格差是正のための立法措置や、今年度予算執行に必要な赤字国債を発行するための特例公債法案など一刻の猶予も許されない懸案が残っている。税と社会保障の一体改革も自民党総裁選の結果次第では3党合意通りに進む保証はない。これらを進めるには、やはり解散から逃げないことだ。

首相が1票の格差是正とともに衆院の定数削減にも今もこだわっている点も気になる。同時決着を目指していては各党がまとまるはずがないのは分かっているはずだ。格差是正を切り離し、先行させるべきだと改めて指摘したい。

野田首相はこの日も「ものごとを決める国会」を目指すと力説した。さっそく首相の本気度が試される。

読売新聞 2012年09月22日

野田代表再選 民自公党首会談で連携確認を

◆「離党」恐れて政策は定まらず◆

数字上は大差だが、多難な前途を考えれば、ほろ苦い勝利でもある。

民主党代表選で、野田佳彦首相が再選を果たした。原口一博元総務相ら他の3候補の獲得票は合計で全体の3分の1程度にとどまった。

首相は、党分裂という犠牲も辞さずに、日本再生に不可欠な社会保障・税一体改革関連法を成立させた。今回の再選は、その民主、自民、公明の3党の協調路線が信任されたことを意味する。

◆信任された首相の路線◆

野田首相は再選後、「笑顔が広がる国を、皆さんと一緒に造りたい」と、党の結束を呼びかけた。代表選の結果が出た以上、民主党は首相の下で団結すべきだ。

残念なのは、肝心の政策論争が低調だったことだ。

環太平洋経済連携協定(TPP)への参加問題で、野田首相は本来、「推進」の立場なのに、「関係国との協議が継続中」などと慎重な発言に終始した。「反対・慎重」の原口氏ら3人に、正面から論争を挑む場面はなかった。

TPP参加に踏み込めば、さらなる離党者が出かねないと、首相は懸念したのだろう。しかし、政府としては参加の判断を先送りせず、早期にTPP交渉に加わるべきである。

原子力政策では、首相は「2030年代の原発ゼロ」を掲げて、「ぶれない姿勢で、この基本方針の下、様々な政策を推進したい」と語った。原口氏らは「原発ゼロ」達成時期の前倒しを唱えた。

4氏とも、「原発ゼロ」が経済や外交関係に与える悪影響や、核燃料サイクルとの整合性など、深刻な課題への対策をほとんど論じなかったのは問題だ。

「脱原発」の旗を掲げれば、選挙に有利だろうという思惑ばかりが先行している。政権党として、極めて無責任な対応である。

消費税率引き上げの低所得者対策でも、赤松広隆元農相と鹿野道彦前農相が軽減税率導入に言及したが、議論は深まらなかった。

代表選を通じて重要政策を方向づける機会を逸したと言える。

◆政権運営は一層厳しく◆

野田首相の今後の政権運営は、一段と困難になろう。

「反野田」の国会議員票は計114票に達した。論戦では、鹿野氏に「民主党に責任を取る文化を」と提起され、原口氏にも「分裂を重ねた責任」を問われた。

次期衆院選を少しでも有利に戦おうと、新党「日本維新の会」などへの合流を目指し、離党する動きが続く。衆院でも、10人程度が離党すれば、国民新党と合わせても過半数を割り、内閣不信任決議案を否決できない恐れがある。

首相は、党内融和に配慮しながら困難な政策課題に取り組む、という綱渡りの対応を迫られる。

重要なのは、民自公3党の協調路線を堅持することだ。衆参ねじれ国会である以上、3党の協力なしでは、法案は成立せず、政治は前に進まない。

首相は、国連総会出席のため訪米する24日までに党役員人事の骨格を固める意向を表明した。最も注目されるのは、輿石幹事長が留任するかどうかだ。

昨秋、輿石氏を幹事長に起用したのは、党内融和を重視する狙いだった。

だが、輿石氏は一体改革法案審議など国会運営で再三、野党と衝突し、首相との路線の違いも表面化した。

今回は、衆院解散戦略だけでなく、与野党協調をより重視した布陣が求められる。

野田首相は、26日の自民党総裁選後、新総裁と党首会談を行い、一体改革をめぐる3党合意を再確認したい考えを示している。3党首間で、当面の重要課題について腹合わせをすることは大切だ。

衆院選の「1票の格差」是正や赤字国債の発行を可能にする特例公債法案、補正予算の扱いについて率直に話し合ってほしい。

◆「0増5減」を先行せよ◆

衆院選挙制度改革で、民主党は野党の反対を押し切って、連用制の一部導入を含む法案を提出し、混乱を招いた。こんないいかげんな対応は、もう許されない。

野田首相は記者会見で、衆院定数の削減に意欲を示した。だが、衆院を解散するには、「違憲状態」を解消する小選挙区の「0増5減」の先行実施が現実的だ。

3党首会談では、首相が約束した「近いうち」の衆院解散・総選挙も議題となる可能性が高い。

首相は「問責(決議)という状況の変化がある」と解散先送りの可能性も示唆しているが、自公両党は早期解散を求める立場を変えていない。首相が一方的に約束を反故(ほご)にするのは難しいだろう。

