アジアと原発 地域全体で安全向上を

朝日新聞 2012年09月15日

新エネルギー戦略 原発ゼロを確かなものに

2030年代に「原発ゼロ」を目指す――野田政権は14日、脱原発に向けた新しいエネルギー戦略を決めた。

茨城県の研究炉に初めて「原子の火」が灯(とも)ったのは、1957年8月。以来、拡大の一途だった日本の原子力政策は、大きな転換点を迎えた。

野田政権は当初、全廃には慎重だったが、最終的に「原発稼働ゼロを可能とする」社会の実現をうたった。原発が抱える問題の大きさを多くの人が深刻に受け止めていることを踏まえての決断を、評価したい。

とはいえ、脱原発への道筋が明確になったとはいえない。

新戦略では、新増設をしない▽運転期間40年の厳格適用▽原子力規制委員会が安全性を認めたものだけ再稼働、という3原則を掲げてはいる。

だが、今ある原発に、単純に40年規制を適用しただけでは、30年1月時点で20基が、40年時点でも5基が残る。

大地震が起きる可能性が極めて高い地域にある浜岡原発(静岡県)や活断層の影響が懸念される原子炉などへの対応も、あいまいなままだ。

電力需給の面では、原発事故から2度の夏の経験を経て、最大でも数基の原発を動かせば、乗り切れる見通しが立った。

再稼働を最小限に抑え、早期の原発ゼロをどう達成するのか。新戦略に盛り込まれた「あらゆる政策資源の投入」を早急に具体化する必要がある。

そもそも巨額のコストがかかる原子力は、政府の支援や保護なしでは成り立たない。

今後は、こうした保護・優遇策を停止し、廃炉支援やほかの電源の促進、あるいは立地自治体の経済を構造転換するための制度へと全面的に組み替えなければならない。

ただ、40年を待たずに閉める炉については、電力会社の経営への影響を緩和する手立ても必要だろう。

完全に設備を撤去するまでは専門技術や人材も欠かせない。新戦略では、国の責任で対策を講じるとした。たとえば、原発を特定の法人に集約して集中管理する「準国有化」についても議論の対象になろう。

問題は、脱原発にかかる経済的、政治的な「コスト」だ。

火力発電が当面の代替電源となり、燃料費が膨らむ問題は軽視できない。一定の電気料金値上げはやむをえないが、節電の余地を生みにくい中小企業などのことを考えれば限界はある。

新戦略が指摘するように、官民あげて天然ガスの輸入価格を下げる努力が欠かせない。価格が安い石炭火力についても、二酸化炭素の排出量を減らせる最新技術の実用化へ、支援態勢を充実させたい。地産地消型をはじめとする自然エネルギーの育成は言うまでもない。

政治的に最大の課題は、核燃料サイクル政策の見直しだ。

原発ゼロを目ざす以上、使用済み核燃料を再処理する必要はなくなるが、再処理施設を受け入れてきた青森県は廃棄物を押しつけられかねないと猛反発している。原子力協定を結ぶ米国も、安全保障上の問題などから懸念を示しているという。

しかし、摩擦が大きいからと決断を先送りしていけば、かえって使い道のないプルトニウムや置き場のない放射性廃棄物を増やすことになる。

まずは事業を凍結し、国が責任をもって後始末にあたるべきだ。青森県や関係各国と協議しながら、使用済み核燃料を保管する中間貯蔵施設の確保に全力をあげる。消費地も含めた国民的な検討の場が必要だ。

政界はすでに政権交代で色めきたっている。だが、どの政党が政権につこうとも、原発を減らしたいという国民の意志を無視はできまい。

では、どのような枠組みを設ければ、脱原発への長期の取り組みが可能になるだろうか。

一つの案は、法制化だ。原子力基本法の見直しだけでなく、脱原発の理念を明確にした法律があれば、一定の拘束力が生じる。見直しには国会審議が必要となり、透明性も担保される。

もう一つは、市場の力を活用することだ。

電力改革を進め、地域独占制を廃止して、発電分野での自由競争を促す。原子力規制委員会は電力会社の懐事情に配慮することなく、安全性に特化した極めて厳格な基準を設ける。

