近隣と靖国 互いにいがみ合う時か

朝日新聞 2012年08月16日

近隣と靖国 互いにいがみ合う時か

終戦記念日のきのう、松原国家公安委員長と羽田国土交通相が、靖国神社に参拝した。

政権交代を果たした09年の総選挙で、民主党は「首相や閣僚の公式参拝には問題がある」と政策集に明記した。

民主党政権になってこれまで2度の終戦記念日は閣僚は参拝せず、野田内閣も発足時に「首相、閣僚は公式参拝しない」と申し合わせていた。

2閣僚はともに「私的」な参拝だと強調し、藤村官房長官も追認した。「公式」な参拝でなければ、党の公約や内閣の方針と矛盾しないと考えたようだ。

だが、その理屈は通らない。

靖国参拝をふくめ、一般の国民がそれぞれのやり方で戦没者を弔うのは自然な感情だ。

一方で、靖国神社には先の大戦の指導者であるA級戦犯が合祀(ごうし)されている。

そこに首相や閣僚が参ることに違和感を抱く国民は少なくない。侵略された中国や、植民地支配を受けた韓国に快く思わない人が多いのも理解できる。

首相や閣僚は、日本を代表する立場の政治指導者だ。一政治家でも一国民でもない。公的な配慮を何よりも優先すべきことは言うまでもない。

小泉元首相の靖国参拝は、中韓両国の猛反発を招いた。両国の参拝中止の要求が、逆に日本では「内政干渉は許されない」とのナショナリズムを沸き立たせた。まさに悪循環だった。

その教訓を重く受け止めたからこそ、民主党は政権交代後、繰り返し「首相や閣僚の参拝自粛」を確認し、それを実行してきたのではなかったか。

折も折、日本の植民地支配からの解放を祝う「光復節」の前日、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領が、謝罪を天皇訪韓の条件にするともとれる発言をした。

韓国内には、韓国併合や旧日本軍の慰安婦問題をめぐって強い対日批判がある。それをあおるかのような大統領の発言を、野田首相が「理解に苦しむ」と批判したのは当然のことだ。

一方、きのうの光復節の演説で大統領は、日本について「未来をともに開いていかねばならない重要な同伴者」と位置づけ、激しい対日批判は控えた。

急変に戸惑うが、歴史に向き合いつつも、未来志向を基本として進むしか道はない。

変化の兆しのある北朝鮮との外交。さらには、共益を高める経済連携の強化。日本と近隣諸国には共通の課題が山積みだ。

歴史をめぐる溝は、互いにいがみ合うことでは埋まらない。近隣での共同作業の積み重ねこそが、時代の要請である。

産経新聞 2012年08月17日

靖国と野田内閣 首相の責務放棄は残念だ

67回目の終戦の日を迎え、今年も全国から多くの遺族や国民が東京・九段の靖国神社を訪れた。民主党政権になってから3度目の8月15日だが、野田佳彦首相も菅直人前首相と同様、靖国神社に参拝しなかった。

野田首相は靖国神社をよく理解する政治家だけに、残念である。

野田氏は野党時代の平成17年10月、「4回に及ぶ(戦犯釈放を求める)国会決議などで、A・B・C級すべての戦犯の名誉は回復されている」「A級戦犯合祀(ごうし)を理由に首相の靖国参拝に反対する論理は破綻している」という趣旨の質問主意書を当時の小泉純一郎内閣に出した。

靖国神社に東条英機元首相らいわゆる「A級戦犯」が祀(まつ)られていることの正当性を訴え、小泉首相の靖国参拝を間接的に応援するような質問主意書だった。

しかし、野田首相は今月10日の会見で、「昨年9月の内閣発足時に首相、閣僚については公式参拝を自粛する方針を決めた。この方針にのっとって私自身も、その他の閣僚も従っていただけると考えている」と閣僚全員の参拝自粛を求めた。

繰り返すまでもないが、首相が国民を代表して戦死者の霊に哀悼の意を捧(ささ)げることは、国を守るという観点からも、重要な国家指導者の責務である。

首相の靖国参拝は小泉首相が平成18年8月15日に参拝して以降、途絶えているが、野田首相はこの責務を自覚してほしかった。

ただ、野田内閣の閣僚で、松原仁拉致問題担当相と羽田雄一郎国土交通相の2人が靖国神社に参拝した。民主党政権下で、閣僚の靖国参拝は初めてだ。

松原氏は「今回は私的な参拝だ。一人の日本人として自分の信条に従って行動した」と述べ、「臣 松原仁」と記帳したことを明らかにした。羽田氏は超党派の「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」副会長として、他の所属議員54人とともに参拝した。羽田氏は「今の日本の平和は、先人のみなさまの尊い命の上にあると考えている」と話した。

両閣僚の行動を評価したい。

今年の終戦の日の靖国神社も、年老いた遺族や戦友にまじって、学生や若いカップルの姿が目立った。国民が自然な気持ちで先祖の戦死者を慰霊する静かな靖国の杜(もり)であり続けてほしい。

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