民主党代表選が告示された。
野田首相に、赤松広隆元農水相、原口一博元総務相、鹿野道彦前農水相の3氏が挑む。
首相の優位は動かないとみられる。それでも候補者乱立となったのは、低迷する党の現状への危機感の表れだろう。
この代表選を、「民主党とは何か」を問い直し、信頼を取り戻す第1歩とすべきだ。
近年の代表選の対立軸は、小沢一郎元代表だった。もっぱら「親小沢か反小沢か」の不毛な対立が繰り返された。
その小沢氏が離党した後の今回こそ、政策本位の論戦の場としなければならない。
まず消費増税をふくむ、社会保障と税の一体改革だ。
民主、自民、公明の3党合意で進めた一体改革に、異を唱えるのは原口氏だけ。赤松、鹿野両氏は党分裂を招いた首相の責任を追及しつつも、3党合意は継承する、という立場だ。
小沢氏ら70人以上の離党者を出し、党内もようやく収斂(しゅうれん)してきたといえよう。
「脱原発」の方向性では、4氏はおおむね一致している。論戦を通じ、具体化に向けて党内の意思統一をしてほしい。
物足りないのは、4氏の口から明確な国家像、社会像が聞かれないことだ。
民主党はいま深刻な「自己喪失」の状態にある。
09年総選挙で高福祉路線にもとづく公約を掲げたが、政権に就くや財源の壁にぶつかって次々と取り下げた。
一体改革法の成立は、野田政権の最大の成果だが、今度は逆に自民党との違いが見えなくなってしまった。党内から「自民党野田派だ」といった批判が起きるのも、「何をめざす党なのか」がわからなくなった悩みの表れといっていい。
自画像を描き直すのは簡単ではあるまい。だが、一体改革と原発問題に、ひとつのヒントがあるのではないか。
重すぎる借金も、原発による禍根も、将来に残してはならない。選挙権を持たない将来世代こそ弱者であり、そこに責任を持つ政治のありようである。
この代表選を機に、そんな政策体系をつくりあげることはできないか。
一方、自民党総裁選では谷垣禎一総裁が立候補を断念し、中堅、ベテラン議員が次々と名乗りをあげている。
民主党の低迷で救われてはいるが、将来ビジョンを描けない点では自民党も同じだ。
有権者が見ているのは、新しい両党首の「顔」だけではない。それを忘れてはならない。
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