競争のなかで、安全性確保のための追加投資が経済的に見合わなければ、電力会社の原発依存は自然と減っていく。

「原発ゼロは現実的でない」という批判がある。しかし、放射性廃棄物の処分先が見つからないこと、原発が巨大なリスクを抱えていること、電力会社が国民の信頼を完全に失ったこと、それこそが現実である。

簡単ではないが、努力と工夫を重ね、脱原発の道筋を確かなものにしよう。

毎日新聞 2012年09月15日

原発ゼロ政策 実現への覚悟を持とう

政府が、2030年代に「原発ゼロ」を目指すことを明記した新しいエネルギー・環境戦略をまとめた。東京電力福島第1原発事故を受け、従来の原発拡大路線を180度転換させる意義は大きい。

もっとも、克服すべき課題への対策は、まだ生煮えだ。「脱原発」を総選挙を意識したかけ声倒れに終わらせないよう、政府は目標までの道筋を具体的に描く必要がある。

新戦略は、「原発に依存しない社会の一日も早い実現」を目標に掲げた。40年運転制限の厳格適用、安全確認を得た原発の再稼働、新設・増設を行わない、という3原則を示したうえで、「30年代に原発稼働ゼロが可能となるよう、あらゆる政策資源を投入する」とした。

「脱原発」か「維持・推進」か。国論を二分した議論に、政府が決着をつけたものとして評価したい。国民的議論を踏まえた決定だ。安易な後戻りを許さず、将来への責任を果たすため、国民全体が実現への覚悟を持つ必要があるだろう。

それには、政府が政策転換に伴う「痛み」を最小限にとどめ、目標を実現するための対策を示して、国民の理解を得ることが前提になる。

その点、今回の戦略は具体策の大半を先送りしているところに、問題を残す。使用済み核燃料を再処理して、燃料用プルトニウムを取り出す核燃サイクルの継続はその象徴だ。

日本は、既に原爆約4000発分に相当するプルトニウムを保有している。原発をやめるのに、これ以上増やしてどうするのか。大量の使用済み燃料を「中間貯蔵」している青森県や核燃サイクルに関連する米仏英に配慮した結果だが、早急に見直すべきだ。政府は、政策転換を機に、最終処分問題の解決へ本腰を入れる姿勢を明らかにし、青森県などの理解を得るのが筋ではないか。

原発ゼロに向けて投入するという「あらゆる政策資源」の具体化も急いでほしい。脱原発には、再生可能エネルギーの普及拡大や節電・省エネの促進が欠かせない。そのための規制改革や技術開発への支援策づくりを急ぐよう求めたい。

電気料金が高騰すれば、国民経済は大きなダメージを受ける。料金抑制には、電力事業への競争原理導入が不可欠だ。政府は、電力小売りの完全自由化や発送電分離などのシステム改革案を年末までに策定するという。供給不安を招かずに競争が実現するよう、海外の先例も参考に制度設計を工夫してほしい。

