共和党ロムニー氏 米国再生の具体策

毎日新聞 2012年09月01日

共和党ロムニー氏 米国再生の具体策

「米国が今必要としているものは複雑でも深遠でもない。職だ。たくさんの職なのだ」。共和党全国大会で大統領候補に指名されたロムニー前マサチューセッツ州知事は、30日の指名受諾演説で力説した。一方では「強い米国」の再建も訴えた。8%台の失業率に悩む米国社会に簡明で現実的なメッセージを送るとともに、共和党の支持基盤である保守層の支援を固めるためだろう。

オバマ大統領の4年には「失望と分裂を招いた」と手厳しい。だが、ロムニー氏が華々しく打ち出す米国再生への公約も、実現性にはいささか首をかしげざるを得ない。

たとえば「1200万人の新規雇用」を実現するための5段階の計画だ。エネルギーの自給や技能訓練、新たな通商協定などを通して雇用を創出するというのだが、これらの施策が多くの雇用を生み出すメカニズムについて、より詳しく具体的な説明を聞きたい。

また、「どの国も挑戦できない」軍事力の保持をめざすとしても、副大統領候補に指名されたライアン下院予算委員長は徹底した財政緊縮論者だ。同氏の起用でロムニー陣営は「小さな政府」色を強め、オバマ政権の「大きな政府」との対比が明確になった。オバマ政権の医療保険改革を撤廃して社会保障・教育への支出を削る一方、軍事費を増やすのなら国民の反発は避けられまい。

共和党は伝統的に「強い米国」志向が強いが、その功罪は相半ばする。冷戦期に米国の「力」を誇示したレーガン元大統領は今なお人気がある半面、やはり「強い米国」を掲げたブッシュ前大統領は01年の同時多発テロ後、アフガニスタンからイラクへ戦線を広げて国民の人気を失った。前政権からの膨大な戦費が今も米国を苦しめている。

今回の共和党大会で採択された綱領が、堂々と「米国例外主義」をうたっている点も気がかりだ。米国は特別な存在だから国際機関や他国の指図は受けないといった意味で、ブッシュ前政権の「単独行動主義」にも通じる。党内穏健派のロムニー氏はオバマ大統領との違いが見えにくいと言われただけに、無理にタカ派色を強めた印象もぬぐえない。他方、プロテスタント主流の米国でモルモン教徒のロムニー氏とカトリックのライアン氏が正副大統領候補になったのは注目に値しよう。

考えさせられたのは、08年の共和党綱領が日米同盟の重要性をうたい、日本の指導力に期待していたのに対し、4年ぶりに改定された綱領にはそうした定番の記述がないことだ。今回は環太平洋の友好国の一つとして記されているだけで、日本の存在感低下も指摘されている。

読売新聞 2012年09月03日

米大統領選 ロムニー氏の再生策は本物か

米大統領選は、11月6日の投開票まで、あと2か月余りに迫った。

4年ぶりの政権奪還を目指す共和党がフロリダ州で党大会を開き、ロムニー前マサチューセッツ州知事とライアン下院予算委員長を正副大統領候補にそれぞれ指名した。

ロムニー氏は、指名受諾演説で、オバマ政権の失政を厳しく批判し、経済を立て直して「米国を再生させる」と公約した。対決色を鮮明にしたと言える。

社会保障など連邦政府の歳出は大幅に削減する一方、幅広い減税策や規制緩和によって、民間活力を通じた景気浮揚を図ろうとする「小さな政府」路線である。

具体的には、エネルギー自給の推進や貿易拡大、中小企業支援を通じた1200万人の雇用創出計画、巨額の債務削減、国防予算の削減反対、オバマ政権の医療保険制度改革の撤廃などを挙げた。

民主党は、財政再建に必要な歳出削減では国防費も例外扱いにしていない。格差是正を重視し、低所得者や高齢者など弱者への政府支出は極力削らない立場だ。

米国は、景気減速が続いており、欧州債務危機の影響を受けて、先行きも不透明だ。

失業率はオバマ大統領の就任時の7・8%を下回ることなく、8%台前半に高止まりしている。

財政赤字は4年連続で1兆ドルを超えた。当面の景気浮揚と中長期的な財政再建で、実効性ある政策が求められよう。

ロムニー氏の唱える、大幅減税と巨額の財政赤字減らしは、両立し難く見える。歳入を減らさずに赤字は減らせるという道筋を具体的に明示する必要がある。選挙戦で争点になるのは間違いない。

民主党は4日からノースカロライナ州で党大会を開き、大統領再選へ挙党態勢をアピールする。

世論調査では、オバマ、ロムニー両氏の支持率は拮抗(きっこう)している。10月に3回にわたって行われる大統領候補討論会が、接戦の帰趨(きすう)を決する重要な機会となる。経済や外交・安保政策を巡り、大いに論戦を展開してもらいたい。

共和党も民主党も、ともに「米国は太平洋国家」とアジア重視を唱えている。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を完了させるという主張でも一致している。

米国主導によるアジア太平洋地域の安定と繁栄の維持を図る狙いがあろう。同盟国の日本にとっても望ましい方向だ。

米大統領選は、日本の内政、外交にも影響する。両候補の政策対決の行方を注視したい。

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