首相問責可決 責任放棄し幕引きとは

朝日新聞 2012年08月30日

野田首相問責 無節操もきわまった

苦い現実に向き合い、不人気な政策でも与野党が歩み寄って前に進める。社会保障と税の一体改革をめぐる民主、自民、公明の3党合意は、そんな政治への一歩にみえた。

それが一転して全面対決に逆戻りである。

野田首相の問責決議がきのうの参院本会議で可決された。自民党など野党側は今後の法案審議を拒否し、国会は来月8日の会期末まで空転する。

一体改革の設計も、予算執行に必要な赤字国債法案も、原発の安全を担う原子力規制委員会の人事も、道筋のつかないままの政争である。

政治の無責任、無節操ぶりにあきれるほかはない。

とくに驚くべきは自民党の対応だ。国民の生活が第一などが提出し、自民党が賛成した決議は問責の理由として「国民の多くは今も消費増税法に反対」と明記。民・自・公の3党協議で決める手法についても「議会制民主主義が守られていない」と批判している。

これでは自民党の自己否定にほかならない。

公明党は「一体改革を否定する内容で賛同できない」と採決を退席した。こちらの方が筋が通っている。

自民党がそうまでして問責決議を急いだのは、政権を揺さぶることで一刻も早く衆院解散に追い込みたいとの思惑からだ。

だが、みずから進めた消費増税を否定する問責に賛成するというのでは、政策より解散が優先なのだと告白するようなものではないか。

党利党略を優先するという点では、民主党も同じだ。

支持率低迷に苦しむ民主党としては解散を先送りしたい。衆院の定数見直し問題で、民主党は自民党の反対する法案を衆院で強行採決した。一票の格差是正が実現して、解散の環境が整うのを防ぐためと勘ぐられても仕方あるまい。

こんな不毛な対立を続けていても、国民に何の益もない。

自民党は、解散を勝ち取れば政権に復帰できるかもしれないが、自公は参院で過半数を持たず衆参のねじれは続く。今あしざまにののしっている民主党と、そのとき手を組めるのか。

一方、民主党政権は、解散先送りで政権を延命できても、自民党の協力がなければ政策を実現できない。

ともに党首選を9月に控え、議員心理におもねって政治を停滞させているとすれば、こんな愚かしいことはない。

政治家はみずから墓穴を掘っていることがわからないのか。

毎日新聞 2012年08月30日

首相問責可決 責任放棄し幕引きとは

無責任のきわみである。野田佳彦首相に対する問責決議が参院本会議で野党の賛成多数で可決された。野党は一部案件を除き参院で審議を拒否する構えで、通常国会は空転したまま事実上、閉幕しそうな状況だ。

民主、自民両党とも筋の通らぬ強硬策に訴えたあげくの混乱だが、実態は違憲状態である衆院の「1票の格差」など懸案を放り出し、国会の幕引きを図る茶番劇に等しい。「決めない政治」に逆戻りした首相と谷垣禎一自民党総裁の責任感を疑う。

どっちもどっちと言わざるを得ない攻防だ。

民主党は喫緊の課題である「1票の格差」是正に生煮えの選挙制度改革案などもあえて抱き合わせ、衆院通過を強行した。衆院解散の先送りを狙い、野党を挑発することで格差是正をつぶそうとしたのである。

「待ってました」とばかりに自民は反応した。確かに民主のやり口は非難すべきだが、首相問責決議案の提出は筋違いで、矛盾している。

谷垣氏は民自公3党首による「近いうちに国民に信を問う」合意をたてに、首相は今国会で衆院解散に踏み切るべきだと対決姿勢を強めた。両氏にどんなやりとりがあったかは不明だが文言上、「今国会解散」の約束と解するには無理がある。

しかも、谷垣氏は首相と協力し、消費増税を実現したばかりである。増税を批判し問責決議案を提出していた中小野党案との調整が難航、自民は結局同調したが、公明は棄権に回った。これでは谷垣氏の自己否定とすら取られかねない。

「1票の格差」を放置して国会を閉じれば、それこそ解散先送りを図る民主党の思うツボだろう。法的に裏づけのない問責決議を審議拒否戦術などの道具にそもそも使うべきでない。問責決議で絶縁状を突きつけたからといって、早期解散が保証されるというわけでもあるまい。

結局、非難合戦のどさくさにまぎれて党首選びに突入する体裁を民自両党首が取り繕おうとしているのが実態ではないか。赤字国債を発行するための特例公債法案など懸案を決着させる責任感が首相と谷垣氏に感じられない。「決める政治」はどうしたのか。

