ロシア経済 WTO加盟で自由貿易促進を

毎日新聞 2012年08月26日

露WTO加盟 投資環境整備の弾みに

ロシアが22日、世界貿易機関(WTO)の156番目の加盟国になった。中国の加盟(01年)から遅れること11年。未加盟の最後の「大国」がようやく世界の多国間貿易体制の中に組み込まれることになった。ロシアでは不透明で恣意(しい)的なルールの運用が横行し、日本企業を悩ませてきた。WTO加盟がロシア経済の体質改革とビジネス・投資環境整備への弾みとなることを期待したい。

ロシアがWTOの前身である関税貿易一般協定(GATT)への加盟を申請したのはソ連崩壊から間もない93年だが、市場経済への移行に伴う混乱などで加盟交渉は難航した。経済が安定したプーチン政権下でも国家主導の経済体制下で市場開放の法整備は遅れ、欧米との対立や先にWTO加盟を果たしたグルジア反露政権の抵抗など、さまざまな要因からロシアのWTO加盟は先送りされてきた。米国主導の世界秩序に反対するプーチン氏は、進まない加盟交渉へのいらだちもあって旧ソ連諸国との「関税同盟」を優先する姿勢さえ見せた。ソ連崩壊で壊滅状態になった国内の農業や製造業を保護する必要からWTO加盟に反対する声も強かった。それでも資源への依存から脱却するためには欧米の資本や技術を入れて経済構造を転換する必要があると考えたメドベージェフ前大統領はWTOへの加盟を急がせ、昨年12月にようやく交渉が妥結した。

ロシアの輸入関税は、品目ごとに3~8年の移行期間を経て現在の平均10%から最終的に平均7・8%に引き下げられる。銀行や保険などの分野も一定の条件で外資に開放される。日本は自動車産業を中心に関税引き下げによる輸出増に期待しているが、ロシアの狙いはWTO加盟で外国からの投資を促進し、国内産業の強化につなげることにある。

9月8~9日には極東のウラジオストクで、ロシアで初めてアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれる。開発の遅れた極東シベリアへアジアから投資を呼び込む契機にしたいロシアは、WTO加盟が追い風になると期待している。

ロシアでは、行き過ぎた官僚主義と汚職体質の横行がルールの適正な運用を妨げてきた。世界銀行のビジネス環境ランキングで183カ国・地域中123位と低迷しているのもこのためだ。今後は他国がWTO紛争処理機関を通じて制度の見直しを求めることも可能になるが、日常レベルでビジネスを円滑に進めるために、ロシアの行政・経済界に環境改善への一層の努力を求めたい。

日露関係では北方領土問題の解決が急がれるが、経済面での関係強化に向けても協力して課題を克服していく取り組みが必要だ。

読売新聞 2012年08月24日

ロシア経済 WTO加盟で自由貿易促進を

ロシアが156番目のメンバーとして、世界貿易機関(WTO)に加盟した。自由貿易を促進し経済成長に弾みをつけることが期待されよう。

1993年に加盟申請したロシアは、未加盟の「最後の大国」と呼ばれた。ロシアがようやく、WTOルールに基づく自由貿易体制に加わった意義は大きい。

原油などエネルギー価格の上昇を追い風に、ロシアは堅調な経済成長が続いているが、資源依存体質からの脱却が課題だ。市場開放による貿易拡大とともに、海外から投資を呼び込み、経済構造を転換する必要がある。

2001年にWTO加盟後、貿易と投資の拡大で急成長した中国が、ロシアのモデルとなろう。

ロシアはWTO加盟に合わせ、工業製品などの段階的な輸入関税率引き下げを約束している。

品目別では、乗用車は現行30%をすぐに25%とした後、7年かけて15%に下げる。家電や電子製品も15%を7~9%とする。コンピューターなどIT(情報技術)製品についても、将来的に関税ゼロとする方針を打ち出した。

ロシアは、これらの市場開放を着実に進めてもらいたい。煩雑な通関手続きを改善し、貿易拡大につなげることも大事だ。海外からの投資を妨げる障壁の削減にも取り組まねばならない。

日露貿易額は増えているが、さらに伸びる余地があり、日本企業にはチャンスが広がる。とくに主力輸出品である自動車分野が有望だ。自動車各社は、ロシア戦略を強化してほしい。

懸念されるのは、ロシアがこれまで、自動車関税率引き上げや穀物輸出規制など、一方的な不公正貿易措置を導入したことだ。

廃車時の費用を税金として徴収する廃車処理税も新たに準備している。日本車などが狙い撃ちされれば、輸出に不利になる。

ロシアは加盟とともに、WTOルールを順守する義務を負う。ルールに違反する不公正貿易措置を導入すれば、他国からWTOに提訴される可能性が高いだろう。

新興国で相次いでいる保護貿易措置が、ロシアの姿勢に影響を与えかねないことも気がかりだ。

インドネシアはニッケル、銅などに輸出関税をかけ、アルゼンチンは自動車などの輸入に許可制を導入した。ブラジルも、自動車部品の現地調達比率を高めるよう、貿易相手国に要求している。

日本は欧米と連携し、ロシアに限らず、新興国の不公正貿易措置の是正を求めねばならない。

産経新聞 2012年08月27日

露のWTO加盟 攪乱要因にならぬ努力を

国内総生産(GDP)で世界9位のロシアが世界貿易機関(WTO)に加盟した。156番目の加盟国・地域である。

加盟によりロシアは輸入関税率を7年間かけて現在の平均約10%から約7%に引き下げる。日本にとっては、対露輸出の半分以上を占める自動車などの関税率引き下げというメリットが期待できる。

ただ、ロシア加盟がWTO体制の維持・強化に直結するとみるのは楽観的にすぎよう。むしろ攪乱(かくらん)要因になる可能性すらある。国際社会は、プーチン政権に徹底した改革とルール順守を迫る必要があることを忘れてはならない。

これまでの対露経済関係で、日本や米国、欧州連合(EU)などはたびたび煮え湯を飲まされてきた。その多くはロシアの強権的な国家主導経済に起因する。

日本企業も参加するサハリン沖資源開発事業では、2007年にロシア側が経営権を握り、エネルギーの国家統制を強化した。それ以前の03年に始まるロシア石油大手の解体、国有化の動きは事実上国家による乗っ取りだった。

政府のこうした行動を抑えられぬ司法や、賄賂の横行はロシア国内で事業展開する外国企業への脅威となっている。ロシアがどこまで本腰を入れて問題解決に取り組むのか、注視する必要がある。

01年にWTO加盟した中国はルール順守意識の欠落が目立つ。米国やEUなどと激しい提訴合戦を繰り広げる一方、知的財産権などでの改革の動きは鈍い。

新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)でも、中国は世界第2位の経済規模を持ちながら、経済ルールで途上国扱いを求めて米国などと激しく対立、交渉が暗礁に乗り上げる大きな要因になった。

問題は、この結果、最近はWTOの形骸化まで指摘されるようになったことだ。ロシアが「第2の中国」となれば、形骸化はさらに進み、WTOの存在意義そのものが失われかねないのである。

ロシアの加盟交渉はソ連崩壊直後の1993年、前身の関税貿易一般協定(ガット)に加盟申請して以来、18年以上に及んだ。海外からの投資を促し、資源頼みからの脱却と経済発展の加速を狙うロシアの悲願だったといえる。

WTOの下で自由貿易の恩恵を受ける以上、改革とルール順守は最低の義務だ。プーチン政権には強く注文しておきたい。

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