産経新聞 2012年09月22日

野田代表再選 早期解散が最大の責務だ もはや「政治空白」は許されぬ

野田佳彦首相は予想通りの圧勝で民主党代表に再選され、引き続き政権を担う。だが、代表選で最も問われるべきだった「この国をどうするのか」というビジョンを示すことはなかった。

首相本人が力説する「決める政治」も、離党者を出さないことを優先させるため、影をひそめているのが現実だ。

それどころか、「原発ゼロ」政策をめぐる迷走と破綻は国益を害している。もはや民主党政権の行き詰まりは明白であり、その存続そのものが政治空白を作っていると指摘せざるを得ない。

≪融和優先では国救えぬ≫

野田首相に残された仕事は、赤字国債発行に必要な特例公債法案の成立など、必要最小限の課題を片付け、早急に国民の信を問うことだ。

尖閣諸島をめぐる領土・主権の危機やデフレ脱却など、内外の懸案に迅速かつ的確に対処できる政権でなければ、日本は国家として立ち行かない。行き詰まった民主党政権が低空飛行を続けている余裕はない。

今回の代表選には「決められる政治」の定着に向けて主要政策を明確に方向付け、決めたことは責任を持って推進する当たり前のことを民主党に根付かせることができるかどうかに大きな意味合いがあった。

他に有力候補がなく、圧勝は当然とされていただけに、首相はここを転換点とすべきだった。だが、首相はもっぱら民主党による政権交代の意義を主張して再選への協力を求めた。

臨時党大会の最後の呼びかけでも、ばらまき政策と批判された子ども手当や高校授業料無償化の意義を強調し、「引き続き民主党らしい改革を行う」と語った。党分裂を経て、さらに離党者が出かねない党内への配慮を最優先させたことに限界がある。

残念なのは、首相が党内外の慎重論を抑えて関西電力大飯原発の再稼働を決断したにもかかわらず、「反原発」色を強く打ち出す菅直人前首相らの主張に歩み寄るように「原発ゼロ社会」を目指す姿勢に転じてしまったことだ。

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)でも、党内の慎重論に配慮して「交渉参加に向けて関係国と協議に入る」との立場にとどまり、参加表明は見送った。

さらに耳を疑うのは、社会保障と税の一体改革をめぐる3党合意で、首相が自民党の谷垣禎一総裁と公明党の山口那津男代表と交わした「近いうち」の衆院解散の約束について、見直しを示唆していることだ。

消費税増税関連法はこの合意によって成立しており、解散をめぐる首相発言は「国民との約束」ともいえる。

≪集団的自衛権を認めよ≫

首相は自民党などが通常国会終盤で問責決議に賛成したことを見直しの理由にしているが、解散を先送りしたい口実にすぎないのではないか。

大幅な議席減を恐れ、できるだけ解散は遅らせたいというのが民主党の大勢だ。代表選で首相に投じられた大量の票にも、解散を先送りすることへの願望が込められているのだろう。

決められない政治以上に問題なのは、政権としての正統性を失ってしまっていることだ。

民主党マニフェストは何より、消費税増税を明記していない。無駄の削減で16・8兆円を生み出すとしたことなど、実現できない政策も多かった。政権を存続したいなら、新たなマニフェストを作り直して国民に信を問い、民意を確保することが筋である。

圧勝した首相には、決断してもらいたいことがある。日米同盟深化に必要な集団的自衛権の行使の容認だ。首相は政府の諮問機関の提言を受けて検討する考えを示したこともある。自民党総裁選の候補者5人は、いずれも行使容認を主張している。首相はこの件で、新総裁と協議すべきだ。

また首相は、尖閣諸島の国有化をめぐる中国との関係が悪化している点について、「大事なことは毅然(きぜん)として主張する」などと述べた。国有化後の統治強化策は大きな論点となっており、具体的に語る必要がある。

首相は再選後の会見で、内閣改造や党人事に着手する意向を示した。しかし、政権継続の目的をはっきりさせないまま、党内融和のための人事にとどまるようでは難局は乗り切れない。