国民の理解と協力がなければ、「原発ゼロ」は絵に描いた餅に終わりかねない。政府は、現在そして将来の国民のために、説得力のある政策を示す責任がある。

読売新聞 2012年09月15日

エネルギー選択 「原発ゼロ」は戦略に値しない

◆経済・雇用への打撃軽視するな◆

電力を安定的に確保するための具体策も描かずに、「原子力発電ゼロ」を掲げたのは、極めて無責任である。

政府は「原発ゼロ」の方針を撤回し、現実的なエネルギー政策を示すべきだ。

政府のエネルギー・環境会議が、「2030年代に原発稼働ゼロ」を目指す「革新的エネルギー・環境戦略」をまとめた。

原発の新増設を認めず、運転開始から40年での廃炉を厳格に適用していくという。

◆肝心な部分は生煮え◆

古川国家戦略相は記者会見で、「原子力に関する問題点を先送りせず、真摯(しんし)に取り組む姿勢を示した」などと意義を強調した。

しかし、東京電力福島第一原発の事故を受けて抜本的に見直すとしていた将来の電源構成については、全体像を示せなかった。

こんな生煮えの“粗案”では、国家のエネルギー戦略に値しないと言えよう。

太陽光や風力など再生可能エネルギーの比率を、現在の約1割から3割に増やすとしているが、肝心の実現策は年末に先送りした。

原発の代替電源を確保する方策の中身も詰めずに、約20年先の「原発ゼロ」だけを決めるのは乱暴だ。

次期衆院選を前に「脱原発」の旗印を鮮明にした方が民主党に有利になる、と計算したに過ぎないのではないのか。初めに結論ありきと言われても仕方あるまい。

有識者会議による検討結果や経済界からの指摘に対応していないのも問題である。

各種の試算は、「原発ゼロ」にするには、再生エネ拡大に50兆円、省エネに100兆円を要するとしていた。国内総生産(GDP)は50兆円近く落ち込み、失業者も200万人増加する見通しだ。

だが「戦略」には、「あらゆる政策資源を投入する」とあるだけで、課題の解決策がない。

経団連の米倉弘昌会長は、「原発ゼロ」方針について、「雇用の維持に必死に頑張っている産業界としては、とても了承できない。まさに成長戦略に逆行している」などと、厳しく批判した。

電力不足と生産コストの上昇で産業空洞化が加速し、国民生活が脅かされかねないためだ。

◆矛盾だらけの内容◆

現在、全原発50基のうち48基が定期検査の終了後も再稼働できない状況が続いている。

火力発電の燃料費が年3兆円も余計にかかっている。このままでは東電以外の電力会社も電力料金の値上げが避けられない。

火力発電の比率が高まれば、政治的に不安定な中東に多くのエネルギーを依存する状況も続く。

「戦略」が、安全性を確認できた原発を重要電源として活用する方針を示したのは妥当である。電力安定供給のため、政府は再稼働の実現に努めねばならない。

それなのに政府は「原発ゼロ」をうたい、わざわざ再稼働に対する地元の理解取り付けを困難にした。ちぐはぐな対応だ。関西電力大飯原発の再稼働を容認した福井県の西川一誠知事も、政府の方針転換に不信感を表明している。

核燃料サイクル政策を継続しながら「原発ゼロ」を目指すというのは、明らかな矛盾である。

これでは、再処理で作った核燃料の使い道がなくなる。

国策の核燃サイクルに協力してきた青森県からは、使用済み核燃料の受け入れ拒否を求める声も出ている。不誠実な政府方針に対する青森県の怒りはもっともだ。

青森県が協力を拒否すれば、使用済み核燃料の保管場所がなくなり、各地の原発は早晩、運転を続けることはできなくなろう。

さらに、原子力の技術者になる人材が激減し、原発の安全性向上や、今後の廃炉作業に支障をきたす恐れもある。

◆日米同盟に悪影響も◆

日本が核燃料の再処理を委託している英仏両国も、日本企業が持つ原発技術に期待する米国も、強い懸念を示している。

米国は日米原子力協定に基づく特別な権利として、日本に使用済み核燃料の再処理を認めている。「原発ゼロ」を理由に、日本は再処理の権利を失いかねない。

米国が、アジアにおける核安全保障政策のパートナーと位置づける日本の地位低下も心配だ。

日本が原発を完全に放棄すれば、引き続き原発増設を図る中国や韓国の存在感が東アジアで高まる。日米の同盟関係にも悪影響は避けられまい。

国際社会との関係抜きに、日本のエネルギー政策は成り立たないことを、政府は自覚すべきだ。

産経新聞 2012年09月15日

原発ゼロ政策 即時撤回して「25%超」に 世界で孤立し責任果たせぬ

現実を直視せず、十分な検討も経ることなくまとめられた「空論」というほかない。

政府は日本の新エネルギー計画の指針となる「革新的エネルギー・環境戦略」を決定した。「2030年代に原発稼働ゼロ」の実現を目指すことなどが柱だ。

野田佳彦首相は「困難でも課題を先送りすることはできない」と述べたが、これに従って政策の舵(かじ)を切れば、エネルギー不足の日本は亡国の淵(ふち)に向かって漂流する。速やかに撤回すべきだ。

