一体改革法案 党首会談で事態を打開せよ

朝日新聞 2012年08月10日

消費増税法案成立へ 一体改革の原点忘れるな

消費増税を柱とする「社会保障と税の一体改革」関連法案がきょうの参院本会議で可決・成立する見通しだ。

消費税率は2014年4月から8%に、15年10月には10%へ上がる。

国民にとってはつらい負担増だが、赤字まみれの財政を続けることはできない。借金依存からの脱却にようやく一歩、踏み出す。

ところが、法案を成立させる民主、自民、公明の3党からは、増税による財源をあてこんで公共事業の拡充を求める声が高まっている。

とんでもない話である。

一体改革の原点に立ち返らなければならない。

少子高齢化に伴って社会保障費は膨らむ一方だ。今年度の医療や年金、介護、子育てなどの給付費は、推計で109兆円余り。保険料ではまかなえず、4割は公費を充てている。

その公費は税金だけではとても足らず、借金である国債を大量に発行して補っている。

私たち国民の社会保障は、政治的に声をあげることもできない将来世代へのつけ回しで成り立っているわけだ。

いまや国債を含む借金残高は1千兆円に迫り、国内総生産の2倍を超す。先進国で例を見ないひどさである。

今回の一体改革では、消費増税5%分のうち、4%分は国債発行の削減に回し、社会保障の充実に使われるのは1%分しかない。「増税先行」と批判されるゆえんだ。

しかし、今の社会保障は、十分な負担を伴わない「給付先行」だと言わざるをえない。このままでは維持できない。

受益者である今の世代が消費税で広く負担をし、借金が拡大するのを食い止める。そうして社会保障が財政を悪化させ、財政の悪化が社会保障を揺るがす悪循環に歯止めをかける。これが一体改革の目的である。

それを公共事業に回そうというのでは、改革の趣旨を無視しているとしか思えない。

自民党は国土強靱(きょうじん)化基本法案を国会に出した。防災対策などに今後10年で200兆円の投資を掲げる。公明党の防災・減災ニューディール推進基本法案は「10年で100兆円」。いずれも、東日本大震災の教訓を強調する。

たしかに災害対策は重要だ。ただ、財政難の深刻さを考えると、どの分野のどんな防災対策を優先し、財源をどうやって確保するのか、徹底した検討が必要である。

そもそも、なぜ事業費の総額が真っ先に出てくるのか。総選挙を意識して、公共事業を全国にばらまこうというのが本音ではないか。整備新幹線の新規着工や高速道路の工事凍結の解除を決めてきた民主党も、意識は似たりよったりだ。

もちろん、経済の活性化は重要だ。ただ、公共事業頼みの政策が財政赤字を膨らませてきた歴史を忘れてもらっては困る。増税に国民の納得を得るには、歳出全体を徹底的に見直すことが欠かせない。

3党が急ぐべきは、一体改革関連法の肉付け作業だ。

社会保障では、医療や年金制度の基本的な仕組みをめぐって意見が異なる。今回の目玉である子育て支援策も、詳細な詰めはこれからだ。

「給付先行」の現実を考えれば、社会保障で切り詰める部分も必要になろう。3党で合意した社会保障改革の国民会議をただちに立ちあげ、検討を始めなければならない。

税制の課題も山積している。

消費税には、所得の少ない人ほど生活必需品などへの支出割合が高いため、負担が重くなる「逆進性」がある。これをやわらげる手立てが迫られている。

増税時の激変を緩和する低所得者向けの一時的な現金給付に加え、どのような対策を講じていくか。

食料品などの税率を低くとどめる軽減税率の導入はひとつの考え方だが、所得の多い人まで恩恵を受け、税収を大きく減らしかねない。消費税制の基本にかかわる問題だけに、早急に結論を出さなければならない。

所得税と相続税の強化も不可欠である。

政府は、課税所得が5千万円を超える人の所得税率を引き上げ、相続税では遺産額から差し引ける控除を減らしつつ最高税率を引き上げることを法案に盛り込んでいたが、3党は修正協議でいずれも削除した。

所得や資産の偏りをならすことは、税制の重要な役割の一つだ。高額所得者や資産家への増税だけで社会保障の財源をまかなえるわけではないが、課税強化策を欠いたままでは、消費増税への理解も進まない。

それぞれの税の長所と短所、税収規模を踏まえつつ、早く全体像を示す。3党はその責任を自覚してもらいたい。

毎日新聞 2012年08月11日

増税法成立 「決める政治」を続けよう

紆余(うよ)曲折の末ではあるが、税と社会保障の一体改革法が10日、参院で可決、成立した。

まずは、二つの意味で政治史上画期的なことだと評価したい。第一に、その中身が国民に負担を求める純粋増税法だからである。過去の増税は、消費税3%の導入時(1989年)、消費税率5%への引き上げ時(97年)いずれも減税とセットで行われた。経済全体のパイが伸び悩み、従来のバラマキではない負の配分能力が政治に求められる時代、その第一歩を刻んだ、といえる。

もちろん、すべてを是とするわけではない。何よりも国民の理解を得る努力がまだ不足している。7月末の毎日新聞世論調査では61%が依然として「今国会での消費増税法案成立を望まない」と答えている。何のために増税するのか。社会保障がどう変わるのか。増税分が社会保障以外にあてられるような解釈はとても容認できない。法を成立させた民主、自民、公明3党は、根気よく丁寧に説明し続ける責任もまた共有すべきだ。手をこまねくと次の選挙で反発を受け元も子もなくなる可能性があることを胸に刻んでほしい。

財政と社会保障制度もこれで持続可能になったとはいえない。どんな課題にせよそれぞれの政党が歩み寄ることによって「決める政治」をしたたかに継続させることが必要だ。

特に、財政改革の道はなお険しい。政府の目標は、20年度までに基礎的財政収支を黒字化する、つまり、国債の元利払いを除いた歳出を税収の範囲内に収めるようにすることだが、内閣府推計によると、法通り消費税率が10%になってもその時点でなお約17兆円の赤字が出ることになっている。これは経済の名目成長率が毎年平均1.5%程度で推移することを前提としており、実際の赤字額はもっと膨らむ可能性がある。