朝日新聞 2012年09月19日

中国の姿勢 話しあえる環境を作れ

日本政府の尖閣諸島購入への反発が強まるなか、満州事変の発端となった柳条湖事件から81年となったきのう、中国各地で再び反日デモがあった。

中国にとっては日本の侵略が始まった「国恥の日」で、混乱の拡大が心配されていた。

一部で投石などがあったが、中国当局は厳しい警備を敷き、日系の店舗や工場が襲われた先週末のような大規模な暴徒化には至らなかった。

当局は週末のデモで暴れた者を各地で拘束し、メディアを通じて暴力行為を戒めるなど、引き締めに乗り出した。

これを機に、沈静化にかじを切るべきだ。

「愛国無罪」との言葉が中国にはある。「愛国」であれば何をしても許される、という言い分だ。だが、先週末に起きたことは、暴力による破壊や略奪、放火だ。到底、正当化されるものではない。

中国政府は、ある程度デモが荒れるのを容認していた節がある。しかし、暴徒化は中国のイメージを大きく傷つけたし、貧富の格差など、中国自身の矛盾に不満が向く可能性もあった。

一方で、中国の海洋監視船や漁業監視船が尖閣付近の海域に現れ、一部が日本の領海への侵犯を繰り返している。漁船が大挙して目ざしているという情報もある。

海洋監視部隊の高官は「中央の統一的精神に基づき、入念な準備、周到な配置によって」行動した、と新華社通信に話している。実力で尖閣の現状を変えようと、中国が一丸となって仕掛けている。

日本の海上保安庁が警戒しているが、偶発もふくめて衝突がおきかねず、とても危険だ。

これ以上、挑発的な行動に出ないよう、中国に強く求める。

中国政府は日本に対し、「過ちを改め、交渉によって争いを解決する道に戻れ」と呼びかけている。だが、最近の中国の姿勢は、国会議員団の訪中のとりやめを求めるなど、対話の糸口さえ与えないものだ。

日中を歴訪しているパネッタ米国防長官は、東京での会見で「日本と中国が良好な関係を保ち、事態の悪化を避ける道を見つけることが、みんなの利益になる」と強調した。

その通りである。

日本政府は「領土問題は存在しない」との立場だが、不毛な対立を和らげるために、互いにできることがあるはずだ。

両国にはともに利益を図れる分野がたくさんある。まずは、腹を割って話し合える環境を、中国が作る必要がある。

毎日新聞 2012年09月22日

野田民主代表再選 対中外交の練り直しを

野田佳彦首相がただちに取り組むべきは近隣外交だ。尖閣諸島(沖縄県石垣市)を巡る中国との危機は去っていない。代表選に費やしたようなエネルギーを尖閣問題の平和的解決のため結集してほしい。

尖閣国有化に抗議する中国の反日デモは収束の方向だが、いつ再燃するかわからない。尖閣周辺海域では多数の中国の監視船が連日航行し、海上保安庁はかつてない厳戒態勢で監視任務にあたっている。中国は文化交流を相次ぎ中止し、経済分野で制裁めいた圧力までかけ始めた。国を挙げての強圧行動で日本を締め付けようとするかのようだ。

尖閣問題でいかなる主張があろうとも、このような力ずくの行動は国際社会に受け入れられるものではない。首相は中国の行き過ぎた振る舞いには厳しく抗議し、国際世論にその不当性を訴えるべきだ。

ただ、中国監視船には忍耐強く対応しなければならない。中国は尖閣周辺の航行を常態化させ、偶発的な衝突を口実に軍の出動など行動をエスカレートさせる可能性もある。野田首相は党大会での演説で「挑発せず、挑発にのらず、大局観をもったクールな外交」をすると語ったが、その通りだ。挑発にのっては中国の思惑にはまることになる。

野田首相は国連総会で来週演説するが、領土で対立があっても日本は国際ルールを守り海洋の安全と平和を維持する国であることを、世界に向かって明確に発信すべきである。力による現状変更は認めないとの認識を世界と共有することだ。そのことが、国際社会での日本の立場を強化することにもつながる。

その一方で、政府は今後の落としどころを真剣に模索すべきだろう。過去の棚上げ合意を否定し、領土問題は存在しない、という姿勢を続けるだけで事態を改善することができるのかどうか、改めて考える必要がある。尖閣問題での対立長期化は両国を疲弊させ、近隣諸国を不安がらせ、世界経済にも悪影響を与える。国交正常化時のような政治の知恵と判断で事態の打開を図ることは、世界2、3位の経済大国の義務ではないか。

野田首相は、日米同盟の弱体化など民主党3年間の外交混迷が今日の外交危機の背景にあることを自覚してほしい。肝心なのは米国との連携を深め、日本の実効支配を維持しつつ、中国との間で尖閣問題を平穏にコントロールする環境を作ることだ。自民党総裁選では各候補が対中強硬姿勢を競っているが、日本外交に責任を負うのは野田首相である。大局に立って対中外交の戦略と戦術を練り直してほしい。