≪日本を没落させる空論≫

エネルギーに事欠く国や文明は存続し得ない。歴史が証明してきた自明の法則だ。大飯原発の再稼働に当たり、野田首相は自ら「原子力発電を今止めてしまっては、また、止めたままでは、日本の社会は立ちゆかない」と宣言していた。あれは何だったのか。

民主党政権の原発政策は、近づく衆院選を意識するあまりの無責任な迎合だ。20年後の日本社会と国民を犠牲にして党利党略に走る姿勢は許されない。

民主党政権が描いたエネルギー・環境戦略には、国際的な視座が完全に欠落している。非核保有国でありながら、唯一使用済み核燃料の再処理を認められている日本の立場と責務を、野田首相をはじめ政権中枢部の政治家は誰一人、理解していなかったとみえる。

日米原子力協定を結んでいる米国へも原発政策の満足な説明をしていなかった。日本が原発の使用済み燃料の再処理を委託している英仏両国も唐突感のある原発ゼロ路線に戸惑いを隠さない。

千年に1度の大津波で、福島第1原子力発電所は炉心溶融事故に至ったが、日本の原発技術に対する世界の信頼は依然として高い。その日本が原子力発電から撤退すれば、新規導入を目指している途上国などのエネルギー計画は大きな狂いが生じる。

途上国が地球温暖化と資源問題に配慮しつつ経済発展を遂げようとすれば、原発は不可欠のエネルギー源である。

民主党政権は、将来のエネルギーシナリオを国民に問うたとき、最終的には「原発比率15%」でまとまると踏んでいた。しかし、意見聴取会で電力会社の社員の声を除外するなどした結果、世論はゼロに傾き、偏った。それに党内の反原発派が雷同し、収拾不能の現状に陥ったのだ。

このまま原発ゼロ路線を修正しなければ、貴重なエネルギーだけでなく、日本が構築してきた原発技術に対する世界の信用も失うことになる。

民主党政権の認識不足は、国内対応においても著しい。

核燃料サイクルは、長年にわたって日本のエネルギー政策の中核として位置づけられてきた。

≪核燃料対策は泥縄式だ≫

にもかかわらず、そのための主要施設である再処理工場や中間貯蔵施設が立地する青森県の六ケ所村、むつ市に対して十分な説明をしないまま、原発ゼロへの議論を机上で進めた。

地元の反発に「使用済み核燃料の再処理事業は継続する」との方針を示したが、そもそも原発ゼロなら再処理事業に将来性はない。長期的には大いなる矛盾だ。

再処理事業の確実な実施が困難になった場合には、かねての協定に基づき、再処理工場の貯蔵プールに置かれている大量の使用済み燃料は、発生元の各原発に返却されることになっている。

政府は「安全性が確認された原発は当面、重要電源として活用する」としているが、使用済み燃料が戻されると原発の再稼働そのものが成り立たない。

冷静に状況を判断すれば原発ゼロは不可能だ。野田首相は政治判断を下し、経済界などが主張するように、最低でも25%以上の選択をすべきである。国家百年の計に属する重大事項だ。

一時的には非難の声を浴びるとしても、国の舵を正しい方向に切るのが首相としての責務である。「国民の過半が望んだこと」として、責任を大衆に押しつける姿勢は無責任にすぎよう。

「失われた20年」に「エネルギー喪失の20年」を継ぎ足す愚行は何としても避けたい。将来世代のためにも、日本を没落させる道を進んではならない。原発のリスクは否定できないが、原発ゼロのリスクは限りなく大きい。国民も現状の危うさに目を覚ますべきときである。

