まずは交渉の土俵をしっかりと固めていかなければならない。
野田首相とプーチン露大統領がロシア極東のウラジオストクで会談し、北方領土交渉の継続を確認した。今秋に予定される日露次官級協議、12月をメドとする首相の訪露で議論を深めることになる。
尖閣諸島や竹島の問題を契機に、日本の主権・領土に対する姿勢が厳しく問われている。北方領土問題でも、政府は歴史的な経緯と文書を踏まえ、粘り強く解決を模索しなければならない。
野田、プーチン両首脳の会談は、領土交渉の「再活性化」で合意した6月のメキシコ・ロスカボスに続いて2度目だ。
今回、野田首相は、交渉の前提として日本の国民感情への配慮が必要と指摘し、「静かで建設的な環境」での議論を求めた。
メドベージェフ露首相が7月に国後島に上陸して日本を挑発したことを念頭に置いた発言だ。日露間で交渉しようというのに、北方領土開発の既成事実を積み重ね、一方的に「ロシア化」を進めることは、断じて許されない。
プーチン大統領も「世論を刺激せず、静かな雰囲気の下で解決していきたい」と言明した。言葉通りの行動をとるべきである。
経済分野では、野田首相がロシアの世界貿易機関(WTO)加盟を歓迎し、極東シベリア開発についても「相互信頼が進めば協力が現実のものとなる」と語った。
大統領は日本の投資拡大に期待感を表明したが、ロシアには、貿易障壁の撤廃など投資環境を一層改善してもらいたい。
会談後、両首脳は、液化天然ガス(LNG)工場建設に関する覚書の署名式に立ち会った。ウラジオストク近郊で、日本企業とロシア国営のガスプロムが進めているプロジェクトである。
ロシアは極東の資源開発を進めている。日本では原発事故以来、LNGの需要が増え、火力発電用燃料の安定調達と輸入先の多様化が課題だ。エネルギーに関しては日露双方にメリットが大きい。
両政府はまた、オホーツク海のカニなど水産物の密漁・密輸入対策に関する協定にも署名した。
日露両国が連携し、ともに利益を享受できるのは、こうした分野にとどまらない。経済、軍事の両面で膨張し続ける中国と向き合っていくうえで、日露関係には戦略的な重要性がある。
北方領土問題を解決する道筋をつけるためにも、日露の相互依存を深めていくべきだろう。
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