読売新聞 2012年09月19日

反日デモ続く 対中感情の悪化を招くだけだ

連日の過激な反日デモで、日本の対中感情は悪化するばかりだ。日中関係に大きな禍根を残すことを、中国政府はどこまで認識しているのか。

満州事変の発端となった柳条湖事件から81年となる18日、中国各地で大規模な反日デモが行われた。日本政府の尖閣諸島の国有化に抗議するデモは、これで8日連続である。

柳条湖事件のあった中国遼寧省瀋陽では、デモ隊の投石で日本総領事館のガラスが割られた。各地で日系企業への破壊行為が相次いだ週末に続く狼藉(ろうぜき)だ。

中国政府は、過激な行動は抑えようとはしても、デモ容認の姿勢を変えようとはしていない。日系企業は工場の操業停止や店舗の休業に追い込まれた。日系企業や日本料理店で働く中国人も破壊行為の被害者だ。

毛沢東の肖像画を掲げたデモ隊には、現政権下での所得格差拡大への強い不満もあるのだろう。単純な反日とも言い切れない。

中国の対日圧力がさらにエスカレートすれば、日中間の緊張は一層高まろう。日本政府は不測の事態に備え、在留邦人や日系企業との連絡を密にするとともに、中国政府に対し、邦人と企業の安全確保を強く求めるべきだ。

東シナ海に中国の漁船1万隻以上が出航し、尖閣諸島海域に約1000隻が到着すると報じられている。日本の実効支配を崩そうと、農業省の漁業監視船の護衛下で、日本領海内に入る恐れがある。

中国の公船は、14日に続き18日も日本の領海に侵入した。海上保安庁の警戒監視は当分緩めるわけにはいかない。

来日したパネッタ米国防長官は17日、玄葉外相と会談し、「日中関係が大きく損なわれないよう日米で協力する」との認識で一致した。日米両国がともに、中国側に冷静な対応と事態の早期収拾を粘り強く働きかける必要がある。

日米両政府はまた、米海兵隊の新型輸送機オスプレイの沖縄県配備を進めることでも合意した。

在日米軍の機能強化に取り組むことは、中国の抑制的な対応を引き出すことにつながるはずだ。

中国政府は、国連に、尖閣諸島周辺海域を「領海」とする海図を提出した。さらに東シナ海で領海の基線から200カイリを超える大陸棚の延伸を求める申請案の提出も決定した。尖閣の領有権主張を強化しようとする動きだ。

日本政府は、尖閣諸島が日本の領土であることを国際的にアピールしていかなければならない。

産経新聞 2012年09月20日

日本企業襲撃 中国リスク強めるだけだ

中国各地で起きた連日の反日デモで、暴徒の標的となった日系企業の工場やスーパー、コンビニなどの店舗は破壊、放火によって甚大な被害を受けた。

デモは、日本政府による尖閣諸島(沖縄県)国有化に強く反発したというが、乱暴狼藉(ろうぜき)の数々は中国が「法治国家」とは到底いえない異様な国であることを世界に露呈した。

しかも中国政府は一部のデモ参加者の暴徒化を黙認した一方で、「責任は全て日本側にある」と無責任な姿勢をみせつけている。

野田佳彦首相が日系企業への賠償に「中国が責任を負うのがルールだ」と述べたのは当然だ。藤村修官房長官も「被害企業から個別に相談を受け、支援する」としている。政府は中国側が誠意をもって個別の補償に応じるよう、強く申し入れるべきだ。

多くの小売店が一時休業に追い込まれ、自動車や重機メーカーなどの工場も操業停止を余儀なくされた。1970年代末に始まったトウ小平氏の改革開放路線の下で近代化を支援した松下幸之助氏が創業者のパナソニックも襲撃された。損害は巨額にのぼる。

中国政府は国際的非難を恐れてデモ封じ込めに乗り出したようだが、対日圧力は緩めていない。日本製品ボイコットを容認する高官発言と同調するように対日経済制裁の動きが出てきた。