朝日新聞 2012年09月07日

自然エネルギー 普及への壁を取り払え

風力や太陽光、地熱といった自然エネルギーによる電力を固定価格で電力会社に買い取らせる制度が7月に始まった。

原発ゼロを実現させるうえでも、大事なステップだ。制度をきっかけに、太陽光発電への投資が急増している。

しかし、風力や地熱、さらに廃棄物や木材を利用するバイオマスへの投資はまだ鈍い。

風力では北海道、東北を中心に多くの建設構想があるが、送電線の不足や厳しい規制に実現を阻まれている。地熱でも、温泉への影響を懸念する声が関係者から上がる。

こうした普及への壁を取り払うため、官民の知恵と力を結集しなければならない。

発電量に占める自然エネルギーの割合は現在、約10%。水力を除けば1%強にすぎない。

政府のエネルギー・環境会議が示した三つの選択肢では、どの原発比率を選ぶにしても、自然エネルギーの割合を2030年には25~35%に増やすことになっている。

目標値はたしかに高いが、悲観的になることはない。脱原発に進むドイツの自然エネルギー比率は90年代、日本より低かったが、その後、急拡大させて現在は約20%。その比率を20年に35%に伸ばそうとしている。中国やインドなど新興国も急拡大させている。

民間からの投資を引き出すには、政府が自然エネルギー拡充への道筋を明確にし、投資家が事業見通しを整えられるようにしなければならない。

規制を大胆に見直し、土地利用の手続きや環境影響評価に時間がかかりすぎないようにする。発送電の分離を柱とする電力改革を進めつつ、送電線の増設を急ぐ。

地元住民の参加も重要だ。ドイツや北欧では、風力発電所やバイオマス施設の建設を住民組織が出資、運営する例が少なくない。草の根から取り組む例を日本でも増やしたい。

新しい技術開発へも挑戦してほしい。とくに注目したいのが浮体式の洋上風力発電だ。

国の予算を使って、長崎県五島列島沖で実証実験が始まり、福島県沖でも大規模実験が行われる予定だ。国費の投入には限度があるが、洋上風力の発電能力は大きい。世界初となる浮体式の実用化に成功すれば、自然エネルギー普及に大きな弾みとなろう。

企業や大学が持つ風力や地熱の発電技術はこれまで外国へ輸出されるか、そうでなければ国内で眠ったままだった。今こそ日本で花を咲かせてほしい。

毎日新聞 2012年09月12日

核燃サイクル 核抑止は論拠にならぬ

政府が今週初めを目指していた新たなエネルギー・環境戦略の策定が先送りされた。「2030年代の原発ゼロ」を目標に掲げることの是非などをめぐり政府・民主党の最終調整がついていないためだ。野田佳彦首相は週内には方向性を決めるとしているが、説得力のある工程表に基づき将来の「原発ゼロ」を明示するよう改めて求める。

新たなエネルギー戦略の議論では核燃料サイクルの位置づけも大きな焦点になっている。

使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し高速増殖炉で燃やす核燃料サイクルを完成させることは、日本の原発政策の要となってきた。だが青森県六ケ所村の再処理工場は当初の97年完成予定が18回にわたって延期となり、コストは3倍近くに膨れ上がった。高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)も火災など度重なるトラブルで実用化のめどは全く立っていない。

将来が見通せない核燃サイクルは実現性、経済性、安全性からいって幕引きが望ましい。東京電力福島第1原発事故を受け長期的に原発ゼロを目指すのなら、維持する必要はいっそうないだろう。

こうした中で、核兵器を開発・保有する可能性を将来にわたって残しておくためにも、プルトニウムを使う核燃サイクルは維持すべきだとの意見がある。いわゆる潜在的核抑止論だ。しかし、これもまた説得力のある議論ではない。

日本が核兵器を持つことは核拡散防止条約(NPT)体制の否定を意味し、北朝鮮のように国際的な孤立を招くことになる。エネルギー禁輸などの制裁を受ければ、資源を海外に頼る日本は生きていけない。狭い国土で核実験は困難だし、核の傘を提供している米国は日米同盟の否定と受け止めるだろう。アジアの核軍拡にもつながることを考えれば、日本の核武装がもたらすマイナスの影響は計り知れない。

それでも、日米同盟が永続する保証はないし、将来の核保有を選択肢として残しておくだけでも外交カードになる、との主張も根強い。核燃サイクルからの撤退はそうした潜在的な核抑止力を失うことを意味する、という反対論が日本の政治家や外交当局にあることは事実だ。

ただ、不確定な未来の国際軍事環境に備えることが、核燃サイクル維持の決定的な論拠になるとは思えない。日本は潜在的な核抑止にこだわるより、核保有国にはならないことを明確にして核軍縮を先導する方が世界の信頼を得られるだろう。核燃サイクルの是非は、防衛政策ではなくエネルギー政策の観点で現実的に判断すべきである。