これまで借金財政を許容してきた環境が急変していることも指摘したい。労働人口の減少や経常黒字の縮小などである。日本に猶予の時間は乏しいということだ。

欧州で起きた債務危機の教訓を忘れてはならない。何年もドイツと変わらぬ低金利で市場から借金できていたスペインやイタリアがあっという間に信用を失い、危機的状況に陥った。日本の財政状況は両国よりはるかに深刻だ。市場が反応してからでは手遅れになりかねない。

増税のみに頼るわけにはいかないのは当然だ。これを機に歳出構造の抜本的見直しに取り組むべきだ。その進捗(しんちょく)度をにらんだ上で、消費税率のさらなる引き上げも課題になろう。このように財政はなお火の車である。にもかかわらず、早くも「国土強靱(きょうじん)化」や「防災・減災」を口実にバラマキ財政に転じる動きがあるのは看過できない。国民に増税を強いながら、同時にかつてのような公共事業や特定業界の支援など借金を増やす政策を導入するのは筋が通らない。

消費税の制度設計は、業者がいかに円滑に価格転嫁できるか、が重要だ。食料品など基本的生活物資や書籍・新聞などの知識課税では軽減税率導入議論を本格化させてほしい。

今回の一体改革には年間7000億円の新たな子育て支援策が盛り込まれた。高齢者向け中心だった社会保障関連経費が現役世代に振り向けられる一歩と評価したい。ただ、社会保障制度の改革はまさにこれからが勝負となる。

民自公3党首が「近いうちに解散」で合意したことから与野党には今秋にも衆院解散、総選挙が行われるのではないか、との見方が広がっている。必ずしも時期を特定できる表現ではなく、民主党内には依然として早期衆院選に慎重論が強いが、いたずらに民意の審判を引き延ばすべきではない。民主党は今秋の解散も辞さないとの覚悟を固めるべきだ。

そのうえで、今国会の残り会期で違憲状態にある衆院の1票の格差是正措置と、予算執行に必要な赤字国債を発行するための特例公債法案の成立を期すことが不可欠である。原子力規制委員会の人事案も是非も含めて与野党が早急に調整し、9月の発足に向け決着を図るべきである。

今国会中の解散がない限り2大政党の党首選びは次期衆院選に向けた重点政策が試される場となる。増税法成立後の消費税の制度設計や社会保障政策の全体像が問われる。

民主、自民両党は原発再稼働を中心とするエネルギー政策、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)などで党内に幅広い意見を抱える。2030年の原発比率などエネルギーに関しては有権者の判断に資する明確な方針を示すことが求められる。

読売新聞 2012年08月11日

一体改革法成立 財政健全化へ歴史的な一歩だ

◆首相の「国益優先」を支持する◆

借金体質の国家財政を健全化するという長年の懸案の解決に向けて、歴史的な一歩である。

消費税率引き上げを柱とする社会保障・税一体改革関連法が参院本会議で、民主、自民、公明3党などの賛成多数で可決、成立した。

審議に200時間以上をかけ、圧倒的多数の賛成で成立させた。高く評価したい。先送りを続けてきた政治に転機をもたらすことを期待する。

◆消費増税に共同の責任◆

野田首相は法成立後の記者会見の冒頭、民主党政権公約(マニフェスト)に言及し、「消費税引き上げを記載していなかったことを深くおわびしたい」と述べた。

国民に負担を求める改革は緒に就いたばかりだ。真摯(しんし)な姿勢で国民の理解を広げる必要がある。

消費税率引き上げ法の成立によって、現行5%の税率は2014年4月に8%、15年10月に10%へと段階的に引き上げられる。

それまでに衆院選と参院選が確実に行われる。

消費増税の是非が争点になるだろう。選挙の結果、政権が代わり、反増税の勢力が台頭しようとも、民自公3党は「消費税10%」の実現まで責任を共有するべきである。

自民党の谷垣総裁は、3党合意には、消費税引き上げの環境を整えるための経済対策も含まれるとの見解を示している。

世界経済が不安定さを増す中、日本の国債が暴落する事態は回避しなければならない。財政再建へ確かな道筋をつけ、国債の信認を高めていくことが肝要である。

増税に伴う低所得者対策については、年末の13年度税制改正に向けた議論で詰めることになる。

食料品などの消費税を低くする軽減税率は8%への引き上げ時に導入すべきだ。活字文化と民主主義を守るため、新聞や書籍への適用も検討しなければならない。

社会保障制度改革は、着実に前進する。総合的な子育て支援策は、高齢者向けに偏っている社会保障政策と財源を全世代型に再構築するものだ。年金制度も、パート労働者への厚生年金適用拡大など、懸案がかなり改善に向かう。

「増税先行」の批判は当たらない。3党は社会保障制度改革国民会議を速やかに発足させ、中長期的な制度改革の議論を始めるべきだ。今回見送った給付減などによる効率化も欠かせない。

◆党首会談合意を大事に◆

極めて困難と見られた一体改革関連法が成立したのは、まず、野田首相が「政治生命を懸ける」覚悟で取り組んだからだ。最後は、「近いうちに」という曖昧な表現ながら、谷垣氏と事実上の「話し合い解散」でも合意した。

