来年度予算編成 増税決定の重み念頭に

朝日新聞 2012年08月18日

予算編成 政権の覚悟が見えない

来年度予算編成のスタートとなる概算要求基準が閣議決定された。

消費税率を段階的に10%へ上げることを決めたばかりだ。増税への国民の理解を得るには、経済の活性化を促しつつ、無駄な歳出を思い切って削る予算改革が欠かせない。

ところが、要求基準にはその覚悟が一向に見えない。

今回の目玉は、7月に策定した「日本再生戦略」に基づく特別重点要求枠だ。各省庁に一定割合の予算削減を求めつつ、エネルギー・環境、健康、農林漁業の3分野では、合わせて最大4兆円の要求を認め、査定でメリハリをつけるという。

民主党政権は、これまでの予算編成でも「元気な日本復活」などの特別枠を設けてきたが、省庁が既存予算を様々な理屈をつけて紛れ込ませ、予算削減の抜け道になってきた。こうした失敗をどう防ぐのか、肝心な点があいまいなままだ。

前年度から10%減とされた公共事業にも抜け道がある。

一般会計とは別建てで、上限なく要求できる大震災復興特別会計である。今年度予算にも昨年度の補正予算にも、被災地の再建とは直接関係のない事業が入っている。

民主、自民、公明3党は「防災」を旗印に公共事業の拡充を求めており、「復興」「防災」の拡大解釈が心配だ。

一般会計の3割を占め、最大の支出項目である社会保障費は「聖域視せず、最大限の効率化を図る」と明記した。社会保障も例外にしないのは当然だ。

ただ、生活保護の見直しを掲げる一方、70~74歳の医療費の窓口負担を今の1割から本来の2割に戻すことについては先送りした。選挙で反発を受けそうな分野を避け、削りやすいところだけを削る姿勢では効果が薄い。必要な予算まで減らすことにもなりかねない。

予算全体を見渡せば、借金まみれの構造が来年度も続くことになる。新たな国債発行額の目標は今年度並みの「44兆円以下」で、国債費(過去に発行した国債の元利払い費)の2倍程度となりそうだ。つまり、返した借金の倍以上を新たに借金する異常な姿である。

政府の試算によると、基礎的な財政収支は、消費税率を2015年に10%に上げても、年に15兆~16兆円の赤字が残る。

増税だけでは、財政は安定しない。民主党政権は、マニフェストに掲げた予算の全面組み替え・財源捻出が果たせていないことを、どれほど自覚しているのだろうか。

毎日新聞 2012年08月18日

来年度予算編成 増税決定の重み念頭に

来年度予算の概算要求基準が閣議決定された。今年は消費税率の倍増が国会で決まってから初の予算編成となる。国の財政や税金の使途にかつてなく国民の関心が高まっている。新たな借金を少しでも減らし、税金を有効に活用する努力が今まで以上に求められている。

だが残念ながら今回も、予算要求額が膨張してしまいそうな気配だ。相変わらずの省庁縦割り・積み上げ方式となっているからである。

「民主党は増税ばかりで成長戦略がない」−−。そんな批判を意識してか、野田政権は「日本再生戦略」を作った。それを予算に反映させるべく、各省庁の予算要求に特別重点枠を用意した。

政権が日本経済活性化のカギを握るととらえる「環境・エネルギー」「医療・介護」「農林漁業」の3分野に予算を傾斜配分するという。通常の予算を前年度比で削減すれば、その額の2~4倍まで特別重点分野の要求ができるようになる。

メリハリをつけたように映るが、果たして目的である「日本再生」にどれほど貢献するかは不確かだ。

例えば、削減額の2倍まで要求できる「農林漁業」。確かにグローバル市場で拡大する可能性を秘めた分野である。だが、予算をつければ成長分野に変身するわけではない。思い切った規制緩和など政策の転換が不可欠だ。従来型の農林予算が倍になって再生予算に衣替え、では困る。

本来なら、国家戦略室のような場で、日本の農林漁業の強化を促すプログラムを決め、そのために予算をいくら投入するか決めるべきだ。その上で財源確保のため優先度の低い政策分野の予算を削る。政権の優先順位を鮮明にしたトップダウン方式で行うのが、政治主導だろう。

だが実際は、再生戦略の中身も財源も各省に委ねるいつものボトムアップ方式だ。結果、戦略のメニューに、2年前の「新成長戦略」で成果が上がらなかった施策まで並ぶことになったが、そうしたものが「重点」扱いされるようではいけない。

一方、膨張を続ける社会保障費への対応もカギとなる。高齢化に伴い増加するものを「自然増」として当然のように受け入れるのはおかしい。歳出面でも抑制の工夫を鮮明に打ち出さなければ、特に現役世代からの増税支持は得られないだろう。

