生活保護改革 本気で自立の支援を

朝日新聞 2012年08月26日

生活保護改革 本気で自立の支援を

生活保護は、他に生きる方法がないときの最後の安全網だ。それに対する視線が厳しい。来年度予算の要求にあたり、政府は「最大限の効率化」を図るように名指しした。

だが、単に削ろうとすれば、かつての「母子加算廃止」のように、声を上げにくい人にしわ寄せがいく。自治体が窓口で申請を受け付けない、そんなことが起きるおそれもある。

保護費が大きくなるのを本気で防ぐには、貧困におちいった人の自立を助ける、地道な努力しかない。そこに、予算をはじめ、社会の資源が適切に投じられるべきだ。

生活保護をめぐる社会の雰囲気は、特定の出来事をきっかけに大きく揺れる。

2007年に北九州市で、生活保護が打ち切りになった男性が「おにぎり食べたい」と書き残して餓死した。この時は、行政のあり方が指弾された。

今年は、タレントの母親が保護を受けていたことが引き金となり、「受給者バッシング」が強まっている。

全体からみた金額は小さくとも、不正受給は人々の怒りを増幅する。資産や所得、医療の適切さの点検は必要だ。

だが、いま一番問題なのは、雇用の悪化により、「まだ若くて働けるが、生活に困っている人」が増えていることだ。

「働けるから」といって放っておけば、心身を病んでしまうことも多い。「誰が見ても働けない」状態になってから生活保護に入れても、今度はそこから働けるようになるまでの時間がかかる。悪循環だ。

困っている人を「救うかどうか」の判断は、個人の価値観にもよるので、線引きが難しい。だが「自立を支援する」ことへの異論はないはずだ。

早めに、ていねいに対策をとれば費用対効果は高い。

たとえば横浜市では昨年度、約2億円かけて就労支援の専門員を48人置いた。その結果、2千人近くが職に就き、保護費を8億5千万円減らした。

経済効果の不明な道路をつくるより、よほど役に立つ。

自治体が「働ける人は、早期に自立してもらえる」という自信を持ち、生活保護を「入りやすく、出やすい」制度にする。そんな好循環をつくりたい。

問題は、こうした自立支援の事業を支える財源が不安定なことだ。政府はいま、来年から7カ年の計画で「生活支援戦略」を考えている。公共事業で「国土強靱(きょうじん)化」するより、ずっとまっとうで、社会を強くするお金の使い方だろう。

毎日新聞 2012年08月27日

生活保護 医療扶助の適正化を

生活保護への監視の目が厳しくなりそうだ。受給者は過去最多の水準で210万人を超え、保護費も3兆7000億円に上る。生活保護を受けながら自宅を新築するなど悪質な不正受給も数は少ないながらある。本来保護が必要な人が締め出されないよう十分に配慮しながら改善を進めるしかない。生活保護は人々の命や暮らしを守る最後のセーフティーネットだ。就労や自立につながる機能を高めて、時代の要請にかなう制度にしたい。

芸能人の親族が生活保護を受給していたことが話題になってから、生活保護の適正化を求める声は強まっていた。厚生労働省の「生活支援戦略」中間まとめには、生活保護基準の見直し(減額)、扶養可能な親族に保護費を返還させる、地方自治体の調査権限を拡大し過去の受給者も調査対象に加える−−などの厳しい改善策が列挙されている。不正受給の罰則(現在は3年以下の懲役または30万円以下の罰金)の引き上げも明記された。

この中で特に重要なのは、生活保護費全体の半分近くを占める医療扶助の適正化である。医療扶助は「診察」「薬・治療材料」「手術」「入院」などの現物給付が原則で、生活保護法の指定を受けた医療機関が実施する。患者の窓口負担がないため、過剰診療や薬の過剰投与が起きやすいことが以前から指摘されていた。「入院」の半数は精神科病院が占めており、長期間にわたる社会的入院の温床にもなってきた。

同省は電子レセプトのソフトを改良し、月に15日以上の受診が3カ月以上続いている人、向精神薬を複数の医療機関から重複して処方されている人、180日以上入院している人などを検索できるようにする。1件当たりの請求金額が高い、特定の診療行為が多いなどの医療機関も検出可能で、指定取り消しなどを含めて指導を強化するという。医療機関へ保護費が不適切に流れている構図を解消するために必要な改善策は当然実行すべきだ。

生活保護から脱却するためには、働いて自立することが必要だ。すぐに一般就労するのが難しい人には、ニートやひきこもりの若者に対して社会福祉法人やNPOが実施している就労体験・訓練を拡充した「中間的就労」、相談支援や貸し付けと居住の確保を組み合わせた「家計再建」などの新設が検討されている。働くと収入分だけ保護費が減額されるが、働く意欲を維持するため自立できるまで減額しない「就労収入積立制度」も導入する。

厳しい適正化だけでなく、多様な支援メニューで保護から就労へと進めていくことが必要だ。

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