尖閣購入決定 中国の実力行使に備えを

朝日新聞 2012年09月13日

尖閣と中国 強硬姿勢は何も生まぬ

日本政府が沖縄県・尖閣諸島を購入し、領有権を主張する中国が反発を強めている。

影響を両国関係全体に及ぼさぬよう、中国側には自制的な対応を望みたい。

中国側の反発は、日本政府の予想を上回るものだった。

温家宝(ウェンチアパオ)首相が「半歩も譲らない」と異例の強い口調で反論したほか、外務省も「領土主権に対する侵害を座視しない」などとした声明を出した。

国防省や、国会に当たる全国人民代表大会(全人代)外事委員会も、相次いで国有化を批判する談話や声明を出した。

購入を閣議決定した当日には、中国の海洋監視船2隻が尖閣周辺の海域に現れた。

日中の交流事業にも影響が出ており、中国政府が経済的な制裁に出る可能性も取りざたされている。

中国側にも言い分はあろうが、経済や文化の領域にまで対抗措置を拡大しても、両国にとって益はない。

日本政府が国有化を撤回することもあり得ず、何の解決にもならないことは明らかだ。

もう一つ気がかりなことがある。日本は1895年、尖閣諸島がどの国にも属していないことを確認し、領土に編入した。

これについて、中国外務省が声明で、日清戦争の混乱の中で「不法に盗み取った」などと、日本の中国侵略の歴史と結びつけて説明していることだ。

反日デモの動きが出ている中、中国の国民感情をさらに刺激しかねない内容だ。

中国は国際社会への訴えにも力を入れ始めた。日本としても、領有の根拠など自らの立場を発信することが必要だ。

そもそも、国有化は、東京都の石原慎太郎知事が購入計画を打ち出したことが引き金になった。中国側では、石原氏の動きに乗じて日本政府が尖閣の支配を強めたとの受け止めが強い。

だが、中国への挑発的な言動を繰り返す石原氏の管理下に置くよりも、国有化の方が無用な摩擦を抑えることができる。都の購入を止める方法は、国有化のほかになかった。そのことは日本政府も中国に繰り返し説明してきた。

さらに国有化の前も後も、日本政府が尖閣を領土として統治する実態に何の変化もない。これまでも、賃借とはいえ、政府が有効に管理していたのだ。

野田政権は、港湾施設の整備や灯台建設はせず、島の現状には手を加えない方針だ。中国への配慮からだ。

中国はこうした点をしっかりと受け止めるべきだ。

読売新聞 2012年09月14日

尖閣国有化 中国の圧力外交は行き過ぎだ

日本政府が沖縄県の尖閣諸島を国有化したことに対し、領有権を主張する中国が反発をエスカレートさせている。

温家宝首相は「主権、領土の問題で半歩たりとも譲ることは絶対にない」と強調した。

国防省は「中国政府と軍は相応の措置をとる権利を留保する」とまで主張している。日本を震えあがらせて、国有化の撤回に追い込みたい狙いがあるのだろう。

指導部が交代する共産党大会を間近に控え、対日弱腰姿勢を見せられない国内事情があるのは間違いない。

中国は、2年前の中国漁船衝突事件後に実施したレアアース(希土類)の輸出規制強化のような、なりふり構わぬ対抗措置を繰り返すのだろうか。国際社会の責任ある大国だと自任するなら、度を越した圧力外交は自制すべきだ。

尖閣諸島を巡る領土問題は存在しないというのが日本の立場だ。玄葉外相が「尖閣諸島は我が国固有の領土であり、国際法上も歴史的にも疑いのない事実だ」と毅然(きぜん)と反論したのは当然である。

国有化について日本政府は「平穏かつ安定的な維持・管理を行うため」と説明してきたが、今後もこうした主張を粘り強く国際社会に訴えていくことが重要だ。

日本政府は、尖閣諸島の実効支配を崩そうとする中国の動きには警戒を強めなければならない。中国国営メディアは、国家海洋局の巡視船2隻が周辺海域で巡視活動を開始したと報じている。

今後、多数の巡視船や武装した漁船が領海侵犯などの示威行動を取る可能性も排除できない。

日本政府は海上保安庁の体制を拡充・強化し、領海警備に万全を期す必要がある。

中国国内の反日機運の高まりも懸念材料だ。満州事変の発端となった柳条湖事件が起きた9月18日にかけ、各地でネットを通じて反日デモが呼びかけられている。

日本人学校の運動会が延期になるなど、邦人社会に動揺も広がっている。中国当局には、事態の沈静化を急ぎ、邦人や日系企業の安全確保に努めてもらいたい。

交流事業の停止が相次いでいるのも問題だ。日中国交正常化40周年の記念行事に出席するため超党派の国会議員ら約30人が予定していた北京訪問が中国側から延期を通告された。訪日観光客のキャンセルも広がりを見せている。

