東電ビデオ 公共財との認識をもて

朝日新聞 2012年08月03日

東電ビデオ 公共財との認識をもて

福島第一原発事故が起きた直後の東京電力社内のテレビ会議映像が、6日から報道機関やフリーの記者に部分公開される。

事故への対応を検証し、教訓をくみとる重要なデータで、まさに公共財というべき映像である。社内資料だと言ってオープンにしてこなかったことが、そもそもおかしい。

ゆくゆくは東電のホームページに載せて誰でもアクセスできる環境におき、原子力、防災、危機管理など様々な分野の研究者はもちろん、関心をもつすべての人が見られるようにすることを考えるべきだ。

視聴できるのは昨年3月11日夜から15日までの150時間分だ。幹部以外の社員の氏名が特定されぬよう、名札が映っている場面や音声を加工する▽それ以外は手を加えないが、閲覧までとし、録音は認めない▽範囲を特定してコピーの要望があれば、社内で対応を検討する――などの条件がつく。

まず3月15日で区切るのが理解できない。それ以降も、放水活動の難航や4号機の使用済み燃料プールの温度上昇への対応など、検証すべき状況が続く。速やかな開示を求める。

取材記者を1人に限るなど東電が当初考えた措置は、政府の指示で、一部は取り消した。だが同社が決めたやり方に反した場合の制裁をちらつかせ、報道規制の色に変わりはない。

原則公開の前提に立ち、差し障りのある箇所があれば、理由を説明して国民の理解を得る。そうした姿勢でのぞむべきなのに、大きな考え違いをしていると言わざるを得ない。

とりあえず東電方式で始めるにしても、具体的にコピーの要望があったときの対応など、問題となる局面は続くだろう。それに備えて、プライバシー問題や表現の自由に詳しい学者や実務家に委嘱し、判断を仰ぐ仕組みをつくってはどうか。

社員の氏名はいまの扱いでいいか。コピーを求められた範囲に、東電が出したくないと考える場面があったらどうするか。

東電の見解と報道側の主張のどちらをとるか、議論してもらうのだ。政府の情報公開・個人情報保護審査会をイメージすればいい。自分たちだけの意向で押し通そうとしても、世の納得はえられないと知るべきだ。

そうやって公開・非公開が確定すれば、非公開部分を除いた全部をホームページに載せることも可能になる。そこは多少時間がかかってもやむを得ない。

経験を共有し、再発防止に役立てる。世界への責任を、東電は肝に銘じなければならない。

毎日新聞 2012年08月04日

東電テレビ会議 報道規制は筋違いだ

福島第1原発事故が発生した直後の社内テレビ会議の映像を6日から東京電力が報道機関に公開する。映像は、社員のプライバシーに配慮して、一部を加工したものだ。

公開に当たり、東電は報道側にさまざまな条件を突きつけている。公開映像の録音・録画を禁止した。東電の事故調査報告書に記載されていない一般社員名の報道もしないよう求めた。さらに報道側が映像を独自に入手した場合の報道も禁じた。

従わないメディアやフリージャーナリストは、視聴室からの退出を求めたり、今後の会見参加を拒否したりする可能性も示唆している。

映像の持つ公共的な意味合いと、「国民の知る権利」、取材・報道の自由の原則に照らしても、規制は筋違いだ。東電には硬直的な対応を取らないように強く求めたい。

公開されるのは、昨年3月11日の震災発生から同15日までの150時間分の録画映像だ。東電本店と発電所のやりとりが録画されている。

この間、1、3、4号機で水素爆発が起き、一部原子炉建屋が吹き飛んだ。2号機も冷却機能が失われ、1~3号機で海水注入が行われた。そんな中、15日早朝に当時の菅直人首相が東電本店を訪れ、「原発からの撤退はあり得ない」と責した。

国内のみならず、海外にも衝撃を与えた大事故だ。混乱の中で、どう収束が図られたのか。冷却機能が失われた原子炉の実態を現場はどこまで把握できていたのか。検証は国際社会の要請でもあり、映像記録は欠かせない資料だ。

東電には多額の公的資金が投入され、実質国有化された企業だ。国民に対する高度の説明責任がある。そうした立場を踏まえれば、制約なく映像を全面公開し、第三者の分析に委ねるのが本来の姿だ。今回は報道向けだが、研究者や一般市民にも広げるべきだろう。また、16日以降の映像も公開対象とすべきだ。

報道に携わる以上、個人のプライバシーに配慮しながら伝えるのは当然だ。一方で、たとえ幹部でなくても現場で重要な役割を果たしていれば、必要に応じて報じることもある。その結果について責任を負うのは報道した側だ。東電には、そうした報道の役割を理解してもらいたい。

それにしても、東電が公開に当たって当初示した案にはあきれる。公開は6日からの5日間(計約30時間)で、各社1人に限るというのだ。枝野幸男経済産業相の指示で来月7日まで延ばしたが、「全ての検証はお断り」と言わんばかりだ。