この間、民主党マニフェストの破綻が(あら)わになり、法案の衆院通過時に党は分裂した。「野田降ろし」も表面化している。

首相は、大きな犠牲を払いながら、ぶれずに国益優先の判断を重ねた。その姿勢は評価できる。

参院での法案採決時には民主党の6議員が反対票を投じた。速やかに処分すべきだ。党首としての指導力を強めることになろう。

衆参ねじれ国会の下、自民、公明両党の役割は大きかった。

谷垣氏は野党第1党党首として政府・与党に協力するという重い決断を下した。野田、谷垣両氏のコンビでなければ今回の合意は実現しなかっただろう。

民自公3党は、日本の政治をさらに前に動かすために連携を維持し、与野党の垣根を超えて課題解決に取り組んでもらいたい。

◆格差是正が解散の前提◆

問題なのは、野田首相が自公両党に「近いうちに国民に信を問う」と、早期解散を約束したことに関し、輿石幹事長がこだわる必要はないと発言したことである。

輿石氏は、首相や谷垣氏が9月に迎える党首選で再選されない場合には、3党合意は無効になるとの見方も示した。

谷垣氏が、この発言に「政党政治が何たるかを心得ていない。厳しく糾弾しなければならない」と激怒し、民主党との対決姿勢を強めたのも無理はない。

首相の意に沿わず、自公両党との合意を軽んじるかのような輿石氏の言動は目に余る。

衆院解散・総選挙の環境を整えるには選挙制度改革が不可欠だ。最高裁は現在の「1票の格差」を「違憲状態」と判断している。

国会の怠慢で、格差是正措置を講じずに衆院選に踏み切れば、憲法違反として選挙無効の判決が出る可能性も否めない。

民自公3党は、小選挙区の「0増5減」を先行実施し、格差を是正することが急務である。

産経新聞 2012年08月11日

消費税法成立 残る「宿題」迅速に処理を

民主、自民、公明の3党などの賛成多数で成立した社会保障と税の一体改革関連法について、野田佳彦首相は、与野党の協力による「決めきる政治」だと強調したが、中身について残された「宿題」は少なくない。

協力の枠組みについても、首相が衆院解散時期について「近いうち」と述べたことに対し、輿石東民主党幹事長が「党首が代われば終わりだ」と語るなど、与党内でも不協和音が表面化している。

衆院小選挙区の一票の格差を是正する「0増5減」などの公職選挙法改正案や今年度予算執行に必要な特例公債法案なども、党利党略では成立にこぎつけられないだろう。与野党の歩み寄りで決着させるしか方策はあるまい。

一体改革関連法の最大のハードルは、増税の前提となる経済成長を確実に軌道に乗せることだ。

関連法は、消費税率の引き上げは経済状況を勘案して判断するとし、経済成長率を名目3%、実質2%とする目標を掲げている。名目成長率が実質を下回るデフレからの脱却を目指したものだ。日本再生戦略に盛り込んだ規制改革などをいかに具体化するかだ。

だが、増税によって財政にゆとりが生じる分は大型公共事業に回そうという考え方が、3党合意を経て生じた点は見過ごせない。

「成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分する」と付け加えられたためだが、効果が疑問な公共事業拡大につながるのでは、何のための増税か分からない。安易な歳出拡大が、国債発行の膨張を招いてきた愚を忘れてはならない。

新たに設置される社会保障制度改革国民会議では、実効性ある社会保障費の抑制策を議論していく必要がある。

消費税増税に伴う低所得者対策の全体像を早期に示すことも重要だ。平成26年4月の8%への増税時に低所得者向けに現金給付するというが、対象や額は決まっていない。ばらまきにならない工夫が問われる。

27年10月の10%への増税時に向けて、現金給付と減税を実施する「給付付き税額控除」の検討も盛り込んだ。それには共通番号制度(マイナンバー)の関連法案の早期成立が必要だ。

増税分を製品価格に円滑に転嫁する政策も中小企業対策として不可欠である。

朝日新聞 2012年08月08日

民・自対立 3党合意に立ちかえれ

社会保障と税の一体改革関連法案の参院採決を目前に、与野党の対立が続いている。

国民の生活が第一やみんなの党などがきのう、衆院に内閣不信任決議案を、参院に野田首相に対する問責決議案を出した。

これとは別に、自民党も首相に衆院解散の確約を求め、両決議案の提出を検討している。

自民党の姿勢によっては、関連法案の成立が危うくなりかねない。

首相と谷垣自民党総裁にあらためて求める。

ここは一体改革の実行が最優先だ。両党首が先頭にたって事態を打開し、関連法案の成立を確実にすべきだ。

両党首に聞いておきたい。

一体改革に合意したのはなぜなのか。1千兆円を超す借金を放置しては、社会保障などが立ちゆかない。そう信じたからこそ決断したのではなかったか。

両党対立の背景には解散時期をめぐる思惑の違いがある。

だが、一体改革を潰してしまったら、両党は次の総選挙で国民に何を訴えるのか。葬ったばかりの「10%への消費増税」を再び掲げるのか。それでは何のための、誰のための選挙なのかわからないではないか。

そもそも、最高裁から違憲状態と指弾された衆院の「一票の格差」が1年以上放置されている。このまま総選挙をすれば無効の選挙区が相次ぐことになる。憲法違反を恐れる感覚が麻痺(まひ)しているのではないか。

それだけではない。法案が不成立なら「改革できない日本」という危険なメッセージを世界の市場に送ることになる。

日本が市場から不信任を突き付けられたらどう対処するのか。両党首にはっきりした方針があるようには見えない。

経済のグローバル化、巨額の財政赤字、少子高齢化のなか、どの政党が政権をになうにせよ政策の選択の幅は狭い。

衆参の「ねじれ」を超え、政党の枠を超えて政治を前に進める。そうした知恵と力、度量こそが必要な時代だ。

政権交代から3年、やっと実るかに見えた民主、自民、公明の3党合意を反故(ほご)にしてしまったらどうなるか。

かりに自民党が次の総選挙で第1党に返り咲いても、参院では公明党と合わせても半数に満たない。「ねじれ」は続き、2大政党の不毛な足の引っ張り合いがまた繰り返される。

首相と谷垣氏に念を押しておこう。

政治の仕事は問題を解決することである。問題をつくることではない。

毎日新聞 2012年08月09日

党首会談合意 自民の譲歩を歓迎する

「何も決められない政治」に再び戻る危機はどうにか回避された。自民党が強硬路線の矛を収めたことを、まずは歓迎したい。

消費増税法案などをめぐる国会の混迷が続く中、野田佳彦首相と自民党の谷垣禎一総裁、公明党の山口那津男代表による3党党首会談が8日夜開かれ、関連法案を早期に成立させ、その後、近いうちに国民の信を問う、つまり衆院解散・総選挙に臨むことで一致した。これにより、一連の関連法案は10日にも成立する見通しとなった。

