原子力規制委 変則的な発足でよいのか

朝日新聞 2012年09月12日

原子力規制委 国民に自らの考え示せ

新たに原発の安全規制を担う原子力規制委員会が、19日に発足することが決まった。

福島の原発事故を反省し、脱原発に向けた厳しい安全基準をつくっていくうえで、新たな規制機関の発足は最も優先すべき課題だ。

ところが、田中俊一委員長と委員4人は国会での同意を得られないまま、例外規定に基づいて首相が任命する。極めて変則的なスタートである。

その背景には、先の通常国会で、民主党執行部が党内から人事案への反対が出て混乱するのを避けるため、採決を見送ったことがある。

同意人事が規制委の独立性や透明性を高めるためのものであることを考えれば、国会の責任放棄に等しい行為だ。

法律で定めた規制委の設置期限が今月26日なので、首相の任命はやむを得ないが、次の国会できちんと同意の手続きを踏まなければならない。

そもそも人事案が民主党内外から批判を浴びているのは、田中氏がこれまで旧・日本原子力研究所の副理事長や原子力委員会の委員長代理を務め、「原子力ムラの住人」と見られているためだ。

ただ、田中氏の過去の言動をたぐると、事故以前から電力業界や原発推進論者とは一線を画す発言が散見され、「原子力ムラには煙たい存在」と話す関係者もいる。

国会での所信聴取では、原発の「40年寿命」の厳格な運用を強調し、大飯原発の再稼働の根拠となった暫定的な安全基準が「不十分だった可能性がある」とも指摘している。

人事への不信は、脱原発に向けた野田政権の意志が一向に示されないことで増幅された面もあろう。

田中氏ら5人の委員は、批判を受けていることを踏まえ、任命を受けた段階で改めて記者会見を開いて、自らの考えと今後の規制委の運営について、広く国民に説明すべきである。

規制委にとって、課題は山積みだ。脱原発という大きな方向性に沿い、運転期間の40年厳守をはじめ、活断層の再調査、新しい安全技術を既存の原発にも反映させる「バックフィット」ルールなど、新しい安全基準の設計を急がなければならない。

定期検査で止まった原発の再稼働条件も、白紙にして見直すべきだろう。各種の事故調査委員会による報告書の指摘も十分に反映させる必要がある。

その一挙手一投足に、国民の厳しい目が注がれていることを忘れないでほしい。

毎日新聞 2012年09月09日

原子力規制委人事 国会同意は不可欠だ

原発の新たな安全規制を担う原子力規制委員会は、委員長と委員の計5人が国会の同意を得ないまま首相権限で任命され、近く発足することになった。規制委の人事案は政府が7月に示したが、「委員長候補は原子力ムラの一員だ」などの反対が野党に加え与党民主党内にもあり、採決することで造反が出ることを政府・民主党が嫌ったからだ。

与野党協議の末に議員立法で成立した規制委設置法が委員を国会同意人事としたのは、原子力安全規制の透明性と独立性を確保するためだった。人事案の是非も含めて与野党が調整し、決着を図るのが筋で、国会の同意抜きは発足当初から規制委の正当性に疑問符をつけるものだ。

規制委設置法は付則で、国会閉会中や衆院解散の場合は首相が委員を任命できると定めている。国会の事後承認が必要だが、原子力の緊急事態を理由にすれば、政府は事後承認を求めずともよいという。だが、そんなことをすれば原子力行政への国民の不信をあおるばかりだ。野田首相は「しかるべき時に国会同意を得るよう努力する」と語ったが、次の国会で承認を求めるべきである。

規制委は本来、今年4月に発足する予定だった。発足の遅れで、東京電力福島第1原発事故を防げなかった経済産業省原子力安全・保安院や内閣府の原子力安全委員会が存続し、原子力安全規制の停滞を招いている。私たちも、規制委を速やかに発足させることは必要だと考える。

原発の再稼働に関する安全基準の法制化や稼働から40年で原発を廃炉にするルールの運用、原子力防災体制の見直し、原発に影響を及ぼす疑いが相次いで浮かんだ活断層の徹底調査など、規制委が取り組まなければならない仕事は山積している。事務局として規制委を支える原子力規制庁の組織作りも重要だ。

初代委員長候補の田中俊一・高度情報科学技術研究機構顧問は、内閣府の原子力委員会委員長代理を務めるなど原発推進の立場にあったが、8月に開かれた衆参議院運営委員会の所信聴取では、活断層が新たに確認された原発は停止させ、「40年廃炉ルール」を厳格に適用すると強調した。その後も、同運営委の理事会に「(電力)事業者と一線を画した規制行政を必ず実現する」と表明する書面を提出している。規制委発足後は、意思決定過程を公開し、透明性の確保に努めてもらいたい。

