朝日新聞 2012年08月05日
オスプレイ 普天間移設の道筋示せ
日本に最大限の配慮はするが、10月の配備計画を変えるつもりは全くない。
米国防総省で森本防衛相と会ったパネッタ国防長官が示したのは、海兵隊の新型輸送機MV22オスプレイを予定通り沖縄・普天間飛行場に配備するという強い意志だった。
オスプレイ12機が山口県の岩国基地に陸揚げされてから2週間。この間、米軍は「安全性が確認されるまでは飛ばさない」という約束は守っている。
もちろん、安全の確保は極めて重要だ。だが、多くの国民、とりわけ沖縄県民が配備に反発するのは、事故が続いたオスプレイの安全性への不安だけが原因ではない。
普天間の返還が一向に進まないこと、それに対する日本政府への不信が根っこにある。これが解消されない限り、いくら「安全だ」と太鼓判を押されても、納得できるわけがない。
沖縄では、知事も県議会も名護市長も普天間の県外・国外移設を求めている。名護市辺野古への移設がもはや無理なことは明らかだ。
それをわかっていながら、政府は辺野古案を降ろそうとはしない。その結果、沖縄が最もおそれる「普天間の固定化」を招いているとの批判は強い。
政府がオスプレイ配備を受け入れるしかないというなら、何よりも破綻(はたん)した沖縄との信頼関係を立て直さねばならない。
そのためには、まず、辺野古移設が困難であると率直に認めることである。
中国の急速な台頭を受け、米軍は「アジア回帰」の姿勢を強める一方、軍事費の大幅削減にも直面している。
防衛白書が指摘しているように、沖縄が「戦略的要衝」にあるのは間違いない。ただ、太平洋地域の米軍全体の抑止力の中で、海兵隊の沖縄駐留をどう位置づけるかについては、再検討の余地はあるはずだ。
現行機に比べ速度や航続距離が格段に向上するオスプレイが海兵隊に配備されるなら、沖縄駐留にこだわる必要はないと指摘する専門家もいる。
沖縄では配備反対の大規模な県民大会が計画されている。やはり県民総決起大会が開かれた1995年の少女暴行事件で、日米両政府は住民の敵意に囲まれては同盟は円滑に機能しないことを思い知らされたはずだ。
日米両政府が普天間の新たな移設先を真剣に探り、将来の確実な返還への道筋を示す。
それなくしては、どんなに安全を「確認」しようとも、不信と不安は消え去らない。
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毎日新聞 2012年08月05日
オスプレイ 「10月配備」は白紙に
このままでは、日米両政府と沖縄の「距離」が広がるばかりだ。
訪米した森本敏防衛相は、パネッタ国防長官と会談し、米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイについて、事故調査報告の日本への提供や、安全性確認までの試験飛行見送り、配備後の飛行に関する日米合同委員会での協議促進を確認した。
両政府が米軍普天間飛行場での「10月配備(本格運用)」を前提に過去に発表した内容で、新味はない。
会談後の共同記者会見でパネッタ長官は、「オスプレイが安全に任務を遂行することに大きな自信を持っている」と強調した。米軍は今年4月、6月と相次いだ墜落事故の調査を進めているが、機体上の問題ではないとの結論を出す「自信」なのかもしれない。「10月配備」は変えないという宣言である。
会談は、この配備方針を事実上、再確認する場でしかなかった。
森本防衛相は、ワシントン郊外でオスプレイに試乗し、コックピットで操縦の様子などを視察した。「想像以上に飛行が安定していた」と述べ、低空飛行が短い距離ですむ同機の特徴を念頭に「全体として市街地に大きな影響を与えないだろう」と語った。飛行場周辺住民に対する、離着陸時の騒音被害が軽減されると指摘したかったのだろう。
しかし、ホバリング(空中停止飛行)時には現在運用しているヘリよりも騒音被害が大きくなる。また、安全性に対する住民の強い懸念を考えれば、「市街地に大きな影響を与えない」とは、とても言えない。
仲井真弘多沖縄県知事は、防衛相の試乗について「テストパイロットではない。沖縄で論点になっている安全性(の確認)という点で意味があるか分からない」と冷ややかだ。森本防衛相は、帰国後、仲井真知事にオスプレイ配備について改めて説明する意向を示したが、知事が「10月配備」に理解を示すめどはない。
沖縄では、普天間飛行場がある宜野湾市で5日に予定していたオスプレイ配備反対「県民大会」を、台風の影響で急きょ延期した。改めて開催を計画している。政府への抗議の声は、普天間飛行場移設問題のきっかけになった95年の少女暴行事件の時以上に高まっている、との指摘もある。
オスプレイ問題は、普天間移設の行方にも影響が出始めている。沖縄県北部の12市町村でつくる「北部市町村会」は先月末、日米両政府が進める普天間の名護市辺野古への移設容認方針を転換し、移設反対の決議を採択した。政府のオスプレイ配備強行姿勢への抗議でもある。
溝は深くなるばかりだ。沖縄の信頼を取り戻すには、「10月配備」をいったん白紙に戻すしかない。