日本からの輸入通関で「(遅れの兆しが)察知される情報がある」(日本貿易会)という。

2年前、中国漁船衝突事件を受けて中国がレアアース(希土類)の輸出規制を行った前例がある。こうした動きについても警戒しなければならない。

中国は日本にとって最大の輸出相手国で、日系現地法人もすでに5千社を超えた。日本の対中投資は昨年は前年比50%近く増え、今年1~8月も16%超伸びた。

しかし、今回の反日デモの暴徒化は、日本の経済界に改めて「中国リスク」に対する厳しい認識を迫っているといえる。

尖閣をめぐる日中の緊張が続く中で、日本企業の生産拠点を中国以外へ移転・分散させる検討を含めた見直しも必要ではないか。

安住淳財務相は、中国に多くの雇用をもたらす日系企業の破壊は「中国にもメリットがない」と指摘した。襲撃は自らへの打撃であることを中国は認識すべきだ。

朝日新聞 2012年09月16日

反日デモ 中国の自制を求める

沖縄県の尖閣諸島をめぐり、日中間の緊張がにわかに高まってきた。

きのう、北京の日本大使館を多数の群衆が取り囲んだ。石やペットボトルなどを投げつけ、大使館内に押し入ろうとする者も出た。

ほかの都市でも群衆が集まり、日本料理店や日本車のガラスが割られた。日本製品の不買運動も広まりつつある。

不穏な動きは、民衆レベルだけではない。おとといは中国の海洋監視船6隻が、尖閣諸島周辺の日本の領海に相次いで侵入してきた。

異常な事態である。

中国政府は挑発的な行為をやめ、国民に対しても自制を求めるべきだ。

日本政府が尖閣諸島を購入したことが、中国の反発を招いているのは残念だ。背景には、国有化をめぐる双方の認識ギャップがあるようだ。

一連の騒動のきっかけは、中国への挑発的な言動を繰り返す石原慎太郎東京都知事による購入計画だ。

政府が都に代わって購入に踏み切ったのは、その方が中国との無用な摩擦を避けられるとの判断があったからだ。

だが、政府が外交ルートを通じて説明しているにもかかわらず、この意図が中国側に伝わっていない。あるいは無視されている。

中国外務省の高官は、日本側の主張は口実であり、知事と政府が連携して「二重奏」を演奏したのだと断じている。

一方、中国の国民から見れば、自国の領土を日本政府がカネで買ったと映るようだ。

中国は指導部交代の共産党大会を控え、政治の季節の真っ最中だ。日本に対して弱腰ととられてはならないとの思いがあるのは間違いない。

一方、日本でも民主党と自民党でそれぞれ党首選が行われている。自民党の安倍元首相や石破前政調会長らは、実効支配の強化を訴えている。

中国側には、こうした主張への警戒感もあるのだろう。

満州事変の発端となった柳条湖事件が起きた18日に向け、さらに多くの都市でデモが予定されている。参加者の興奮が高まり、行動がいっそう過激にならないか心配だ。

感情的な行動がお互いを刺激するような負の連鎖に陥ってはならない。

日中関係の大局を見渡したとき、この問題で両国が衝突することにどれだけの意味があるのか。ここは頭を冷やして考えるべき時だ。

毎日新聞 2012年09月18日

尖閣と日中対立 対話解決に全力挙げよ

日本政府の尖閣諸島(沖縄県石垣市)国有化に対する中国国内の反日デモが7日連続で発生し、日中関係が緊迫している。小泉純一郎元首相の靖国神社参拝に抗議した反日デモ(05年)を上回る過去最大規模だ。今年は日中国交正常化(72年)から40周年の節目だが、日中関係は尖閣問題で正常化以降最悪のレベルに落ち込んだ。両国はあらゆる対話のパイプを駆使して対立を回避し、事態沈静化に動くべきである。

デモ隊の一部は日系企業に乱入・放火するなど暴徒化し、在留日本人への暴行事件も起きている。18日は満州事変の発端となった柳条湖事件が起きた日にあたり、反日の機運が一層高まる可能性もある。

放火や略奪、暴行は犯罪だ。愛国や反日を口実にした破壊行為を容認するわけにはいかない。これを事実上黙認するかのような中国当局の対応は中国が国際ルールを尊重する法治国家なのかどうかを疑わせる。日本政府が抗議して在留日本人の安全確保を求めたのは当然であり、中国に今後渡航する日本人にも十分な注意喚起をする必要がある。デモがこれ以上拡大して中国政府も制御不能になるようなら、日本政府は在留日本人引き揚げなどの保護措置をとることも検討すべきだろう。

それにしても、国交正常化から40周年の記念すべき年が尖閣諸島をめぐる摩擦で台なしになったことは極めて残念である。パネッタ米国防長官が「挑発行為が続けば、当事者の一方あるいは他方が判断を誤り暴力に訴え、紛争化する可能性がある」と来日前に懸念を示したように、対立のこれ以上の激化が不測の事態を引き起こすこともありうる。それが両国だけでなくアジア太平洋地域全体の平和と安定をいかに損なうものかを、日中両国の政治指導者はまず肝に銘ずべきではないか。

そのうえで、日本はこれからどうすべきかを考えてみたい。

まず大切なのは、尖閣諸島を日本が静かに安定的に実効支配していくことであり、尖閣諸島周辺海域での監視・警戒態勢の整備だ。

過去最多となる6隻の中国海洋監視船が尖閣諸島付近の日本領海に先日侵入したが、これに続き今度は大量の漁船が尖閣諸島に向かっているという。日本政府は海上保安庁による監視・警戒態勢を万全にするとともに、何らかのトラブルが生じてそれを理由に中国がさらなる攻勢をかけてこないよう細心かつ慎重な対応を心がけることが必要だ。

中国は国営テレビを使って自国領だと宣伝し、日本の国有化以降は尖閣周辺を自国の領海とする海図を新たに国連に提出するなど、領土を守るための実力行使の準備とも受け取られる動きを見せ始めた。

