内戦の泥沼化で、停戦への機運は生まれそうにない。シリアの混乱が周辺諸国に拡大する事態すら懸念される。
北部の主要都市アレッポでは、取材中の日本人ジャーナリスト山本美香さんが、銃撃を受けて死亡した。
一般市民が暮らす市街地が、政府軍側と反体制派の戦場と化している。山本さんの死は、そうした現実を浮き彫りにした。国連推計で、紛争発生以来の犠牲者数は1万8000人を超えた。
国連とアラブ連盟の共同特使を務めたアナン前国連事務総長の停戦調停は、失敗に終わった。国連停戦監視団も撤退した。
アナン氏の後任の調停役にはブラヒミ元アルジェリア外相が就くが、米欧と露中の対立で国連安全保障理事会が機能不全に陥っている以上、役目は果たせまい。
内戦に歯止めがかからず、流血の拡大は不可避である。
シリアでは、反体制派が支配地域を広げる一方、政権側は、圧倒的な戦力を総動員して、主要都市の維持を図っている。
だが、政権中枢からの離反は相次いでいる。今月上旬には、首相が国外に逃亡した。
それでも軍がアサド大統領を見限らないのは、大統領の権力基盤であるイスラム教アラウィ派の人脈が、軍の要職に配置されていることが大きい。
シリアのアラウィ派は、人口では少数派ながら、多数派のスンニ派住民を支配してきた。
内戦は、両派の宗派紛争の様相を強めている。
懸念されるのは、シリアの混迷が深まることで、中東地域全体の不安定化が現実味を増してきていることだ。
隣国レバノンで今週、アラウィ派とスンニ派の民兵の間で銃撃戦が発生し、死者が出た。シリア内戦の構図が波及したと言える。
北隣のトルコは、シリア内でのクルド人の動向に神経をとがらせる。トルコ内のクルド独立運動を刺激しかねないからだ。
国連統計で17万人を超えた大量の難民流出も、周辺諸国の重荷となっている。
シリアを取り巻く国がそれぞれに火種を抱える。シリアが、保有しているとされる化学兵器をテロ組織などに拡散させれば、事態はさらに深刻化するだろう。
これまで、アサド政権を一貫して支えてきたロシアの責任は重大だ。米欧と協力し、停戦の即時実施へ、シリア側に強い圧力をかけるべきである。
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