予算執行の抑制 「人質合戦」は許されない

毎日新聞 2012年09月05日

予算執行抑制 この異常を早く止めよ

昨年は菅直人首相の退陣とセットだった。今年は衆院解散をめぐる与野党間の駆け引き材料になっている。赤字国債の発行に必要な特例公債法案のことだ。

年度も半ばを迎えるというのに、法案成立のめどは立たず、歳入の約4割もの確保が見通せない異常さだ。ついに、地方交付税の支給延期など、予算の執行を抑制する初の事態になってしまった。

税収だけで歳出をまかなえず国が市場などから借金する際に発行するのが赤字国債だ。財政法で発行が禁じられているため、1年限りの例外措置として特別に発行を可能にする手立てが、特例公債法である。

1965年に初めて導入されたが、94年度以降は毎年、赤字国債が発行され、今年度は38.3兆円に膨らんだ。もはや「特例」ではなく「恒例」といった異常さである。

さらに異常なのが、国会におけるこの法案の扱われ方である。国の予算そのものは、衆院で可決されると、その後、参院で審議が長期化しても、参院への法案送付後30日で成立するよう憲法が定めている。しかし、憲法制定当時、想定していなかった赤字国債は予算本体と別扱いで、今のようなねじれ国会下では、政党間の取引材料として法案が延々と保留される問題が生じた。

今後も国会のねじれが起こりうる以上、毎年のように特例公債法案が何カ月も放置される事態を回避する仕組みを作る必要がある。

永田町にこの異常事態への危機感は乏しいようだが、長期化すれば影響はどんどん深刻になる。予算執行の抑制は国民生活への影響が小さい分野から始まるが、地方交付税の支給延期にしても金融市場で影響が出ている。自治体が不足分を金融機関からの緊急借り入れでしのごうとすれば、納税者が追加の利子負担を強いられることもある。

さらに国債の発行スケジュールにもしわ寄せが懸念される。法案成立が大幅に遅れ、赤字国債の発行が短期間に集中する事態に陥れば、市場の需給バランスが崩れ、国債価格が急落(金利が急騰)するリスクがあることを忘れてはならない。

こうした事態を招いた責任のある与野党は当然、政党交付金の受け取りを見合わせるべきだが、何より今の異常事態を一日も早く収拾することが肝心だ。そのうえで、このようなことを繰り返させないための取り決めをしてもらいたい。

過去の借金を返済するための借り換え分も含めると、年間170兆円超の国債を発行する異常な借金大国なのである。政党の勝手な都合で、国の信用を揺るがす綱渡りに興じている余裕などないはずだ。

産経新聞 2012年09月03日

予算執行の抑制 「人質合戦」は許されない

政府が今年度予算の執行を一部抑制する方針を決めた。赤字国債を発行するための特例公債法案の今国会成立が難しくなり、このままでは10月末にも財源が枯渇する恐れがあるからだ。

こうした異常事態は速やかに解消しなければならない。まずは与野党が法案成立に向けて協力すべきだ。野田佳彦政権には、仮に法案成立が遅れても、国民生活への影響を最小限にとどめる責務がある。政府短期証券の追加発行など当面の財源を確保する手段をもっと検討するよう求めたい。

今年度一般会計予算約90兆円のうち、約4割に相当する約38兆円は赤字国債で賄うことになっている。この発行に必要なのが特例公債法案の成立だ。

だが、野田首相に対する問責決議が可決され、8日までの国会は事実上の休会状態に入っている。会期中の成立が極めて難しいのは、早期解散を迫る野党が、この法案を人質にとっており、一方で解散を避けたい与党は、それを突っぱねるという不毛な対立の構図になっているからだ。「人質合戦」は許されない。

予算執行の抑制は、4日に予定していた地方交付税の配分を遅らせたり、国立大学の運営補助や私立学校助成の一部を留保したりすることが中心だ。ただ、医療費や生活保護費などの予算や治安・防衛関係の経費はそのまま執行するという。

問題は、予算執行の抑制対象が各省庁の行政経費や地方交付税などに限定されていることだ。

野田政権が、予算執行の抑制を野党の協力を引き出すための政治的な材料にしているのなら、あまりにも国民生活への影響を軽視した判断だと言わざるを得ない。予算執行の遅れは、景気の回復にも影響を与えかねない。

当面の措置として取るべきは政府短期証券の追加発行であり、一時的な資金繰りとして有効だ。今年度の発行枠は20兆円だが、特例公債法案の成立を前提にすれば枠の拡大は十分に可能だ。

特例公債法案は、すでに成立した予算と一体の関連法案だ。その重要法案を成立させられないなら、責任は与野党双方にある。

政党交付金や国会議員歳費こそ予算執行を遅らせるべきだ。与野党を問わず政治家は痛みを負わないというのでは、国民の理解は到底得られない。

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