私たちはかねて、税と社会保障の一体改革が今、この国に不可欠であるという危機感を共有して歩み寄った民主、自民、公明3党の合意を高く評価してきた。

ところが、ここにきての自民党の強硬姿勢への転換は、まったく理解に苦しむものだった。ともかく、ここが早期解散に追い込むチャンスとばかりに、3党合意の破棄もちらつかせながら、解散時期の明示を求める姿勢は、やはり党利党略というほかなかった。

そもそも解散権は首相にあるというのが広く定着している解釈だ。時期の明示を事前に求めるのは元々、無理な要求だったというべきだ。

しかも一体改革関連法案以外にも積み残しになっている課題は山ほどある。違憲・違法状態になっている衆院小選挙区の「1票の格差」是正問題は一向に議論が進んでいない。今年度、赤字国債を発行するための特例法案も8月になったというのに成立していない。こうした状況を自民党がどう考えているのかも明確ではなかったからだ。

自民党内にも、そうした無責任な姿勢に対する国民の批判が自民党に向かうという懸念があったのだろう。結局、谷垣氏も党首会談の開催を受け入れ、「近いうちに」という抽象的な表現でも受け入れざるを得なかったとみられる。

党首会談では、この「近いうちに」とは具体的にどの時期を指すのか、野田首相からは具体的な提示はなかったという。しかし、首相自身、以前から関連法案成立後、しかるべき時期に国民の信を問うと明言してきた。懸案にめどがついた際には、いずれ総選挙に踏み切らなくてはならない時期は来る。

民主党内は敗北を恐れ、「解散先送り」の一点張りだ。今回の混乱劇の最中も、首相が法案成立を優先して早期解散に踏み切るのを恐れ、「野田おろし」の動きさえ出始めていた。党分裂の末に決定した消費増税法案だ。所属議員が本当に増税が必要だと考えているのなら、正々堂々と総選挙で訴え、有権者の理解を求めるのが政権与党の責任であろう。

読売新聞 2012年08月10日

一体法案成立へ 首相の求心力回復が急務だ

消費税政局では、野田政権の基盤の(もろ)さが露呈した。首相にとっては求心力の回復が急務だ。

社会保障・税一体改革関連法案はきょう、参院で可決、成立する運びとなった。8日の民主、自民、公明3党党首会談で、法案の早期成立で合意したことによるものだ。

衆院解散の時期をめぐる3党の駆け引きで成立目前の法案が葬られる、という最悪の事態を避けられたことは歓迎したい。

仮に法案が廃案になれば、日本の政治に対する内外の評価は決定的に悪化し、国債の信認の低下など様々な悪影響が出ただろう。

野田首相と自民党の谷垣総裁がともに財務相経験者で、財政健全化の緊急性で一致していたことが土壇場での合意を可能にした。

一方で、両氏とも、9月に党首選を控える中、今回の合意で党内基盤が弱まり、再選のハードルが上がったのは否定できない。

首相は「近いうちに国民に信を問う」と約束させられたことで、鳩山グループなどの反発を招いた。谷垣氏も、今国会中の解散を首相に確約させられず、党内の主戦論者らに不満を残した。

首相は、谷垣氏との間では一定の信頼関係を築いたが、両氏の党内統治能力に疑問符が付けられる事態に陥っている。

首相自身、来年度予算編成をめぐる不用意発言で自民党の怒りを買うなど、脇の甘さが目立った。衆参ねじれ国会で野党の協力を得るには細心の注意が必要だ。

ほかにも、火種はある。

国民の生活が第一、共産など野党6党が衆院に提出した野田内閣不信任決議案が否決された際、自民、公明両党は欠席・棄権した。不信任案に賛成はできないが、反対して野田内閣を信任することも避けたいという思惑からだ。

自民党は、今回見送った問責決議案の提出や、特例公債法案の成立阻止という、政権を揺さぶるカードも手元に残している。

「近いうち」の解散という玉虫色の合意をめぐる解釈も、民主、自民両党は大きく隔たっている。自民党があくまで今国会での解散を求め続けているのに対し、支持率の低迷する民主党は、総選挙の先送りを望む声が大勢だ。

解釈の違いはいずれ、自民党の早期解散要求という形で再び顕在化し、民主党との間で攻防が激しくなることが避けられまい。

野田首相は、早急に政権の態勢を立て直すとともに、一体改革以外の重要課題にも取り組み、実績を重ねなければならない。

産経新聞 2012年08月09日

3党首会談 国益優先の合意評価する 残る懸案も早急に処理せよ

「決められる政治」を土壇場で頓挫させられないとの認識を、野田佳彦首相と谷垣禎一自民党総裁、山口那津男公明党代表が共有した。首相は「日本のための合意」と語った。国益を優先する枠組みが構築されたことを高く評価したい。

崩壊の危機にあった社会保障と税の一体改革関連法案をめぐる民主、自民、公明3党の協力の枠組みが、8日夜に行われた3党党首会談で堅持された。

野田首相が「関連法案が成立した後、近いうちに国民の信を問う」と早期の衆院解散に言及し、谷垣、山口両氏がこれを受け入れて一体改革関連法案の早期成立を確認したことだ。

