「維新の会」国政に 責任ある政策と体制を

朝日新聞 2012年09月12日

日本維新の会 国政で何をするのか

橋下徹大阪市長が率いる大阪維新の会が今日、新党「日本維新の会」の結党を宣言する。

民主や自民、みんなの国会議員7人が離党し、新党に合流する運びだ。ただ、大阪都の実現を最終目標におく地域政党が国政で何をめざすのか。今なお具体的な政策はみえてこない。

新党で価値観を共有するためとして開かれた9日の公開討論会は、維新の考えを有権者が直接知る好機だった。しかし参加した議員や首長経験者らは基本方針を並べた「維新八策」に沿った主張を述べ、個別政策の議論が深まることはなかった。

維新の看板の一つである脱原発では、何年までにどうやって原発をゼロにするか、明確に語った議員は一人もいない。

環太平洋経済連携協定(TPP)について、維新は参加を明言する。民主党でTPP慎重派だった松野頼久氏は討論会では、その見解を問われないまま終わった。国政政党の肝ともいえる外交や安全保障については、議論が先送りされた。

橋下氏は「自由や競争、選択、自己責任で日本のあり方を見直すのが我々の価値観」という。こうした抽象的な言葉で、どれだけの有権者が既存政党との違いを実感し、信頼を寄せられるだろうか。

考え方の違いや異論を民主的な議論を通じて乗り越え、そのうえで共通の目標をめざす集団が本来の政党のあり方だ。

討論会は橋下氏のワンマンぶりと、政策論議も未成熟なまま政党化に突き進む印象を強める結果になったのではないか。

維新が国政政党としての政党要件を満たすには、5人以上の現職議員が必要だ。このままでは討論会は合流が前提の儀式だったといわれても仕方ない。

参加する議員も、所属政党でできなかったことがなぜ維新ならできると思うのか、きちんと説明する責任がある。それがなければ、橋下人気目当てに集まったとの批判は免れまい。

約5時間の討論はネットで中継された。多くの有権者が関心を持って見たことだろう。

新党への参加者たちが公開の場で論議するのは、透明性を重んじる橋下氏の実践として評価したい。討論会は今後も続けるという。維新がめざす国とはどんなものか。その姿が見えるまで何度でも開いてはどうか。

価値観の一致を確かめるなら、参加する議員は合流ありきで討論にのぞむべきではない。橋下政治は本物か、議論を挑む議員がいてもいい。

そこまで公開してこそ、既存政党との違いが出るだろう。

毎日新聞 2012年09月08日

「維新の会」国政に 責任ある政策と体制を

橋下徹大阪市長が率いる「大阪維新の会」の国政進出に向けた作業が進んでいる。橋下氏を党首とする新党を国会議員も参加して近く設立し、次期衆院選で候補を大量擁立する構えだ。

各種世論調査で既成政党を脅かす支持を示すなど、維新の会の動向は「第三極」形成につながる可能性もある。国政進出を図るのであれば、責任ある政策と体制の提示が欠かせない。とりわけ、諸政策を実現する工程の明確化を求めたい。

新党は大阪に本部を置き、橋下氏は党首選出後も大阪市長の職にとどまる意向だ。首長と国会議員は兼職できないため、橋下氏自身は首相候補となれない。

大阪市長として都構想実現を迫られる事情もあるが、首長と国政政党の党首を混乱なく両立できるかは未知数だ。自ら衆院選に出馬しないのであれば、誰を首相候補とするかは最低限、明らかにすべきだ。将来の首相公選制導入を掲げる同党ならばこそ、提示は必須だろう。

衆院選を前に策定している「維新八策」の最終案は個人、地域、国家の自立を説き「国民の総努力」を掲げるなど構造改革路線が基調だ。衆院定数半減のほか首相公選制導入、参院廃止の検討、改憲の要件緩和など憲法改正が必要とみられる大胆な政策もふんだんに盛られている。

問題なのは、ひとつひとつが大きな課題であるこうした目標をどんな時間軸で実現しようとしているかが判然としない点だ。

民主党のマニフェストは確かに数値や期限の工程にこだわった結果、現実とのギャップが厳しい批判にさらされている。だからといって実現工程のイメージすら示さないようでは責任政党といえない。

たとえば維新の会が主張する消費税の地方税化は、最終目標とする「道州制」との同時実施を主張しているのであれば理解可能だ。だが、現在の地方制度のまま導入するというのなら、社会保障費の国負担や地方間の財政調整方法などの青写真を示さないと実現は疑問である。

今回の消費増税に対する見解や脱原発依存のプロセスもはっきりしない。こうした点をきちんと説明することが、ありがちな「ポピュリズム」(大衆迎合主義)批判への最も有効な反論にもなるはずだ。

