米追加金融緩和 バブルの教訓忘れたか

朝日新聞 2012年09月21日

追加金融緩和 成長につなげる回路を

世界経済の減速に対応するため、日本銀行が追加の金融緩和に踏み切った。

資産を買い入れる基金を10兆円拡大して80兆円とし、国債をその分、買い増す。市中に出回るお金を増やし、金利を押し下げて設備投資などの経済活動を刺激するのが狙いだ。

日銀はこれまで景気を強気に見てきたが、欧州経済の悪化に加え、中国の景気減速もはっきりしてきた。このため、「日本経済が成長軌道を外れないように」(白川方明総裁)、手を打ったという。

今月に入って、欧州中央銀行(ECB)と米連邦準備制度理事会(FRB)が相次いで緩和策を打ち出した。日銀が追随しないと、為替市場で円高が進むことを警戒した面もある。

しかし、世界的な金融緩和も実体経済の成長につながる回路がなければ、投機筋を喜ばせるだけだ。余ったマネーが石油や穀物などの価格を高騰させ、かえって景気回復の足を引っ張りかねない。

日本の優良企業は手持ち資金が潤沢で、金利が下がっても金融機関の貸し出しは伸び悩む。利ざやの縮小で、お金のない企業にリスクを取って融資するより、国債を買うほうが得という意識が広がっている。

そもそも金利の低下で経済が刺激されるには、下がった金利でなら借金しても採算がとれると企業が判断できるようなビジネス環境が必要だ。新しい商品やサービスを、金融政策が生み出すことはできない。

企業の投資意欲を高めるうえで、政治の役割は大きい。

テレビや自動車に代表される既存の商品は需要が飽和しつつあり、医療や福祉など成長余力のある分野で規制や制度の改革を進めなければならない。

なにより今の日本には、「新しい社会をつくる」ビジョンと政策が不可欠だ。

その点で、脱原発と電力改革は格好のテーマである。思い切った政策転換で、電力市場への新規参入を促し、省エネ投資を活発化させ、スマートメーターのような次世代機器を普及させる。その経済効果はきわめて大きいはずだ。

日米欧とも政治が有効な手を打てず、しわ寄せがすべて中央銀行に向かう構図は異様だ。

ことに国の借金が突出して多い日本では、日銀が国債を買っても効果が出ないままだと、いずれ「財政赤字の尻ぬぐい」との疑念が深まり、国債相場が急落するリスクも高まる。

成長に向けて政治が果たすべき役割を忘れてはならない。

毎日新聞 2012年09月21日

日銀も金融緩和 中央銀行依存は危険だ

日銀がまた追加の金融緩和を決めた。国債など日銀が市場から買い入れる資産の総額を、従来の「2013年6月までに70兆円」から「13年末までに80兆円」へと拡大した。海外経済の減速を受けて弱まってきた景気を下支えするという。

今月は欧州中央銀行(ECB)や米国の連邦準備制度理事会(FRB)も国債や住宅ローン担保証券を大量に購入する決定をした。目的や具体的内容に違いはあるが、大きな共通点がある。中央銀行が政府や議会の責任を肩代わりし、それがますます政治家の怠慢を許す構図だ。

ECBは、スペインやイタリアのような財政難に陥った国の国債を市場から買うことを決めた。厳しい条件付きだが、決定を受けてユーロ圏の国債市場では緊張が和らいだ。ただ、これが今回もまた政治家の時間稼ぎにつながらないかと心配だ。

米国では昨年夏、国の借金の上限を引き上げる際、民主、共和両党が財政健全化策で合意できなかった。その結果、来年1月には歳出の強制削減が実施されそうな雲行きだ。大型減税の期限切れと重なり景気に深刻な痛手になると心配されている。金融政策はすでに限界だが、FRBは、何としても雇用を支えるという姿勢を示さざるを得なかった。

そして日本である。日銀が資産買い入れ基金を導入したのは2年前だ。当初は「11年末までに35兆円」を目標とし、債券などを買って市場に資金を供給した。しかし、「デフレ対策が不十分」との声は絶えず、今回で6度目の追加である。

中国や欧州など海外経済が想定以上に思わしくなく、輸出への影響が広がるのを日銀は心配している。だが、より根源的な問題は、国内の働く世代の数が減り、経済成長の基礎体力が落ちているというのに、政府や国会で、真剣な政策論議がほとんどなされていないことだ。

それどころか、本来は4月に成立していなければならない特例公債法案さえ未成立で、このままでは経済への悪影響も懸念される。

そこへ日銀まで動かないとなると、市場や企業経営者の心理がより悪化しかねない。追加緩和の背景にはそんな考えがあったようだが、これがかえって政治家の経済・財政に対する危機感を緩ませる恐れがある。