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読売新聞 2012年08月05日
日米防衛相会談 指針改定で安保協力の強化を
北東アジアの平和と安定を維持するためには、自衛隊と米軍の防衛協力を着実に強化・拡大することが欠かせない。
森本防衛相とパネッタ米国防長官が国防総省で会談し、有事における自衛隊と米軍の協力のあり方を定めた「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」について、今後、「研究・議論する」ことで一致した。
朝鮮半島有事を想定した1997年の指針の抜本改定後、北東アジアの安全保障環境は大きく変化し、日米の防衛協力も様々な面で進展している。日米同盟の深化に向けて、そろそろ指針の再改定を本格的に検討する時期である。
会談では、日米の「動的防衛協力」の具体策でも合意した。無人偵察機による日本周辺海域の警戒監視活動の実施を検討し、グアム周辺での共同訓練を拡大する。
動的防衛協力は、自衛隊と米軍の部隊運用を通じた協力だ。日米共同の情報収集・偵察活動や訓練、施設使用を重ね、緊急事態への抑止力を高める狙いがある。
警戒監視活動では、グアムを拠点とし、米軍の無人機「グローバルホーク」を活用する方向だ。様々な事態の発生前の段階から日米が情報を共有し、事態の進展に応じて共同対処する方策を検討・協議することにつながる。
グアムや北マリアナ諸島のテニアンでは、自衛隊と米軍の共同施設を整備し、上陸訓練などを行う案がある。重要性を増す南西方面の離島防衛の強化に役立とう。
米軍の新型輸送機MV22オスプレイの日本配備について、両閣僚は、安全性が確認されるまで国内を飛行させない方針で合意した。低空飛行訓練などで周辺住民に配慮することでも一致した。
閣僚間でオスプレイの安全性と日本配備を両立させることを再確認した意義は小さくない。
今回の合意に基づき、米政府は、墜落事故や安全性に関する情報提供や、実効性ある再発防止策の徹底に最大限努力してほしい。
日本政府は、4月のモロッコにおける事故の報告書について説明を受けるため、今週中にも分析評価チームを訪米させる。日本独自の視点で、しっかり原因を分析・検証することが重要である。
森本防衛相は会談後、オスプレイに試乗した。月内に沖縄を訪問し、事故報告書に関する日本の評価結果を説明する予定だ。
いったん高まった関係自治体の安全性への懸念を払拭するのは容易でないが、粘り強く説明を続け、理解を広げてもらいたい。
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産経新聞 2012年08月05日
日米防衛相会談 対中共同行動を強めたい
訪米した森本敏防衛相はパネッタ国防長官との会談で、住民の安全に配慮しつつ新型輸送機MV22オスプレイの配備を進める方向で一致するとともに、中国の軍事的台頭を踏まえ「日米防衛協力のための指針」の再改定に向けた見直し協議に入る方針で合意した。
両相が防衛協力指針の見直しで一致したのは、中国の強引な海洋進出や尖閣諸島周辺の挑発的行動を念頭に置いた判断で、極めて妥当といえる。中国の軍拡により日本周辺の安全保障環境は急速に悪化しつつあり、指針の見直しやオスプレイ配備が求められるのもそのためだ。
とりわけオスプレイの導入は、沖縄を拠点とする米海兵隊の能力や日米同盟の抑止力を高める上で不可欠であり、中国に備える観点からも緊急性が高い。日米が協力して安全性を確保しつつ、配備を着実に進めてもらいたい。
会談では、パネッタ氏が「オスプレイの安全性には強い自信がある」と強調、10月運用開始という計画の実現に日本政府の協力を求めた。森本氏は訓練飛行などで安全への配慮を要請し、米側も4、6月の墜落事故の調査報告を月内にまとめると約束した。
一方、パネッタ氏が防衛協力指針の見直しを提起し、森本氏が応じたのは、中国の異様といえる軍拡に伴い、「東アジアの安保環境の急速な変化に対応するため日米防衛協力のあり方の検討が必要」との認識が双方にあるからだ。
防衛指針は平成9年、朝鮮半島情勢の緊迫化を受けて改定されたが、今日のような中国の台頭は想定しておらず、尖閣沖の漁船衝突や最近の中国公船による領海侵犯の頻発といった事件もなかった。新たな情勢に日米で備えるのは当然であり、速やかに見直し協議を進める必要がある。
オバマ政権は既に中国への備えを軸とした新国防戦略を発表、日本も4月の日米首脳会談や在日米軍再編見直しを通じて動的防衛力の強化などに着手した。
だが、より具体的な共同対処行動のあり方などは進んでいない。在沖海兵隊の装備・能力の飛躍的拡大につながるオスプレイ配備でもつまずいているのが現状だ。
森本氏は今回、オスプレイに試乗し、普天間飛行場の移設推進でも一致した。中国への備えを防衛相だけに任せず、野田佳彦首相が先頭に立って進めてほしい。
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