日中両国は歴史的なつながりを持っている。両国関係の発展のために、一方的に交流や意思疎通のルートを閉ざしてはならない。

産経新聞 2012年09月16日

中国の尖閣侵犯 公船排除の法整備を急げ

中国の海洋監視船6隻が尖閣諸島周辺の日本領海に侵入した。6隻もの中国公船の領海侵犯は過去に例がない。日本の尖閣国有化に対する危険な実力行使であり、中国が本気で尖閣を取りにきているとみるべきだ。

政府は程永華駐日中国大使を外務省に呼んで抗議した。不十分である。より強い対抗措置が必要だ。

中国では反日デモも拡大し、日本人が暴行を受けるなどの被害も出ている。中国当局に、在留邦人の生命、財産を守る義務を果たすよう厳しく求めねばならない。

6隻の中国監視船の領海侵犯は二手に分けて行われた。うち1隻は、退去を求める海上保安庁の巡視船に「魚釣島は中国の領土で、本船は正当業務を執行中だ。直ちにこの海域から離れてください」と日本語で逆に警告してきた。

退去要求以上のことができない日本側の警備体制につけ込んだ、許し難い挑発行為である。

中国の横暴な行動を招いた最大の要因は、野田佳彦政権が尖閣諸島をただ国有化しただけで、中国側に配慮し、何の整備もしないとの方針を示したことにある。中国との摩擦回避のためとされるが、逆効果になっている。

野田政権は、石原慎太郎東京都知事が国有化容認の条件として提示した、漁船待避施設や漁業中継基地建設などの整備策を、改めて検討すべきだ。2年前の中国漁船衝突事件後、自衛隊常駐を訴えた松原仁国家公安委員長ら政権内の意見も集約する必要がある。

国連海洋法条約は、沿岸国が無害でない通航を防止するため「自国の領海内において必要な措置をとることができる」(25条)と定めている。しかし、これに対応する国内法がないため、日本は退去要請しかできない。領海侵犯した外国公船を強制的に排除するための法整備は急務である。

中国農業省漁業局は、尖閣周辺に漁業監視船を送る準備も進めているという。中国国家海洋局の海洋監視船に加え、漁業監視船が漁船群を伴って尖閣周辺の海域に殺到することも予想される。

尖閣の事態に対処する関係閣僚会議では当然、森本敏防衛相も加わって、海保だけで対応できない場合に備えた海上警備行動などの検討を急がなければならない。

事なかれ主義外交では領土と主権を守れないことを、野田首相ははっきり自覚すべきだ。

産経新聞 2012年09月12日

尖閣購入決定 中国の実力行使に備えを

政府が尖閣諸島(沖縄県石垣市)の魚釣島と北小島、南小島の3島の購入にあてる予備費20億5千万円の支出を閣議決定し、地権者と売買契約を交わして3島を国有地とした。これにより統治を強化することは、安全保障と海洋資源確保の両面で大きな意義がある。

これに対し、尖閣を自国領土だと主張する中国政府が激しく反発し、海洋監視船2隻を尖閣付近海域に派遣した。国家海洋局の「行動計画」に基づく「主権維持行動」だとしている。中国はまた、尖閣周辺を「領海」とする基線を発表するなど尖閣奪取への布石も急速に打ち始めている。

こうした威嚇や恫喝(どうかつ)は断じて受け入れられない。さらにエスカレートさせ力で取りにくることも想定すべきだ。日本政府が何もしない「現状維持」策を取ることで、尖閣は累卵(るいらん)の危うきにある。

政府は領土防衛の備えの強化を急がなければならない。

ロシアでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議最終日の9日、胡錦濤国家主席は野田佳彦首相と立ち話をし、日本政府の尖閣購入について「不法かつ無効で、断固反対する」と述べた。翌日、中国外務省が「日本があくまで耳を貸さずに独断専行するならば、それによって生じる一切の深刻な結果は日本側が負うほかない」との声明を発表した。

中国側の対応に野田政権はなすすべもない。首相は民主党代表選の出馬演説で「領土、領海に関わる問題には毅然(きぜん)と対応する」と標榜(ひょうぼう)したが、尖閣の実効統治強化に不可欠な恒久的な施設の設置や公務員常駐を実現させる考えはないようだ。

首相は胡主席には「大局的観点から対応したい」と伝えたという。それが、国有化しただけで、「現状維持」や紛争激化を一時回避する「棚上げ」を意味するなら、極めて問題だ。

日本としては、一昨年の中国漁船衝突事件や、この8月の尖閣不法上陸などから、今後は、武装した中国漁船が船団を組んで尖閣周辺に出現する事態まで想定しておく必要がある。

改正海上保安庁法に伴い、外国人の離島不法上陸に、より迅速に対応できるようになったが、主権侵害行動を排除するには十分とはいえない。自衛隊に領域警備の任務を与える法整備は、対話に臨む場合も抑止力として必要だ。

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