≪意義深い歩み寄り≫

首相は言葉通りに、早期解散で民主党政権に対する国民の審判を求め、国益や国民の利益を実現する政策を自公両党などと競い合うことが求められる。

同時に、日本の危機克服に必要な内外の課題を解決するため、引き続き与野党協力の枠組みを生かしていくことが重要である。9月に発足予定の原子力規制委員会の人事案などについても、3党で早期に処理する必要がある。

3党の新たな合意はまとまったものの、そこに行き着くまでに、民主、自民両党の党内事情や党利党略が絡んでいたことを指摘しておかねばならない。

首相は8日午前の国対委員長会談を通じて「近い将来に国民の信を問う」との見解を自民党などに伝え、党首会談ではさらに踏み込む必要があった。

だが、党首会談に先立つ民主党両院議員総会では「どんな事情があっても解散時期を明示することはできない」と強調した。解散・総選挙で大幅に議席を減らすことを恐れている民主党内の情勢を考慮したものだろう。

「近いうち」の解釈をめぐり、輿石東幹事長は「今国会中の解散を意味するものではない」との認識を示した。自民党内でも「谷垣氏が解散時期の確約を得られたと言えるのか」との声が出ている。合意を実現する首相と谷垣氏の指導力も改めて問われる。

自民党の強硬姿勢に対し、公明党が「法案成立を最優先させるべきだ」との立場を貫いたことも、合意につながったといえよう。

自民党は民主党より先に消費税率10%を掲げ、一体改革をめぐる3党協議も主導してきた。だが、今月に入って重要法案を人質にとり、3党合意を犠牲にすることも辞さない強硬姿勢に転じた。

早期解散について確約を得られなければ、谷垣氏が9月の総裁選で自らの再選が難しくなる事情もあった。このため党内からは「国民にどう説明したらいいのか」との異論が出ていた。

国益と国民の利益を最優先する政治行動をいかにとれるかが民主、自民両党に問われている。

一体改革関連法案が成立する運びとなった意義は大きい。

本格的な高齢社会に対応するためには、社会保障費の安定財源の確保が喫緊の課題だったが、当面のめどがつくことになった。

財政健全化の取り組みを内外に示すこともできた。3党合意が破棄される事態となっていれば、次期国会以降に一体改革の与野党協議を立て直すことは極めて困難で、日本は国際社会からの信頼を決定的に失う可能性があった。

一方で、一体改革関連法案には問題点も少なくない。第一に、社会保障改革への切り込みが極めて甘いことだ。むしろ、低所得の高齢者向けに「給付金」をばらまくなど社会保障費の膨張を加速させ、高齢化で膨らみ続ける年金、医療、介護費用をどう抑制するのか道筋はついていない。

≪社会保障に切り込みを≫

法案は、抜本改革について「社会保障制度改革国民会議」を設置し、1年以内に実施するとしているが、70~74歳の医療費窓口負担の2割への引き上げやデフレ下で年金額を下げる自動調整の仕組みの導入、年金支給開始年齢の引き上げなど国民に痛みを求める項目から逃げてはならない。

政府・民主党は、最低保障年金や後期高齢者医療制度の廃止といったマニフェスト(政権公約)をいまだに取り下げていない。莫大(ばくだい)な費用を要する非現実的な政策は早急に撤回すべきだ。増税の前提条件とされた政治家や公務員の「身を切る改革」もうやむやにすることは許されない。

毎日新聞 2012年08月08日

混迷する国会 政争の愚を党首は悟れ

税と社会保障の一体改革関連法案は参院審議の大詰め段階で民主、自民両党の駆け引きが続いている。増税反対派の中小の野党は法案成立の阻止に向け、野田内閣に対する不信任決議案を提出した。

自民党は野田佳彦首相に今国会での衆院解散を確約するよう求めており、独自に不信任案や問責決議案を提出する構えをなお崩していない。民主、自民両党は政策不在の政争を演じる愚を悟るべきだ。首相と谷垣禎一自民党総裁の党首会談で民自公3党合意の崩壊を阻止しなければならない。

ふたつの光景が何とも対照的に映ってしまう。ロンドン五輪は6日、日本女子サッカーがついに決勝進出を決めた。メダル数ですでに前回北京五輪を上回るなど選手団の健闘は東日本大震災の被災地をはじめ多くの人を元気づけているはずだ。

それに引き換えここ数日、演じられる政争は何としたことか。消費増税の是非とは別に「とにかく解散をさせたい」自民党の党利と、「とにかく解散がこわい」民主党の党略ばかりが先立つ。これではほとんどの人は「またか」と幻滅し、うんざりするばかりではないか。政治の劣化こそ、今回の騒動の本質であろう。

とりわけ、国民の目を意識してほしいのは自民党だ。

民主党に度重なる譲歩を強い、合意に至りながら「衆院解散を確約しなければ合意破棄」とエスカレートした対応はあまりに唐突だった。7日の自民党独自の不信任案、問責決議案提出を見送ったのは世論の反応がさすがに気になったためではないか。公明党が強硬路線への同調に難色を示しているのも無理はない。

そもそも3党合意が崩壊すれば首相が衆院解散ではなく、退陣に追い込まれる可能性も否定できまい。要求した衆院解散も実現せず、一体改革も頓挫した場合、谷垣総裁はどう責任を取るのか。理屈に合わないうえ、極めて危ういカケに出ていると言わざるを得ない。

首相にも改めて言いたい。政治生命を懸ける消費増税法案の行方が政権の命運に直結することは自明だ。にもかかわらず、谷垣総裁との党首会談で局面を打開しようとする執念があまり伝わってこない。

衆院解散の先送り論が党内で支配的なことから身動きが取れなくなっているのではないか。だとすれば、自民党の理不尽な強硬姿勢を決して批判などできまい。

不信任案提出で今後の国会はこの議案の処理が優先される。採決を待たずに自民が不信任案や問責決議案を独自に提出すれば、混乱の収拾は難しくなる公算が大きい。日本の政治を左右する判断が問われる。