日本新聞協会は3日、映像の全面公開と、取材・報道制限の撤回を申し入れた。東電はしっかり耳を傾けてもらいたい。

読売新聞 2012年08月07日

東電事故映像 条件付き情報公開は不信招く

東京電力は、福島第一原子力発電所事故後の対応を記録した社内テレビ会議の映像を、ようやく部分公開した。

映像記録は、政府や東電の危機管理能力を検証する上で貴重な資料である。

だが、公開されたのは事故が発生した昨年3月11日から16日までの約150時間分に過ぎない。ごく一部の映像では、情報を隠しているとの不信を招くだろう。

東電は事故当時、東京都内の本店と、第一原発、第二原発などを結んだテレビ会議システムで対応を協議していた。

公開された映像からは、緊迫した状況が見て取れる。第一原発1号機が水素爆発した瞬間、衝撃で映像が小刻みに揺れている。3号機の爆発では「大変です」といった声が飛び交った。

記録装置の容量を超えたため、音声はないが、菅前首相が東電本店に乗り込み、腕を振りながら指示しているような場面もある。

問題なのは、映像公開にあたり、東電が取材・報道を過剰に規制していることだ。

当初、視聴期間はわずか5日間で、生の映像を視聴できる記者も各社1人に限定した。

枝野経済産業相が改善を指示した結果、視聴期間は約1か月間に延長された。それでも、生の映像の録音・録画は禁止したままで、一部の幹部以外は個人名の報道も認めていない。

条件に従わなければ、今後の記者会見への出席を認めない「制裁」までちらつかせている。

こうした規制は取材・報道の自由を侵しかねない。東電は直ちに撤回すべきだ。

東電は、映像の公開が遅れた上に、一連の規制を設けた理由について、「映像には一般社員が映っており、プライバシーを保護するため」と主張している。

だが、報道機関が報じる際には、プライバシーに最大限、配慮するのは自明のことである。

東電は、事故に関連する全記録を保全し、検証のため、内外に公開する責務がある。

経営再建に向けて国有化された企業であり、国民に対する高度な説明責任が課せられていることを忘れてはならない。

日本新聞協会は「映像の公開は公共性・公益性が高い」とし、自由な取材を申し入れている。

東電は、今回公開された以降の映像も記録しており、国会や政府の事故調査委員会には提供した。さらに踏み込んだ情報公開を検討すべきだ。

産経新聞 2012年08月10日

東電会議映像 ルール整え公正な開示を

東京電力が昨年3月の福島第1原発事故発生直後の社内テレビ会議映像の一部を報道機関向けに公開した。

当時の吉田昌郎所長が3号機の水素爆発発生を本店に報告する肉声や、翌日早朝に本店に乗り込んで演説する菅直人首相の興奮した様子など、慌ただしい対応ぶりが明らかになったことは評価したい。

米国のスリーマイル島事故やソ連のチェルノブイリ事故にはない貴重な記録である。刻々と悪化する原子炉の状態を所員らがどう把握し、対処したかがつぶさに分かる。過酷事故の再発防止や万一起きた場合の現実的な対応にも役立つ内容といえる。

公開にあたり東電が映像や音声の一部を編集、加工したことに批判が出ているが、一方で無制限・無条件の公開には疑問もある。

無加工の公開が理想であるのは当然だが、昨今のネット上での個人攻撃の現状をみれば、一般社員らのプライバシー保護の観点から個人の特定につながる画像や氏名、内部の電話番号などを伏せる措置や配慮はやむを得まい。

また、テロ対策の観点からも、海外を含めて不特定多数の人が原発事業所の内部などを無制限に閲覧し得るような公開には、極めて慎重であるべきだろう。

問題は、政府や東電側がこうした事情について、国民に丁寧に説明しようとしていないことだ。

「こんな事故を起こしておきながら、公開を渋っている」との印象を内外に与え続けるのはマイナスだ。意見聴取会などを通じて、「原発ゼロ」の選択肢が勢いを増しつつある現状を考えれば、説明不足の弊害はなおさらだ。

映像公開は、枝野幸男経済産業相が行政指導に近い形で東電に指示したという。だが、枝野氏自身が官房長官だった事故当時の政府や官邸の議事録が欠如している問題も指摘しておきたい。事実の解明には東電のテレビ会議に劣らず重要な記録だからだ。

一方、映像公開の手法には、閲覧時間の制限に加え、早送り再生ができないなど不便な点も多く、改善の余地が多々ある。

原発事故は政府にも重い責任がある。まずは政府が公開の適切なルールを示すべきだ。最小の制限で最大の教訓をもたらすように、公正な開示方法を早急に確立する必要がある。世界の政府や原子力事業者にも生きた教材だ。

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