民・自の党首選 政策論争を聞きたい

朝日新聞 2012年09月08日

ダブル党首選 一体改革を忘れるな

国会が事実上閉幕し、民主、自民の両党首選が本格的に動き出した。

民主党では、細野環境相が立候補を見送り、野田首相と原口元総務相、赤松元農林水産相が名乗りを上げた。

一方、自民党では谷垣総裁と町村元官房長官が立候補の意向を表明した。石原幹事長や石破前政調会長、安倍元首相、林元防衛相も意欲を示している。

これまでの両党の動きをみると、遠からず行われる総選挙に向けた「選挙の顔」えらびの側面ばかりが目につく。

だが、それでは困るのだ。

今回選ばれる両党首のいずれかが、総選挙後の首相として日本のかじ取りを担う可能性が高い。各候補は理念と政策を明確に掲げ、指導者としての資質を競う機会としてもらいたい。

まず求めたいのは、民主、自民、公明の3党で合意した、社会保障と税の一体改革を引き継ぐことを明確にすることだ。

一体改革関連法の成立後、首相への問責決議の可決などで2大政党の関係は再びきしんでいる。1年以内に結論を出すとした、社会保障国民会議の設置もめどが立たない状態だ。

一体改革の肉付けはこれからだ。高齢化のピークに向けて医療や年金制度をどう強化し、子育て支援策をどう充実するか。また、消費増税にともなう逆進性の緩和や、所得税や相続税の強化も積み残されている。

政権が代わっても、少なくとも社会保障制度は政争の具にせず、安定的に運営できる態勢を民自公3党を中心につくる。それこそが一体改革の眼目だったはずである。

政党間の正式な約束だ。それを反故(ほご)にするようなことになれば、消費増税で負担増となる国民への裏切りにも等しい。

ところが、自民党では安倍元首相のように民主党ではなく、大阪維新の会との連携を模索する動きもある。

その維新の会は「消費税の地方税化」を掲げる。もし自民党が維新の会との連携を優先するなら、民自公の一体改革は空中分解しかねない。

その場合、安定的な社会保障制度をどんな政治の枠組みでつくっていくのか。説得力ある方針を示す責任がある。

原発再稼働を含むエネルギー政策、貿易自由化、近隣外交のあり方など、課題は山積している。しかも、それぞれで両党とも党内の意見が割れている。

この党首選を、総選挙に向けて政策の方向性を整理し、公約を固め直す絶好のチャンスととらえてはどうか。

毎日新聞 2012年09月07日

ダブル党首選へ 3党合意どうつなげる

通常国会は8日閉会し、民主党代表選(21日)と自民党総裁選(26日)に向けた動きが本格化する。

先月末、参院で野田佳彦首相に対する問責決議が可決されて以来、与野党の審議は実質ストップし、既に政界の関心は、このダブル党首選や、いつ衆院解散・総選挙があるかに移っているのが実情だ。内外の課題が山積する中、党利党略の末に国会が会期を残して再び開店休業状態になってしまったことを与野党はまず深く反省すべきである。そして、今度の国会で萌芽(ほうが)が見られた「動く政治」「決める政治」の流れを、今後、どう定着させるのか。両党の党首選と次の衆院選は、それにつなげるものにしなくてはならない。休業したまま国会閉会 言うまでもなく、今国会の最大のポイントは民主、自民、公明の3党合意により、消費増税法をはじめとする社会保障の一体改革法が成立したことだ。

ただでさえ法案成立が困難な衆参ねじれ国会の下、3党が増税という国民に不人気な法律を成立させたのは画期的な成果だった。私たちがそれを高く評価する思いは今も変わらない。たとえ与党と野党に分かれていても必要だと考える政策は実現させる。「やればできる」という実績を残した意義は大きい。

ところが消費増税法が成立した途端に、またもとに戻ってしまった。野田首相と自民党の谷垣禎一総裁が「近いうち解散」で合意したにもかかわらず、早期の衆院選を恐れる民主党執行部は、野党が反発するのをむしろ狙って衆院選挙制度改革関連法案を衆院で強行可決した。一方、早期解散を目指す自民党は、民主党との対決を優先し、消費増税を批判する他野党発案の問責決議にまで乗って「自己否定」の矛盾に陥った。