自民、民主両党にそれぞれ追い風が吹いた05年、09年衆院選は新人議員が大量に誕生したが、国会議員の質を向上させたとは言えまい。

大阪に本部を置きつつ国政に対応し、それと同時に政権を担うに足る候補の擁立も進めていくことは容易でない。橋下氏の個人商店的運営からの脱却を急ぐべきだ。

読売新聞 2012年09月13日

「日本維新の会」 国政改革への道筋が見えない

侮れない政治勢力になりつつあるが、政策も運営体制も急ごしらえの感は否めない。

地域政党・大阪維新の会代表の橋下徹大阪市長が、大阪市で党の政治資金パーティーを開き、新党「日本維新の会」結成を宣言した。

橋下氏は、「何かをやろうとするとぶつかる壁が国の制度と法律だ。本当の意味で大阪の改革をやろうと思えば、法改正しかない」と国政進出の意義を語った。

日本維新は、次期衆院選で「過半数」獲得を目指すという。

だが、「大阪都」構想を実現するためだけなら、何も国政に進出する必要はない。橋下氏は、“大風呂敷”とも言える意欲ばかりが先走っているように見える。国政で何をどう実現するのか、説得力のある見解を示す必要がある。

維新側は、これまで次期衆院選の公約としてきた「維新八策」を「綱領」に変更した。党の価値観を示すものだからだという。

維新八策には「自立する国家」「決定でき、責任を負う民主主義」といった言葉が並んでいるが、こうした抽象的な表現からは、日本維新がどんな国家を目指すのかが伝わってこない。理念はもっとわかりやすく説明すべきだ。

維新八策には、憲法改正を伴う首相公選制導入や、衆院の議員定数半減などスローガンのような目標と、社会保障、教育、雇用などの政策が混在している。中長期と当面の政策課題を、きちんと仕分けしなければなるまい。

橋下氏は「役人では解決できない問題、国論を二分する問題は、選挙で解決するしかない」と強調した。それでは、次期衆院選で具体的に何を公約するのか、明示してもらいたい。

日本維新は、極めて特異な体制をとる。党本部を大阪に置く。松野頼久元官房副長官ら現職国会議員7人が新党に参加するため、政党要件は満たされる。国会議員団と大阪維新の会など地方議員団は、並列の関係にする方針だ。

橋下氏は党代表と大阪市長を兼務し、衆院選には立候補しないという。府知事から市長に転身して1年足らずで、最大の政治課題である大阪都構想への取り組みも、これから区割りや財源調整など難しい局面に入るからだろう。

日本維新は衆院選後、政党間の連携のカギを握る勢力に躍進する可能性もとりざたされている。

橋下氏は、「自分の時間を削って国政に充てる」と言うが、政治経験のない新人議員らを大阪からコントロールできるだろうか。

産経新聞 2012年09月09日

日本維新の会 「二足のわらじ」は無理だ

大阪市長という重要な業務を担いながら、国政政党の党首もつとめるなど無理である。「大阪維新の会」を率いる橋下徹氏は、党首か市長いずれかに専念すべきだ。

維新の会は8日の全体会議で、国政への進出を正式に決めた。近く立ち上げる新党「日本維新の会」の党首には、橋下氏が市長のまま就任する。幹事長を兼ねる松井一郎大阪府知事とともに、2人の地方首長が国会議員を指示していくという極めて異例の党運営だ。

「二足のわらじ」について、橋下氏は「誰もやったことがないので、『やっていく』としか言いようがない」としている。認識が甘いのではないか。

外交や安全保障、治安の確保や教育、産業の振興、さらには災害などの緊急事態もある。国政上の諸課題への対応を決断することは、市長の傍らでこなせるほど簡単ではない。

そもそも、国会に議席を持たない者が国政政党の党首をつとめること自体に、強い違和感を覚える。しかも世論調査によれば、日本維新の会は次期衆院選で政治の行方を左右しかねない議席数を獲得する可能性もある。国政への重い責任があるのだ。

党本部は大阪に置くという。国会には議員団長がいるが、重要案件についてその都度、大阪の橋下、松井両氏に相談しなければならないのだから、政策決定のスピードは遅くなる。

国会では、党首や幹事長が他党と協議する場面が少なくない。国家的な緊急案件ともなれば、瞬時に政治判断を求められる。それに迅速に対応できないのでは、政党としての信頼を著しく欠く。

国会で第一党となった場合、憲法67条によって首相は国会議員団の中から指名される。国家運営が首相でなく大阪市長の意思で行われるなら、憲法の否定にもつながりかねない。

国会議員団が大阪府議団や大阪、堺両市議団と同格に位置づけられることも問題だ。大阪や堺の利益と、他の地域の利益とが相反する場面では、どちらの立場を優先させるのか。

橋下氏が尊敬する石原慎太郎東京都知事は「あえて大阪府知事を辞めて市長になった。大阪市を立て直さないと、市民の顰蹙(ひんしゅく)を買う」と言う。アドバイスに謙虚に耳を傾けてはどうか。

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