日本政府は尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本の領土だから領土問題は存在しないとして論争を避けてきたが、世界に向けての外交戦の土俵に乗らないことが果たして日本の利益になる戦術なのかどうか、考え直すべき時期ではないか。

日本の領土という根拠を広く国際社会に知らしめ、中国が力で実効支配を覆そうとするならその不当さを世界にアピールし理解を求めなければ、日本の立場は不利になる。尖閣問題の沈黙はマイナスだ。

そのためには日米同盟を強固なものにし、東南アジアやオーストラリアなどの近隣諸国に日本の立場を理解し支持してもらうことも大事である。とりわけ米国は、尖閣諸島が日米安保条約の適用対象に含まれるとしている以上、傍観者的な態度でいるのは無責任ではないか。

そのうえで、日本政府は中国政府と尖閣問題の解決策を本音で話せる環境を整備すべきである。

政治的に敏感な尖閣諸島をめぐる争いを脇に置いて実現したのが72年の国交正常化だった。78年の日中平和友好条約締結交渉時も中国漁船が大挙押し寄せてきたが、当時の最高指導者・トウ小平氏が来日して問題を棚上げした。以後、日本は島への上陸を制限し施設を設置しないなど誠実な対応を維持してきた。それは中国もわかっているはずだ。

国有化も東京都の購入による混乱を避けるためであり、現状を力で変える措置ではないとの真意を中国に説明していくことだ。政府は中国指導部の交代前に国有化した方が日中関係への打撃は小さいと考えたフシがあるが、結果的には予想外の強い反発を招いた。事前の根回し不足もあっただろう。首相や閣僚といった政府レベルだけでなく、政党や民間も含めた日中間の対話のパイプを再構築することが急がれる。

今の日中関係は、国交正常化以前に時計の針を戻したような深刻な対立状態にある。相互不信の連鎖を断ち切らなければならない。

日中両国とも政治指導者や政治体制の移行期にある今こそ、双方は尖閣諸島をめぐる対立を地域の混乱に発展させない大局観を持つべきである。民主党も自民党も党首選のさなかだが、毅然(きぜん)とした強硬姿勢で臨むだけでは問題解決にならない。アジア太平洋の平和で安定した秩序をどうつくるか、米国も巻き込んだ外交戦略こそを論じてほしい。

読売新聞 2012年09月18日

反米デモ 中東の不安定化を憂慮する

イスラム教の預言者ムハンマドを侮辱した映像に抗議する反米デモが、中東やアジアの国々に広がっている。

リビア東部ベンガジでは、米国領事館が襲撃され、米大使ら4人が死亡した。

デモの混乱に乗じて、武装勢力がテロを実行したとの見方も強い。

エジプトの首都カイロでは、デモ隊の一部が米大使館敷地内に乱入し、スーダンとチュニジアでも米大使館が襲われた。イエメンでは警察との衝突で死者が出た。

反米デモの波は、インドネシア、マレーシアなどアジアのイスラム国にも及んでいる。

問題の映像は、米国で作られた映画の要約版で、インターネットを通じて流れた。制作者やその意図は不明だが、宗教的対立をあおる行為だ。イスラム教徒が感情を害したのも無理はない。

だが、そうであろうと、怒りにまかせた暴力的な破壊行為は許されるものではない。

オバマ米大統領は、「われわれは他者の信仰を侮辱する行為を拒絶する」と述べた上で、「非常識な暴力は正当化できない」と米大使らへの襲撃を強く非難した。

事態が早期に沈静化することを望みたい。

懸念されるのは、過激派に限らず、中東の一般国民の間に反米感情が広がっている問題だ。

根底には、米国の中東政策への不信、不満があるのだろう。

オバマ大統領は就任後、イラク戦争によって対米感情が悪化したイスラム世界との関係改善に乗り出した。強権政治に立ち向かう「アラブの春」の改革を支持する立場を明確にしている。

にもかかわらず、米政府とは無関係の映像を契機に反米デモが広がったことは、宗教上の問題に加えて反米感情の根深さを物語っている。オバマ政権の中東政策が機能していないとも言えよう。

「アラブの春」で独裁体制が崩壊したエジプトなどの民主化は道半ばだ。それだけに、この反米デモが、中東の国々の内政にもたらす影響が気がかりだ。

中東が混乱すれば、その影響は世界に及ぶ。

米国が「太平洋国家」としていくら「アジア重視」を唱えても、相当数の兵力を中東に振り向ける事態になれば、日本の安全保障に制約が生じかねない。

政府開発援助(ODA)などで中東諸国の経済発展を支え、政情の安定に寄与することは、原油輸入の8割強を中東に依存する日本にとっても重要である。

産経新聞 2012年09月18日

中国のデモ暴徒化 反日圧力に屈してならぬ

日本政府による沖縄県尖閣諸島の国有化に反発して、中国で11日から続いている反日デモ暴徒化は常軌を逸している。

抗議行動は北京や上海など八十余都市に広がって激化し、暴徒の標的となった日系企業やスーパー、コンビニなどで破壊や略奪、放火が続出した。操業停止に追い込まれた工場もある。日本人というだけで暴行も受けている。