読売新聞 2012年09月08日

「原発ゼロ」提言 現実を直視できない民主党

拙速な議論で「原子力発電ゼロ」の方針を打ち出すのは、政権党としてあまりに無責任だ。

民主党が「2030年代に原発稼働ゼロ」を目指すエネルギー政策の提言をまとめた。

原発の新増設は認めず、運転開始から40年での廃炉を厳格に適用するという。だが、高コストや失業増大など経済への悪影響を克服するための具体策は乏しい。問題だらけの内容だ。

「原発ゼロ」を30年代に実現するという期限についても、党内の議論の終盤で強引に盛り込む乱暴な決め方だった。

衆院選のマニフェスト(政権公約)を意識し、「原発ゼロ」を鮮明にした方が選挙に有利だと考えたのだろう。大衆迎合主義(ポピュリズム)そのものだ。

太陽光など再生可能エネルギー拡大に50兆円、省エネ達成に100兆円――。政府のエネルギー・環境会議が示した「原発ゼロ」のコストは膨大である。

電気代が上昇し、標準家庭の光熱費は、現在の月1万7000円が3万2000円に跳ね上がる。生産コスト増で産業空洞化が加速し、失業は急増するだろう。

「原発ゼロ」がもたらす悪影響の重大さは、経済界だけでなく政府も認めている。

しかし、民主党はこうした「不都合な真実」に目をつぶった。提言で明確な打開策を示さず、「政策的に強力な支援を行う必要がある」などとし、政府に対応を“丸投げ”しただけである。

「原発ゼロ」の時期を明示した場合、原子力の技術者などを目指す若者が激減し、肝心の人材が育たなくなる恐れが強い。

福島の事故を受けた原発の安全性向上や廃炉技術の確立など、重要な責務を果たせなくなり、日本の国際的な信用も失墜しよう。

原発再稼働へ地元の理解も得られにくくなる。政府の核燃料サイクル政策を前提に、各地の原発から使用済み核燃料を受け入れてきた青森県が、協力を拒否する事態となれば、全国の原発を動かすことは一段と困難になる。

現在、原発を代替する火力発電の燃料費は、年3兆円以上も余計にかかっている。再稼働できないと、東電以外の電力会社も大幅な料金値上げを回避できまい。

政府は来週にも、新たなエネルギー戦略を決める予定だ。選挙目当ての民主党提言にとらわれず、政府は中長期的に原発の活用を続けていく現実的なエネルギー政策を示すべきである。

産経新聞 2012年09月08日

「原発ゼロ」提言 これが責任ある政権党か

民主党のエネルギー・環境調査会が「2030年代に原発ゼロを目指す」との提言をまとめた。稼働40年の原発は原則廃炉にし、新増設も認めないという。

こうした一方で、電気料金の上昇や電力不足などへの懸念には、明確な対策を示していない。政権与党として無責任極まる内容で、問題だ。

「脱原発」に傾く世論を意識した選挙向けのパフォーマンスだろうか。政府は週明けにも2030年の原発比率を定める戦略を閣議決定する。安価で安定した電力確保という責務を忘れず、現実的かつ責任ある決定をすべきだ。

提言では、安全性が確認された原発の再稼働は容認しつつ、40年廃炉の原則を厳格適用して30年代末で原発ゼロを目指すとした。前原誠司政調会長は「40年廃炉で2039年には5基が稼働しているが、廃炉を前倒しするよう努力する」とも表明している。

最大の問題は、議論が「原発ゼロありき」で進められ、国民生活や産業などへの悪影響にきちんと向き合っていないことだ。課題として電気料金の上昇や再生可能エネルギーを飛躍的に導入できるかなどを挙げてはいるが、具体策は示していない。責任ある政権与党の提言とは到底言えまい。

政府のエネルギー・環境会議でも指摘されたように、原発の代わりに発電コストの高い太陽光などの再生エネ比率を総発電量の35%に高めると、電気料金は2倍に上がる。そうなれば、日本企業の国際競争力は失われて雇用への影響は必至だ。