財政危機国の国債購入を決めたECB理事会では、ドイツの中央銀行のワイトマン総裁がただ一人反対した。「(ECBの国債購入は)お札を刷って政府の赤字の穴埋めをするのに等しい」「民主的に選ばれた議会や政府がなすべき仕事を、中央銀行がやってはならない」(同総裁)。各国の中央銀行、そして政治家が今こそかみしめるべき言葉だ。

産経新聞 2012年09月23日

日銀追加緩和 危険域の円に警戒怠るな

日銀が追加緩和に踏み切った。市場に資金を供給するために国債などを購入する基金の規模を10兆円増額して80兆円とし、買い入れ期限も従来の来年6月末から半年間延長した。

すでに欧州中央銀行(ECB)は国債の無制限買い入れを決め、米連邦準備制度理事会(FRB)は量的緩和第3弾(QE3)に踏み切っている。3中央銀行が緩和で足並みをそろえるかたちになったことを歓迎したい。

無論、それぞれ各国・地域の事情に基づく金融緩和だ。主要国の緩和競争とみる向きもあるが、協調して世界景気の後退を防ぐ意志を示したと評価すべきである。

ただ、このことは、世界経済に暗雲が広がっていることも意味する。欧州危機は封じ込め策が具体化しつつあるものの、長期戦は必至だ。米景気の回復力は弱く、中国やインドなど新興国の経済も危うさを増している。

特に中国の状況は厳しい。米欧経済の不調のあおりによる輸出の鈍化、住宅バブルの崩壊、外国資本の逃避など危険信号が点滅し始めた。世界第2位の経済大国の失速は、日本はもとより、世界経済に深刻な打撃を与えかねない。

日銀が、近く公表する企業短期経済観測調査(日銀短観)や「経済・物価情勢の展望」の見直しを待たずに緩和を強化したのは、中国経済への危機感からだ。すでに鉱工業生産指数などにその影響は出ており、買い入れ期限の半年延長は、景気回復が来年末まで遅れると判断した表れといえる。

日本経済最大の懸案であるデフレ脱却は金融政策だけでは限界がある。まして、より長期的で深刻な人口減少にどう対応するかは政治の責務だ。それでも、日銀に課せられた役割は、なお重く、警戒を怠ってはならない。

注意を要するのは、危険水域が続く円相場だ。米欧経済の低迷は対ユーロ、対ドルで円高を進行させ、相手国の景気低迷とあいまって、日本の輸出企業には二重の打撃となる。とりわけ中小・零細企業への影響は深刻だ。

円高を是正する市場介入は財務省の役割だ。しかし、日銀も円の動向にこれまで以上に神経をとがらせる必要がある。そのうえで、必要な場合は、資金供給の手段として結果的に円売りにつながる外債購入などの方策も排除すべきではあるまい。

朝日新聞 2012年09月17日

米金融緩和 「財政の崖」への対策を

米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)が、市場にお金を大量に出回らせる量的緩和(QE)の第3弾に踏み切った。

8月の雇用増が農業以外の部門で目安の10万人を割ったことがFRBの背中を押した。

住宅ローンを担保にした証券を、雇用が改善するまで期限を設けずに毎月400億ドル(約3兆円)のペースで買う。超低金利を続ける期間も延ばす。必要なら追加策を採る。

長期金利を引き下げて、設備投資などを刺激し、雇用の底上げをはかる狙いがある。住宅ローン担保証券を買って金利を下げれば、米国経済の足を縛る住宅部門のテコ入れ効果も期待できると読んだようだ。

バーナンキFRB議長は、金融政策の限界や過度な依存の弊害も語ってきた。リーマン・ショック後、これまで2度のQEでも、インフレ予想などでマネーが国債市場から株式市場に動き、株価は上がったものの、引き下げを狙った長期金利が逆に上がる局面があった。

日本と同様、超低金利で利ざやが薄くなり、金融機関がリスクを負って企業に融資する意欲を失う問題も取りざたされる。FRBが国債や証券を抱えすぎると、景気回復期に資産が劣化する心配もある。

今回のQE3もウォール街のはしゃぎぶりとは裏腹に、実体経済への効果には不透明感が漂う。政府と議会が担う財政分野で金融政策の効果を妨げる要因があるなら、なおさらだ。

特に懸念されるのが「財政の崖」と呼ばれる問題だ。

これは、年末年始に減税の期限切れや財政健全化のための自動的な歳出削減が重なるため、米国経済が失速しかねないことを指す。

この衝撃を回避する見通しを早く示す必要がある。昨夏、連邦債務をめぐる大統領と議会の対立が米国債の格下げを招き、経済を混乱させた経緯を考えると、先行きがはっきりしないだけでも企業行動は萎縮する。すでに低い金利を無理してさらに下げようというQE3の効果も帳消しになりかねない。

民主・共和両党は、景気と雇用を争点に大統領選で激突しており、政治的な妥協が難しいのは分かる。だが、そのために経済安定に最低限、必要な行動すらとれないのなら、本末転倒というほかない。