中国、韓国など近隣諸国と緊張が高まる中で混乱が好ましくないことも言うまでもない。わざわざ隙(すき)をみせ、国益を損なうと言っても過言ではあるまい。

民主からは問責決議を受けて「『近いうちに解散』は白紙だ」との無責任な発言が早くも聞こえてくる。

増税問題を決着し「決める政治」を示したはずの国会がこんな終わり方でいいのか。まだ会期は1週間以上ある。2大政党の両党首の見識が問われる。

読売新聞 2012年08月30日

首相問責可決 自らを貶めた自民党の「賛成」

野田首相への問責決議に一体、どんな意味があるというのか。

首相を衆院解散に追い込めるわけではない。立法府の一員としての責任を放棄し、党利党略に走る野党の姿勢には、あきれるばかりだ。

国民の生活が第一、みんなの党など参院の野党7会派が提出した首相問責決議案は29日、野党の賛成多数により、可決された。自民党は賛成票を投じた。

問責決議は、消費税率引き上げは国民の声に背くとし、関連法を成立させた民主、自民、公明の3党協議も「議会制民主主義が守られていない」と非難している。

だが、これはおかしい。自民党を含め、衆参両院議員の約8割が賛成した法律である。

自民党が今更、こんな決議に賛成したことは到底、理解できない。政党として自らを(おとし)める行為だ。公明党は採決で棄権して、筋を通したではないか。

自民党の谷垣総裁は、問責の理由について、「内政、外交の両面にわたって今の野田政権が国政を進めることは限界だ」と述べた。「日本外交の基礎がガタガタになっている」とも批判した。

だが、首相を問責する根拠としては説得力に欠ける。

竹島など領土問題では、長年政権を担当してきた自民党も責任を免れない。領土・領海に対する中国や韓国、ロシアの攻勢に、与野党は結束して対応すべきなのに、首相に、後ろから弾を撃つような行為は国益を損ねよう。

内政では、民自公3党が財政再建の必要性に対する認識を共有し、社会保障と税の一体改革の実現へ連携したばかりである。

衆院選挙制度改革に関する法案の扱いなど民主党の強引な国会運営に大きな問題があるとはいえ、問責決議は、民自公3党の協調路線を壊す。「近いうち」という衆院解散の民自公の党首合意さえ反古(ほご)になりかねない。

今後、自民党は原子力規制委員会の国会同意人事や一部の議員立法を除いて審議拒否する方針だ。「決められない政治」が続く。

国会では、赤字国債の発行を可能にする特例公債法案をはじめ、共通番号制度関連法案(マイナンバー法案)、ハーグ条約承認案など重要案件が積み残された。

衆院の内閣不信任決議と違い、参院の問責決議には法的根拠がない。それを政府・与党攻撃の手段にして審議を拒否し、首相・閣僚の交代を迫る。こんな悪習をいつまで繰り返すのか。参院を「政局の府」にしてはならない。

産経新聞 2012年08月30日

首相問責可決 この体たらくに終止符を

参院本会議での野田佳彦首相に対する問責決議が、「反消費税増税」を掲げて中小野党7会派の提出した決議案に自民党が乗っかるかたちで可決された。

ほんの20日前、自民党は社会保障・税一体改革を実現するため与野党協力の枠組みを構築したのに、この決議に賛成するのは自己否定でしかない。公明党は反発して棄権した。

政権与党である民主党も、問責可決の事態を回避する努力を見せなかった。

大幅な議席減を恐れて解散を先送りさせたい民主党と、解散に追い込むポーズはとっておきたい自民党の谷垣禎一総裁らの思惑が優先された格好だ。

主要政党が国民そっちのけで政局の駆け引きに奔走する、国会の体たらくがさらけ出された。与野党とも国民の政治不信を甘くみており、「決められない政治」に戻ったことは極めて問題だ。

決議内容は民主、自民、公明の3党による国会運営などを取り上げ、野田首相に加え自公両党にも批判の矛先を向けている。

消費税増税法の採決時には、自民党は中小野党の首相問責決議案を採決せず、同じく中小野党が衆院に提出した内閣不信任決議案の採決では欠席した。

自民党が今回取った行動は、問責決議の理由などどうでもよく、とにかく可決しておきたいという党利党略に基づく行動であることを自ら認めたようなものだ。

問題は、実際に解散を迫る効力も乏しい問責決議の可決に固執したことが、日本の危機克服に必要な与野党の枠組みの破壊につながりかねないことにある。

問責決議により、通常国会は会期が9月8日まで残っているのに法案審議は事実上、行われない。今回も問責に先立ち、海上保安官に離島での警察権を認めることを盛り込んだ改正海上保安庁法などを成立させた。

赤字国債発行に必要な特例公債法案は成立していない。原子力規制委員会の同意人事も残されている。一票の格差をめぐる違憲状態の解消に必要な衆院小選挙区の「0増5減」も実現していない。歩み寄りができないなら、早期解散して国民の信を問うべきだ。

国民の支持も得られないような問責決議に突っ込み、自らの業績を否定した谷垣総裁の責任を問わざるを得ない。

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