日朝予備協議 金正恩体制に「拉致」打開促せ

朝日新聞 2012年09月01日

日朝協議 粘り強く接点をさぐれ

北京で3日間にわたった日本と北朝鮮の外務省課長級協議が終わり、両政府は今後、日本人拉致問題などを話し合う方向で合意した。9月中にも局長級協議が開かれる見通しだ。

拉致問題について、北朝鮮は08年8月に再調査を約束した。だが、その後すぐに調査を一方的に先送りし、以来、政府間協議は途絶えていた。

今後の協議で、北朝鮮がどういう態度に出てくるかは、まだわからない。とはいえ、これまでのかたくなな態度を考えれば、ともかく協議のテーブルについたことは前進だ。

拉致問題は日本人の生命がかかった極めて重要な懸案だ。時間はかかるかもしれないが、北朝鮮が再調査にとりかかり、日本側が納得できる結果を出すよう求めたい。

もちろん、日朝間で解決すべき課題はそれだけではない。

終戦前後に北朝鮮で死亡した日本人の遺骨返還や、北朝鮮に渡った日本人妻の帰国などの人道問題、核・ミサイル開発をふくむ安全保障、そして戦後処理にからむ国交正常化――。

こうした案件を、包括的に話し合っていく必要がある。

北朝鮮にしても、メリットがなければ日本との交渉には乗り出すまい。金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が食糧事情の改善を重要課題に掲げていることを考えれば、何らかの支援を求めてくることは予想できる。

こうした双方の狙いにどう折り合いをつけていくか。一筋縄ではいかぬ難しい交渉になるだろうが、担当者には粘り強くあたってほしい。

一方、日朝2国間の交渉だけでは問題は解決しない。北朝鮮の核開発についての6者協議のメンバー、とりわけ韓国との連携は欠かせない。

この点からも、日韓関係のこれ以上の険悪化は避けなければならないのは明らかだ。

今回の北朝鮮による日本へのアプローチは、金正恩体制が国内的には一応落ち着き、対外関係に目が向いてきたことの表れと見ることができよう。

協議での北朝鮮の出方には、正恩氏の意向が色濃く反映されるだろう。

新体制が対外開放に向かっていくのか、それとも故金正日(キム・ジョンイル)総書記の軍事優先路線をかたくなに守り続けるのかを見極める機会にもなる。

指導者の代替わりは、変革への好機である。過大な期待は禁物だが、これからの協議を通じて、閉ざされた体制を世界に開くように促す努力も惜しむべきではない。

毎日新聞 2012年09月02日

日朝協議 平壌宣言の原点に戻れ

08年8月以来となる日本と北朝鮮の外務当局間の協議が北京で3日間にわたって行われ、課長級から局長級に格上げした本格的な協議を早期に開催することなどで合意した。この流れを停滞してきた日朝関係打開へとつなげてほしい。

4年ぶりに対話の扉を開いたきっかけは遺骨問題だった。

北朝鮮には終戦前後に亡くなった日本人の遺骨が2万柱以上残っているとされるが、国交がないことなどで遺骨収集や遺族の墓参問題は長いあいだ置き去りにされてきた。両国の赤十字が8月初旬にこれについて話し合い、双方の政府が関与を強めることで一致したことが今回の政府間協議につながった。

遺骨問題の話し合いは北朝鮮が昨年から打診していた。北朝鮮にはこれを呼び水に日本との政府間協議を再開し、経済支援などにつなげる狙いがあったとみられる。

ただ、北朝鮮側のそうした政治的な思惑を抜きにしても、日本人の遺骨収集や墓参の実現は放置できない人道上の問題である。遺族は高齢化が進んでおり、政府は責任を持って対処してもらいたい。

その一方で、政府間協議を本格化させる以上、重要なのは拉致問題の解決だ。今回の課長級協議では、次回は「双方が関心を有する事項」を協議するとの表現で、拉致問題も対象にする方向となった。

北朝鮮は4年前の協議で拉致問題の再調査を約束したが、日本の首相交代などを理由にほごにしてきた。日本との関係改善や国交正常化のためには、拉致問題の解決に向けた誠意と具体策を明確にすることが欠かせないということを、北朝鮮は改めて認識すべきである。

また、北朝鮮の核開発や弾道ミサイル発射なども大きな課題だ。日本政府はこれら安全保障にかかわる問題も積極的に取り上げ、中断したままの6カ国協議の再開へとつなげる役割を果たしてほしい。

小泉純一郎元首相が訪朝し、故金正日(キムジョンイル)総書記との間で日朝平壌宣言に署名してから、今月17日でちょうど10年になる。同宣言は「日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立する」ことが双方の利益と地域の平和・安定に寄与する、と明記した。双方がこの原点に戻って真摯(しんし)に向き合うことでしか、国交正常化の道筋は見えてこないだろう。

領土をめぐる韓国や中国との対立を抱えたこの時期だからこそ、政府は日朝正常化を含む東アジア全体の安定した秩序と将来像をどう構築するかを、真剣に考える必要がある。日朝協議もその文脈の中に位置づけていくべきではないか。