読売新聞 2012年08月09日

民自公党首合意 一体改革の再確認を評価する

日本政治の危機は瀬戸際で回避された。民主、自民、公明3党の党首が良識をもって対処したことを評価したい。

野田首相と谷垣自民党総裁、山口公明党代表が8日夜会談し、消費税率引き上げを柱とする社会保障・税一体改革関連法案の早期成立を期すことで一致した。「先送りしない政治」の実現を目指して3党が結束したことは、大きな意義がある。

党首会談では、自民党が首相に要求していた「衆院解散の確約」について、法案成立後、「近いうちに国民に信を問う」ことで落ち着いた。谷垣氏は「『近いうち』とは重い言葉だ」と語った。

玉虫色の表現であり、様々な解釈が可能だろうが、民主、自民両党がぎりぎりで歩み寄った。

妥当な合意である。衆院解散は首相の専権事項であり、事前に具体的に明示することは難しい。民主党内では早期解散反対論が大勢で、首相にはこれ以上踏み込めないという事情もあった。

谷垣氏は、土壇場で矛を収めた。「3党合意を守れなければ、責任ある政治ではない」とするベテラン議員らの意向があった。首相との腹を割った話し合いも決断を後押ししたようだ。

野田首相、谷垣氏とも、党内に一体改革や党首再選に反対する勢力を抱えている。権力基盤が弱体化している中、改革実現を改めて確認したことは評価できる。

山口氏は、「法案が成立するまでは内閣不信任決議案などを出すべきではない」と一貫して主張し、自民党に自制を促した。

「内外への影響を配慮し、政治が機能することを示した」と語ったが、長年政権を担った政党としての矜持(きょうじ)を示したと言えよう。

民自公3党が法案の早期成立で一致したことで、国民の生活が第一や共産党など中小野党が提出した内閣不信任案、首相問責決議案は否決される見通しだ。

野田首相は、内閣不信任決議案などを提出しないという自公両党の決断は重いと述べ、両党に謝意を表した。再確認した3党の結束を今後も堅持してもらいたい。

民主党執行部は、こうした事態を引き起こしたことを猛省すべきである。首相が今国会での法案成立に政治生命をかけると明言しているのに、輿石幹事長らは水を差してきた。

野田首相は、低支持率にあえぎながらも、消費増税を実現し、国民に信を問おうとしている。党内外の妨害にひるむことなく、その信念を貫くべきである。

産経新聞 2012年08月08日

野田首相 政治生命かけ解散決めよ 問責前に党首会談で打開を

政局が重大な局面を迎えている。野田佳彦首相は政治生命をかけて事態を打開すべきだ。

自民、公明両党を除く野党各党は7日夕、衆院に内閣不信任決議案、参院に首相問責決議案を提出した。自民党も両決議案を提出する構えだ。

参院では問責決議が可決されるとみられ、その場合には消費税増税法案は採決されない公算が大きい。今国会での成立はきわめて難しくなる。

≪増税法案成立が最優先≫

野田首相は、消費税増税を柱とする社会保障と税の一体改革の実現を最優先すべきだ。

そのためには、問責決議案が採決される前に自民党の谷垣禎一総裁との党首会談を開き、解散・総選挙を決めて自民党の理解を求めるしか方策はない。

民主党執行部は、解散・総選挙により議席を大幅に失うことを恐れるためか、解散を先送りする動きをみせてきた。

だが、衆院議員の任期は来年8月までだ。民主党は政権公約(マニフェスト)に盛り込まなかった消費税増税を実行しようとする以上、いま一度、民意を問わなければならない。政権の正当性は既に失われている。

自民党が参院審議の大詰めの段階で、民主、自民、公明の3党合意の破棄も辞さない強硬姿勢に転じた背景には、早期解散要求に応じない首相の姿勢が顕著になったことがある。

首相は1日の古賀伸明連合会長との会談で、「来年度予算編成を政治主導でやり抜く」などと発言して、自民党の強い反発を招いている。

野田首相は「誤解しない方がいい」と述べて早期解散を否定したものではないとの見解を示し、法案採決の日程も、当初提案していた20日から10日、さらに8日に前倒しして自民党の理解を得ようとした。

だが、民主党はこれまで最重要法案である増税法案の採決も先延ばしする姿勢をとり続けた。

3党合意で棚上げされた民主党マニフェストの最低保障年金、後期高齢者医療制度廃止についても「撤回したわけではない」などと主張してきた。

こうした対応が「民主党は3党合意を順守していない」という反発や、民主党政権を手助けしているだけだという危機感を自民党内で広げてしまったといえる。

解散時期の判断は首相の専権事項とされる。本来なら確約すべきものではない。しかし、一体改革に関しては、党派を超えた課題として与野党協力の枠組みが生まれ、その実現に3党が責任を負っている特別な事情がある。

≪3党合意は今後も必要≫

自民党が8日の法案採決に応じる姿勢に転じたのも、3党合意の破棄に強い批判があったからだといえる。ましてや首相は、この課題に政治生命をかけている。実現のためには解散の決断を含め、あらゆる方策をとるのは当然だ。

今国会で関連法案を成立させなければならないのは、3党合意をまとめた民自公の枠組みが、国政の重要な問題を解決する上で不可欠と考えられるからだ。

その他の政党が消費税増税に反対している状況で、社会保障制度改革や安定財源の確保などの実現には、総選挙後もこの枠組みは有効なものとなりえる。

社会保障と税の一体改革だけでなく、行政改革や安全保障など幅広い分野で国益と国民の利益を実現する「決められる政治」の足がかりを失ってはなるまい。

また、今国会で一体改革を実現する機会を逃せば、財政健全化の取り組みを国内外に示せないことになる。仕切り直して、次に法案を成立させられる保証はない。日本が自らの危機を克服できない姿を、さらけ出すことにほかならないのだ。

