日露首脳会談 不退転の決意見せたのか

毎日新聞 2012年09月12日

ロシアAPEC アジア参入の第一歩だ

ロシア極東ウラジオストクで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC、21カ国・地域)の首脳会議が、域内自由貿易の一層の推進などをうたった首脳宣言を採択して閉幕した。93年の第1回首脳会議(米シアトル)から5年遅れて98年にAPECに参加したロシアが初めて議長国となって主催し、アジア太平洋国家の一員として本格デビューした。プーチン大統領は閉幕後の記者会見で、域内経済統合プロセスへの「積極的な参加」を表明した。

プーチン大統領は07年、ソ連時代の閉鎖都市で大規模な国際会議開催の実績がなかったウラジオストクにAPECを誘致し、周辺インフラも含め約2兆円の国費を投じて会場を整備した。今年再び大統領に返り咲き、アジア太平洋地域への本格参入を国家戦略の一つに掲げ、伝統的に欧州志向の強かったロシア外交の転換を打ち出した。今回のAPEC開催はその象徴でもあった。

ソ連崩壊後の混乱から立ち直り、「大国」として復活したロシアだが経済基盤はまだ脆弱(ぜいじゃく)で、国内総生産(GDP)は世界第9位(11年)にとどまっている。国力浮揚のため、欧州偏重だった石油や天然ガスなど豊富なエネルギー資源の供給先を発展著しいアジアに拡大し、シベリア鉄道や北極海航路など交通網の潜在力を生かして欧州とアジアの「懸け橋」を目指したいというのがプーチン大統領の戦略だ。人口流出で経済的な地盤沈下が激しいシベリア極東地域にアジアの活力を取り込みたい狙いもある。そのためには日本はじめアジアの投資と技術を呼び込む必要がある。APECの開催でその第一歩を踏み出したことになる。

アジア太平洋地域はダイナミックに動いている。台頭する中国をにらんで米国もアジア重視戦略にかじを切った。米中間では南シナ海をめぐる対立や「アジア太平洋自由貿易圏」構築に向けた主導権争いがある。核開発を進める北朝鮮を再び6カ国協議の場に引き出すことも急務だ。ロシアも地域の一員として、責任ある役割を求められることになる。

日本の野田佳彦首相はAPECの機会にプーチン大統領と会談し、12月の訪露を約束した。領土をめぐって中国や韓国との関係がぎくしゃくしている中で、ロシアとは北方領土問題の解決に向けた冷静な交渉を進めてもらいたい。同時にアジア太平洋地域の将来という広い視野から、ロシアとどのような協力関係を構築していくのかという戦略的な思考が求められる。日本の長期エネルギー戦略の中にロシアとの協力をどう組み込むのか。アジアの発展に日露がどう貢献できるのか。大局的な視点に立って道を切り開いてほしい。

読売新聞 2012年09月09日

日露首脳会談 領土交渉への土俵を固めよ

まずは交渉の土俵をしっかりと固めていかなければならない。

野田首相とプーチン露大統領がロシア極東のウラジオストクで会談し、北方領土交渉の継続を確認した。今秋に予定される日露次官級協議、12月をメドとする首相の訪露で議論を深めることになる。

尖閣諸島や竹島の問題を契機に、日本の主権・領土に対する姿勢が厳しく問われている。北方領土問題でも、政府は歴史的な経緯と文書を踏まえ、粘り強く解決を模索しなければならない。

野田、プーチン両首脳の会談は、領土交渉の「再活性化」で合意した6月のメキシコ・ロスカボスに続いて2度目だ。

今回、野田首相は、交渉の前提として日本の国民感情への配慮が必要と指摘し、「静かで建設的な環境」での議論を求めた。

メドベージェフ露首相が7月に国後島に上陸して日本を挑発したことを念頭に置いた発言だ。日露間で交渉しようというのに、北方領土開発の既成事実を積み重ね、一方的に「ロシア化」を進めることは、断じて許されない。

プーチン大統領も「世論を刺激せず、静かな雰囲気の下で解決していきたい」と言明した。言葉通りの行動をとるべきである。

経済分野では、野田首相がロシアの世界貿易機関(WTO)加盟を歓迎し、極東シベリア開発についても「相互信頼が進めば協力が現実のものとなる」と語った。

大統領は日本の投資拡大に期待感を表明したが、ロシアには、貿易障壁の撤廃など投資環境を一層改善してもらいたい。

会談後、両首脳は、液化天然ガス(LNG)工場建設に関する覚書の署名式に立ち会った。ウラジオストク近郊で、日本企業とロシア国営のガスプロムが進めているプロジェクトである。

ロシアは極東の資源開発を進めている。日本では原発事故以来、LNGの需要が増え、火力発電用燃料の安定調達と輸入先の多様化が課題だ。エネルギーに関しては日露双方にメリットが大きい。