その結果が国会の開店休業だ。違憲・違法状態と指摘され、総選挙の前提というべき小選挙区の1票の格差を是正するための立法措置が先送りされたのは立法府として汚点である。このほか今年度予算執行に必要な赤字国債を発行するための特例公債法案や原子力規制委員会人事への国会同意、公務員制度改革関連法案なども棚上げして国会は閉会するのだ。これでは「増税だけを決めた国会」と言われても仕方があるまい。

「決める政治」への道がまだ半ばであり、社会保障改革もまた道半ばだ。3党合意では年金や医療など社会保障制度を再検証し、将来像を示すための「国民会議」を設置し、その議論を経て1年以内に必要な措置を取ることになっている。しかし、野田首相と谷垣氏のどちらかが今回の党首選で代われば合意自体が消滅するとさえ語る関係者もいる。両党首選は、政党間で合意した責任をきちんとまっとうすることを確認する選挙でなくてはならない。私たちは最初にそれを指摘しておきたい。

野田首相の再選が有力視されていた民主党代表選は細野豪志環境相が出馬するかどうかが焦点だ。衆院選は苦戦必至といわれるだけに、若い細野氏の人気にすがろうとする議員が党内に多いのは確かなようだ。

しかし、細野氏は野田内閣の現職閣僚であり、政策的にも野田首相と大きな差があるようには見えない。もし細野氏が代表になり、首相になれば民主党政権では4人目となる。首相が次々と代わることに批判も出てくる。このため、なぜ代表選に出て首相と争うのか、若さや人気という以外に相応の理由が必要だ。

一方で民主党は消費増税をめぐり大きく分裂したにもかかわらず、党内は目指す政策が今も一致しているとはいいがたい。代表選はそれを一致させ、次の衆院選で何を訴えるのかを固める場にしなくてはならない。何より3年間の政権運営を真摯(しんし)に総括することだ。議員個々がどうやって次の選挙で生き残るかばかりに目を奪われていては、有権者はさらに離れるだろう。

対する自民党総裁選は谷垣氏の再選が一段と厳しい状況になっている。候補者は乱立気味で、「長老対中堅・若手」といった対決図式に加え、衆院選後、民主党との連携を重視するのか、近く新しい政党に衣替えする予定の大阪維新の会と連携するのか、目指す政権の枠組みも大きな争点となりそうだ。

次期衆院選で仮に自民党と公明党が過半数を獲得し、政権を取り戻しても参院では自公だけでは過半数に足りない。どう政治を動かすかは、自民党にとっても大きな課題となる。枠組みの論戦は当然必要だ。

ただし、自民党も民主党と同様、原発の再稼働問題を含めた今後のエネルギー政策や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加問題など決して一枚岩ではない。誰が「選挙の顔」になれば有利か、維新の会を敵に回さないためにはどうするかといった選挙対策より、まず自らの政策をまとめることだ。

毎日新聞の世論調査では、「2大政党」と言われながら、民主、自民両党の支持率は合わせても3割程度に過ぎない状態が続いている。政党とは何か、何をすべきなのか。原点に立ち返った議論を党首選では戦わせてもらいたい。それが政党政治に対する信頼回復への近道である。

産経新聞 2012年09月08日

ダブル党首選 まずは国家観を聞きたい

通常国会の閉幕により民主、自民両党の党首選が本格化した。

野田佳彦首相は7日の会見で「引き続き職責を担っていきたい」と代表選出馬の意向を表明した。有力候補になるとみられた細野豪志環境相は立候補を見送った。

自民党は谷垣禎一総裁と石原伸晃幹事長が総裁選出馬の一本化への協議を重ね、町村信孝元官房長官が正式に出馬表明した。

いずれの党首選も、次期総選挙の「顔」を決める選挙だ。その結果が政権の継続か、あるいは政権奪回かなど政界の大きな動きにつながっていく。ここは、徹底した政策論争こそ重要である。最高指導者を目指す各候補には、「自らの国家観」を語ってほしい。