改めて国民の審判を受けるにあたり、首相に問いたいのは、「原発ゼロ」を求める意見などに影響され、原発再稼働を決めた政策がぶれ始めていることだ。現実的なエネルギー政策への取り組みを弱めてはなるまい。

谷垣氏との党首会談では、9月に発足する原子力規制委員会の人事案、今年度予算の執行に欠かせない特例公債法案を成立させることなどについても、しっかり確認してもらいたい。解散・総選挙によって生じる混乱を最小限に抑えなくてはならない。

毎日新聞 2012年08月07日

消費増税法案緊迫 合意の破棄は許されぬ

国会の状況がにわかに緊迫している。税と社会保障の一体改革関連法案が参院で採決される前に消費増税反対派の野党7党が野田内閣に対する不信任決議案を提出する方針を固め、自民党にも強硬論が台頭しているためだ。

増税決着後に野田内閣を衆院解散に追い込もうとしていた自民の目算は狂い、7野党と別の名目で内閣不信任決議案や参院で野田佳彦首相への問責決議案を独自に提出する動きが出ている。一体改革に関する民自公3党合意の重みを忘れてはいないか。合意の破棄は政党の責任放棄に等しく、断じて許されない。

2大政党の動揺ぶりに、不信任案提出に踏み切る7野党の方が驚いているのではないか。

ところが7野党の不信任案提出方針で自民党は増税法案の採決前に野田内閣と全面対決するか、当面は信任するかの判断を迫られる。これを境に自民党には首相が衆院解散を確約しない限り3党合意を破棄し、独自の不信任決議案などで対決すべきだとする強硬論が強まり、谷垣禎一総裁もこうした方針に言及した。

衆院では民主党議員15人程度が造反しない限り不信任案は否決される。だが、自公が不信任案を提出すれば政権との対決色は一気に強まり、参院で問責決議案が提出されれば採決を目前に審議は相当期間、停止する公算が大きい。3党合意がほごになりかねないという危うい状況である。

衆院で合計51議席を超す増税反対派の会派が協力して不信任案を提出する展開はある程度、予想されたはずだ。にもかかわらず、この動きに影響され合意破棄をちらつかせる自民党内の議論は党利党略と言わざるを得ない。

合意したはずの重要法案の審議のさなか、最初は採決を早期に行うよう求め、今度は「衆院解散を約束しないなら不信任」と言いだすようではあまりに無原則だ。秋の総裁選に向けた谷垣総裁の露骨な生き残り戦術とのそしりを免れまい。

民主党政権の運営が低迷し、ねじれ国会の下で今国会での一体改革関連法案成立に3党が歩み寄った原点に立ち返る必要がある。国の歳入の半分以上を借金でまかない、費用が増大する社会保障の底割れを防ぐ緊急かつ不可欠の措置として危機感を共有しての合意だったはずだ。

欧州金融危機にみられるように、財政再建への歩みが頓挫しかねないというシグナルを世界に送る危険をどこまで認識しているのか。自民党には今日の危機的な財政状況を招いた主な責任が自党にあるという自覚がなお、足りないのではないか。

今国会での増税実現に政治生命を懸ける首相にとっても正念場だ。3党合意が崩れれば、ゴール寸前まで来ていた法整備が水泡に帰す。

自民党の今回の一連の対応について、首相や民主党も責めを負うべきだ。もともと3党合意は衆院解散を優先する自民と法成立後の「話し合い解散」の余地を持たせつつ成立したガラス細工だった。

一方で、増税関連法案が衆院を通過して以来の緊張感のゆるみについても指摘しなければならない。

3党合意に伴い財政にゆとりができた分を公共事業に回すことへの容認ととられかねない表現が付則で加えられた。自民党は防災対策などで10年間に200兆円規模を集中投資する国土強靱(きょうじん)化基本法案を国会に提出しており、次期衆院選に向け旧態依然たるばらまきの再現を求めるような動きが出ている。あぜんとしてしまう。

軽減税率の導入など低所得者対策も積み残されたままだ。毎日新聞の最近の世論調査では消費増税法案の今国会成立を望まない人は61%で、望む人の33%を大きく上回っている。軽減税率は81%もが「導入すべきだ」と答えている。国民に一層の理解を得るため、できる限りの方策を具体化することこそ3党に本来、今、課せられた役割ではないか。

7野党による決議案提出という今回の第三極的な行動は、増税実施を織り込み政局の駆け引きや財源の分捕り合戦に関心が移りがちだった2大政党のゆるみも突いた。

なぜ、3党合意が必要と決断したのかを民主、自民両党は冷静に考え直すべきだ。そして野田首相、谷垣総裁両党首が先頭に立って、事態の収拾に努めなければならない。

読売新聞 2012年08月08日

内閣不信任案 一体改革を党利党略で弄ぶな

社会保障と税の一体改革は、日本の将来を左右する重要案件だ。与野党が党利党略で弄ぶことがあってはならない。

国民の生活が第一、共産、社民などの中小野党が、衆院に野田内閣不信任決議案を、参院に野田首相問責決議案を、それぞれ共同提出した。

消費税率引き上げに反対する立場から、「消費増税は民主党の政権公約違反であり、野田内閣は信任できない」と主張している。

一体改革関連法案に修正合意した民主、自民、公明の3党は、不信任案と問責決議案を粛々と否決すべきである。

問題なのは、自民党が、野田首相から衆院解散の確約が得られない限り、内閣不信任案や問責決議案を独自に提出する、という強硬姿勢を再確認したことだ。自民党が提出に踏み切れば、3党合意は崩壊の危機に直面する。

衆院で不信任案は否決される見通しだが、参院では問責決議案が可決される公算が大きい。法的拘束力はないが、野党が参院審議を拒否すれば、一体改革法案の成立が極めて困難になる。