法治国家では許されない状況である。日本政府はたびたび厳重抗議したというが、抑制の動きが出たのは16日になってからだ。

満州事変の発端となった柳条湖事件から81年となる18日は、中国では「反日」機運が高まる日だ。中国当局には、在留邦人と進出企業の安全確保、そして暴徒の処罰という、責任ある大国にふさわしい対応を取ってもらいたい。

野田佳彦首相は尖閣問題などについて、「大局観をもっていれば乗り越えられる」などと述べた。だが、尖閣を国有化しても当面は何もしない、事なかれ主義は逆効果を招いていないか。それは、6隻もの中国公船による尖閣周辺の日本領海侵犯や今回の反日暴動状態の発生ではっきりしている。

問題は、中国政府の手前勝手な主張だ。「日本は日清戦争末期に尖閣を違法に窃取した」(外務省声明)と史実に反する宣伝をし、「全土が日本の誤った行動に憤り政府の対抗措置を支持している」(同省報道官)と反日デモを後押しする姿勢さえ示している。

日本製品の不買運動などについても、「消費者が理性的な方法で自分たちの考えを表明するのは彼らの権利だ」(商務省次官)と容認した。これでは、政府が歪(ゆが)んだ「愛国教育」に染まった若い世代を煽(あお)っているとしか思えない。

日本は、中国の官民一体の反日圧力に屈してはならない。うろたえることは禁物だ。中国側が、圧力に弱い日本に揺さぶりをかけている面を忘れてはならない。

野田政権が直ちになすべきことは、尖閣諸島が歴史的にも国際法上も正当な日本領土だと改めて国際社会に宣言することだ。同時に中国が領有主張を始めたのは「周辺海域の石油資源埋蔵が判明した1970年代」といった明白な事実も指摘する必要がある。

野田首相は今月下旬、国連総会の一般討論演説で、海洋における「法の支配」の重要性を訴える。逃してはならない機会だ。

朝日新聞 2012年09月16日

中東反米デモ 暴力は受け入れられぬ

反米デモが中東・イスラム世界で広がっている。

米国で作られたイスラム教の預言者ムハンマドを冒涜(ぼうとく)する映像作品に抗議するものだ。敬愛する預言者への中傷にイスラム教徒が怒るのはわかるが、米大使館襲撃などの暴力的な動きになるのは、受け入れられない。

問題の映像作品は、批評にも値しない低級なものだ。だが、その映像がインターネットで流れたからと言って、大使館を襲うのは、「平和を求める宗教」と強調するイスラム教の教えに沿ったものとは思えない。

デモが広がることが問題なのではない。平和的なデモや集会で、自分たちの怒りを表明するのは、言論や集会の自由として保障されるべきだ。

サウジアラビアや湾岸諸国では目立った抗議デモは報じられていない。それはこの地域でデモが制限されているからだ。

今回、反米デモが始まったエジプト、リビア、チュニジアは「アラブの春」で強権体制が倒れた国である。以前は警察の監視の下、言論も集会も規制されていた。デモが起こることは民主化の成果である。

デモ隊が米大使館を襲撃したイエメンは、若者たちが非暴力のデモで強権の大統領を辞任させた国だ。運動を主導した女性活動家が昨年のノーベル平和賞を受けた。そのような平和の精神はなぜ、今回の反米デモで発揮されないのだろうか。

リビアでベンガジの領事館が襲撃され米大使らが死亡した事件には、計画的なテロとの見方もある。背景には8カ月におよぶ内戦で武器が広がり、治安が安定しない国情がある。米国はリビア政府がこの事件の捜査やテロ対策を行うのに、協力する形で関与するべきだ。

今回のデモは、形のうえで民衆が街頭で主張した「アラブの春」を思い出させる。しかし、自制がなければ、混乱を生むばかりだ。人々は強権の政府を倒し、民主化を始めた。だから、手にした言論や表現の自由を使い、考えを非イスラム教徒にも理解できる言葉で発信するべきだ。暴力をあおろうとする勢力の挑発に乗ってはいけない。

イスラム世界の政治や宗教、社会運動で指導的な立場にある人々の役割は重要だ。冷静に行動するように民衆に説き、何が障害になっているかを国際社会に伝えてほしい。

米欧はイスラム世界との間で議論や対話の動きを強化し、信頼と相互理解を深める必要がある。歴史的にも中立の立場にある日本は、双方の間で仲介役を果たすことができるはずだ。

