大使公用車襲撃 「反日無罪」は看過できぬ

毎日新聞 2012年08月29日

日本大使車襲撃 北京は乱れてきたのか

北京で丹羽宇一郎・駐中国大使の乗った公用車が襲われた。さいわい大使や同乗の大使館員にけがはなかったが、車の日本国旗が奪われた。

きわめて悪質な事件である。大使の旗を奪ったことは国家に対する侮辱である。さらに、車を止めたことは、大使に危害を加えることを暗示する脅迫行為である。日中関係を挑発することは、日中両国政府に対する敵意を示す政治テロ行為といっていいだろう。

大使を接受した中国政府は厳正な捜査によって事件の真相を解明する義務がある。反日暴力の風潮を許しているかの誤解を受けないよう、再発防止を強く求めたい。

BMWとアウディに乗った犯人グループは大使公用車を尾行し、1台が幅寄せして停車させたという。インターネットで流れる反日宣伝に浮かされて街頭でデモをする普通の若者たちの仕業ではない。高級外車は、中国では軍や党の高官やその子女、あるいは「黒社会」と呼ばれる反社会組織の幹部が乗ると思われている車だ。背後関係がありそうだ。

大使館員が犯人の顔写真、犯行車両のナンバーを撮影して、公安当局に提出したという。北京市は防犯カメラが網の目のように設置され、テレビカメラを使ったナンバー読み取り追跡装置も発達している。犯人割り出しは難しいことではなかろう。

首都の大通りで、白昼堂々自動車強盗まがいの事件が起きたのは、中国の警備体制が緩んでいるからだろうか。そうではあるまい。秋の共産党大会を控えて、社会的な混乱は未然に防ぎたいというのがいまの中国政府の考えだ。党大会のための特別警備体制が今月中旬から始まった。

尖閣諸島問題を口実にした反日デモが一部の地方都市で暴徒化したが、今のところ北京や上海のような大都市では散発的なデモにとどまっている。警備当局が押さえこんでいるからだ。党大会を前に、社会混乱が政治的混乱を誘発することを恐れている。逆に言えば、混乱を起こしたい勢力にはいまが最後の機会だ。

中国共産党は今年の春から、激しい権力抗争が起きている。保守派が支持した薄熙来・党政治局委員が失脚し、その妻が殺人容疑で最近、執行猶予付きの死刑判決を受けた。しかし、ネットには薄氏支持の声が消えない。

もともと中華帝国は諸外国の使節を大切に扱ってきた。異国の使節の多さは皇帝の威徳の高さを物語るとされたからだ。いまでも中国人は外国人を「外賓」と呼ぶ。

多くの中国人は丹羽大使襲撃事件を恥ずかしく思っているに違いない。この事件をもって一般の中国人に反日感情が高まっていると見るのは短絡的だろう。

読売新聞 2012年09月02日

中国大使車襲撃 容疑者の「英雄」扱いを憂える

日本を侮辱するような事件が再発しないよう、中国政府に適切な対応を望みたい。

丹羽宇一郎・中国大使が乗った車が襲撃されて国旗を奪われた事件で、中国当局は容疑者が男女4人であることを突き止めた。拘束せず、事情を聞いているという。

今回の事件は、香港の活動家による尖閣諸島への不法上陸事件を契機に中国国内で反日機運が高まっていることが原因だろう。国旗を狙ったのは、日本を冒涜(ぼうとく)する行為にほかならない。

日本政府の抗議に対して、中国側は「極めて遺憾だ。再発防止に全力を尽くし、法に基づき厳正に対処したい」と応えている。

ただ、中国のインターネットのポータルサイトが実施した世論調査では、大使車襲撃を支持する回答が8割に達した。容疑者を「英雄」として、事件を称賛する声が多いことは、日本にとって憂慮すべき事態だ。

中国にはもともと、愛国的行為なら罪に問われないとする「愛国無罪」というスローガンがある。日本車や日本料理店などを壊す反日行動が、事実上容認されているのは問題である。

反日で若者のネット世論が過激化する背景として、中国当局による愛国教育の強い影響を指摘しないわけにはいかない。

一衣帯水の日中は、経済をはじめ、極めて重要なパートナーであることを認識すべきだ。今回の事件や繰り返される反日デモは、不毛と言うしかない。

尖閣諸島を巡って緊張が高まっていることから、中国で開催予定の友好行事が延期や中止に追い込まれているのも看過できない。

このため、野田首相は胡錦濤国家主席に親書を出した。山口壮外務副大臣が北京で、胡主席に近い外交担当の実力者、戴秉国・国務委員と会談して手渡した。

親書は、日中両国が戦略的互恵関係を深化させることが重要だとし、関係発展のためにハイレベルで緊密な意思疎通を行っていくことが有意義だと訴えている。

首相は両国関係の改善が急務と考えているのだろう。胡主席はどう対応するだろうか。

日中両国は今月末で国交正常化40周年の節目を迎える。両国政府は、今月上旬に開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて、首脳会談を行うことを検討している。

日中双方の首脳が大局的かつ冷静に対話を重ね、両国関係の再構築に努めることが重要だ。

産経新聞 2012年08月29日

大使公用車襲撃 「反日無罪」は看過できぬ

北京市内の幹線道路で丹羽宇一郎駐中国大使が乗った公用車が2台の車に襲われ、日本国旗を奪われる事件が起きた。

日本国を侮辱する無法を許し、外交官保護を定めたウィーン条約をないがしろにした中国政府の重大な失態である。

日本大使館の厳重抗議に対し中国外務省は「遺憾」の意に加え、「事件の再発防止に全力を尽くす」「関係機関が真剣に調査を進めている」などと言明した。中国政府はこの約束を厳に守らなければならない。

背景には、沖縄県・尖閣諸島をめぐる日中対立がある。15日に尖閣に不法上陸した香港の活動家らを沖縄県警などが現行犯逮捕して強制送還した後、中国各地で反日デモが2週連続で起きた。

満州事変の発端となった1931年の柳条湖事件から81年にあたる9月18日に反日デモを呼びかけるネットの書き込みもある。

問題は中国で日本を攻撃する行為は何でも許されるという「反日無罪」の風潮が目立つことだ。

今回の襲撃事件直後、中国版ツイッターには、襲撃した男らを英雄視する意見が相次いだ。既に日本車が破壊されたり、日本料理店や日系企業が標的になり、在留邦人の安全も脅かされている。こうした風潮は到底看過できない。

尖閣に不法上陸した活動家らの反日団体は昨年、黒竜江省の県政府が建立した日本の旧満蒙開拓団員のための慰霊碑にペンキをかけ、ハンマーで破壊した。にもかかわらず実行犯5人は警察の事情聴取後、釈放された。

暴挙を批判した中国国営中央テレビの著名キャスターは、ネット上で総攻撃を受けている。

中国政府は共産党大会という秋の重要行事を前に国内安定を最優先し、「格差是正」などを標榜(ひょうぼう)するデモは絶対許さない方針だ。

今回の襲撃には、米国務省報道官も異例の懸念を表明した。国内治安を優先する一方で、民衆の不満の「はけ口」として反日デモの暴走を黙認するというのなら、北京五輪や上海万博を開催した大国の実績が泣く。

海上保安庁がやっと公開した反日活動家の尖閣不法上陸のビデオ映像には、海保の巡視船にれんがを投げつける暴走ぶりが映し出されている。日本政府は尖閣領有の正当性とともに、こうした証拠をもっと積極的に発信し、国際世論の支持を高めるべきだ。

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