実現目前の一体改革を白紙に戻すのは、愚の骨頂である。さらに、9月に発足する予定の原子力規制委員会の人事も宙に浮くなど、多大な悪影響が出るだろう。

衆参ねじれ国会で政治が停滞する中、一体改革の3党合意は「決められる政治」に立ち返る一歩となるはずだった。合意が崩れ、法案が成立しなければ、既成政党への国民の評価は失墜しよう。

一体改革を犠牲にすることも辞さずに、早期解散を求める自民党の姿勢は、身勝手すぎる。

谷垣総裁が今国会での解散に固執していることにも、それが実現できなければ、9月の総裁選で自らの再選が困難になるためではないか、との見方が出ている。

自民党が参院特別委員会での8日採決の日程に同意しながら、問責決議案の提出の用意をしているのは、筋が通らない。

3党合意は、一体改革法案について「今国会で成立を図る」と明記している。民主党の国会運営に問題があったにせよ、自民党が一方的に反故(ほご)にするなら、政党間の合意や信頼は成り立たない。

仮に自民党が政権に復帰した場合、消費増税について野党の協力を一体どう得るつもりなのか。

公明党が「一体改革を政局の道具にすべきでない」として自民党と一線を画し、法案成立を優先しているのは、妥当な姿勢だ。今の方針を堅持してもらいたい。

産経新聞 2012年08月07日

3党合意と自民党 法案成立の責任どうした

自民党は、社会保障と税の一体改革に関する民主、自民、公明による3党合意を破棄してまで衆院解散を求めて、総選挙でいったい何を主張するのか。

消費税率のアップが民主党の公約違反だと指弾するのか。そして「消費税増税はやはり必要だ」と唱えるのか。いずれにしても説得力は持つまい。

「決められない政治」を打破するため、3党で合意した責任をどう考えるのか。

消費税増税関連法案に対する参院審議は、採決の前提となる中央公聴会の段階に入っており、3党の賛成で法案は成立する。

自民党が最優先すべきは、この法案成立だろう。

対応を一任された谷垣禎一総裁には、9月の総裁任期中までに解散・総選挙に持ち込みたいとの思惑が見え隠れしているが、責任ある判断を求めたい。

衆院では、「国民の生活が第一」やみんなの党などが、7日に内閣不信任案を共同提出する方針だ。自民党はこれに同調するのではなく、単独で内閣不信任案を出すことを検討している。

民主党の造反がなければ、内閣不信任案は否決される見通しだが、自民党による不信任案の提出によって民主、自民両党の対立は決定的なものになる。

また、自民党は解散の確約を求め、7日にも首相問責決議案を参院に出す構えだ。

首相問責決議案は、内閣不信任決議案が可決された場合に、解散か内閣総辞職を首相に迫るような法的効力はない。だが、可決されれば参院審議は困難となり、法案成立が厳しくなる。

問題は野田佳彦首相の対応である。民主党は自民党の要求に応じ、採決日程を20日から8日に前倒ししたが、これまでの執行部の対応をみると、法案を早期に成立させたくないようにみえる。

民主党は、政権交代時に無駄の削減などによって16・8兆円の財源を生み出せると訴えたマニフェスト(政権公約)が破綻したことなど、改めて国民の審判を仰ぐべき立場にある。

消費税増税をめぐり、政権与党内を一本化できないことが党分裂も招いた。

政権を担う正当性が問われ続けてきたのである。首相は法案の成立後、できるだけ早く解散すべきである。

読売新聞 2012年08月07日

一体改革法案 党首会談で事態を打開せよ

社会保障・税一体改革関連法案の成立が危ぶまれる状況である。

自民党が、野田首相から衆院解散の確約を得られなければ法案の成立を認めない、という強硬路線へ強引に(かじ)を切ったからだ。

民主、自民、公明3党が財政再建の重要性を確認し、修正合意の末に衆院を通過させた法案だ。今になって(ないがし)ろにすることは到底許されない。参院で速やかに採決し、成立させるのが筋である。

自民党の谷垣総裁は「一体改革を成し遂げるには国民に信を問い、態勢を立て直すことが必要だ」と述べた。解散要求が通らない場合、内閣不信任決議案や首相問責決議案を7日にも提出する。

法案成立と引き換えに早期の衆院選に持ち込もうとするのは、一体改革という国益を“人質”に取るような手法ではないか。

問責決議案や内閣不信任案が出されれば、国会は混乱し、法案は廃案になりかねない。

その場合、3党合意の瓦解どころか、日本の政治そのものが内外の信用を失うだろう。

自民党の強硬姿勢について、公明党の山口代表が「どういう結果を招くか、慎重に考えるべきだ」と指摘したのはもっともだ。多くの国民の理解は得られまい。

自民党は内閣不信任案の提出を再考すべきだ。法的拘束力のない問責決議案を倒閣に使うのも()しき前例を残すことになる。

野田首相は、「3党合意は大変重たい。法案を成立させることに全力を尽くす」と語った。それなら、谷垣氏との会談で事態の打開を図るしかないだろう。

そもそも、こうした状況を招いた一因は、首相と民主党執行部の不誠実さにある。

首相は、連合の古賀伸明会長との会談で来年度予算編成に意欲を示し、法案成立後の解散を求める自民党の神経を逆なでした。

民主党執行部は、離党者がさらに出ることを恐れ、法案の早期採決には及び腰だった。当初、赤字国債発行を可能とする特例公債法案の成立や衆院選挙制度の「1票の格差」是正との同時決着を主張し、20日の採決を唱えていた。

これらが大事なのは言うまでもないが、一体改革関連法案の参院採決を先送りする口実ではないか、と疑われても仕方がない。

ようやく民主党は自民党に8日の委員会採決を提案したが、対応が後手に回ったのは確かだ。

民主、自民両党の駆け引きの揚げ句に、法案を葬り去ることだけは回避しなければならない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1127/