韓国大統領発言 日韓関係の停滞化を懸念する

毎日新聞 2012年08月16日

韓国大統領発言 外交努力自ら壊すな

韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領が先週の竹島(韓国名・独島)上陸に続き、極めて不適切な発言をした。

天皇陛下の訪韓可能性に関して、「独立運動をして亡くなった方たちに心から謝罪するというならいいのだが、『痛惜の念』だとか、こんな単語一つなら、来る必要はない」と述べたのだ。

「痛惜の念」とは90年に当時の盧泰愚(ノ・テウ)大統領が訪日した際、天皇陛下が述べた言葉である。日本による植民地支配の歴史についての言及だが、韓国では「率直な謝罪になっていない」などと不満が出た。

その経緯はともかく、李大統領の発言が日韓関係をひどく傷つける性質のものであることは自明だろう。日本政府が韓国政府に抗議したのは当然である。

韓国の歴代大統領が一人として行わなかった竹島上陸にあえて踏み切り、日本国民の神経を逆なでする発言をためらわない現状は、あまりにも刺激的で危険すぎる。李大統領には強く自制を求めたい。

日本の終戦記念日は韓国にとって植民地支配からの解放を祝う「光復節」である。1965年の日韓国交樹立以降も厳しい反日感情が残ったが、長期的に見れば関係改善が進み人的往来も劇的に増えた。

一方、韓国経済の発展や民主化、世代交代などを背景にナショナリズムが強まり、日本にとっては悩ましい竹島、従軍慰安婦といった摩擦要因が顕在化した。

同時に、かつては機能した日韓の政治家、官僚による摩擦回避のシステムが、やはり世代交代によって機能不全に陥った。これをカバーする新たな枠組みを作り損ねたのは日本の大きな失敗だったのではないか。 今や韓国社会のエンジンにあたる世代は、一般的に日本より中国を重視しているように見える。

こうした時代変化の中でも両国民が友好的な往来を続け、部分的ではあれ文化も共有しているのは、両国の人々が営々として築いてきた協力関係のたまものである。李大統領の行動や発言を看過できないのは、この努力の積み重ねを決定的に崩壊させかねないからだ。

幸いにして、李大統領は15日の光復節演説で、従軍慰安婦問題には言及したが竹島には一言も触れなかった。韓国政府は竹島や周辺海域で予定していた新たな施設建設を当面見合わせる方針だと報じられている。

韓国の国民世論も今のところ反日ナショナリズムの嵐が吹き荒れるという状況ではないようだ。

しかし油断はできない。日本政府も言うべきことを言うのは当然として、国内のナショナリズムが不測の事態を招かぬよう留意が必要だ。

読売新聞 2012年08月16日

韓国大統領発言 日韓関係の停滞化を懸念する

どんなに「未来志向」を強調しようとも、結局、歴史認識問題や領土問題で、対日外交が暗礁に乗り上げる。

韓国の歴代政権が繰り返したパターンから、李明博大統領も逃れることはできなかったということだろう。

先週の竹島訪問に次いで、今度は、「独立運動家への心からの謝罪」が天皇陛下の訪韓の条件だとする李大統領の発言である。

友邦の国家元首らしからぬ言動と言わざるを得ない。

大統領の竹島上陸で冷え込んだ日韓関係が一段と悪化し、それが長期化することも懸念される。

あと半年しか任期が残っていない大統領が、日韓関係の将来に禍根を残すような言動をとるのは、無責任に過ぎよう。

1965年の日韓国交正常化以降、韓国の大統領は、84年の全斗煥氏を最初に、歴代、日本を訪れ、天皇陛下と会っている。90年には天皇訪韓を公式に招請した。

李大統領自身、2008年の来日時に訪韓を招請した。日韓併合から100年にあたる10年の訪韓実現へ意欲を見せてもいた。

李大統領は、教員らとの会合で、「『痛惜の念』という言葉だけなら(天皇訪韓の)必要はない」とまで述べたという。22年前、当時の盧泰愚大統領が来日した時の、宮中晩さん会における陛下のお言葉を指したものだ。

招いた方が、後になって条件をつけ、それが満たされないなら来る必要はない、というのはあまりにも礼を失している。

野田首相は「理解に苦しむ発言で、遺憾だ」と述べ、藤村官房長官も「韓国側が非建設的な発言をすることは韓国自身のためにもならない」と指摘した。日本政府が韓国に抗議したのは当然だ。

天皇訪韓は、両国民によって自然に受け止められるような形で実現することが望ましい。

それなら、天皇訪韓問題は、当面、棚上げにするしかない。

李大統領は15日には、日本の植民地支配からの解放を記念する式典で演説し、いわゆる従軍慰安婦問題で「責任ある措置」をとるよう、改めて日本に求めた。

韓国の世論を背景に、大統領が被害者への謝罪や補償などを野田首相に促してきた経緯があるが、請求権問題についていえば、国交正常化の際に、すでに完全かつ最終的に解決ずみだ。

領土問題にせよ、慰安婦問題にせよ、日韓両国は、正確な事実関係を踏まえた冷静な歴史論議をしなければならない。

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