出生前診断 重い課題に向き合う

朝日新聞 2012年09月06日

出生前診断 重い課題に向き合う

人の意志で命を左右することにつながる技術だ。どう考え、どのように使うか、ていねいに議論を進める必要がある。

お母さんの血液を少し採って調べれば、おなかの中の胎児がダウン症かどうか、99%の精度でわかる。そんな米国生まれの検査法が登場した。

新しい検査は簡単なだけに、はらむ問題は大きい。軽い気持ちで受けて、思わぬ結果を聞いて動揺したり、人工妊娠中絶を選ぶ人が増えたり、といったことが予想される。

日本産科婦人科学会は「安易に実施することは厳に慎むべきだ」とする緊急声明を発表し、ルール作りに向けた検討を始めるとした。

この検査は当面、本格的な導入に備えた研究という位置づけなので、始めるのは一部の医療機関にとどまる。だが、多くの問い合わせが集まっている。

これまでの血液検査は確率しかわからなかった。判定が確実な羊水検査は、お母さんのおなかに針を刺すため、わずかだが流産の危険があった。新しい検査への関心が高いゆえんだ。

背景には、妊婦の4人に1人が35歳以上という高齢出産の時代を迎え、高齢になるほど、胎児の遺伝子に異常が起きる確率が高くなることがある。

遺伝子の重い異常を持った子が生まれる確率は30歳の385分の1に対し、40歳では63分の1になるとされる。出生前の診断で胎児の異常がわかったことによると見られる中絶が増えていることも事実だ。

ダウン症は、染色体の一部が1本多いことによって起きる。知的発達の遅れや心疾患になることが多い。一方で、発達はゆっくりだが、豊かな感性や知性を発揮して活躍する人もいる。

こうした特徴や育て方などについて、きちんとした説明ができる態勢が欠かせない。

検査を受けるかどうかもふくめて、最終的には親の判断だ。検査の結果が意味するものは何か、どう解釈すればいいか、十分なカウンセリングをして親の判断を支えることが大切だ。

障害がある人への支援制度が十分にあれば、子にとっても親にとっても心強い。その意味で、この問題は私たちの社会そのものが問われている。

そうしたことを一つひとつ、考えていきたい。

科学の進歩により、遺伝子でさらに多くのことがわかるようになるだろう。うまく使えば、早めの対応が可能になる一方で、倫理問題も避けて通れない。重い課題だが、しっかり向き合いたい。

読売新聞 2012年09月09日

出生前診断 「命の選別」助長せぬルールを

胎児がダウン症かどうか、高い精度で分かる新型の出生前診断が、近く国内の約10医療機関で試験的に始まる。

最新の生殖医療技術が「命の選別」を助長するような事態は、避けなくてはならない。

安易な実施に歯止めをかけるため、日本産科婦人科学会などは、検査する際の基準を規定する指針の作成を急ぐべきだ。

妊婦の血液から胎児の染色体異常などを調べる出生前診断では、既に「母体血清マーカー」と呼ばれる検査法が普及している。

厚生労働省は「医師は勧めるべきではない」との見解を出しているが、強制力はなく、年間2万件近く実施されている。異常の可能性を知って、妊婦がショックを受け、人工妊娠中絶を選択するケースが少なくないとされる。

ダウン症の発症を確率でしか予測できない旧来の方法に比べ、今回、試験的に始まる新型の診断法では、ほぼ確実に判定できる。専門医などの間で、「安易な中絶を助長する恐れがある」との懸念があるのも当然と言えよう。

新型診断を導入している海外では、「障害者の排除につながる」として、家族らの団体が反対声明を出し、国際刑事裁判所に提訴した例もある。

出生前診断が広まっている背景には、晩婚化に伴い、先天疾患のリスクが高まる高齢出産が増えている現状がある。「赤ちゃんの障害の有無を知りたい」という妊婦の依頼を、医師はなかなか断れない実情もあるのだろう。

医師は、検査を要望されたら、ダウン症の正しい知識を丁寧に説明することが大切だ。

ダウン症は知的障害や心疾患を伴うことが多い反面、医療や教育体制が整備され、多くの人は健やかに日常生活を送っている。

妊婦の不安に応えるカウンセリング態勢の充実が欠かせない。現在、全国で約270人の専門家を増やしていく必要がある。

米国では今年6月、妊婦の血液と父親の唾液から、胎児のすべての遺伝情報を解読することに成功した。実用化されると、ほとんどの遺伝性疾患を胎児の段階で調べることが可能になる。

そうなれば、医療現場には今後、さらに重い課題が突き付けられよう。今回の新型診断は、その入り口に過ぎないと言える。

生殖医療の技術革新に、利用や規制のルールが追いついていないのが現状だ。指針の作成においては、将来の技術の進展も見据えた議論が求められる。

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