両党は、減税の暫定的な延長などで猶予期間を確保し、選挙後の新体制下で円滑な解決を図ると早く約束すべきだ。大局に立った政治を見せてほしい。

毎日新聞 2012年09月16日

米追加金融緩和 バブルの教訓忘れたか

米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が、また大規模な金融緩和を始める。住宅ローン担保証券を大量に買い、市場に出回る資金の量を増やす量的緩和である。

リーマン・ショック後、初めて実施して以来、今回で3度目だ。過去2度の緩和では計2・3兆ドルもの資金が供給されたが、景気の改善は続かなかった。このため経済専門家の間では、第3弾の効果を疑問視する声が強かった。

バーナンキFRB議長自身、金融政策に限界があることを認めている。円高など他国の通貨高やエネルギー価格の上昇など、副作用も多く指摘されてきた。

にもかかわらず、今回、大々的な第3弾となった背景には、大統領選挙が近づき、雇用情勢の改善の遅れがクローズアップされていることがある。このため今回は、過去の量的緩和と異なり、終了時期や総枠を明示しなかった。失業率が明らかに下がるまで、毎月400億ドル(約3・1兆円)の供給を続け、それでもだめなら、次の手を打つという。

さらに、経済が上向き始めた後も、しばらくやめないそうだ。量的緩和に加え、これまで「2014年終盤」としてきたゼロ金利の終了時期も「15年の半ば」へと延期した。

なりふり構わぬ危険な賭けだ。

リーマン・ショックをもたらした不動産・証券バブルの傷が深かっただけに雇用情勢の改善はそう簡単に進まない。金利や資金不足がネックになっているのではなく、企業や銀行には、むしろ巨額の資金が滞留している。そこへ追加の供給を行っても、マネーゲームに向かうお金を増やすだけだろう。石油や穀物の先物市場で投機が活発になり、価格がさらに押し上げられたら、景気にはかえって足かせとなる。

最も気がかりなのは、住宅市場や証券市場に実体の伴わない熱狂が戻ってくることだ。バーナンキ議長は不動産価格や株価の上昇が景気の刺激になると期待を込めたが、マネー主導の活況は経済をゆがめる。

リーマン・ショックからまだ4年。行き過ぎた金融緩和が熱狂のエンジンとなり、破綻を招いた教訓を忘れるには、あまりにも短過ぎる。

日銀も18、19日に、金融政策決定会合を開く。FRBの措置を受けて、政界などから「日銀ももっと緩和を」との圧力が強まる可能性がある。中央銀行に責任を押し付けた方が政治家は楽だからである。

しかし、金融政策が限界に達したのは日本も同じだ。これ以上の緩和は弊害を深刻化させるだけで、打開策になどならない。他国の誤りには警鐘こそ鳴らすべきであり、それをまねるのは罪深いことだ。

産経新聞 2012年09月18日

米追加緩和 日銀も景気支える意志を

米連邦準備制度理事会(FRB)が2008年秋と10年秋に続く金融の量的緩和第3弾(QE3)に踏み切った。同時に事実上のゼロ金利政策の期間を15年半ばまで延長することを決めた。

FRBは景気を支え、雇用改善を目指すという意志を明確にしたのである。さらに雇用が改善しなければ追加策をとる、と声明で明言したことは重要だ。

中央銀行の大きな役割の一つに情報発信がある。一義的には、その意図を市場に正しく伝えるのが目的だが、金融政策の効果を最大限にする狙いもある。この観点から、FRBの明快な意思表示は評価したい。

「物価の安定」と「雇用」はFRBの政策目標だ。米国景気は緩やかな回復基調であり、8月の統計で製造業の雇用者数が減少する一方、失業率は改善していた。このため、今回QE3は見送るとの見方が支配的だった。

QE3の効果については、バーナンキFRB議長自身が「万能薬ではない」というように、疑問がないわけではない。大統領選直前に、切り札とされた「QE3カード」を切ったことを政治への配慮と苦々しくみる向きもある。

それでも、今回、日米の株価が上昇、金利も低下したのはFRBの姿勢を好感したためだ。

欧州危機、中国など新興国の景気減速など世界経済の不透明感は強まっている。日本もその影響で、今年4~6月期の成長率が予想以上に鈍化した。

デフレ脱却に向けた経済政策の停滞を招いている政治の混迷に、一刻も早く終止符を打たねばならないのはいうまでもない。そのうえで政府・日銀は危機感を強める必要がある。

円高が加速した場合の為替介入をためらってはならない。18、19の両日に金融政策決定会合を控える日銀は、現在の緩和策を続けるだけで十分か検証すべきだ。

日銀の国債保有残高は81兆円に迫り、戦後初めてお札の発行残高を超えた。今後も金融緩和のために設置した「資産買い入れ基金」で国債を買い続けることにしているが、円売りドル買い効果のある外債購入など、購入資産の種類を増やすことの検討を促したい。

そして、何よりも日銀はFRB同様、デフレ脱却と景気失速回避の強い意志をはっきりと国民と市場に見せることが重要である。

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