ロンドン五輪 女子選手の活躍に励まされる

朝日新聞 2012年08月14日

五輪と都市 ロンドンの工夫を次へ

17日間の祭典が終わった。成熟した大都市でどう五輪を営むか。ロンドンは、いくつかの試みを見せてくれた。

自国の金メダルが続いて盛り上がったとはいえ、それでも英国の人たちは、抑制のきいた雰囲気のなかで大会を見守った。他国にも惜しみなく声援をおくり、試合を楽しむ。見る側のフェアプレーが行き届いていた。

それが、世界中から集まった約1万人の選手にも、見る側にも快適だったと感じさせた要因のひとつだろう。

閉会式の日に、国際オリンピック委員会(IOC)のロゲ会長は「ロンドンは多くの部分で五輪をよみがえらせた」と評価した。その例として、主役である選手を第一に考えた運営や、7万人ものボランティアの温かい歓迎ぶりをあげた。

IOCに入る全204カ国・地域の選手が集まった。サウジアラビア、カタール、ブルネイから初めて女子選手が参加し、26競技すべてで女子種目が競われた画期的な大会だった。

柔道78キロ超級に出たサウジアラビアのウォジダン・シャハルハニさん(16)は、頭に巻くヘジャブの代わりに水泳帽のようなものをかぶって畳の上に立った。1回戦で敗れたが「これが新たな時代の幕開けになってほしい」と言葉を残した。

五輪はこれまで、開催地が経済力などを内外に見せつける場だった。4年前の北京五輪はまさに国威発揚の機会だった。

ロンドンはあり方を考えた。地元組織委員会が掲げてきたのは、持続可能性と将来への遺産だ。既にある施設をできるだけ活用し、34競技場のうち新しいのは九つにとどめた。

8万人収容のメーン競技場の壁や骨組みなど素材の3割は、ほかの建物から使いまわした。椅子は取り外し可能だ。月末にパラリンピックを開いた後に、2万5千席に縮小し、余る座席はほかの施設でも使う。

五輪公園に今後、学校や駅が造られ、20年をかけて約1万戸の住宅が整備される。祭典で使ったものを次の世代に生かすとりくみが、今後も続く。

日本代表は、アテネ五輪を上まわる38個のメダルをとった。女子サッカーをはじめ、幅広い種目で活躍した。柔道は男子が初めて金メダルを逃した。それも、世界的なスポーツとして定着したためと考えれば、悪いことばかりではない。

平和の中でしかまっとうできない五輪は、その時代の精神性を示す。巨費と熱狂だけでない共感をどう形作るか。これからの開催都市の力が試される。

毎日新聞 2012年08月14日

五輪と女子選手 配慮ある強化支援を

忘れがたい17日間だった。数多くの歓喜と失意の物語を生み出してロンドン五輪は終わった。

日本は金7、銀14、銅17の計38個のメダルを獲得した。国別の金メダル数は10位で、目標の「世界5位以上」は達成できなかった。だが、総メダル数は史上最多となり、世界ランキングは6位。最後まで力を尽くした選手たちには頭が下がる。

メダルラッシュの背景には国の後押しがある。今年度、文部科学省はナショナル競技力向上プロジェクトに過去最多の32億円をつけた。強化の軸となったのはメダル獲得有望競技を重点支援するマルチサポート事業。今回メダルを獲得した13競技のうち重量挙げとボクシングを除くすべての競技がサポートを受けた。

4年後の次回五輪に向けて、強化費の増額を求める声が強まることが予想される。だが、歳出削減が求められる折、五輪のメダルのためにどこまで税金を投入するのか、「世界5位以上」という目標を達成した先に何があるのか、メダルによって国民の身近なスポーツ環境はどう変わるのか、といった議論が必要だ。

選手にとって五輪のメダルは終着点ではない。引退後の人生は長い。そういう意味で、ボクシング男子ミドル級で金メダルを獲得した村田諒太選手の言葉が忘れられない。「金メダルが僕の価値じゃない。これからの人生が僕の価値になる」。後進の育成を含め、スポーツで培った貴重な経験を社会に還元してほしい。

26競技すべてで初めて女子種目が実施された今大会で、日本選手団は女子が人数で男子を上回った。メダル38個の内訳は男子が21個で、女子は17個。だが、関わった選手の人数でみると、延べ84人のうちサッカーやバレーボールでメダルを獲得した女子が53人と圧倒的だ。女子の強化がメダル獲得への近道として、国は昨年度、戦略的に女子を強化、支援するプロジェクトを発足させた。

「女性スポーツ先進国」ならではの悩みもある。「女性アスリートの三徴」をご存じだろうか。体操や陸上長距離など体重制限がある競技で頻発する「摂食障害、無月経、骨粗しょう症」だ。食事制限によって体重・体脂肪が減少すると排卵と女性ホルモンの分泌が止まり無月経に。栄養不足は骨密度の低下を引き起こす。選手生命どころか生命そのものを脅かすような深刻な状態を招きかねない。メダルのため男子並みの練習に追い立てられる女子選手たちから目をそらすわけにはいかない。