重要なテーマの一つは、日米同盟の実効性を高め、日本を守るために不可欠な集団的自衛権の行使をめぐる問題だ。すでに自民党の安倍晋三元首相と石破茂前政調会長、町村氏が提起している。

安倍氏は領土問題に関する自民党の勉強会で、「権利は保有しているが、行使できない」という現行の憲法解釈を変更するよう主張した。石破氏も「憲法を見直して自衛隊の定義を盛り込み、集団的自衛権の行使も認めるべきだ」と語っている。

尖閣諸島や竹島をめぐる主権・領土の危機感の高まりから、これに対処可能な外交・安全保障政策の構築は喫緊の課題だ。集団的自衛権の行使はその鍵で、日米安保体制下で両国が対等な相互防衛を確立するためにも必要である。

野田首相も政府の国家戦略会議から行使容認を求める報告書を受け、「政府内での議論も詰めていきたい」と国会で答弁した。民主、自民のいずれが政権を担うとしても、早急に行使容認の結論を出す必要がある。

李明博韓国大統領の竹島不法上陸を契機に、慰安婦の強制連行を認めた河野洋平官房長官(当時)談話の見直し論が強まっていることへの見解も聞きたい。軍などによる強制の証拠がないのに、あったとする偽りが独り歩きし、韓国の反日宣伝に誤った根拠を与えているからだ。

事を荒立てずに関係改善を模索するだけの外交姿勢には、終止符を打たなくてはならない。そのためにも談話の誤りを認め破棄するかどうかなど、それぞれの見解を明らかにしてほしい。

朝日新聞 2012年09月05日

民・自の党首選 政策論争を聞きたい

通常国会の会期中だというのに、民主、自民両党の党首選びの動きが早くも活発だ。

予算執行に必要な赤字国債法案や、違憲状態が続く衆院の「1票の格差」是正など、本来なら8日の会期末までに処理すべき課題は多い。

それらをほったらかして党首選に熱中する議員たちには、あきれるほかはない。

党首選びの基準にも首をかしげざるをえない。

ともに9月の党首選で選ばれる2大政党のリーダーは、次の首相候補である。

ところが、近づく総選挙を前にして、政策や手腕より、もっぱら「国民受けするかどうか」に終始しているのはいかがなものか。

自民党では、ベテラン、中堅議員が続々と名乗りをあげ、候補者乱立の様相だ。

かたや、谷垣禎一総裁の再選が厳しくなっている。出身派閥・古賀派の古賀誠会長が「若い人を支持したい」と谷垣氏に伝え、森喜朗元首相も不支持に転じた。

谷垣執行部は民主、公明両党とともに、社会保障と税の一体改革関連法を成立させた。一方で3党合意を否定する首相問責決議に賛成するなど、危ういかじ取りが目に付いた。

そうした国会運営のあり方や3党合意の是非をめぐって争うなら、まだ分かる。

だが、実際は「地味な谷垣氏では選挙に不利だ」というのが多くの議員の本音ではないか。

派閥の会長や古参議員の動きも気になる。

自分の意中の議員を総裁候補にしようと、党内調整に乗り出している。それによって自身の影響力を強めようとしているなら、筋違いもはなはだしい。

民主党では、野田首相(党代表)に対抗して、41歳の細野豪志環境相を擁立しようという動きがある。

だが、細野氏は野田内閣の閣僚だ。原発・エネルギー政策でも、一体改革でも、首相と足並みをそろえてきた。細野氏を代表にして、党の路線をどう改めようというのか、さっぱりわからない。

そもそも、与党の党首は政権を運営し、野党党首は党を鍛え直して、その実績を総選挙で問うべきなのだ。

選挙が迫ってから党の「顔」を取り換えるというのでは、有権者に対するめくらましに等しいではないか。

課題をどう処理して、日本をどんな方向に導くのか。その大局を争うのでなければ、党首選をやる意味はない。

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