また、原発が新増設されないと、核燃料サイクルも中断する。再処理を前提に使用済み核燃料の保管に協力してきた青森県との約束が果たせなくなれば、核燃料が各原発に戻されることになり、30年代を待たずに原発は即時停止に追い込まれる。廃炉にあたる技術者の確保も難しくなるだろう。

民主党は、この提言を次期総選挙のマニフェスト(政権公約)に盛り込む方向だという。福島事故で国民の原発に対する不安は高まり、政府の世論調査でも脱原発を求める意見が多かった。

だが、国の将来を左右するエネルギー問題を、国民の間の一時的ムードで決めるのは愚行と言うしかない。重要なインフラである電力供給を、人気取りの道具にすることだけは避けるべきだ。

毎日新聞 2012年09月06日

将来の原発比率 ゼロへの工程表を示せ

将来の原発比率を定める政府のエネルギー政策のとりまとめが、大詰めを迎えている。

原発は、安全性の確保や使用済み核燃料の処分など困難な問題を抱える。将来的には、原発に依存しない社会が望ましい。政府は「原発ゼロ」を目標として明示すべきだ。

もっとも、脱原発には産業界を含め、国民の痛みも伴う。政府は、原発全廃に至る道筋を具体的に示し、国民の理解を得る必要がある。

政府は原発を運転開始から原則40年で廃炉にする方針を示している。新増設がなければ、原発比率は2030年に15%、50年に0%になる。耐用期限前でも、立地条件などで安全基準に満たない原発があれば、目標はより早く達成できるはずだ。

再生可能エネルギーが普及・拡大し、省エネ・節電が広がれば、原発への依存度は一段と下げられる。政府は、そのための施策を総動員し、原発全廃の時期をできるだけ前倒しする意思を明確に示すべきだ。

原発事故前に総電源の3割近くを占めていた原発を「ゼロにする」と宣言すれば、歴史的な政策転換になる。当然、さまざまな困難やあつれきが予想される。

例えば、政府は電気料金が最大2倍に跳ね上がると試算する。そうなれば、国民生活、とりわけ産業界に大きな打撃を与え、空洞化を招きかねない。政府は、電力事業の完全自由化による価格競争の誘導や、北米産シェールガスのような割安な燃料の調達など料金抑制に手を尽くす必要がある。

使用済み核燃料の最終処分問題も切迫性を増す。原発の稼働を前提としている核燃料サイクルは、存在意義を失う。そうなれば、青森県六ケ所村の再処理工場や各原発に「中間貯蔵」している使用済み核燃料について、最終処分を先延ばしできなくなるからだ。

六ケ所村には、全国の原発から出た約3000トンの使用済み核燃料が集積している。これは、国民が今の生活水準を守るため、将来の世代に回そうとしたツケともいえる。

その解消は、避けられない課題だ。政府は、「原発ゼロ」を宣言することで、最終処分に本腰を入れる覚悟を決めるべきだろう。

政府・民主党の調整が、最終段階に入っている。心配なのは、「原発ゼロ」という看板を掲げておしまいにされることだ。国の将来を左右する政策が、総選挙を意識したパフォーマンスに使われてはならない。

原発全廃には、企業を含めた国民的合意に基づく社会・経済システムの変革が必要になる。政府には、そのための具体策を説得力ある工程表として示すよう求めたい。

産経新聞 2012年09月05日

原発比率 安易なゼロは亡国の道だ

2030年に原発比率をゼロにするのは、現実的な政策目標とはいえない。政府のエネルギー・環境会議が4日の会合で示した「原発ゼロ」をめぐる論点整理からも、そのことは明白だろう。

原発を代替する太陽光など再生可能エネルギーの拡大と省エネの達成には150兆円もの巨費を要する。原発政策の転換は関係自治体にとどまらず、国家の安全保障にも影響を及ぼしかねない。