読売新聞 2012年09月17日

反日過激デモ 中国政府はなぜ容認するのか

中国の反日デモが拡大し、過激化している。

憂慮すべき事態だ。

日本政府が沖縄県の尖閣諸島を国有化したことに抗議するデモは、中国の約100都市に広がった。

北京では日本大使館が投石され、地方都市では日系企業が襲撃された。デモの現場ではないが、日本人が暴行された例もあった。

野田首相が抗議したのは当然である。日本政府は引き続き、中国政府に対し、邦人と日系企業の安全、財産の保護を徹底するよう求めなければならない。

中国政府は、破壊行為に関わった容疑者を法に基づいて厳正に処分すべきである。

デモと並行して、尖閣諸島の実効支配を崩そうとする中国政府の示威行動も目立つ。尖閣諸島周辺の日本の領海内に14日、中国の海洋監視船6隻が侵入した。中国公船が同時に6隻も侵入してきたのは過去に例がない。

1972年の日中国交正常化以来、これほど中国が日本との間で緊張を高めたのは初めてだ。尖閣諸島を巡って日本に譲歩した、と国内で受け止められれば、共産党政権の威信が揺らぐと危機感を強めているのだろう。

中国は、外務省報道官が「日本の誤った行為が強い義憤を引き起こしている」と反日デモへの理解を示し、商務省幹部も日本製品の不買運動を容認するかのような発言をしている。

これが愛国教育世代の若者を(あお)り、行動の過激化を招いた。

中国政府には、尖閣諸島国有化に反発する国民の怒りを対日圧力に利用する政治的思惑がある。

だが、愛国的行為は罪に問われないとする「愛国無罪」のスローガンの下、破壊行為を正当化するのは法治の否定だ。特定国の製品の不買は自由貿易に反する。中国のためにもならない。

満州事変の発端となった柳条湖事件から81年に当たる18日、各地では再びデモが呼びかけられている。邦人の生活や日系企業の営業活動への影響が懸念される。

間もなく尖閣諸島沖に向け、中国漁船が大挙出港し、農業省の漁業監視船の護衛で、日本領海への侵入を図る可能性が高い。

日本政府は海上保安庁による領海警備に万全を期すべきだ。

政府は、尖閣諸島は日本の領土であり、安定的に管理するための国有化であることを、国際社会に主張していかねばならない。

国民感情の対立を深めぬよう、日中両国は首脳レベルで、事態の沈静化に努める必要がある。

産経新聞 2012年09月16日

中国の尖閣侵犯 公船排除の法整備を急げ

中国の海洋監視船6隻が尖閣諸島周辺の日本領海に侵入した。6隻もの中国公船の領海侵犯は過去に例がない。日本の尖閣国有化に対する危険な実力行使であり、中国が本気で尖閣を取りにきているとみるべきだ。

政府は程永華駐日中国大使を外務省に呼んで抗議した。不十分である。より強い対抗措置が必要だ。

中国では反日デモも拡大し、日本人が暴行を受けるなどの被害も出ている。中国当局に、在留邦人の生命、財産を守る義務を果たすよう厳しく求めねばならない。

6隻の中国監視船の領海侵犯は二手に分けて行われた。うち1隻は、退去を求める海上保安庁の巡視船に「魚釣島は中国の領土で、本船は正当業務を執行中だ。直ちにこの海域から離れてください」と日本語で逆に警告してきた。

退去要求以上のことができない日本側の警備体制につけ込んだ、許し難い挑発行為である。

中国の横暴な行動を招いた最大の要因は、野田佳彦政権が尖閣諸島をただ国有化しただけで、中国側に配慮し、何の整備もしないとの方針を示したことにある。中国との摩擦回避のためとされるが、逆効果になっている。

野田政権は、石原慎太郎東京都知事が国有化容認の条件として提示した、漁船待避施設や漁業中継基地建設などの整備策を、改めて検討すべきだ。2年前の中国漁船衝突事件後、自衛隊常駐を訴えた松原仁国家公安委員長ら政権内の意見も集約する必要がある。

国連海洋法条約は、沿岸国が無害でない通航を防止するため「自国の領海内において必要な措置をとることができる」(25条)と定めている。しかし、これに対応する国内法がないため、日本は退去要請しかできない。領海侵犯した外国公船を強制的に排除するための法整備は急務である。

中国農業省漁業局は、尖閣周辺に漁業監視船を送る準備も進めているという。中国国家海洋局の海洋監視船に加え、漁業監視船が漁船群を伴って尖閣周辺の海域に殺到することも予想される。

尖閣の事態に対処する関係閣僚会議では当然、森本敏防衛相も加わって、海保だけで対応できない場合に備えた海上警備行動などの検討を急がなければならない。

事なかれ主義外交では領土と主権を守れないことを、野田首相ははっきり自覚すべきだ。

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