女性スポーツの歴史は浅い。産婦人科医によると、スポーツが女性の心身に及ぼす影響については未知の部分が多いという。女子の強化はどうあるべきかについても考えたい。

読売新聞 2012年08月12日

ロンドン五輪 女子選手の活躍に励まされる

最終盤を迎えたロンドン五輪で際立つのは、日本の女子選手の活躍である。世界の強豪を向こうに回しての堂々とした戦いぶりに、元気をもらった人も多いことだろう。

大会15日目(10日)時点で日本選手が獲得した5個の金メダルのうち、4個までが女子によるものだ。レスリングで3個、柔道で1個を手にした。

レスリングの伊調馨、吉田沙保里両選手の五輪3連覇は、見事の一言に尽きる。日本の女子では初の快挙だ。2004年のアテネ五輪から、世界トップの実力を維持してきた努力をたたえたい。

いったんは引退しながら、頂点を極めた小原日登美選手のこれまでの道のりも感動的だった。

日本のレスリング界は、男子で培ったノウハウを生かし、早くから女子選手育成に取り組んだ。女子の世界選手権には1987年の第1回大会から出場している。

長年、世界の舞台でもまれ、強化を積み重ねてきたことが、今日の地歩を築いたと言える。

個人種目だけでなく、チーム戦でも、女子の奮闘が目立つ。

その代表格が、サッカーのなでしこジャパンだろう。

昨年のワールドカップ(W杯)に続く世界一はならなかったが、各国が、なでしこのサッカーを研究し尽くしてきた中での銀メダルは、胸を張っていい。

女子は、卓球団体、アーチェリー団体、バドミントンのダブルス、バレーボールなどでも、見事な戦いぶりを見せてくれた。

選手は「支えてくれた人たちのおかげ」と喜びを語った。

日本オリンピック委員会(JOC)などは、好成績を残した競技の選手強化策を検証し、優れた点を他の競技のレベルアップに生かしていくことが必要だ。

文部科学省は、女子選手の体調管理やトレーニングを専門的にサポートする女性スタッフの整備を今年度から始めた。

各競技の選手層は、世界的にみて、男子より女子の方が薄く、女子の強化がメダル増に結び付きやすいという戦略からだ。

選手側の要望を採り入れながら、効果的な支援体制を築き、4年後のリオデジャネイロ五輪では、今回以上の女子選手の活躍につなげてもらいたい。

躍動する女子選手の姿を見て、「私も将来、五輪でプレーしたい」と思った少女もいるのではないだろうか。ロンドン五輪を、日本の女子スポーツのすそ野を一層、拡大させる契機にしたい。

毎日新聞 2012年08月12日

銀のなでしこ フェアプレーは金

ロンドン五輪のサッカー女子で日本は銀メダルを獲得した。昨年のワールドカップ(W杯)との2冠はならなかったが、五輪では女子初のメダルだ。重圧を背負った中でつかみ取った快挙を祝福したい。

メダル獲得への期待は昨年のW杯の比ではなかった。日本が勝ち進むまで大会が開催されていること自体を知らない人もいたW杯に対し、今回の五輪は昨秋のアジア最終予選段階から大きな注目を集め、勝敗は国民的な関心事となっていた。

女子サッカーをブームで終わらせないために選手たちは必死だった。世間の関心を集めても景気に左右されてチームが消滅する「冬の時代」を知っているだけに結果を求めた。物議を醸した1次リーグ最終戦での引き分け狙いも、メダルを獲得するうえでの戦略だったと言える。

日本が決勝で敗れた世界ランキング1位の米国は逆境の中での戦いだった。今季、国内プロリーグが活動中止となり、メンバーの半数以上が所属チームなしという状況に置かれながらの五輪3連覇は見事だ。

女子サッカーの特徴は「クリーンなプレー」にある。男子のようにフリーキックやペナルティーキックをもらうためにわざと倒れたり、主審の見えないところで相手のユニホームをつかんだりすることはめったにない。中でも日本は反則が少ないことで知られている。今大会は1試合平均最少の5個で、米国の約3分の1。W杯でも「フェアプレー賞」を獲得した日本は今後も男子とは異なるサッカーのスタイルを定着させていく役割を担ってほしい。

彼女たちの活躍は「男のスポーツ」だったサッカーについて女性が自由に語りやすい雰囲気と空間を生み出した。W杯優勝前後にツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアで発言する女性が増えた。今大会では活字メディアでも日本代表経験のある半田悦子さん、野田朱美さん、池田浩美さん、川上直子さんらが新聞各紙のコラムで後輩たちのプレーを分析した。前回北京五輪では見られなかった現象だ。

女子サッカーの環境整備に向け、私たちにもできることはある。国内リーグはW杯優勝の効果で観客数が増えたとはいえ、代表人気とはほど遠い。一人でも多くの人が試合会場に足を運んで、いいプレーには拍手を、気を抜いたプレーにはブーイングを送ってほしい。それによって女子サッカーの質は上がり、有料入場者が増えれば運営基盤の弱いリーグの足腰を固められる。スタジアムのある自治体は施設使用料の減免措置などを検討してほしい。

それが夢を見させてくれた彼女たちの頑張りに報いることでもある。

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