提示された諸問題点はまだ、まるで議論が尽くされていない。エネルギー政策には、国の将来の命運がかかっている。拙速な結論は避けなければならない。

政府は、新たに策定するエネルギー・環境戦略で総発電量に占める原発比率を30年にゼロにする場合、発電コストが高い再生エネの比率を35%にまで高める予定だ。だが、再生エネ比率は現在、水力を除き1~2%にすぎない。それを急激に増やすとなると、多くの無理を重ねざるを得なくなる。

まず、太陽光パネルを、新築住宅への設置を義務付けるなどして1200万戸に導入する。燃料電池も9割の世帯に備える。風力発電向けの設備には、東京都の2倍以上の土地が新たに必要になる。そして、環境規制のために、ガソリン車の市街地への乗り入れも禁止するという。

再生エネ拡大だけで50兆円かかると試算され、その負担は膨大だ。実現可能性は極めて低い。

コスト上昇も深刻だ。割高な電源を使うことになり、標準家庭の30年時点での光熱費は月額3万円を超え、現行の2倍に達する。企業の国際競争力は低下し、産業空洞化も加速する。中東産ガス・原油への依存が強まり、エネルギー安全保障も脅かされかねない。

原発ゼロへの政策転換が直ちに電力危機につながる恐れも指摘されている。

現在は、再処理を条件に、青森県内の貯蔵施設に使用済み核燃料を保管している。原発ゼロで核燃料サイクル政策が崩れると、地元の拒否で置き場がなくなり、即座に各地の原発が停止する。

民主党の調査会では、目標年次を示さずに、原発ゼロを打ち出す案も浮上している。

福島事故で国民の原発への信頼は大きく揺らいだ。だが、それに便乗し、安易に「原発ゼロ」を掲げるのは、亡国への道を進んでいるとしかいえない。

毎日新聞 2012年09月02日

アジアと原発 地域全体で安全向上を

福島第1原発の事故を受け、国内の原発をどこまで減らすべきかが、熱く議論されている。だが、日本で近い将来、原発がゼロになったとしても、世界では新興国などを中心に、当分、原発の増加が続く。国境付近での重大事故により、放射能などの影響が国外に及ぶリスクは今後、高まっていきそうだ。

具体的に日本の周辺を眺めてみよう。今年2月、韓国の古里(コリ)原発1号機で、定期点検期間中に一時、全電源が喪失する事故が起きた。電力会社による政府への事故報告は1カ月以上も経過した後だったという。

古里原発は韓国南部・釜山にあり、福岡市まで約200キロ、長崎県・対馬は約75キロしか離れていない。韓国の原発23基中、17基が日本海沿いにある。無関心ではいられない。

韓国や中国など東アジア地域では、今後、急速に原発の建設が進みそうだ。国際原子力機関(IAEA)の予測によると、2030年時点の原発の発電能力は10年末比で最大3倍超になるという。この地域で事故を防ぐため、福島の教訓も最大限生かしながら、国境を超えた情報共有や技術協力を活発化させたい。

事故を想定した準備も欠かせない。原発で事故が発生すれば、IAEAを通じ各国に情報が伝達される仕組みがある。ただ、放射能の直接的な影響が考えられる近隣諸国に対しては、特に詳しい情報が迅速かつ持続的に伝えられるべきだろう。

緊急時にどういう手順で情報を共有するか、事故の影響を最小化するため具体的にどのような協力を行うかなど、事前に取り決めをし、訓練をしておく必要がある。

米国とカナダの取り組みは参考になりそうだ。

両国はそれぞれ、国境付近に複数の原子力発電所を抱えている。79年の米スリーマイル島原発事故や86年のチェルノブイリ事故を受け、国境を超えた放射能の影響に関心が高まった。そこで米加両政府は96年、共同の放射能緊急対応計画に署名、住民を放射能から守るための協力体制を敷いた。

東アジアでは日中韓の間で、ようやく取り組みが始まったところだ。08年から規制担当者間で、具体的な協力の内容を協議しているという。動きを加速させ、成果をさらに東アジア全体に広げていってもらいたい。

人や経済の交流が緊密化しているこの地域だ。どこかで原発事故があれば、放射能以外でも広く影響が及ぶ。「我が国さえ良ければ」の発想では互いが困ることになる。地域全体で事故防止、事故対応のレベルが向上するよう貢献し合おう。

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