政権交代後、民主党政権が初の予算編成に取り組んだ際、各閣僚は「要求大臣ではなく査定大臣になる」ことを期待された。期待外れに終わったが、今あらためて省益代表大臣ではなく内閣の一員として予算編成に責任を持つことが要求される。増税を国民に強いることの重みを決して忘れないでもらいたい。

読売新聞 2012年08月19日

概算要求基準 成長を促す事業に絞り込め

消費税率引き上げを柱とする社会保障・税一体改革関連法の成立で、日本は財政健全化に大きな一歩を踏み出した。

借金財政から脱却する道筋を示せるかどうか、2013年度予算はその試金石となる。

政府は、13年度予算の概算要求基準を決めた。

12年度当初予算並みに、歳出では国債費を除く政策的な経費を71兆円以下、歳入では新規国債発行額を44兆円以下に抑えた。

そのうえで、日本再生戦略で示したエネルギー・環境、健康、農林漁業の3分野に「特別重点要求」を認め、各府省が従来の事業を見直して削った額の2~4倍を要求できるようにした。

それ以外の再生戦略関連は「重点要求」として削減額の1・5倍まで要求を認める仕組みだ。

硬直化した歳出を点検し、成長に配慮して予算にメリハリを付ける狙い自体は悪くない。

ただ、過去の重点要求では、従来と内容が変わらないものを焼き直すような手法が横行した。

政府は最大4兆円の要求を想定しているが、府省間で重複した事業を事前調整するなど、要求段階で厳しく絞り込むべきだ。

最大の問題は、重点配分する予算がどれだけ成長に資するのか、疑問が払拭できないことだ。

農業予算の効率化が急務であるにもかかわらず、13年度も、ばらまき色の強い戸別所得補償制度に必要な予算を認める方向だ。成長戦略に逆行していないか。

環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を前提に、農業の体質強化につながる事業に重点配分しなければならない。

再生可能エネルギー関連についても、効果の乏しい事業には予算を大盤振る舞いすべきでない。

概算要求基準が、公共事業費の1割カットなど、通常予算の削減を求めたのは妥当だろう。

焦点は、社会保障費の伸びをどう抑えるかである。

高齢化の進行に伴い、13年度予算では、現行制度を維持するだけで前年より8000億円増える。社会保障費を聖域扱いせず、受給者が急増している生活保護費の抑制など切り込みが求められる。

政治主導を掲げて民主党政権が臨んだ過去3回の予算編成は、政権公約に固執して歳出カットは進まぬ一方、借金は増えた。予算規模は年々膨らむばかりだ。

13年度予算も、衆院選を意識した歳出増圧力が強い。今度こそ、膨張型から抑制型へ、予算構造の修正を図るべきである。

産経新聞 2012年08月18日

概算要求基準 これで成長果たせるのか

予算編成にいま求められるのは、消費税増税をにらんだ経済成長と財政再建の両立だ。歳出規模を抑えながら予算の中身を組み替え、成長が見込める分野に効率的に予算配分する必要がある。

だが、政府が決めた平成25年度予算の概算要求基準では、既存予算の大胆な組み替えにつながる仕組みが不十分であり、残念だ。横並び削減による予算要求を脱し、徹底した歳出効率化で生み出された財源を成長分野に集中する予算編成に取り組んでほしい。

来年度予算は、国債費を除く一般歳出の上限を今年度当初並みの71兆円とし、新規発行する国債も今年度当初と同じ44兆円以下とした。だが、この歳出には民主党がマニフェスト(政権公約)で掲げた農家の戸別所得補償なども含まれている。まずはこうしたバラマキ政策の撤回が欠かせない。

10%の削減を決めた公共事業も、東日本大震災の復興予算は特別会計で別に管理される。秋には次期衆院選をにらんで、公共事業の積み増しなどの補正予算の編成も浮上しそうだ。

これでは表面的に公共事業を減らしても、歳出全体の効率化にはつながらない。

社会保障費で、不正受給が相次いで指摘された生活保護費の抑制に取り組む姿勢を打ち出したのは当然だ。政府は「聖域化せずに最大限の効率化を図る」としており、高齢化に伴う自然増分を含めた見直しが問われている。

「日本再生戦略」を実現するため、環境・エネルギーや医療、農林漁業の3分野に優先的に予算を充てる配分枠を設けるという。

メリハリが利いた予算とするには、思い切った組み替えを含めた見直しを徹底しなければならない。最大4兆円の予算要求を認めるとしているが、日本経済の活性化を促すための政策に絞り込む必要がある。

政府がまとめた来年度の経済成長率見通しでは、16年ぶりに名目成長率が実質成長率を上回ると試算した。26年4月からの消費税増税前の駆け込み需要などで、個人消費が高まるためだという。

だが、消費税増税にはデフレからの脱却が不可欠だ。

日本経済を自律的な成長軌道に乗せるには、成長分野への予算配分だけでなく、規制緩和によって民間活力を引き出す政策も忘れてはならない。

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