日朝赤十字協議 「拉致」棚上げは許されぬ

朝日新聞 2012年08月16日

日朝協議再開 対話の窓を広げよ

日本と北朝鮮の政府間協議が、29日に北京で開かれる。08年8月以来、4年ぶりの再開となる。

直接の議題は、終戦前後に北朝鮮で死亡した日本人の遺骨返還や墓参についてだ。だが、これを糸口に、日本人拉致問題をはじめとする日朝間の懸案を幅広く話し合う場とするよう、政府の努力を求める。

きっかけは、先週、北京であった遺骨返還などについての日朝赤十字の話し合いだ。

日本政府は当初、赤十字間の接触には消極的だった。だが、この場で北朝鮮が前向きな姿勢を示し、経済支援の要求もしなかったことで、政府間の話しあいに踏み切れると判断した。

北朝鮮は、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の新体制になっても、軍事優先の姿勢はそのままだ。一方で、正恩氏が重要課題に掲げる食糧事情の悪さや経済の停滞は、改善されていない。

正恩氏を支える張成沢(チャン・ソンテク)氏が中国を訪れて経済協力を協議しているのも、苦境を脱するための動きのひとつだろう。

こうした状況で、かつ、米国や韓国との関係もこじれるなかでの日本への接近だ。何らかの経済支援を引き出す狙いがあるのは容易に想像できる。

北朝鮮は、08年8月に拉致被害者の再調査を約束したが、直後の日本の首相交代を理由に、調査を棚上げした。

いまでは、拉致問題は「すべて解決し、これ以上、存在もしない」との態度だ。

一方、日本が北朝鮮に科している経済制裁も出つくし、日朝関係は手づまりが続いている。

もとより、北朝鮮との交渉は一筋縄ではいかない。

かりに遺骨返還や墓参が実現しても、法外な見返りを要求されるかもしれない。拉致問題についても、北朝鮮が態度を改める保証はない。

それでも対話の窓を開かなければ、何ごとも前に進まない。

北朝鮮とて、いつまでも中国頼みのまま日、米、韓との関係が改善できなければ、将来の展望は描けまい。

拉致問題や核とミサイルの問題を解決し、国交を正常化すれば経済協力への道が開ける。

政府は、そんな説得を続けていくしかない。

あわせて、やはり08年から中断している米中ロ韓をまじえた核問題の6者協議の再開にも、道筋をつけてほしい。

故金正日総書記が小泉元首相に拉致を認めてから、来月で10年になる。

粘り強い交渉を、政府に期待する。

産経新聞 2012年08月13日

日朝赤十字協議 「拉致」棚上げは許されぬ

先の大戦末期の混乱で北朝鮮に残った日本人の遺骨返還などをめぐり、10年ぶりの日本赤十字社と北朝鮮の朝鮮赤十字会の協議が行われた。

今後、両国政府当局者を交えて交渉を続けることで合意したが、もう一つの懸案である拉致問題への言及はなかった。唐突に始まった感もある協議だ。成果を急ぐあまり、拉致問題が棚上げされるような事態だけは避けねばならない。

朝鮮半島で38度線より北の旧ソ連軍が日ソ中立条約を破って侵攻してきた地域では、日本軍人や軍属のほか旧満州から引き揚げる途中の民間人ら多くが死亡した。冬を越せず、飢えと寒さで亡くなった邦人も少なくない。

厚生労働省によると、この地域で3万4600人の日本人が死亡し、うち1万3000人の遺骨は民間の引き揚げ者らが持ち帰ったものの、残る2万1600人分は今も北朝鮮に眠っている。

朝鮮赤十字会が日本人死者の実態をどこまで把握しているかは不明だ。しかし、日本側も含めた現地調査により日本人の遺骨と判明すれば、故国の日本に返還すべきなのは言うまでもない。墓参が可能になることも前進である。

ただ、日本にとって現今の最重要課題は拉致問題であることを忘れてはならない。

平成20年8月の日朝実務者協議で、北朝鮮は「生存者を発見し帰国させるための拉致被害者の全面調査」を約束した。対象を日本政府が認定した被害者に限らず「その他に提起された行方不明者」に広げることも合意された。

いまだに日本に帰国できないでいる政府認定の拉致被害者は横田めぐみさんら12人で、拉致された疑いを否定できない特定失踪者は100人を超える。

北朝鮮は4年前の約束を果たしていない。北が何よりもまず、実行しなければならないのは、拉致被害者らの再調査と生存者を日本に帰国させることである。

日朝間には遺骨問題のほか、日本人妻の一時帰国問題などもあるが、拉致問題を優先すべきだ。

来月は金正恩第1書記の父、金正日総書記(昨年12月死亡)が小泉純一郎首相(当時)に拉致を認めて謝罪した日朝首脳会談から10年の節目となる。赤十字協議を機に、野田佳彦政権は手段を尽くして北朝鮮を拉致問題のテーブルにつかせなければならない。

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