日朝宣言10年 原点に返って交渉を立て直せ

朝日新聞 2012年09月17日

日朝平壌宣言 この10年の轍を踏むな

小泉純一郎首相が北朝鮮を訪問し、故金正日(キムジョンイル)総書記と日朝平壌宣言に署名してから、きょうでちょうど10年になる。

拉致被害者5人とその家族は帰国した。とはいえ拉致事件の全容がわかったとはとてもいえず、核問題についての6者協議も中断したままだ。

長い足踏みはもどかしいばかりだが、この間、大きく変わったことが一つだけある。金正恩(キムジョンウン)新指導部の発足である。

日朝の政府間の本格的な協議が、近く4年ぶりに再開する見通しだ。これも新体制による変化の表れかもしれない。この機を逃さず、双方の努力で協議を軌道に乗せてほしい。

10年前、北朝鮮が示した拉致被害者の「5人生存、8人死亡」という説明はあまりに痛ましかった。

しかも、8人の多くが20代から30代で、死因にも不審な点があった。本当なのか、きわめて疑わしいものだった。

それでも小泉首相が平壌宣言に署名し、国交正常化交渉を再開する決断をしたのは、北朝鮮との敵対関係を解消することが、日本の国益になると判断したからだ。

宣言のポイントは3点だ。

日本は植民地支配への謝罪を表明し、国交正常化後に経済協力を実施する。北朝鮮は日本人の生命にかかわる問題の再発を防ぐ。双方は核問題解決のため、関係国間の対話を促す。

実現すれば、日本の戦後処理に大きな区切りがつく。なによりも、日本を敵視する隣国が核兵器やミサイルを開発しているという安全保障上の大きな懸念の解消につながる。

だが、この10年、事態はほとんど動かなかった。

拉致事件の衝撃は大きく、その後の真相解明の要求や核開発に対する北朝鮮の態度はあまりに不誠実だった。

そのため、拉致問題以外のことを話し合う空気がなくなったことが、北朝鮮との交渉の幅をせばめてしまった面があるのは否めない。

10年を区切りに、交渉のあり方をリセットしたい。

平壌宣言の原点に立ち戻り、拉致問題、過去の清算、核・ミサイル開発などを包括的に話し合う。どれひとつでも脇に置いては、協議は進むまい。

経済改革に取り組む正恩氏の新指導部に、対外開放を促すことも必要だ。北朝鮮も真摯(しんし)に対応すれば、やがて豊富な地下資源や労働力を生かし、経済を立て直す道も開けよう。

この10年と同じ轍(てつ)を踏んではならない。

読売新聞 2012年09月17日

日朝宣言10年 原点に返って交渉を立て直せ

日本の首相として初めて北朝鮮を訪れた小泉首相が、金正日総書記と日朝平壌宣言に署名してから17日で10年となる。

この間、拉致問題は解決できず、北朝鮮の核・ミサイルの脅威は増大した。

政府は、金正恩第1書記との間で原点の平壌宣言の有効性を確認し、政府間交渉を軌道に乗せる必要がある。

日朝首脳会談で金総書記は、国家が関与した日本人拉致を初めて認め、謝罪した。宣言は、北朝鮮が「日本国民の生命と安全に関わる懸案問題」を再び起こさぬよう適切な措置をとると明記した。

約1か月後、曽我ひとみさん、蓮池薫さんら拉致被害者5人が帰国、2004年5月の小泉首相再訪朝を機に、さらに被害者の家族が帰国するなど前進はあった。

だが、全容解明にはほど遠い。北朝鮮は08年の協議で拉致問題の再調査を表明しながら、一方的に反古(ほご)にし、今日に至っている。

誠実に対応しようとしない北朝鮮の態度は極めて遺憾である。

金正恩体制下の先月末、4年ぶりの日朝政府間協議では、拉致問題を念頭に「双方が関心を持つ事項」について協議することで一致した。北朝鮮に変化の兆しが出てきたようにも見える。

北朝鮮が死亡したと主張する横田めぐみさんらの消息に関して、松原拉致問題相は「多くの生存情報が様々な接触から寄せられていることは事実だ」と述べた。

政府は被害者全員の早期帰国が実現するよう、戦略を立て直して交渉に臨んでもらいたい。

平壌宣言は、日朝国交正常化に向けて、核問題解決のため「国際的合意の順守」を確認し、核・ミサイルなど安全保障でも関係国間の対話の促進を明記した。宣言を受けて、北朝鮮と日米中韓露による6か国協議が発足した。

北朝鮮は、朝鮮半島の非核化を目指す6か国協議の開始後、国際社会の度重なる警告を無視して弾道ミサイル発射や核実験を強行した。今や「核保有国」を自称する。6か国協議も行き詰まった。

北朝鮮が、国連の経済制裁下に置かれ、日本独自の制裁対象にもなったのは当然である。

今後、北朝鮮が経済を再建するためには、中国の支援に依存するだけではなく、国際社会との関係を改善することが必要だろう。

日本との国交正常化は、拉致や核・ミサイル問題の包括的な解決が前提だ。それを金第1書記に認識させていかねばならない。

そのためにも、日本政治の安定が欠かせない。

産経新聞 2012年09月17日

小泉訪朝10年 圧力テコに拉致解決迫れ

訪朝した小泉純一郎元首相に対し、北朝鮮の故金正日総書記が日本人拉致の事実を認めて謝罪した、日朝首脳会談から10年を迎えた。北朝鮮の国家犯罪が白日の下にさらされ、国民が怒りと悲しみに震えたあの日を忘れてはならない。

拉致被害者の蓮池薫さんら5人とその家族は無事、帰国した。だが、10年たった今も、横田めぐみさんら他の多くの被害者は帰国できないでいる。政府、与野党ともまず、このことをしっかり反省すべきである。

先月末、4年ぶりに日朝政府間協議が行われた。次回局長級協議で、北朝鮮は拉致問題を議題とすることにも難色を示している。

北朝鮮が4年前に約束した日本人拉致被害者の再調査を実行させるためには、期限を切って回答を迫り、北の対応によっては、制裁強化も辞さないという強い姿勢が必要である。

昨年暮れ、金総書記が死亡し、三男の金正恩第1書記の体制に代わったが、相変わらず、拉致問題に誠実に向き合う態度は見られない。今後も、圧力をテコに、北を拉致問題解決に向けて動かすための粘り強い外交が求められる。間違っても、日朝国交正常化に前のめりになってはならない。

10年前、小泉氏が署名した日朝平壌宣言は、日本の「植民地支配」への「痛切な反省」と「心からのおわび」が盛り込まれ、国交正常化後の日本の経済支援を約束する内容だった。「拉致」の文言はなく、「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題」という曖昧な表現でぼかされていた。

これで北朝鮮が本当に謝罪したことになるのか。字句の修正を求めることはできなかったのか。改めて検証が必要である。

さらに問われるべきは、小泉氏が訪朝するまで何十年間も、拉致を放置し続けた歴代内閣の不作為責任である。「平和を愛する諸国民の公正と信義」をうたった「平和憲法」に安住し、国民の生命と主権を守るための海岸線の防備や北朝鮮工作員を取り締まるための法整備を怠ってきた。

今月初め、東京都内で開かれた拉致被害者の早期救出を求める国民大集会に、野田佳彦首相ら主要政党の代表が出席し、「オールジャパン」で拉致問題解決を目指すことが確認された。民主党代表選や自民党総裁選で、拉致問題をめぐる論戦を期待する。

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