パラリンピック 五輪に続く感動を期待したい

朝日新聞 2012年08月29日

パラリンピック あの熱気をもう一度

五輪の余韻が残るロンドンの街に、アスリートたちの躍動が戻ってくる。障害を抱える人たちのスポーツの祭典、パラリンピックが開幕する。

障害者スポーツ発祥の地への里帰りだ。前回、1948年のロンドン五輪にあわせ、近郊の病院で開いた車いすアーチェリーの大会が始まりとされる。第2次世界大戦で傷を負った患者のリハビリがきっかけだった。

障害者の自立と社会参加のために始まった大会はいま、競技志向が強まっている。

先日の五輪で健常者とともに走った義足ランナー、オスカー・ピストリウス選手(南アフリカ)は、北京のパラリンピック大会で短距離3冠のスターだ。

競技に打ちこむ姿が企業の共感を呼び、プロとして活躍する選手もいる。車いすテニスの国枝慎吾選手は北京大会で金メダルを取り、プロ宣言した。

「車いすテニスでお金を稼ぎ、プロとして自立できる。そうした成功モデルを子どもたちに示したかった」。健常者と同じ会場で戦う車いすテニスの4大大会など、プロツアーを転戦し、優勝を重ねている。

ただ、こうした恵まれた環境を享受できる選手は、まだひと握りだ。日本のパラリンピックの選手とスタッフが、個人で負担する活動費は年平均144万円に上る。ロンドンで活躍し、支援してくれる人の輪を広げたいと願う選手が多い。

勝利至上主義が強まると、ドーピングの誘惑など、負の側面も顔を出す。3大会ぶりに復活の知的障害者の種目では、過去に健常者が偽って出場する不正が露見したことがある。

技術の進歩がめざましい義足や車いすは、性能が良いものは高価になる。経済格差がそのまま実力差につながる。スポーツに欠かせない公平さをどう保つか。パラリンピックを健全に発展させるための課題だろう。

国内で、五輪は文科省、パラリンピックは厚労省と、縦割り行政になっている。五輪選手の強化に使う文科省所管の国立スポーツ科学センターがパラリンピックの水泳陣に開放されるなどの改善はある。半面、代表選手への調査で国立スポーツ科学センターを訪ねたこともない選手が8割に上る。

裾野をつくる一般の障害者をふくめ、スポーツに親しめる環境を広げる必要がある。

今回は、166の国・地域から、さまざまなハンディを乗り越えた約4300人が集う過去最大規模の祭典となる。メダルラッシュに沸いた五輪に負けない声援を送ろう。

毎日新聞 2012年08月30日

パラリンピック 限界に挑む姿を見よう

オリンピックと並ぶもうひとつのスポーツの祭典、パラリンピックがロンドンで開幕した。

1948年、ロンドン郊外の病院で16人の車いす患者が参加して行われたアーチェリー大会が原点だ。生みの親のグトマン博士は「失った機能を数えるな。残った機能を最大限生かせ」という言葉を残した。障害があっても活用できる能力を生かしてプレーできるように考案されたのが障害者のスポーツで、ルールや用具を障害の種類や程度に適合(アダプト)させることから「アダプテッドスポーツ」とも呼ばれる。

車いすテニスはツーバウンドでの返球が認められている。だからといって、ネットをはさんでボールを打ち合うというテニス本来の魅力が損なわれるわけではない。個人の身体条件に合わせてルールを変えていく「アダプテッドスポーツ」という考え方は障害者だけでなく高齢者や子どもを含めたより多くの人がスポーツに参加する道を開いている。

車いすバスケットボールにはスポーツのあり方を考えるうえで重要なヒントとなるルールがある。障害の程度の重い順に1.0~4.5の持ち点を与え、コートでプレーする5人の持ち点の合計が14点を超えないようにしている。障害の重い人も軽い人も等しく試合に出場できる工夫で、このルールがなければ障害の重い選手の出場機会を奪ってしまうことになりかねない。

健常者のバスケットは長身者が有利といわれるが、例えば5人の身長の合計が9メートル以下とするようなルールを採用すれば背の低い選手の活躍の機会も膨らむだろう。

車いすバスケットを楽しむ健常者も増え、10年ほど前から学生のリーグ戦が始まっている。障害のない人も車いすに座ることで一緒に楽しめる。「障害者のスポーツ」は「みんなのスポーツ」にもなっている。

一方、「オリンピック化」への懸念も表面化してきた。高度化に伴って出場資格を得るための競争が激しくなり、海外遠征や合宿などが増えた。細かなクラス分けは競技の公平性を担保する半面、多数のメダリストを生んでメダルの価値を薄めてしまうとしてクラスの統合、削減が進む。しかし、それによって重度障害者が取り残され、障害者スポーツの裾野を狭める恐れがないか心配だ。

能力の限界に挑む姿は美しい。障害者のスポーツはまず見ることが大切と言われる。パラリンピックの舞台に立つまで選手たちは障害をどう乗り越えてきたのかなどについて思いをめぐらすことは障害者への理解を深め、障害のある人もない人も共に生きる「ノーマライゼーション社会」の実現につながるはずだ。

読売新聞 2012年08月28日

パラリンピック 五輪に続く感動を期待したい

ロンドン五輪の感動と興奮が冷めやらぬ中で、あす29日、障害者スポーツの祭典・夏季パラリンピックが開幕する。

166の国・地域から約4200人が参加する過去最大規模の大会だ。身体障害者に加え、知的障害者が出場する競技も3大会ぶりに復活する。

4年前の北京大会から、五輪とパラリンピックは同じ組織委員会が運営する態勢になった。両脚義足の短距離走者オスカー・ピストリウス選手(南アフリカ)など、五輪とパラリンピックの両方に出場するアスリートもいる。

障害の程度に応じた種目の数はかなり絞り込まれ、競技レベルは大会ごとに高まっている。五輪と同様、参加国はメダルの獲得数を競い合い、国威発揚の舞台にもなりつつある。

今や「もう一つの五輪」というより、“五輪後半戦”と見ることもできるだろう。

日本からは17競技に135選手が出場する。北京大会の27個を上回るメダルの獲得が目標だ。

主将として選手団を率いる土田和歌子選手は、車いす陸上の5000メートルとマラソンに挑む。車いすテニスで世界屈指の実力を持つ国枝慎吾選手など、金メダルを狙える選手は少なくない。

車いすバスケットボールには、東日本大震災で練習場を失ったクラブ「宮城MAX」から7人の選手が出場する。逆境を乗り越えて世界の舞台に立つ姿は、被災地を勇気づけるに違いない。

英国はパラリンピック発祥の地である。ロンドンが前回1948年に五輪を開催した際、これに合わせて、近郊のストーク・マンデビル病院で車いすアーチェリーの競技を行ったのが始まりだ。

64年後の今年、障害者スポーツの原点を想起しつつ、さらなる発展を目指す大会ともなろう。

今大会は、2020年の五輪・パラリンピック招致を目指す東京にとっても、大いに参考になるはずだ。準備段階から五輪と一緒に計画を進め、同じ競技施設で行う種目も多い。

五輪との一体的開催の方向を強めつつあるパラリンピックの将来像を明確に示すことが、東京招致実現の一つのカギになる。

政府は障害者スポーツの支援態勢を拡充する必要がある。東京都などで組織する招致委員会は、障害者に配慮した都市の姿をアピールすることが重要だ。

東京で開催する意義を分かりやすく提示してこそ、招致への国民の関心も高まるだろう。

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