両政府はまた、オホーツク海のカニなど水産物の密漁・密輸入対策に関する協定にも署名した。

日露両国が連携し、ともに利益を享受できるのは、こうした分野にとどまらない。経済、軍事の両面で膨張し続ける中国と向き合っていくうえで、日露関係には戦略的な重要性がある。

北方領土問題を解決する道筋をつけるためにも、日露の相互依存を深めていくべきだろう。

産経新聞 2012年09月09日

日露首脳会談 不退転の決意見せたのか

日本としての明確な「抗議」が伝わったとは、とても思えない。アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議開催地のロシア・ウラジオストクでの、野田佳彦首相とプーチン露大統領との会談の印象だ。

メドベージェフ露首相が7月に北方領土の国後島に再上陸して以来初めての首脳会談で、野田首相は「国民感情への配慮が必要だ」と遺憾の意を遠回しに表明した。

そもそも、今首脳会議には、抗議の意思を明確に示すため「首相の欠席」を求める声も自民党から出ていた。岡田克也副総理を代理に立てる手もあったはずだ。

それを押し切って出席し明確な意思表示をしないようでは、領土主権で自ら語る「不退転の決意」を見せたことにならない。

民主党政権は北方領土交渉で、ソ連が「不法占拠」したという言葉を封印した。今年6月の前回首脳会談でも交渉の「再活性化」という実際にはなかった合意を発表し、修正に追い込まれた。メドベージェフ氏再上陸では、駐露日本大使の召還すらしていない。

今回、野田首相は「(ロシアが)アジア太平洋地域に関心を高く持つようになったことを歓迎する」と述べた。野田氏の12月訪露をプーチン氏が歓迎し、北方領土問題の解決策を探る日露次官級協議の今秋開催でも一致した。

だが、野田首相の出方をみて、ロシア側が「日本与(くみ)しやすし」と判断したのではと懸念される。ロシアのペースにはまっているのではないか。

ロシアはこのところ、領土問題で刺激的言動は控えていた。初のAPEC議長国として会議成功を最優先したためだろう。

だが今後、領土問題で中国、韓国との3カ国共同歩調を取る可能性もある。中露は2年前の共同声明で対日歴史観で連携する姿勢を示し、この5月には北方領土・択捉島の港湾整備事業への韓国企業参加も明らかになっている。

国後島再上陸に続く李明博韓国大統領の島根県竹島への強行上陸、香港活動家らの尖閣諸島への不法上陸なども日本の弱腰姿勢を見据えた行動だ。

一方で、ロシアからの液化天然ガス(LNG)輸入を期待する向きもある。だが、ロシアへのエネルギー依存は極めて危うい。領土問題を含め、日本の対露不信感が払拭されることが先決だ。

読売新聞 2012年09月07日

TPP交渉 参加表明の見送りを憂慮する

政府は環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加をいつまで先送りするつもりなのか。政治決断を急ぐべきだ。

野田首相は、ロシア・ウラジオストクで8日開幕するアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でのTPP参加表明を見送る方針である。

首相は昨年11月、ハワイでのAPEC首脳会議に合わせて、「TPPの交渉参加に向けて関係国との協議に入る」と述べ、米国など9か国と協議してきた。

当初は、ロシアでの表明を目指したが、民主党内の一部や農業団体などが反発し、政府や党内の意見集約が進んでいない。

TPPへの参加表明によって、自らの政権基盤が揺らぎかねないと警戒した首相は、二の足を踏んだのだろう。

米議会への通告期間を考慮すると、日本が年内に交渉のテーブルに着くには、9月が表明の期限とされる。年内参加は絶望的になった。憂慮すべき事態だ。

もたつく日本を追い越し、カナダとメキシコのTPP参加が決まっている。オバマ米大統領が目指す年内の交渉妥結は難しい情勢だが、参加11か国は、今月に続き12月に会合を開き、来年にかけて交渉を本格化させる見通しだ。

このままでは、関税撤廃・引き下げや貿易・投資ルール作りなどを巡り、日本抜きで大詰めの交渉が加速する。交渉決着後の参加なら、日本に不利なルールを押しつけられても文句は言えない。

人口減で国内需要が縮小する日本は、自由貿易の拡大によって、アジアの活力を取り込む必要がある。TPPをその起爆剤とするには、ルール作りの段階から関与していくことが肝要だ。

経済界が政府を批判するのは当然である。経済連携のメリットを享受できない状況が続けば、企業は海外に生産拠点を移転し、国内の空洞化が加速するだろう。

日本がTPPと併せて目指している韓国との経済連携協定(EPA)や日中韓の自由貿易協定(FTA)交渉も、尖閣諸島と竹島問題の影響で先行きは不透明だ。

東南アジア諸国連合(ASEAN)に日中韓、インドなどを加えた16か国による広域アジアのFTA構想も、大がかりな貿易自由化の早期実現は望めまい。

日本が今、最優先すべきは、やはりTPPである。速やかに交渉に加わる積極姿勢に転じて、中韓両国を牽制(けんせい)しながら、日韓や日中韓の交渉も前進させていく。そのようなしたたかな戦略が要る。

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