原子力安全行政を立て直すため、原子力規制委員会を速やかに設置する必要がある。
政府は、規制委の19日発足を閣議決定した。
委員長と委員4人の人事案に国会の同意が得られぬまま、規制委設置法に基づき、野田首相が自らの権限で任命することになる。
国会同意なしの任命は望ましくないが、法律上の設置期限の26日が迫っている。政府が特例措置に踏み切るのはやむを得ない。
先の通常国会で同意の議決ができなかったのは、民主党内の混乱が原因である。
鳩山元首相や党代表選に出馬した原口一博元総務相らは、いわゆる「原子力ムラ」に属さない人物への差し替えを求めている。菅前首相も慎重姿勢を示した。政府が提案した人事に与党が同意しないのは異常な事態だ。
民主党内の反対論が沈静化する可能性は低く、野党にも否決論が根強い。次の臨時国会での同意取り付けも容易ではなさそうだ。
だが、規制委の任務は、専門的知見に基づき、原子力利用の安全性を確保することにある。原子力政策の決定の場ではないことに、鳩山氏らは留意すべきだ。
平時は、原子力発電所の再稼働や廃炉の是非を判断し、緊急時には事故対応の司令塔となる。
規制委は各府省からの独立性が強く、自律的な組織だけに、原子力の実務を知る人材を欠かすことはできない。専門家を排除すればその役割を果たせまい。
規制委が機能するには、事務局となる原子力規制庁の陣容を固める必要がある。官民から幅広く人材を起用することが不可欠だ。
政府が「原発ゼロ」を打ち出せば、将来への展望がなくなり、優秀な人材の確保は困難となることにも気を配る必要はないか。
国会同意人事については、与野党でルールを見直すべきである。特に、事前報道された場合、原則その人事を認めないとしている点が問題だ。野党当時の民主党が主張し、衆参両院議院運営委員長の合意に明記された。
不当な報道規制である。政府が情報漏えいを口実にして、与野党との人事案の事前調整を忌避することによる弊害も大きい。
衆院側は合意撤廃を求めたが、参院側は一部修正にとどめるべきだとして折り合えなかった。
参院自民党には、かつてこの合意を盾に野党民主党に苦しめられたことへの意趣返しという思いもあろう。だが、不合理な規則は早急に廃止するのが筋である。
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