米大使殺害 民主化を破壊する蛮行だ

毎日新聞 2012年09月14日

米大使殺害 テロは決して許されぬ

確かに、趣味のいい映画ではない。イスラム教の預言者ムハンマドを好色で間抜けな人物のように描き、残酷な場面も随所にある。ネットで流される14分弱のダイジェスト映像を見る限り、イスラム教徒が怒るのも分からないではない。

しかし、だからといって武装集団がリビアの米領事館に押し掛け、米大使らを殺していいはずがない。映画の監督は当初、イスラエル系米国人と伝えられたが、情報は二転三転している。ただ誰が監督であれテロは許されないし、安全を保障されるべき外交官を襲うのは言語道断だ。

国連安保理声明も言うように、宗教を侮辱してはいけないが、暴力は絶対に正当化できない。14日はイスラム教徒の金曜礼拝が行われ、エジプトやイエメン、パレスチナなどに及んだ抗議行動がさらに広がる恐れがある。関係国・地域の警戒と鎮静化への努力も必要だろう。

「イスラムへの侮辱」が流血や騒乱を呼んだ例は過去にもあった。80年代末、小説「悪魔の詩」の作者(英国人)に対してイランの最高指導者・故ホメイニ師が「死刑宣告」を出し、同書を日本語に翻訳した五十嵐一・筑波大助教授は91年、同大構内で何者かに殺されている。

05年にはデンマーク紙がムハンマドの風刺画を掲載し、翌年、同国の大使館や総領事館がシリア、レバノンで放火されるなどの騒ぎになった。欧州でもイスラム教徒の抗議行動が続いて宗教的対立が深まった。

さらに昨年は米フロリダ州のキリスト教牧師らがイスラム教の聖典コーランを燃やしたことで抗議行動が高まり、アフガニスタンの国連施設などが襲われて多数の死者が出た。

この牧師が、問題の映画の宣伝をしていることは無視できない。昨年、同牧師にコーラン焼却の断念を求めた米政府は今回、アフガン駐留米軍などに累が及ぶのを恐れ、牧師に宣伝活動の中止を要請している。米国の一握りの人々が、同じような構図で、イスラムとの対立をあおっている現状は改善すべきである。

米領事館を襲った武装勢力の正体は不明だが、アルカイダ系とする見方もある。01年に米同時多発テロを実行した9月11日にあわせて襲撃したのか。米国がミサイル駆逐艦をリビア沖に派遣、海兵隊のテロ対策チームも現地に向かわせたのは、強い危機感の表れだろう。

民衆運動「アラブの春」によるカダフィ独裁政権の打倒からほぼ1年。リビアの政情は安定せず、混迷に乗じてアルカイダが勢力を広げている疑いもある。まずは領事館襲撃の背後関係を明らかにすべきだ。そのためにはリビアと米国を中心に国際的な協力が必要だろう。

産経新聞 2012年09月14日

米大使殺害 民主化を破壊する蛮行だ

イスラム教預言者ムハンマドを侮辱した米映画が激しい反発を招き、リビアでは米領事館が襲撃され、米国大使ら4人が殺害された。

米国では2001年の中枢同時テロから11年にあたる9月11日に合わせた武装テロ攻撃との見方もあり、オバマ政権は中東地域を中心に対テロ厳戒態勢を発動した。

エジプトの首都カイロでも米大使館に群衆が押しかけ、米国旗を引き裂いた。抗議はチュニジアやモロッコ、スーダン、イエメンなどにも広がっている。

テロが許されないのはいうまでもないが、宗教的冒涜(ぼうとく)への抗議だとしても、暴力や襲撃は正当化されない蛮行だ。

リビアやエジプトでは昨年の独裁政権崩壊後、イスラム主義勢力が台頭した。それが騒乱の背景にあるなら、懸念せざるを得ない。「アラブの春」以後の民主化への軌道をはずれ、逆行する結果にもなりかねないからだ。

オバマ大統領はリビア政府と協力して実行犯に「裁きを下す」と強い姿勢を示した。同国に海兵隊対テロ部隊や巡航ミサイル搭載駆逐艦2隻を急派するなど、米国人と施設の安全を確保する態勢をとったのは当然といえる。

領事館襲撃は約4時間、波状的に行われ、「計画的テロ」(米政府筋)の可能性もある。リビア議会議長は米国に謝罪する一方で、「犯人が罪を逃れることはない」と表明した。全容解明と犯人追及に全力を挙げてもらいたい。

リビアでは、内戦時に国外などから流入した大量の武器や弾薬の大半がいまだに回収されていないのが大きな問題だ。民主化と統治の正常化を進める中で軍や警察の再編も含め、治安と市民の安全を確立することが急がれる。

ネット投稿された問題の映画は映像化もタブーとされる預言者を好色で残忍な人物として描いている。05年にデンマーク紙が掲載した風刺漫画も激しい反発を招いたが、今回は露骨な冒涜であり、挑発といえる。

それでも無分別な暴力は「動機が何であれ正当化できない」(国連安保理声明)というのが国際世論である。

リビアもエジプトも、民主化をさらに根付かせる上で、日本や欧米など国際社会の支援を必要としている。民主化の過程で生じる危険な側面も注視していきたい。

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