朝日新聞 2012年09月17日
米金融緩和 「財政の崖」への対策を
米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)が、市場にお金を大量に出回らせる量的緩和(QE)の第3弾に踏み切った。
8月の雇用増が農業以外の部門で目安の10万人を割ったことがFRBの背中を押した。
住宅ローンを担保にした証券を、雇用が改善するまで期限を設けずに毎月400億ドル(約3兆円)のペースで買う。超低金利を続ける期間も延ばす。必要なら追加策を採る。
長期金利を引き下げて、設備投資などを刺激し、雇用の底上げをはかる狙いがある。住宅ローン担保証券を買って金利を下げれば、米国経済の足を縛る住宅部門のテコ入れ効果も期待できると読んだようだ。
バーナンキFRB議長は、金融政策の限界や過度な依存の弊害も語ってきた。リーマン・ショック後、これまで2度のQEでも、インフレ予想などでマネーが国債市場から株式市場に動き、株価は上がったものの、引き下げを狙った長期金利が逆に上がる局面があった。
日本と同様、超低金利で利ざやが薄くなり、金融機関がリスクを負って企業に融資する意欲を失う問題も取りざたされる。FRBが国債や証券を抱えすぎると、景気回復期に資産が劣化する心配もある。
今回のQE3もウォール街のはしゃぎぶりとは裏腹に、実体経済への効果には不透明感が漂う。政府と議会が担う財政分野で金融政策の効果を妨げる要因があるなら、なおさらだ。
特に懸念されるのが「財政の崖」と呼ばれる問題だ。
これは、年末年始に減税の期限切れや財政健全化のための自動的な歳出削減が重なるため、米国経済が失速しかねないことを指す。
この衝撃を回避する見通しを早く示す必要がある。昨夏、連邦債務をめぐる大統領と議会の対立が米国債の格下げを招き、経済を混乱させた経緯を考えると、先行きがはっきりしないだけでも企業行動は萎縮する。すでに低い金利を無理してさらに下げようというQE3の効果も帳消しになりかねない。
民主・共和両党は、景気と雇用を争点に大統領選で激突しており、政治的な妥協が難しいのは分かる。だが、そのために経済安定に最低限、必要な行動すらとれないのなら、本末転倒というほかない。
両党は、減税の暫定的な延長などで猶予期間を確保し、選挙後の新体制下で円滑な解決を図ると早く約束すべきだ。大局に立った政治を見せてほしい。
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毎日新聞 2012年09月16日
米追加金融緩和 バブルの教訓忘れたか
米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が、また大規模な金融緩和を始める。住宅ローン担保証券を大量に買い、市場に出回る資金の量を増やす量的緩和である。
リーマン・ショック後、初めて実施して以来、今回で3度目だ。過去2度の緩和では計2・3兆ドルもの資金が供給されたが、景気の改善は続かなかった。このため経済専門家の間では、第3弾の効果を疑問視する声が強かった。
バーナンキFRB議長自身、金融政策に限界があることを認めている。円高など他国の通貨高やエネルギー価格の上昇など、副作用も多く指摘されてきた。
にもかかわらず、今回、大々的な第3弾となった背景には、大統領選挙が近づき、雇用情勢の改善の遅れがクローズアップされていることがある。このため今回は、過去の量的緩和と異なり、終了時期や総枠を明示しなかった。失業率が明らかに下がるまで、毎月400億ドル(約3・1兆円)の供給を続け、それでもだめなら、次の手を打つという。
さらに、経済が上向き始めた後も、しばらくやめないそうだ。量的緩和に加え、これまで「2014年終盤」としてきたゼロ金利の終了時期も「15年の半ば」へと延期した。
なりふり構わぬ危険な賭けだ。
リーマン・ショックをもたらした不動産・証券バブルの傷が深かっただけに雇用情勢の改善はそう簡単に進まない。金利や資金不足がネックになっているのではなく、企業や銀行には、むしろ巨額の資金が滞留している。そこへ追加の供給を行っても、マネーゲームに向かうお金を増やすだけだろう。石油や穀物の先物市場で投機が活発になり、価格がさらに押し上げられたら、景気にはかえって足かせとなる。
最も気がかりなのは、住宅市場や証券市場に実体の伴わない熱狂が戻ってくることだ。バーナンキ議長は不動産価格や株価の上昇が景気の刺激になると期待を込めたが、マネー主導の活況は経済をゆがめる。
リーマン・ショックからまだ4年。行き過ぎた金融緩和が熱狂のエンジンとなり、破綻を招いた教訓を忘れるには、あまりにも短過ぎる。
日銀も18、19日に、金融政策決定会合を開く。FRBの措置を受けて、政界などから「日銀ももっと緩和を」との圧力が強まる可能性がある。中央銀行に責任を押し付けた方が政治家は楽だからである。
しかし、金融政策が限界に達したのは日本も同じだ。これ以上の緩和は弊害を深刻化させるだけで、打開策になどならない。他国の誤りには警鐘こそ鳴らすべきであり、それをまねるのは罪深いことだ。
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産経新聞 2012年09月18日
米追加緩和 日銀も景気支える意志を
米連邦準備制度理事会(FRB)が2008年秋と10年秋に続く金融の量的緩和第3弾(QE3)に踏み切った。同時に事実上のゼロ金利政策の期間を15年半ばまで延長することを決めた。
FRBは景気を支え、雇用改善を目指すという意志を明確にしたのである。さらに雇用が改善しなければ追加策をとる、と声明で明言したことは重要だ。
中央銀行の大きな役割の一つに情報発信がある。一義的には、その意図を市場に正しく伝えるのが目的だが、金融政策の効果を最大限にする狙いもある。この観点から、FRBの明快な意思表示は評価したい。
「物価の安定」と「雇用」はFRBの政策目標だ。米国景気は緩やかな回復基調であり、8月の統計で製造業の雇用者数が減少する一方、失業率は改善していた。このため、今回QE3は見送るとの見方が支配的だった。
QE3の効果については、バーナンキFRB議長自身が「万能薬ではない」というように、疑問がないわけではない。大統領選直前に、切り札とされた「QE3カード」を切ったことを政治への配慮と苦々しくみる向きもある。
それでも、今回、日米の株価が上昇、金利も低下したのはFRBの姿勢を好感したためだ。
欧州危機、中国など新興国の景気減速など世界経済の不透明感は強まっている。日本もその影響で、今年4~6月期の成長率が予想以上に鈍化した。
デフレ脱却に向けた経済政策の停滞を招いている政治の混迷に、一刻も早く終止符を打たねばならないのはいうまでもない。そのうえで政府・日銀は危機感を強める必要がある。
円高が加速した場合の為替介入をためらってはならない。18、19の両日に金融政策決定会合を控える日銀は、現在の緩和策を続けるだけで十分か検証すべきだ。
日銀の国債保有残高は81兆円に迫り、戦後初めてお札の発行残高を超えた。今後も金融緩和のために設置した「資産買い入れ基金」で国債を買い続けることにしているが、円売りドル買い効果のある外債購入など、購入資産の種類を増やすことの検討を促したい。
そして、何よりも日銀はFRB同様、デフレ脱却と景気失速回避の強い意志をはっきりと国民と市場に見せることが重要である。
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