韓国釜山火災 手軽な射撃観光が招いた惨事

毎日新聞 2009年11月17日

釜山射撃場火災 旅は安全であってこそ

突然の惨事であった。韓国釜山市の実弾射撃場火災で日本人観光客7人と韓国人3人が死亡したとみられる。やけどに苦しむ日本人もいる。

現場写真に片仮名で写っている店名「ガナダラ」は、日本語の「あかさたな」や「いろは」に該当する。基本順守をイメージさせる名称の施設で、海外旅行に必須の「安全」が崩れてしまった。日韓双方にとって痛恨の事態と言うほかはない。

鳩山由紀夫首相は訪問先のシンガポールで李明博(イミョンバク)韓国大統領に日本人観光客への配慮を要請、大統領は誠意ある対応を約束した。鄭雲燦(チョンウンチャン)首相は釜山に駆けつけて日本から到着した遺族らに謝罪した。

韓国主要紙は社説で、犠牲者や遺族に哀悼の意を表するとともに自国政府に「日本人犠牲者の身元確認や補償をはじめ事故収拾と遺族支援に万全を期さねばならない」(東亜日報)などと求めた。同時に、この悲劇を国家的な恥辱ととらえ、原因の徹底究明や根本的対策を要求した。良心的な対応と言えよう。

この火災についてはまだ不明な点が多い。弾薬庫は焼けていないようだが、大きな爆発音がしたことから空気中の火薬の粉じんに引火した可能性も浮上している。

出火原因が何にせよ、そもそも店舗が密集して消防車も接近しにくい繁華街の雑居ビルに実弾射撃場の設置を許可したのは適切なのか。火災時の避難対策は十分だったのか。06年にはソウルの室内射撃場で日本人3人を含む客7人が負傷し、従業員1人が死亡する火災があったというが、教訓は生かされたのか。次々に疑問がわく。韓国メディアの指摘通り、安全確保のための抜本的な見直しが必要なのではあるまいか。

実弾射撃場は釜山、ソウルを中心に8施設が営業中で、客の大半は日本人だという。この種の施設は90年代前半には全く目立たなかったが、韓流ブームを背景に押し寄せた日本人観光客をターゲットにして急増したようである。

観光産業が隣の国からの訪問客に大きく依存している構図は日韓共通だ。時には歴史問題などで摩擦が起きる両国関係だが、日本人観光客は韓国で歓迎されている。深夜の繁華街をごく少人数で歩いても、よほど羽目を外さない限り危険な目にはあわないだろう。

しかし、日本で銃規制が厳しく実弾射撃場が許されないことにはそれなりの理由がある。韓国では合法である以上、「非日常」を楽しもうという観光客をとがめるわけにはいかないが、思いがけない事故の可能性を完全には排除できない。やはり海外では「用心の上にも用心を」と心がけるのが適切であろう。

読売新聞 2009年11月16日

韓国釜山火災 手軽な射撃観光が招いた惨事

誰でも実弾を撃てる店が繁華街の雑居ビルで営業している、というだけでも驚く。しかも、その射撃場で火災が起こり、巻き込まれた人の大半が日本人観光客とは――。

韓国南部の釜山市にある「ガナダラ実弾射撃場」で14日、爆発音とともに火災が発生し、10人が死亡、6人が負傷した。

韓国当局の発表では、犠牲者のうち8人が日本人男性という。中学時代の同窓生グループなど、ごく普通の観光客である。

なぜ、このような惨事が起きたのだろうか。

現場の実弾射撃場は、釜山市の国際市場と呼ばれる観光エリアの中で、土産物店なども入居する5階建てビルの2階にあった。

出火原因は調査中だが、激しい炎と煙で店内の人は逃げる時間がなかったようだ。発射弾や音を封じ込めるために密閉度の高い店内構造であったことが、多数の死傷者を出した一因と推測される。

韓国でも一般人の拳銃所持は禁じられているが、許可を得れば、何種類もの拳銃を使って実弾を撃てる射撃場の営業が可能という。同様の射撃場は釜山市だけで4か所あり、首都ソウルの中心部にも存在する。

徴兵制の韓国では男性のほとんどが軍で射撃訓練を受けており、料金を払って射撃を体験しようとする人は少ないだろう。

つまり想定する客の大半は外国人であり、事実上、隣国で銃規制が厳しい日本の観光客向けだったようだ。火災のあった射撃場も日本語の看板が掲げられていた。

無論、営業射撃場を認めるかどうかは韓国の問題である。

だが、当局による射撃場の安全点検は、銃の管理や防音対策に力点が置かれ、火災を想定した規制は甘いとの指摘もあるようだ。現に、2006年にもソウルの射撃場で火災が起き、日本人3人が負傷している。

韓国当局には、防火体制を見直して再発防止を図るとともに、射撃場の許可基準についても問題がないか検討してもらいたい。

韓国だけでなく、フィリピンや米国などの射撃場も日本人客が多いという。日本でできないことを体験するのが海外旅行の楽しみであることは確かだろう。

しかし、実弾射撃場には火災のみならず、誤射や暴発などが起きる可能性もある。安易に観光の一つと考えるのは危うい。

外務省や旅行業界は危険性を警告し、自粛を呼びかけることも検討すべきではないか。

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