読売新聞 2012年09月01日

日朝予備協議 金正恩体制に「拉致」打開促せ

日本人拉致問題を解決するための一歩になるだろうか。政府は膠着(こうちゃく)状態の打開へ、粘り強く対話を重ねるべきだ。

北京で開かれていた日本と北朝鮮の課長級による予備協議は、「双方が関心を持つ事項」について幅広く協議することで一致した。今月中にも、北京で局長級の本協議が行われる。

明示されてはいないが、日本が要求した拉致問題が議題になることは、当然である。

拉致は、人権と国家主権を侵害する国家的な犯罪だ。「拉致問題は解決済み」といった北朝鮮の従来の主張は、到底受け入れられない。政府は、拉致被害者全員の早期帰国に全力を挙げるべきだ。

拉致問題については、2008年8月に中国・瀋陽で行った日朝の実務者協議で、北朝鮮が拉致被害者再調査のための委員会を早期に設置することで合意した。ところが、北朝鮮は一方的に再調査を見送り、協議は中断していた。

4年ぶりに政府間協議が実現した直接のきっかけは、終戦前後に北朝鮮で死亡した約2万1600人分の日本人の遺骨返還問題である。北朝鮮側は、遺族の墓参についても積極的な姿勢を見せた。

金正恩第1書記の新体制と無縁ではない。後見役と目されていた軍総参謀長が解任され、統治スタイルにも独自性がうかがえる。

金正恩氏は、食料問題を解決するため、日本をはじめ国際社会から経済制裁の解除や経済支援を引き出したいのではないか。

政府は、北朝鮮側との非公式な接触で拉致被害者に関して様々な生存情報を得ているという。

松原拉致問題相は、北朝鮮側の動きを前向きにとらえている。

金正日総書記の専属料理人だった藤本健二氏が金正恩氏の招きで7~8月に訪朝した際、横田めぐみさんの名を挙げて解決を正恩氏に直訴したことについても、「極めて重い」と期待感を示した。

問題は、こうした変化を、拉致や遺骨返還など懸案の解決にどう結びつけるかである。

3日間にわたった今回の予備協議の中では、小泉首相と金正日総書記の日朝首脳会談から9月17日でちょうど10年を迎えることも話題になったという。

この首脳会談で、総書記は初めて拉致を認めて謝罪した。北朝鮮は、核問題解決のため国際的合意の順守を確認した平壌宣言に署名したことも忘れてはならない。

政府は、北朝鮮から誠意ある対応を引き出す必要がある。綿密な戦略を立ててもらいたい。

産経新聞 2012年09月02日

日朝政府間協議 拉致再調査の履行が先だ

日本と北朝鮮による4年ぶりの政府間協議は、「双方が関心を持つ事項について幅広く議論する」ことでとりあえず一致した。だが、拉致問題が協議対象に含まれるかどうかについては北の確約を取れないままだ。

日朝間で拉致問題を棚上げにした協議などあり得ない。日本政府は、カードを小出しに交渉を優位に運ぼうとする北の常套(じょうとう)手段に乗せられてはならない。

次回協議は、今回の課長級から「より高いレベル」(局長級)に上げ、今月中旬にも北京で開くという。外交当局には「拉致問題は日本国民の生命と安全に直接かかわる国家の重大事」との原則的立場を貫く強い覚悟を求めたい。

今回の政府間協議は当初、局長級で行われる予定だったが、北側の意向で課長級による予備協議に格下げされた。協議が始まってからも、北は拉致問題を議題にするよう求めた日本の提案に難色を示し、予定された日程を1日延長した。協議はすでに北のペースで進みつつあるともいえる。

北朝鮮が提案してきた日本人の遺骨収集や墓参などは、たしかに重要な懸案事項だ。厚生労働省によると、先の大戦末期の混乱で今も約2万1600柱の遺骨が北朝鮮に残されたままだ。今回の協議が日本側も含めた現地調査や遺骨の返還、遺族の墓参などにつながれば意味がある。

だが、北朝鮮はこの時期になぜ日本側に遺骨問題を提起したのか。遺骨収集という人道的問題を持ち出すことで、拉致問題などで北に厳しい日本の国内世論を懐柔する狙いも指摘されている。

政府部内にも、政府間協議を継続中とすることで、「北朝鮮側に制裁強化を免れる論拠に利用されかねない」(松原仁拉致問題担当相)と警戒する見方がある。北の真意を読み誤ることなく、拉致問題を前に進める必要がある。

北朝鮮は平成20年の協議で拉致問題の再調査を約束した。調査対象も政府認定の拉致被害者だけでなく、拉致の疑いがある特定失踪者に広げるとしていたが、反故(ほご)にされたままだ。

横田めぐみさんの生存情報も報じられている中で、北が協議の再開でまずなすべきは、日本との再調査の約束を果たし、生存者の帰国を早期に実現させることだ。日本政府はその履行を改めて北に強く迫るべきだ。

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