国会が設置した福島第1原発の事故調査委員会は、原子力規制当局を監視する常設委員会等を国会に設置することを提言した。国会には、事故調の提言を受け止め、選挙よりも国民の健康と安全を最優先にした対応をとることが求められている。

読売新聞 2012年09月12日

原子力規制委 やむを得ぬ首相の委員長任命

原子力安全行政を立て直すため、原子力規制委員会を速やかに設置する必要がある。

政府は、規制委の19日発足を閣議決定した。

委員長と委員4人の人事案に国会の同意が得られぬまま、規制委設置法に基づき、野田首相が自らの権限で任命することになる。

国会同意なしの任命は望ましくないが、法律上の設置期限の26日が迫っている。政府が特例措置に踏み切るのはやむを得ない。

先の通常国会で同意の議決ができなかったのは、民主党内の混乱が原因である。

鳩山元首相や党代表選に出馬した原口一博元総務相らは、いわゆる「原子力ムラ」に属さない人物への差し替えを求めている。菅前首相も慎重姿勢を示した。政府が提案した人事に与党が同意しないのは異常な事態だ。

民主党内の反対論が沈静化する可能性は低く、野党にも否決論が根強い。次の臨時国会での同意取り付けも容易ではなさそうだ。

だが、規制委の任務は、専門的知見に基づき、原子力利用の安全性を確保することにある。原子力政策の決定の場ではないことに、鳩山氏らは留意すべきだ。

平時は、原子力発電所の再稼働や廃炉の是非を判断し、緊急時には事故対応の司令塔となる。

規制委は各府省からの独立性が強く、自律的な組織だけに、原子力の実務を知る人材を欠かすことはできない。専門家を排除すればその役割を果たせまい。

規制委が機能するには、事務局となる原子力規制庁の陣容を固める必要がある。官民から幅広く人材を起用することが不可欠だ。

政府が「原発ゼロ」を打ち出せば、将来への展望がなくなり、優秀な人材の確保は困難となることにも気を配る必要はないか。

国会同意人事については、与野党でルールを見直すべきである。特に、事前報道された場合、原則その人事を認めないとしている点が問題だ。野党当時の民主党が主張し、衆参両院議院運営委員長の合意に明記された。

不当な報道規制である。政府が情報漏えいを口実にして、与野党との人事案の事前調整を忌避することによる弊害も大きい。

衆院側は合意撤廃を求めたが、参院側は一部修正にとどめるべきだとして折り合えなかった。

参院自民党には、かつてこの合意を盾に野党民主党に苦しめられたことへの意趣返しという思いもあろう。だが、不合理な規則は早急に廃止するのが筋である。

産経新聞 2012年09月06日

原子力規制委 変則的な発足でよいのか

新たな原子力安全の確立を担う原子力規制委員会の設置にようやく展望が開けた。だが、国会の同意なしに、野田佳彦首相が委員長以下を任命するという変則的な発足となる見通しだ。

原子力規制委は、独立性と強い権限を付与されており、原発再稼働の判断などをはじめとして日本の原子力行政遂行の「要」となる組織である。

この極めて重要で、しかも初代の規制委人事が、このような決められ方でよいのか。本来は国民の代表が集う衆参両院の同意を得て、田中俊一氏を委員長とする人事案を決定するのが筋である。

野田首相と民主党議員は、党内の意見をまとめ、会期末の8日までに国会で採決できるよう、最後まで努力を続けるべきだ。首相任命という「裏技」では、エネルギー問題に対する野田政権の真剣さが、国民に伝わらない。

そもそも原子力規制委は、4月に発足する予定だった。それがここまで遅れた最大の原因は、民主党内の意見の不統一である。

野田首相は、委員長候補の田中氏を、その経歴から原子力ムラの一員であると批判する党内一部の反対派を説得できなかったし、説き伏せるために汗を流した様子も見受けられない。

次の衆院選などを意識しつつ、ひたすら党内の造反と分裂を危惧して、国会議決を先延ばしにした結果、会期末を目前とする事態を招いてしまった。

規制委が首相任命で船出した場合には、次の国会で人事の事後承認が必要だ。それが得られないと委員長や委員は罷免されることが、設置法で定められている。

首相任命の原子力規制委は、秋の臨時国会で承認されるまでの間、いわば「仮免」委員会の位置づけだ。その一方で、長期にわたって原子力安全委員会の機能停止状態が続いているために、新発足の規制委の前には急務の重要課題が山積している。

四国電力・伊方3号機と北海道電力・泊1、2号機の再稼働をはじめ、新たな安全基準の策定などである。とくに泊原発には冬の電力不足が迫っている。事務局となる総員千人規模の原子力規制庁立ち上げも待ったなしだ。

17日からは、国際原子力機関(IAEA)の総会が開かれる。日本の原子力安全への取り組みを、世界が注視している。

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